第百六十五話 新たな敵の襲来 ジークフリート圧倒的実力!
デーモンの部隊に勝利し、カイネリアの騎士隊と共にレイグリーザに戻るヴリトラ達。だが、マービングの騎士隊は全滅してしまい、依頼の警護をある意味で失敗したと言う形になってしまった。
レイグリーザに戻ったヴリトラ達はその足で王城に向かい、謁見の前でセメリト王に今回の戦いの事はマービングの騎士隊が全滅した事を説明する。
「・・・そうか、マービング達は死んだか」
玉座に座りながら暗い表情を見せるセメリト王。その脇には始めた謁見した時にいたレッドムと銀色の鎧を纏った青年騎士の二人の姿があり、謁見の間の隅では数人の槍を持った衛兵が玉座の前で膝まづいているカイネリアや七竜将、懲罰遊撃隊を見ていた。
「ハイ、申し訳ありません。私達がついていながらこんな事に・・・」
ヴリトラの隣で膝まづいているラピュスがセメリト王に謝罪する。カイネリアはそんなラピュスの謝罪を膝まづきながら聞いていた。そしてゆっくりと顔を上げてセメリト王を見る。
「陛下、マービング達の死はブラッド・レクイエムの戦士達の想像以上の戦力と彼等の勝手な敵前逃亡が原因です。それに、彼等がいなければ私の隊も全滅していたでしょう。ラピュス殿達に罪はありません!」
ラピュス達には責任をは無いとフォローを入れるカイネリア。そんなカイネリアの話を聞いてセメリト王は静かに目を閉じる。
「・・・カイネリアよ、私は最初から彼等を責めるつもりはない。そなたの言うとおり、彼等がいなければそなたの部隊も全滅していたであろうからな。だが、同志であるマービングの死が彼の自己責任だという様な冷たい発言はやめよ」
「ハッ・・・」
「それに、彼等を責めるつもりはないとは言え、多少の責任は取ってもらわないといけない。これからも我が国とレヴァート王国の同盟関係を続けて行く為にもな」
ブラッド・レクイエム社の部隊を倒し、カイネリア達が生還できたとは言え死人が出てしまったのは事実。政治的な意味でもレヴァート王国には責任を取ってもらわないといけないと言うセメリト王の言葉にカイネリアは俯き、ヴリトラ達も黙って聞いている。それは当然だと彼等も覚悟していた事だった。
「・・・ラピュス殿、聞いての通り今回の一件でそなた達がついていながら我が国の一騎士隊が全滅してしまったという結果になってしまった。その事についてレヴァート王家に親書を送ろうと思う。そなた達にはその新書を持ち帰り、ヴァルボルト殿に渡してもらいた」
「ハッ・・・」
「だが、そなた達の活躍でカイネリアの部隊が無事だったことも事実、その事には本当に感謝している。どうかそれだけは分かってほしい」
「すみません・・・」
ラピュスが再び謝罪し、ヴリトラ達も黙って頭を下げる。報告が終るとレッドムが前に出てカイネリア達を見下ろしながら声を掛けた。
「とりあえず、帰って休むがよい。ラピュス殿達と七竜将も今回の戦闘で疲れが溜まっているはずだ、しっかりと体を休めてほしい」
「分かりました。お言葉に甘えてそうさせて頂きます」
「明日の警護任務では同じ事が起こらない様に今日以上に力を尽くします」
「うむ、よろしく頼むぞ」
ヴリトラとラピュスの言葉を聞きレッドムは真剣な顔で頷く。全員が立ち上がりセメリト王の方を向き頭を下げる。
「では陛下、我々はこれで失礼します」
カイネリアが頭を下げ、ヴリトラ達も一斉に頭を下げる。そして一同はゆっくりと謁見の間の出入口の方を向き退室しようと歩き出した。
「ハハハハハハハッ!」
「「「「「!?」」」」」
突如聞こえてくる笑い声にヴリトラ達は足を止める。セメリト王やレッドム、衛兵達も驚き部屋中を見回した。しかし、何処にも笑い声に主と思われる者の姿は見当たらない。
「な、何だ今の笑い声は!?」
「今の声、何処かで・・・」
驚くカイネリアと聞き覚えのある声にヴリトラは鋭う表情を見せて声の主を思い出そうとする。
「何者だっ!?姿を見せよ!」
レッドムが素早くセメリト王の前に立ち、彼を守る様にして腰の騎士剣を握る。衛兵達も槍を構えて周囲を警戒してた。七竜将は警戒心を強くし、懲罰遊撃隊も騎士剣やMP7などを構えている。
「何処だ!?出て来い!」
「此処にいるが?」
声はセメリト王とヴリトラ達の丁度間から聞こえ、一同は声のした方に注目した。すると、突然見つめていた場所の風景が歪みだし、徐々に何かが見えてくる。そして、しばらくするとその物体は完全に姿を現し、そこには漆黒の全身甲冑を身の纏った長身の男、ジークフリートが立っていた。突然現れたジークフリートにセメリト王やカイネリア達は一斉に驚く。だが、一番驚いていたのはヴリトラ達だった。
「あ、あれは・・・」
「ジークフリート!」
リンドブルムとジャバウォックは驚きの表情でジークフリートの姿を見つめ、ヴリトラやラピュス、そして初めてジークフリートを見る他の七竜将や懲罰遊撃隊の隊員達も驚いている。
ジークフリートを睨みながら何時でも騎士剣を抜けるように構えるレッドムやカイネリア達。衛兵達も槍を構えてジークフリートを見つめている。そんな中ジークフリートはセメリト王を見て軽く頭を下げた。
「私はジークフリート。ブラッド・レクイエム機械鎧兵士部隊の総司令官を務めている。以後お見知りおきを・・・」
丁寧に挨拶をするジークフリートを見ながらセメリト王は真剣な表情を見せる。目の前いるのは自分の国の騎士達を襲った連中の大将なのだから無理もない。
ジークフリート達の会話を聞いているヴリトラ達も武器を握り警戒心を強くした。そんな中、ヴリトラは前に出てオートマグをジークフリートに向け、ジークフリートもゆっくりとヴリトラの方を向く。
「元気そうだな?ヴリトラ」
「ジークフリート、何処から入って来たんだ?」
「勿論正面から」
「正面から入って来ればすぐに衛兵が気付くはずだ。なのに何も騒ぎは起きなかった・・・その光学迷彩を使ったのか?」
「その通り。『タクティカルファントム迷彩』、我が社が開発した光学迷彩だ」
「成る程、お前がティムタームに現れた時もその迷彩を使って潜入したって事か」
「そういう事だ」
ヴリトラは今までにジークフリートがティムタームに現れた時の事を思い出して低い声を出す。そんな二人の会話をラピュス達は黙って聞いている。
「おい、ニーズヘッグ、一体何が起きたんだ?なぜジークフリートが突然私達の前に・・・」
ラピュスが突然現れたジークフリートの事が理解できずにニーズヘッグに訊ねる。ニーズヘッグはアスカロンを握りながらジークフリートを警戒し続けてた。
「あの光学迷彩でずっと姿を隠していたんだ」
「コウガク、メイサイ?」
「ああ、周囲の光の曲げて自分の姿を隠す事のできる物だ」
「光を曲げて姿を隠す?そんな事ができるのか?」
「・・・向こうの技術を上手く使えば魔法も奇跡も作り出せる」
ラピュスはヴリトラ達の住んでいた世界の技術に驚き目を見張る。ラピュス達の後ろにいるララン達もニーズヘッグの話を聞いて驚いていた。
「それで?何をしに来たんだ?」
「デーモンとドリアードからの連絡が途絶えたので様子を見に来たのだが、この町の近くにある平原で我が社の機械鎧兵士部隊が全滅しているのを見つけてな」
「俺達の仕業だと気付いてこうしてわざわざ首都に潜入したって事か・・・」
ヴリトラはオートマグをジークフリートの向けたまま睨み続けるがジークフリートは敵に囲まれているにもかかわらず余裕の態度を取っている。そんなジークフリートにセメリト王もジッと睨んでいた。
「そなたがブラッド・レクイエムという組織の指揮官であるのなら、どうしても聞いておきたい事がある。なぜ我が国の騎士達を襲った!?」
「・・・我々はより強い力を手に入れてこの世界の秩序を変える事が目的、その為に騎士達の協力が必要だった。それだけの事だ」
「秩序を変える?」
いきなり大きな話になりセメリト王は思わず聞き返す。ジークフリートはセメリト王から再びヴリトラの方に視線を移して話を続ける。
「すでにこの国以外の国でも同じように我が社の部隊が大勢の騎士達を連れ去り、計画は少しずつ進んでいる。ただ、七竜将が拠点としているレヴァート王国だけはどうしても手が出せないのでな」
「・・・お前達がその気になれば俺達を殺すのなんて簡単だろう?ファンストの一件もそうだ、なぜ俺達を直接潰しに来ない?」
「我等ブラッド・レクイエム社は此処では秘密組織となっている。あまり派手に動いて私達の存在を大陸中に広めたくないのだ」
ジークフリートがヴリトラの質問に答えているとヴリトラの隣にラピュスがやって来て騎士剣を強く握る。
「それでファンストをそそのかして元老院にヴリトラ達を消させようとしたのか?」
「ご明察、なかなか鋭い女だな。それにしても、お前の様な普通の女騎士がメリュジーヌを倒したと聞いた時は私も驚いたぞ?いるものなんだな、生身で機械鎧兵士を倒す事のできる奴など」
(デーモンと戦っている時も気になっていたが、コイツ等は既にラピュスがメリュジーヌを倒した事を知っている。一体コイツ等の情報網はどうなっているんだ・・・?)
ヴリトラは心の中でブラッド・レクイエム社の情報網の広さに驚きながらジークフリートを見つめてオートマグを構えている。緊迫した空気の中でジークフリートは腰に納めてある愛剣バルムンクを掴みゆっくりと鞘から抜いた。
「さて、七竜将もいる訳だし、デーモン達の敵討ちも兼ねて少し暴れさせてもらおう」
その言葉を聞いた七竜将の表情が一変し、彼等は一斉に動き出した。まず最初にジャバウォックとオロチがジークフリートの左右に回り込んでデュランダルと斬月で構える。そしてジークフリートから見て左からジャバウォックが、右からオロチが同時に攻撃を仕掛けた。すると、デュランダルとオロチの刃がジークフリートに触れそうになった瞬間、突如ジークフリートの周りに水色の光の壁がサークル状に作られて二人の攻撃を防いだ。
「何っ!?・・・まさかこれは!」
「電磁シールド、しかも全方位式か・・・」
ジークフリートの周りに電磁シールドが張られ自分達の攻撃が止められた事に驚くジャバウォックとオロチ。勿論ヴリトラ達やカイネリア達も驚いている。
「フフフ、エントやメリュジーヌと同じ内蔵兵器を私が使っていても不思議ではないだろう?」
ジークフリートはアーメットの隙間から赤い目を光らせて低い声で笑う。そのままバルムンクの刀身を鞭状にして頭上で振り回し、ジャバウォックとオロチに反撃する。二人は素早く後ろへ跳んでジークフリートの攻撃を回避した。ジャバウォックとオロチが離れるとジークフリートはバルムンクの刀身を元に戻し周囲を見回す。
「どうした?もう攻撃は終わりか?来なければこっちから行くぞ」
攻撃態勢に入るジークフリートを見てヴリトラは危険だと感じオートマグを撃つ。だがオートマグの弾丸はバルムンクによって弾かれ、ジークフリートには一発も当らなかった。
「フッ、銃撃程度なら電磁シールドを使う必要も無い」
「・・・成る程、普通に攻撃しても意味は無いって事か!」
話し終えるのと同時に地を蹴ってジークフリートに向かって跳んで行くヴリトラ。オートマグをしまって鞘に納めてある森羅を握りジークフリートを睨む。
「皆藤流剣術壱式、煉獄居合!」
ヴリトラは間合に入ったジークフリートに向かって居合切りを放った。しかしジークフリートは構えるどころか動く様子も見せずにただバルムンクを下ろしながらヴリトラを見ている。そして森羅の刃がジークフリートの触れようとした瞬間、ジークフリートはバルムンクで素早く森羅の刃を止めた。
「何っ!?」
「・・・あれから少しは強くなったと思っていたが、あまり変わっていないな?」
そう言ってジークフリートは森羅を払い、ヴリトラの腹部に蹴りを撃ち込んだ。ヴリトラは大きく後ろに飛ばされて行くが、何とか態勢を立て直してジークフリートに向かって走り出す。ヴリトラは森羅で連続切りを放つもその全てをバルムンクで止められてしまう。ジークフリートはヴリトラの攻撃で隙ができるとそこを突いてヴリトラに回し蹴りを撃ち込んだ。蹴り飛ばされたヴリトラは今度は態勢を立て直せずに俯せに倒れる。
「ヴリトラ!大丈夫か!?」
倒れるヴリトラにラピュスが駆け寄り声を掛ける。そんな様子を黙って見ているジークフリートの背後からニーズヘッグはアスカロンで攻撃した。だがジークフリートはヴリトラの方を向いてままバルムンクを後ろに回しニーズヘッグの斬撃を防いだ。
「なっ!?」
自分の方を向かずに斬撃を止めたジークフリートに驚きを隠せないニーズヘッグ。そしてジークフリートは振り返り様にバルムンクを横に振ってニーズヘッグに反撃する。ニーズヘッグは咄嗟にアスカロンを縦に持ちその斬撃を止めるが、腕に予想以上の衝撃が加わって来た。
「な、何て重い一撃だっ!」
必死で攻撃に耐えようとするも、抑えきれずにニーズヘッグはそのままふっ飛ばされてしまい、仰向けて床を擦る様に飛ばされていく。その姿を見た近くの衛兵達は驚いて一歩後ろに下がる。
ジークフリートが飛ばされたニーズヘッグを見ていると、続いてリンドブルムがライトソドムとダークゴモラを撃ってジークフリートに攻撃した。ジークフリートはリンドブルムの方を向いてバルムンクで全ての弾丸を弾く。
「さっきのヴリトラの銃撃を防いだのを見て理解しなかったのか?私にただの銃撃は効かん」
「・・・分かってますよ」
リンドブルムは銃撃をしながらジークフリートを見て笑う。その時、ジークフリートの右側面からギガントパレードを構えたファフニールが走って来る。ジークフリートはバルムンクでリンドブルムの銃撃を防いでいる為、ファフニールに応戦する事ができなかった。リンドブルムの銃撃はジークフリートの動きを封じる為の物だったのだ。
「ファフニール、今の内だよ!」
「ありがとう、リンドブルム!」
ファフニールはギガントパレードを振り上げてジークフリートに攻撃する。巨大ハンマーの頭がジークフリートの頭上に向かって振り下ろされて行く。だが次の瞬間、電磁シールドが展開されてギガントパレードはジークフリートに当たる前に止められてしまった。
「あっ!」
「そんな・・・!」
「忘れたのか?私が電磁シールドで最初の攻撃を防いだ事を?」
低い声を出しながらリンドブルムとファフニールに声を掛けるジークフリート。電磁シールドが張られている事でギガントパレードだけでなくリンドブルムの銃撃も止められてしまっており、二人は唖然としていた。ジークフリートは電磁シールドを解除すると二人が驚いている隙に素早く動いてギガントパレードの柄の部分を掴み、ファフニールをギガントパレードごとリンドブルムに向かって投げつける。リンドブルムは飛んで来たファフニールと激突しその場に倒れてしまう。
「・・・まるで相手にならない。こんな奴等を我々は警戒していたのか」
期待外れと言いたそうにつまらなそうな声を出すジークフリート。そこへヴリトラ、ジャバウォック、オロチが三方向からジークフリートを囲み、一斉に自分達の武器で攻撃しようとする。
「いくらお前でも三方向からの同時攻撃はかわせないだろう!」
「電磁シールドを張る隙は与えん・・・!」
ヴリトラとオロチがジークフリートにそう言い放つと、ジークフリートは視線だけを動かしてヴリトラ達の位置を確認すると三人を目にも止まらぬ速さで反撃した。
「ぐぅ!」
「何だと!?」
「かはっ・・・!」
脇腹、手足を切られて、思わず声を出す三人はその場に倒れ込む。ジークフリートはバルムンクを払い、倒れている三人を見下ろした。
「安心しろ、急所は外してある」
「・・・どういうつもりだ?」
「お前達に屈辱というものを味わってもらう為だ」
ヴリトラは腕の切傷を押さえながらジークフリートを見上げて睨み付ける。ジャバウォックとオロチも顔を上げて腕や脇腹を押さえてジークフリートを見上げていた。そこへ今度はジルニトラがジークフリートの後ろ数m離れた位置から右手の甲から出したリニアレンズを光らせてレーザーを発射し攻撃する。だがジークフリートは電磁シールドを張りレーザーを簡単に止めてしまった。
「そんな、レーザーまで止めた!?」
レーザーも簡単に止めるジークフリートの電磁シールドに驚くジルニトラ。そんな彼女にジークフリートは電磁シールドが消えて瞬間に素早く振り返りコンテンダーを抜いてジルニトラの右腕を撃ち抜いた。
「うあああぁ!」
右腕を撃たれたジルニトラは声を上げながら片膝を付き、左手に持っていたサクリファイスを落し銃創を押さえる。ジークフリートはコンテンダーを下ろしながら周囲の七竜将を見回した、自分を睨んでいる者、体を起こして歯を食いしばる者と大勢が自分を見ている。
そんな戦闘を見たラピュス達は目を見張りながら表情を固めていた。
「ヴ、ヴリトラ達が一瞬で・・・」
「そんな、七竜将が全員で戦っても傷一つ付けられないなんて・・・」
「・・・強すぎる」
七竜将の強さを知っているラピュス、アリサ、ラランは彼等を子供扱いするジークフリートに驚きを隠せなかった。勿論カイネリア達も驚きながらジークフリートを見ている。
ジークフリートはバルムンクとコンテンダーを納めて倒れている七竜将を鼻で笑う。
「もう少し手応えのある相手だと思っていたのだがな・・・まぁ、今まで雑魚しか相手にしていなかったからな、いい運動になった」
「お、俺達との戦いを運動扱いかよ・・・」
痛む体を起こしてジークフリートを睨むニーズヘッグ。ジークフリートは目の前で倒れているヴリトラを見下ろしながら腕を組み赤い目を光らせた。
「今回は多少楽しむ事ができたので見逃してやろう。だが、これからもお前達の前には我がブラッド・レクイエムの機械鎧兵士が現れて襲い掛かるだろう。ソイツ等に殺される様ではお前達もその程度の存在だったという事だ。私達を楽しませる為にもより強くなり生き残る事だな」
「くうぅ!」
ヴリトラは歯を食いしばり、体をゆっくりと起こしながらジークフリートを睨む。するとジークフリートはゆっくりとレッドムに守られているセメリト王の方を向く。
「それと、もう我々はこの国の騎士達を襲い、連れ去る気はない。ある程度の素材を集める事ができたのでな」
「何だと・・・」
「仲間を助けたければ助けに来るがいい。ただし、連れ去った騎士が何処にいるのか分かればの話だがな?フフフフフ」
ジークフリートは笑いながらタクティカルファントム迷彩を起動させて自身の体を透明化させていく。彼を止めようにも七竜将は動けず、ラピュス達もジークフリートの実力を目にしたせいか固まって動けずにいる。やがてジークフリートの体は完全に透明なりヴリトラ達の視界から消えてしまった。ジークフリートがいなくなったのを見てラピュス達は七竜将達の下に駆け寄る。
「ヴリトラ、大丈夫か?」
「俺は平気だ」
「平気って、全身傷だらけじゃないか!?」
「致命傷は無い。それよりもジルニトラやリンドブルム達の方を見て来てくれ」
「そっちはララン達が見ている、大丈夫だ」
ヴリトラはラピュスの手を借りてゆっくりと立ち上がり、ジャバウォックとオロチも立ち上がって周囲を気にしている。
周りの者達を見ながらヴリトラは謁見の間にまだジークフリートがいないか気配を探る。しかし、それらしい気配は感じられず謁見の間が安全である事を確認した。
「・・・ジークフリート、思った以上に厄介な奴だな」
「大丈夫なのか?」
「・・・悔しいが、俺達とアイツとでは実力の差があり過ぎる。今の俺達じゃ何十回戦いを挑んでも勝てねぇだろうな」
「そ、そんな・・・お前達でも勝てない相手にどう立ち向かえないいんだ・・・」
ヴリトラ達でも勝てない相手がファムステミリアにいる、それがラピュスに恐怖を与えた。だが、ヴリトラはラピュスの方を見て小さく笑う。
「そんな顔するな。この世界には俺達よりも強い奴が大勢いるはずだ。それに、俺達だってこのままで終わる気は無い。もっと強くなって今回の雪辱を晴らすつもりだ」
「ヴリトラ・・・」
「その為にも、お前にはこれから色々と協力してもらうぜ?」
笑いながら自分を頼りにするヴリトラを見てラピュスは一瞬驚きまばたきをする。そしてラピュスも小さく笑って頷く。
「いいだろう。私なんかでよければいくらでも力を貸す」
「ありがとな」
「さぁ、まずは傷の手当てをするぞ?」
「ああ」
会話を終えた二人はリンドブルム達の方へ歩いて行く。それから七竜将は王城で手当てを受けて一日体を休める事になった。しかし七竜将はナノマシンのよって体の治癒能力が高くなっている為、翌日には傷は塞がらなくとも痛みを殆ど感じなくなるくらいまでに回復する。これには王城の医師達も驚き目を疑ったようだ。その日も騎士達が任務で首都を出たがジークフリートの言うとおりBL兵達の襲撃を受ける事なく無事に帰還したとの事、それを確認したヴリトラ達は首都を後にし、レヴァート王国に戻って行ったのだった。
セメリト王国からの救援依頼を終えたヴリトラ達。だが、ジークフリートの力の前に惨敗し、七竜将はより強くなる事を胸に誓い、レヴァート王国へ帰還する。これからもヴリトラ達の戦いはより激しくなるだろう。
第八章終了しました。