第百五十八話 平原での戦い! ドリアード部隊との遭遇
セメリト王国の騎士隊を警護する為に同行する七竜将と懲罰遊撃隊。カイネリア達と同行するヴリトラ達とマービングという青年騎士の隊に同行する事になったリンドブルム達。そんなヴリトラ達にブラッド・レクイエム社の幹部、ドリアードの牙が向けられる。
レイグリーザを出てから約二十分、リンドブルム達が警護しているマービングの騎士隊は平原の中にある一本道を真っ直ぐ西へ向かって進んでいた。マービングと三人の男性騎士が乗る馬を先頭にその後ろを十数人の兵士達が二列に並んで進み、その後ろをリンドブルム達のバンとララン達懲罰遊撃隊がついて行く。
「町を出てからもうに十分になるね」
「ええ、一体何処へ行くのかしら?」
マービング達の任務の内容を知らない為、リンドブルムとジルニトラは前を見ながら行き先について話し出す。
「今回の俺達の仕事はあくまでも奴等の警護だ。レヴァート王家からの依頼とは違って騎士達の任務に力を貸す必要も無い。だから任務の内容や行き先を知る必要も無いのさ。もっとも、こちらが力を貸すと言っても同行している騎士様が俺達を歓迎するとも思えないしな」
バンを運転しながら二人の話に参加するニーズヘッグ。彼の話を聞いてリンドブルムとジルニトラは「成る程」と言いたそうに納得の表情を見せる。
車内でリンドブルム達が会話をしているとバンの隣を歩いている馬に乗ったアリサが後部座席の窓を軽くノックしてリンドブルム達を呼ぶ。アリサに気付いたジルニトラが後部の窓ガラスを下ろして顔を出す。
「何?」
「ちょっと気になる事があるんですけど・・・」
「気になる事?」
「ハイ。もし、ブラッド・レクイエムがこの騎士隊を襲って来るとしたら、どのタイミングで襲って来るのでしょうか?」
アリサは何時ブラッド・レクイエム社が襲って来るのか気になったリンドブルム達に尋ねて来たのだ。リンドブルム達もその事は気になっており、アリサの話を聞いた車内のリンドブルム達は真剣な表情を見せる。
「・・・それは分からないわ。アイツ等は神出鬼没、どのタイミングで、どれ程の規模で襲って来るのかは全く見当がつかないの」
「しかも、彼等は小隊、中隊といった部隊の規模などは決めているけど、各隊がどんな武装をしてどんな兵器を持っているのかは決められていないんだ。その部隊を指揮する幹部クラスによって兵装が決められているからね」
「だから相手の正確な戦力や行動パターンなんかはあたし達でも把握できないのよ」
「そ、そうなんですか・・・」
ジルニトラとリンドブルムの説明を聞いてアリサやその後ろで話を聞いていたララン、他の懲罰遊撃隊の騎士達の表情にも緊張が見えた。
「で、でも、相手がどんな行動をするか予想はできるんですよね?」
「まぁね。でも、敵の情報が無い以上、あたし達が取れる作戦は常に臨戦態勢で敵を警戒している事よ」
七竜将ですら動きが把握できない敵に驚きを隠せないアリサ。ラランも無表情ではあるが汗を垂らして俯いている。そこへ、ファフニールが車内からアリサを見て微笑んだ。
「でも、まだこの隊が襲われると決まった訳じゃないよ?襲われずに任務が終ればそれでいいんだし、ブラッド・レクイエムが襲って来ない祈ってようよ」
ファフニールの言葉にアリサは意外な顔を見せる。確かに、ブラッド・レクイエム社が自分達を襲って来ると決まった訳でないし、襲われない事が一番なのも事実。ファフニールの方を見てリンドブルムとジルニトラが、そして運転をしているニーズヘッグも前を向いたまま笑った。
「確かにそうだね」
「ええ、襲われない事が一番いい訳だし、悪い事を考えるのはやめましょう」
「・・・そうですね、何も起こらない事が一番ですもんね!・・・すみません、不安になせるような事を言って・・・」
「いいわよ、何時敵が襲って来るのか分からなければ誰だって緊張したり不安になったりもするわ」
「そうですよ。それにそうやって敵の事を警戒したり情報を得ようとするのは悪い事じゃありませんから」
ジルニトラとリンドブルムのフォローを聞いて少しだけ安心を見せるアリサ。そんなアリサ達の会話を前を歩きながら聞いていた兵士達は不信感を抱きながら後ろを見てコソコソと小声で話をしている。
先頭を歩いていたいマービング達も後ろで話をしている兵士達の声を聞き後ろを振り向く。
「・・・隊長、兵士達が何やら小声で話をしていますが」
「何だ?何を話しているんだ?」
「どうやら、レヴァート王国の傭兵達の事の様です」
「放っておけ、彼等が何を話そうと、僕等には関係のない事だ」
「は、はぁ・・・?」
「何が我々では勝つのが難しい相手だ、あんな訳の分からない連中の力を借りずとも、我等セメリト王国騎士団の力で敵を倒して見せる!」
未だに七竜将と懲罰遊撃隊がどうこうしている事に不満を抱いている様子のマービング。彼にとって他国の騎士達の力を借りるのはまだしも、金で動く傭兵の力を借りる事は騎士として納得できなかったのだ。しかもその傭兵から自分達では敵わない相手だと聞かされれば苛立ちを見せるのも当然と言える。
「さっさと今回の任務を終わらせてアイツ等のおさらばする。目的地に着いたらすぐに任務に入る、気を引き締めろ?」
「「「ハ、ハイ!」」」
マービングの力のは言った言葉に三人の騎士達は声を揃えて返事をした。
それから更に先へ進んで平原の出口が見えて来た時に突然強い風が吹いて騎士隊に当たった。
「おっと、強い風だな・・・」
「隊長、この平原を抜けたら少し休息を取りましょう。兵士達にも疲れが見えています」
「分かった」
男性騎士に休息を勧められたマービングは頷き、平原の出口に向かって歩き出す。リンドブルム達も平原の出口が見えて来たのを確認して助手席の窓から外を眺める。
「もうすぐ平原を抜けるね?」
「ええ、それにしてもさっきの風は強かったわねぇ」
「うん、なんだか何かの前触れみたいで・・・・・・ん?」
リンドブルムが外を見ながら笑って話をしていると、突如彼の表情が変わる。遠くの空を見つめ、少しずつ目を凝らしていく。
「どうしたの?」
黙り込んで空を見つめるリンドブルムにファフニールが訊ねる。リンドブルムは空の一点を見つめて真剣な表情を見せた。
「・・・ねぇ、あれ」
「ん?」
リンドブルムが空を指差し、ファフニールがリンドブルムの隣で彼が指差す方角を見つめる。ファフニールは青い空の中心に見える小さな黒い点を見つけ、不思議に思い双眼鏡を覗き込んだ。するとそこには黒い輸送ヘリ、ヴェノムがプロペラを回しながら飛んで来る姿があり、驚いたファフニールが双眼鏡を外してジルニトラの方を向く。
「ジルニトラ、ヘリコプター!」
「何ですって!?」
ファフニールの言葉を聞いた驚くジルニトラ。運転席のニーズヘッグも驚いて視線を後部座席の方へ向けた。ジルニトラはファフニールから双眼鏡を受け取り、覗き込んでこちらに向かって飛んで来るヴェノムを見つめた。
「確かに中型の輸送ヘリだわ。しかも真っ黒で正面に赤い女の横顔が描かれてある・・・」
「黒と赤、という事は・・・」
「ブラッド・レクイエムよ!」
ブラッド・レクイエム社のヘリが近づいて来る、それを聞いたニーズヘッグはバンを急ぎ停車させて窓から顔を出した。
「全員止まれぇ!敵襲だぁ!」
「えっ!?」
ニーズヘッグの言葉にアリサは驚き馬を止める。ララン達も同じように馬を止め、前を歩いていたマービング達も足を止めて振り返った。
「何だ?いきなり大声を出して」
男性騎士の一人がニーズヘッグの方を向くと、運転席から降りたニーズヘッグはマービング達の方へ走って行く。
「敵が現れた、最近騎士達を襲っているブラッド・レクイエムの連中だ!」
「何だと?・・・何を言っている、何処にも敵の姿など無いではないか」
ニーズヘッグは鼻で笑うマービング。そんなマービングをジッと見て空を指差した。
「・・・あれを見てもそんな事が言えるか?」
マービング達はニーズヘッグの指差す方角を一斉に見つめる。そして自分達の方へ飛んで来る黒い影を見つけた。大きさはリンドブルムが見つけた時よりも大きくなっており、もうヴェノムの形がハッキリと見える所まで近づいて来ていた。プロペラ音を立てながら飛んで来るヴェノムの姿にセメリト王国騎士隊の隊員達は一斉に驚きの表情を浮かべる。
「な、何だありゃあ!?」
「そ、空を飛んでやがる!」
「あ、あれは飛竜か?」
「バカな、あんな飛竜は見た事ないぞ!」
ヴェノムを見て騒ぎ出す兵士達。動揺する兵士達を見てマービングも驚きながら兵士達に声を掛けて指示を出す。
「う、狼狽えるな!全員、落ち着いて戦闘態勢に入れ!弓兵は弓を構えて敵が近づいたら矢を放てぇ!」
兵士達はマービングの指示を聞き、動揺しながらも戦闘態勢に入る。それを見たニーズヘッグは舌打ちをしてバンの方へ走って行く。
「バカッ!弓矢なんかでヘリが落せるはずないだろう!それに奴等には銃器があるんだ、矢を放つ前に撃ち殺されちまう」
ニーズヘッグは歯を噛みしめながら走り、バンの運転席を開けて中を覗き込む。リンドブルム達もニーズヘッグの顔を見て真剣な表情を浮かべた。
「奴等はこっちに真っ直ぐ向かってる!全員武器を取れ!」
「了解!」
「もう準備はできてるわよ!」
「行こう!」
既にリンドブルム達は自分達の武器を手に取り、何時でも戦える状態になっていた。四人はバンから飛び降りて近づいて来るヴェノムを見上げながら武器を構える。
「それにしてもアイツ等、まさかヘリまでこっちの世界に持って来てるなんてね・・・」
「ああ、ヴリトラももしかすると、とは言っていたが、まさか本当にこっちに有るとは思わなかった」
「敵はどれ位の戦力だと思う?」
「ヴェノムは乗員が二人、そして定員を六人から十人まで乗せる事ができる。少なくとも全員で八人以上はいるはずだ」
「八人と言ったらリンドブルムとオロチが倒した部隊と同じ人数じゃない。それなら楽勝ね」
余裕の笑みを浮かべるジルニトラ。だがニーズヘッグは鋭い表情でヴェノムを見つめている。
「油断するな。あくまでも八人と言うのは予想だ。それ以上の人数がいる可能性だってある。それに、敵の中に幹部クラスがいたら厄介だぞ」
ニーズヘッグの言葉に余裕の表情を浮かべていたジルニトラやリンドブルム、ファフニールの表情に鋭さが現れた。そんな話をしている間にもヴェノムは少しずつ近づいて来る。そこへ今度はアリサとラランがリンドブルム達の下へ駆け寄って来た。
「皆さん!あれは一体・・・」
「ヘリコプター、空を飛ぶ乗り物ですよ・・・」
「ヘリコプター?」
「・・・昨日、隊長とヴリトラが話してた時に言っていた物?」
「そう、あれは車よりもずっと速くて空を飛べるからどんな遠い所にでもすぐに移動できる物なんだ。おまけに沢山の人を乗せる事もできる・・・」
「・・・あれにも沢山乗ってる?」
「分からない・・・」
ラランの質問にリンドブルムはヴェノムを見つめたまま緊迫した表情で答える。
「・・・アリサ、皆に銃を構えて姿勢を低くしてるように伝えて。アイツ等の目的は騎士を捕まえる事よ。つまり、アンタ達も狙われる可能性があるって事。いい?もし奴等が襲って来た迷わず銃を撃ちなさい!」
「ハ、ハイ!」
真剣な表情のジルニトラに迫力を感じながら返事をするアリサはラランを連れて仲間達の下へ戻って行った。やがてヴェノムはリンドブルム達の十数m手前まで近づきその8m上空でホバリングする。
ヴェノムがホバリングするのを見て七竜将と懲罰遊撃隊は警戒心を強くする。だが、そんな彼等の警戒を確認する事無くセメリト騎士達は勝手に動いてしまう。
「奴等が上空で止まったぞ!全員、矢を放てぇーーっ!」
マービングの命令で弓兵達は上空のヴェノムに向かって一斉に矢を放った。
「・・・ッ!?バカ、止せぇ!」
ニーズヘッグが止めに入ったがすでに遅く、無数の矢はヴェノムに向かって飛んで行く。しかし、ただの矢が鉄に通用するはずも無く、矢はヴェノムに当たって弾かれたり、届かなかったりなどで傷一つ付ける事はできなかった。セメリト騎士隊の隊員達はそれを見て目を丸くしながら動揺を見せる。
「バ、バカな!」
「矢が効かない!?」
マービングや他の隊員達が攻撃が効かない事に驚いているとヴェノムの側面のドアが開き、中からMP7を持ったBL兵が二人姿を現した。そしてセメリト騎士隊の兵士達に向かって発砲する。銃撃を受けた兵士達は一瞬で蜂の巣にされて全員がその場に倒れて動かなくなった。僅か数秒で兵士達が全滅した事にマービング達は驚く。リンドブルム達も何もできずに兵士達が殺された事に悔しさを感じて表情を歪める。
「そ、そんな、ありえない・・・」
「何が起きたんだ?」
二人の男性騎士がやられた仲間達を見て動揺を見せていると、ホバリングしていたヴェノムが降下していき地上ギリギリの所で止まる。そして中から八人のBL兵が降りてきてリンドブルム達にMP7の銃口を向け、それから少し遅れてドリアードもヴェノムから降りてBL兵達の中心で腕を組みながらリンドブルム達を見た。ドリアード達が降りるとヴェノムは再び上昇して上空でホバリングし、リンドブルム達を見下ろす形に入る。
「用の無いゴミ共は消えたか。残ったのはセメリト、レヴァート両国の騎士と・・・」
ドリアードは自分達を警戒するアリサ達懲罰遊撃隊とマービング達セメリト王国騎士隊を見た後、目の前で武器を構えているリンドブルム達に視線を移した。
「七竜将の四人だけか・・・まさかこんなにも早く出会えるとは思ってなかったぜ」
嬉しそうに笑うドリアードを見て七竜将の表情に鋭さが増した。そして自分達の武器をより強く握る。
「どうやらあの小さいのが奴等の隊長の様だな」
「ええ、しかもファフニールと殆ど年が変わらない位の女の子。それで幹部なんて・・・」
「どれぐらい強いんだろう?」
警戒する様子も見せずに笑っているドリアードを見ながら喋るニーズヘッグに続いてジルニトラとファフニールも警戒しながら話し掛けた。
ニーズヘッグ達がそんな会話をしているとドリアードが一歩前に出て七竜将を見ながらニヤリと笑う。
「・・・会えて嬉しいぜ、七竜将。俺はブラッド・レクイエム社の強襲部隊隊長、ドリアードだ。お前等は事は司令からよく聞いてるぜ?」
「それは光栄ですね・・・」
挨拶をするドリアードをジッと見つめながら返事をするリンドブルム。七竜将は一斉に武器を構え、ドリアードの周りにいるBL兵達も一斉にMP7を構える。
「君達はこの国で何をしているんですか?どうして騎士の人達を襲って連れ去るんです?」
「質問されて素直に答えると思ってるのかよ?ガキ」
「君だって僕とそれほど歳は変わらないじゃないですか」
「ヘッ、ガキにガキ扱いされるとはな。こう見えても俺は十八歳なんだぜ?」
自分を十八歳だと言う幼い外見の少女。それを聞いて四人の内、ファフニールだけが意外そうな顔でドリアードを見た。
「俺達は此処にいる騎士全員を連れて行く。だけど、それを黙って見逃す程お前等もお人好しじゃねぇんだろう?」
「当然だ!」
ニーズヘッグはドリアードを睨み付けながら力の入った声で答える。
「でも、俺等全員を相手にしながら騎士どもを守るのは、ちょっと無理があるぜ?」
「無理かどうかは、今から証明してみせる!」
「兵士の人達は守れなかったけど、その分、必ず皆さんを守って見せます!」
ニーズヘッグとリンドブルムは強う意志の籠った眼差しをドリアードに向けて叫ぶ。そんな二人をドリアードは嘲笑う。風が吹く平原の中で二組の傭兵隊が火花を散らす。
ドリアードの部隊と接触したリンドブルム達。彼女達の攻撃によってセメリト王国の兵士達は皆やられてしまい、マービング達は動揺する。そんな彼等を守る為に七竜将と懲罰遊撃隊がドリアード部隊に立ち向かうのだった。