第百五十五話 同盟国の首都レイグリーザ
セメリト王国の荒野でブラッドレクイエム社に襲われていたセメリト王国騎士達を助けたヴリトラ達。その騎士達の隊長を務めていたハーパーという青年騎士がカイネリアの夫だと知りヴリトラ達は衝撃を受けるのだった。
ブラッド・レクイエム社の所持品のチェックと騎士達の手当てをする為に荒野のど真ん中で休息を取るヴリトラ達はハーパーから何が起きたのかを詳しい事情を聞く。ハーパーの話によると町から町へ移動するキャラバン隊の護衛任務を終えて帰還していたところを突然ブラッド・レクイエム社の奇襲を受け、ハーパーを含む四人の騎士以外の隊員を全員殺されてしまい必死に逃げていたらしい。そこをリンドブルムとオロチに救われたという事だ。
「成る程、それじゃあ騎士以外の隊員は皆殺しにされてしまったと?」
「ああ、奴等は見た事のない武器を使い騎士以外の兵士達を次々に殺していった。私達も必死で抵抗したが全く歯が立たなくこうして無様に敵前逃亡をしてしまったという訳だ・・・」
ヴリトラはジープにもたれて腕を組みながらハーパーの話を聞いており、ヴリトラの隣ではラピュスとジャバウォックも黙って話を聞いている。ハーパーはカイネリアから傷の手当てをされながら自分達が体験した事を話し、カイネリアはハーパーの顔を小さく笑って見ていた。自分の夫が無事だったことに安心しホッとしているのだろう。
「それで、アンタ達は何処で奴等と遭遇したんだ?」
「此処から東に1K行ったところにある荒野の入口前だ。首都への近道として荒野を越えようとした時だった」
「運が良かったですね。もし荒野に入らなかったら俺達と会う事もなく奴等に捕まっていたかもしれない」
「全くだ。改めて礼を言わせてもらう」
ハーパーはヴリトラに礼を言いながら頭を下げる。ヴリトラはハーパーが無事でよかったと思いただ小さく笑ってハーパーを見ていた。
頭を上げたハーパーはヴリトラや周囲で作業をしている他の七竜将の隊員達や懲罰遊撃隊の騎士達を見回し、不思議そうに隣のカイネリアの方を向く。
「ところでカイネリア、どうしてお前が此処のいるんだ?それに彼等は一体・・・」
「彼等は最近この国で起きている騎士隊襲撃事件の解決を手伝う為にレヴァート王国から派遣されたんだ。レヴァート王国騎士団のラピュス殿と傭兵隊七竜将のヴリトラ殿だ」
「彼等がレヴァートから救援に来た戦士達だったのか」
カイネリアからヴリトラ達の事を聞いたハーパーは意外そうな顔でヴリトラとラピュスを見た。
「正直、私はさっきまでなぜ救援に傭兵隊が送られてきたのかと不服だったが、ハーパーを助けようとした姿と敵を倒した姿を見て納得した。ラピュス殿の言うとおり、彼等はそこらの騎士隊よりも強く信頼できると・・・」
「確かに、あの見た事のない謎の連中を軽々と倒した姿には私も目を疑った」
カイネリアとハーパーはBL兵達をあっという間に倒したリンドブルムとオロチの姿を思い出しながら七竜将の実力を感じ取る。
「アハハハ・・・やっぱ俺達信用されてなかったんだ・・・」
「まぁ、それは仕方がない事だ・・・」
本心を聞いて苦笑いをしながら小声で話すヴリトラとラピュス。二人も同盟国の危険な時に優秀な騎士隊ではなく傭兵を派遣したのだから相手が不愉快に思っているのではないかと感じていたが、やはり直接口から不服だと言われれば多少はショックを受けるようだ。
ヴリトラとラピュスが小声で話をしていると、ジャバウォックがハーパーを見ながら首都のある方角を指差した。
「俺達はこれから首都に行ってアンタ達の団長さんに会いに行く。目的地は同じなんだし、一緒に行くか?」
「・・・そうだな、そうさせてもらう。正直、もし次に奴等と遭遇したら逃げ切れる自信が無い」
「フッ、その方がいい」
小さく笑ってジャバウォックはハーパーとカイネリアに背を向けて遠くでブラッド・レクイエム社のジープを調べているリンドブルム達の方へ歩いて行った。その後ろ姿をヴリトラはジーっと見つめる。
「・・・どうした、ヴリトラ?」
ヴリトラが突然黙り込んだ事に気付きラピュスは小首を傾げて訊ねた。するとヴリトラはフッとラピュスの方を向いて顔を横に振る。
「いや、何でもない・・・さて、もう少ししたら首都に向かって出発するから。奴等のジープに積まれている物や戦利品を車に積んじまおう」
「あ、ああ・・・」
話を変えるヴリトラにラピュスは頷きジャバウォックと同じようにリンドブルム達の下へ向かった。それから十数分後、ヴリトラ達はジープに積まれていたガソリンの入ったポリタンクや弾薬、食料、そしてBL兵達の機械鎧の一部を回収し、彼等を埋葬してから首都に向かって出発する。勿論ジープは使い物にならないように破壊し、荒野のど真ん中に置いて行った。
出発してから数十分後、ヴリトラ達は遂にセメリト王国の首都であるレイグリーザに到着した。町はティムタームの様に町全体を城壁で囲まれており外部から侵入できない様になっている。そして町への入口である大きな門の前には番兵が数人立っており、近づいて来るヴリトラ達を見つけると持っている槍を構えて立ち塞がる。やはり彼等も初めて見るジープやバンに驚いて動揺を見せていたが、カイネリアとハーパーが事情を説明すると門を開いて彼等を招いた。
「ハァ、俺達がレヴァート以外の国に行く度にその国の人達に驚かれるんだろうなぁ」
「他国には国を回る傭兵や商人によって噂は広がるが号外の様に信頼性のある物では伝える事はできない。その国に直接接触しない限りはな」
「めんどくせぇなぁ~・・・」
「文句を言うな。お前達の事が他の国に知られないという事は裏返せばこの大陸の何処かに潜んでいるブラッド・レクイエムにお前達の情報が知られないという事になうんだぞ?」
「まぁ、確かにそうだけどよぉ・・・」
ヴリトラとラピュスが七竜将の知名度について話をしていると前にいたカイネリアとハーパーの部隊が動き出して門を潜って行く。それを見たヴリトラは運転席のジャバウォックに声を掛けた。
「よし、俺達も行こうぜ」
「・・・・・・」
「・・・?ジャバウォック、前が行ったぞ?」
「ん?・・・おおぉ、分かった」
ジャバウォックはジープを動かしてカイネリア達の後をついて行き、隣にいたラピュスと後ろのバンの後に続いて動き出す。町に入ると大きな広場がヴリトラ達を迎え、広場の隅には大勢の住民達がヴリトラ達をジーっと見つめている姿がある。そんな住民達に見られながらヴリトラ達はカイネリア達の後をついて行き、セメリト王国騎士団長の居場所へ向かった。
「カイネリア殿、貴方がたの団長殿はどちらにいらっしゃるのですか?」
「団長は王城で貴方がたをお待ちしています」
「王城?」
「ええ、皆さんには団長だけでなく我がセメリト王にもお会いになって頂くので・・・」
セメリト騎士団長だけでなく。セメリト王国の王にも会う事になっている事を聞いたラピュスは予想をしていたのか驚く様子を見せずにカイネリアの話を聞いている。ヴリトラは少し驚いた表情でカイネリアを見ていた。
「どうして俺達が王様に?」
「貴方がたは陛下がヴァルボルト王に送った新書に書かれた救援要請でこの国にいらっしゃったのだ。言わばヴァルボルト王によって送られた戦士達、レヴァート王国の戦士として陛下にお会いになって挨拶をしてもらわないと困る」
「成る程、レヴァート王国の代表として来た様なもんだから、その国の王様に挨拶をするのは当然か」
レヴァート王国とセメリト王国の同盟関係を悪くする様な事をするのは流石にマズイと考え、ヴリトラは納得する。それからしばらく街道を進んで行き、町の中心にある王城へやって来た。城門の前には衛兵が立っており、カイネリアは衛兵の前で馬から降りてヴリトラ達の事を衛兵に話す。それを聞いた衛兵はカイネリアの背後を覗き見て遠くにいるヴリトラ達を疑う様な目で見ている。彼等も七竜将達の事を若干疑っているようだ。しばらくして城門が開き、カイネリアはヴリトラ達に手を振って愛ぞを送った。
「どうやら入れるみたいだな」
「よし、行きますか」
ラピュスとヴリトラがカイネリアの合図を見て後ろにいる仲間達の方を向いた。二人を見たニーズヘッグ達は頷き、ジープとラピュスの馬はカイネリアとハーパーに続いて城門を潜って行く。それにリンドブルム達も続き、七竜将と懲罰遊撃隊は城門を潜り全員が入ると城門は静かに閉じた。
馬や自動車から降りた一同は目の前にある大きな扉を潜り城の中へ入って行く。大きく広い廊下の真ん中を通るヴリトラ達は廊下をキョロキョロと見回している。ティムタームでヴァルボルトに呼ばれ城に来た時の事を思い出した。
「ティムタームの城も凄かったけど、此処も相当だな・・・」
「うん、本当に・・・」
城の廊下を見回して驚いているヴリトラとリンドブルム。ジャバウォック達も少し驚いているがオロチだけは無表情のまま前を向いている。
「おい、あまりキョロキョロするな。落ち着きがないと思われるぞ?」
「・・・ちょっと見っともない」
ラピュスとラランがヴリトラとリンドブルムに注意をし、二人は苦笑いをして頷く。しばらく歩いていると広いリビングの様な部屋に着き、ヴリトラ達は席に案内されて静かに椅子に腰を下ろした。
「陛下との謁見まで少し時間がある。私はハーパーと任務に戻った事を団長に知らせて来なくてはならない。しばらく此処でお待ち願いたい」
「分かりました」
「何か用がある時はそこにメイドに言って頂ければ結構です」
カイネリアは部屋の隅にいるメイドを指差し、メイドも軽く頭を下げてヴリトラ達に挨拶をする。
「では、失礼します」
「また後でな?」
カイネリアとハーパーはヴリトラ達にそう告げて部屋を後にした。残ったヴリトラ達は椅子に座ったり部屋の窓から外を眺めたりと好きな事をしている。その中でヴリトラ、ラピュス、ニーズヘッグの三人は今後の事に付いて話をし始めた。
「これからどうするのだ?」
「とりあえず、王様に会って今この国で起きている事やどれ位の騎士が連れ去られたのかを聞いて今後の作戦を練らないといけないな」
「これまで騎士達を襲ったのがリブルとオロチが倒した奴等だけとも考えられない。まだ何処かに別の部隊がいるはずだ」
「確かにな。広い国のいろんな場所で何件も事件が起きているんだから、大人数でもの凄く速い足があると考えられる」
「もの凄く速い足?機械鎧の事か?」
ラピュスが速い足の意味が分からずにヴリトラとニーズヘッグに訊ねると二人はラピュスの方を向いて真面目な顔をする。
「いいや、車とかそっちの類だな」
「つまり、お前達が乗っているあの自動車よりも速い自動車をブラッド・レクイエムは持っていると?」
「それもあるかもしれない。だが、俺とニーズヘッグは別の物だと考えている」
「別の物?」
「・・・ヘリや飛行機の方だ」
「ヘリ?ヒコウキ?」
ニーズヘッグが口にする新しいヴリトラ達の世界の言葉にラピュスは小首を傾げた。
「空を飛ぶ事のできる乗り物だ。車よりもずっと速く移動できる」
「そ、空を飛ぶ・・・そんな物もあるのか?」
既に自動車や銃器などを目にしてきたラピュスは空を飛ぶ乗り物があると聞いてもあまり驚かず冷静に話を聞いた。
「ああ、こっちにはそういった空を飛ぶ物は無いのか?」
ヴリトラがラピュスに空を飛ぶ物について訊ねるとラピュスは小さく俯く。
「こっちには飛竜やグリフォンの様な空を飛ぶ猛獣を調教して軍に生かしているところもあるが、私も実際見た事はない・・・」
「そう言えば、レヴァートにはそんな部隊は今まで見た事はないな」
「ああ、猛獣を軍に使うのはあのガズンがいたストラスタ公国や大きな国だけだからな」
「成る程。そう言えば、ガズンのおっさんは今頃何してるのかなぁ?」
ヴリトラはグリンピスの森で別れたガズンとドレッドキャット達が今何処で何をしているのかを考えながら天井を見上げる。部屋の隅ではメイドが不思議そうな顔でヴリトラ達を見つめていた。すると、扉をノックする音が聞こえ、ヴリトラ達は一斉に扉の方を向く。ドアがゆっくりと開き、カイネリアが静かに部屋に入って来た。
「お待たせした。謁見の準備が整ったので、全員謁見の間へ来てください」
カイネリアから準備が整った事を聞かされた一同は一斉に立ち上がり部屋を出て行く。部屋を出たヴリトラ達はしばらく廊下を歩いて行き、謁見の間の入口と思われる大きな二枚扉の前までやって来た。すると扉はゆっくりと開き、広い部屋がヴリトラ達の目に飛び込んでくる。部屋の奥には玉座があり、その玉座に高貴な服を着た茶色い長髪の男性が座っている。歳は五十代くらいで頭に金色の王冠を乗せていた。その両脇には紅の鎧を身に纏い、セメリト王国の紋章が描かれた灰色のマントを羽織っている義紺色の短髪をした長身の中年男性と銀色の鎧を纏った若い青年の二人の騎士が立っている。部屋にはその三人しかおらず、ヴリトラ達は静かな謁見の間へゆっくりと入って行く。
しばらく歩いていると、先頭を歩いていたカイネリアは立ち止まり、その後ろをついて行ったヴリトラ達もそれに続いて立ち止まる。そしてカイネリアが膝まづき、ヴリトラ達もそれに続き膝まづく。カイネリアはゆっくりと顔を上げて玉座に座る男性の方を向いた。
「陛下、レヴァート王国から救援に来られた戦士達を連れて参りました」
「ご苦労・・・そなた達がレヴァート王国から来た救援の戦士達か?」
玉座に座っているセメリト王がヴリトラ達の方を向いて訊ねるとラピュスが顔を上げてセメリト王の方を向く。
「ハイ、レヴァート王国騎士団遊撃隊長のラピュス・フォーネと申します。後ろにいるのが副隊長のアリサ。レミンスです」
ラピュスが自分の後ろにいるアリサの事を紹介し、アリサも頭を下げて挨拶をする。
「そして、こちらがレヴァート王国でも屈指の実力を持つ傭兵隊、七竜将です」
「何、傭兵?」
ラピュスは今度は自分の隣で膝まづいているヴリトラの方を向き七竜将の紹介をし、その紹介を聞いたセメリト王は思わず訊き返した。なぜ、騎士隊と一緒に傭兵隊が来るのか、カイネリアが初めて七竜将を見た時と同じ様な反応を見せている。セメリト王の両脇に控えている二人の騎士も同じだった。
「騎士隊と共に傭兵隊が救援部隊として送られるとは、レヴァート王は何をお考えになっておられるのだ・・・」
不満そうな声で呟くセメリト王。そこへカイネリアがセメリト王に進言をする。
「陛下、彼等は先程お話ししたハーパーの部隊を襲撃した連中を一瞬で倒した傭兵達です」
「ん?そなたが帰還した時に話したあの話か?」
「ハイ。見た事のない武器を使い、ハーパー達を襲った敵を彼等はたった二人で倒したんです。彼等の話では最近この国で多くの騎士達を襲った奴等の仲間だとか・・・」
「何と、今までの襲撃事件は全てその未知の敵によるものであったか・・・」
カイネリアから話を聞き、セメリト王はヴリトラ達を真面目な顔で見つめる。
「・・・七竜将、と言ったか?そなた達の長は誰だ?」
「ハイ、俺です」
セメリト王の質問に膝まづいているヴリトラはゆっくりと顔を上げて返事をする。後ろで膝まづいているリンドブルム達も顔を上げてセメリト王の方を向いた。
「ヴリトラと申します」
「ヴリトラか・・・そなた達は我が国の騎士達を襲った者達を倒したらしいが、奴等の事を知っておるのか?」
「ええ。奴等はブラッド・レクイエム、俺達と同じこのヴァルトレイズ大陸とは違う別の大陸から来た巨大な組織です」
「この大陸と違う?どういう事だ?」
「話せば長くなります・・・」
ヴリトラは自分達が別の世界から来たという事を知られない様に自分達の事を話し、それを聞いたセメリト王達は少し驚きの表情を浮かべてヴリトラの話を聞いていた。
「・・・成る程、このヴァルトレイズ以外の大陸では我等の知らない技術が数多あるようじゃなぁ・・・」
話を一通り聞いて納得した様子を見せるセメリト王を見て七竜将と懲罰遊撃隊は安心したのかホッとする。
「それで、ブラッド・レクイエムという連中は何故我が国の騎士達を襲い捕らえているのだ?」
「そこまではまだ・・・ただ、奴等があれだけの人数で騎士達を襲い、さらったと俺達は思っていません。近々また騎士達を襲う為に姿を見せるはずです」
「そうか・・・では、そなた達は騎士達がこれ以上襲われないという時までこの国で我々と共に戦ってもらいたい。その代わり、この国に留まる間の生活の援助や国での自由は保障しよう」
「助かります」
「それと、我が軍の騎士達と同行する時はできるだけ彼等の指示に従ってもらいたい。互いの国の戦士が相手の国に力を貸す時はその国の戦士の指示に従うというのも同盟を組む時に交わした契約なのでな」
「分かりました。俺達も奴等と戦えるのなら力を貸します。奴等には色々訊きたい事がありますしね・・・」
ヴリトラは最後に俯き低い声を出しながら呟いた。隣にいるラピュスはそんなヴリトラの声を聞き表情を若干鋭くする。
「では、早速明日から頼むとしよう。今日は長旅で疲れただろう、ゆっくりと体を休めてほしい。カイネリア、彼等を部屋へ案内してさしあげなさい」
「かしこまりました」
セメリト王の指示を聞いてカイネリアはヴリトラ達を連れて謁見の間を後にし彼等を各部屋へと案内していくのだった。
首都レイグリーザに到着したヴリトラ達はセメリト王に会い、ブラッド・レクイエム社の事を説明し共に戦う事を話し合う。これからどんなブラッド・レクイエム社との戦いが始まるのか、ヴリトラ達の闘志は燃え上がる。