第百五十話 選ばれた戦士達 セメリト王国へ!
レヴァート王国と同盟を結んでいるセメリト王国から救援の親書が届く。内容は何者かに襲撃された騎士隊の騎士達の捜索、襲撃犯の逮捕の協力だった。ガバディアから七竜将にその救援に向かってもらうかもしれないという話を聞いたヴリトラ達は了承し、ガバディアの次の指示を待つのだった。
ズィーベン・ドラゴンでは七竜将がそれぞれ戦いの準備をしていた。セメリト王国に行くかどうかはまだ決まっていないが、何か遭った時の為に七竜将は常に最低限の事をしておく事にしている。
「こっちの弾倉は弾を込め終えたのか?」
「ああ、今度は以前ブラッド・レクイエムから手に入れた新しい武器と弾をチェックしている所だ」
ズィーベンドラゴンの中にある倉庫で木製の椅子に座るヴリトラとニーズヘッグがそれぞれ弾薬のチェックや武器のメンテナンスをしている。既に倉庫の中は七竜将が使う武器以外にMP7や超振動マチェット、ショットガンやスナイパ―ライフル、中にはロケットランチャーなどもあり、一種の武器屋と化していた。
「この倉庫も武器でいっぱいになって来たな・・・」
「ああ、前に話してた通り、新しい拠点を作るのも考えた方がいいかもしれない」
「そうすれば、物資を置いておく意外に色んな事ができるな」
荷物の量が増えて来て少しずつズィーベン・ドラゴンの倉庫がいっぱいになって来た事に二人は新しい拠点を手に入れる事を話し始める。そんな話をしながら二人は武器のメンテナンスや弾薬のチェックを続けた。
「そう言えば、あれから三日たったけど、ガバディア団長から何の知らせもないな」
「確か長くても数日は掛かると言っていたから、今日にでも何か連絡があるんじゃないのか?」
ガバディアに呼び出しを受けた日から既に三日が経っているが未だにガバディアから何の知らせもなく、ヴリトラ達は次の戦いの準備を進めていた。その間、七竜将は言われたとおり依頼を受けずにおり、ずっと退屈な日々を送っていたのだ。
ヴリトラとニーズヘッグが武器のチェックをしていると、倉庫にリンドブルムが入って来た。
「ニーズヘッグ、ちょっと外に来てくれる?ジープのエンジンの掛かりが悪いから見てくれってジャバウォックが」
「ジープがか?分かった、今行く」
ジャバウォックに呼ばれたニーズヘッグは持っていた弾薬を近くのテーブルの上に置き、立ち上がったニーズヘッグは出入口の方へ歩いて行く。
「ヴリトラ、ちょっと行って来るか武器のチェックの方は頼んだぞ?」
「あいよ」
ヴリトラは簡単に返事をし、ニーズヘッグは倉庫から出て行った。残ったヴリトラは武器のメンテナンスを再開し、リンドブルムは静かにヴリトラの方を向く。
「ねぇ、ヴリトラ」
「ん?何だ?」
「正直、ヴリトラはどう思ってるの?」
「何がだよ?」
「セメリト王国で騎士達を襲撃している犯人だよ」
リンドブルムは椅子に座っているヴリトラの方へ歩いて行き、セメリト王国で起きている事件の事を訊ねた。ヴリトラはメンテナンスの手を止めてリンドブルムの方を見る。
「ヴリトラは、もう犯人が誰なのか想像がついてるんじゃないの?」
「・・・・・・」
ヴリトラはリンドブルムの質問に答える目を閉じて小さく俯いた。しばらく黙り込んでいると、ゆっくりと目を開いて真面目な顔を見せる。
「・・・確かに、俺は犯人がどんな奴なのか目星は付いている」
「やっぱり」
「だけど、それはお前も同じだろう?と言うか、七竜将全員が同じ考えだと思ってるよ」
七竜将の全員が犯人の正体に気付いている、そう口にしたヴリトラをリンドブルムも真剣な表情で見つめて頷いた。リンドブルム自身の騎士達を襲った犯人が誰なのか気付いているようだ。
「犯人は・・・」
「・・・ブラッド・レクイエムの可能性が高い」
セメリト王国で騎士隊を襲っている犯人の正体がブラッド・レクイエム社だと言葉を繋げるように話すリンドブルムとヴリトラ。七竜将は全員がブラッド・レクイエム社の仕業ではないかと疑っていのだ。二人は互いの顔をジッと見つめながら話を続ける。
「他国の騎士の仕業ではないとすると、考えられる犯人は騎士に恨みを持つ盗賊か傭兵ぐらいだ。だけど、三日前の話で盗賊や傭兵には騎士達を襲うだけの力も人材も無い。となると、それ以外で騎士隊を全滅させる事ができるのは、ブラッド・レクイエムしかいないって事だ」
「そうだよね・・・ところで、最初から分かってんならどうしてガバディア団長やラピュス達にあの時言わなかったの?」
「場所が悪かったからな。あの時詰所にはまだ大勢の騎士や一般の人がいたから、ブラッド・レクイエムの名前を出すと皆が騒ぎ出すと思って黙ってたんだよ。ただでさえ、ティムタームは未知の敵であるブラッド・レクイエムの事が広がって少し混乱しているからな」
「成る程、納得・・・」
詰所でヴリトラがガバディアに犯人の事を話さなかった理由を知って腕を組み納得するリンドブルム。
「だけど、できるだけ早くガバディア団長に話しておいた方がいいかもしれないな。もし本当にブラッド・レクイエムの連中だったら、俺達以外の戦士が行けば高い確率で殺されちまう」
「うん。そうだね・・・・・・と言うか、今から伝えに行けばいいんじゃないの?」
「あっ、そうだったな」
「いや、それ以前に、あの日詰所から移動した後にガバディア団長とラピュス達に知らせておけばよかったんだ・・・」
「ア・・・アハハハハハ・・・」
リンドブルムの話を聞いてハッと思い出したヴリトラはしばらくして苦笑いをして自分のミスを誤魔化した。リンドブルムもその事に今気づいた事を誤魔化す様に苦笑いをする。
二人が倉庫の中で笑っていると、倉庫にジルニトラが入って来る。ジルニトラは倉庫の中で苦笑いをしている二人をジト目で見つめた。
「・・・アンタ達、何を笑ってるの?」
「え?・・・おおぉ、ジルか。何でもねぇよ」
「そうそう」
ジルニトラの方を向いて苦笑いのまま誤魔化すヴリトラとリンドブルム。ジルニトラは頭にジト目のまま小首を傾げて不思議そうな顔を見せる。
「まぁ、いいけどね。それよりもラピュス達が来たわよ?」
「え?もしかして、ガバディア団長の指示を知らせに来たのか?」
「ええ、そうみたい。詳しい事はこれから説明するみたいだから、来客フロアへ来て」
「分かった」
「りょーかい!」
ヴリトラはメンテナンスしていた武器を近くのテーブルに置いて席を立ち倉庫から出る。リンドブルムもそれに続いて倉庫を後にした。
三人が来客フロアへやって来ると、そこには来客用の席に座っているラピュスと周りで壁にもたれたり隅にある椅子に座っているジャバウォック達とラピュスに同行したラランとアリサの姿があった。
「よう、ラピュス。またせな」
「これで全員揃ったな・・・」
ヴリトラ達が来たのを確認したラピュスが周囲を見回して全員揃っている事を確認する。ヴリトラがラピュスの向かいの席に座るとラピュスは話を始めた。
「話し合いの結果、やはりお前達七竜将にセメリト王国へ向かってもらう事になったらしい。明日の朝に七竜将と懲罰遊撃隊はセメリト王国の国境の町『アローブ』に向けて出発するよう団長からの指示だ」
「やっぱりな。にしても、俺達が行くんだったら何でもっと早く決めなかったんだよ?おかげでこの三日間退屈しっぱなしだったんだぜぇ?」
「陛下と姫様、団長はお前達を推薦されたのだけど、他の上級貴族や新しい元老院の方々が七竜将の存在をあまり広めない方がいいのではないかと意見を出されてな。結局こんなに時間が掛かってしまったという事だ」
「政治の理由かよ、それなら仕方ねぇか・・・」
ヴリトラはヴァルボルト達の都合を考えて頬杖をつきながら納得する。
「それで、セメリト領内に入った後は私達はどうすればいいのだ・・・?」
オロチが国境を越えて町に着いた後に何をするのかを訊ねた。するとラピュスの後ろの立っていたアリサが一枚の羊皮紙を取りだして書かれたある事を読み上げた。
「えぇ~っと、このセメリト王国からの親書によると、アローブの町にセメリト王国騎士団の『カイネリア』と言う姫騎士がいらっしゃるみたいなんで、その人から色々聞いてほしいとの事です」
「・・・その姫騎士が首都に案内してくれるって」
アリサの隣にいるラランも話に参加してその後の事を話す。話を聞いた七竜将は真面目な顔で姫騎士達を見つめている。
「・・・ラピュス、今回の仕事もかなり危険になりそうだぜ?」
「え?どういう事だ?」
「俺達は七竜将は今回の一件はブラッド・レクイエムの連中が関わっていると踏んでいる」
「何?」
「また彼等ですか?」
「・・・迷惑な連中」
ヴリトラからセメリト騎士隊襲撃にブラッド・レクイエム社が関係していると聞いたラピュスは立ち上がりながら驚き、アリサとラランも真剣な表情を見せた。
「と言うよりも、僕達はブラッド・レクイエムが犯人だって思ってるんだ」
「こんな事をやるのはアイツ等意外に考えられねぇからな」
リンドブルムとジャバウォックが少し力の入った声を出し、ラピュスも緊張して汗を垂らした。
「いいから、ラピュス。お前達第三遊撃隊は既にブラッド・レクイエムから注目されている、何時命を狙われるか分からない。セメリトに行ったら一瞬たりとも気を抜くなよ?他の騎士達にもそう伝えておいてくれ」
「・・・分かった」
ヴリトラの忠告を聞いてラピュスはゆっくりと頷く。その後、明日の段取りを話し合いラピュス達は帰って行く。そしてヴリトラ達も明日の準備の為に大急ぎで持ち物や装備の再確認したのだった。
――――――
その日の夜、とある国のある小さな町。月が顔を出している静かな夜空の下でその町から煙と炎が上がり、町中から住民達の叫び声が聞こえてくる。
炎に包まれた町のいたる所では住民や町の自警団員の死体が倒れており、その死体の全てに無数の切傷や銃創が付けられていた。
「ハァハァハァ、急げ!」
「ま、待ってよぉ!」
ボロボロの姿で町の中を走る若い男女。男性が女性の手を引っ張り息を切らせながら走っている。その姿はまるで何かから逃げている様だった。
「ね、ねぇ、アイツ等一体何なの!?」
「俺が知るかよ!それよりも、早く町から出て近くの町か村に逃げ込むんだ。そこで王国騎士団に助けを・・・」
二人は周囲を警戒しながら町の出口の方へ走って行く。その時、民家の屋根の上から三つの人影が飛び降りて男女の前に立ち塞がる。それはMP7を持つBL兵だった。
「キャアアア!」
「で、出たぁ!」
BL兵の出現に驚き声を上げる男女。そしてBL兵は怯える二人に向かってMP7を発砲。男女は銃撃を受けて蜂の巣にされるとその場に俯せに倒れ二度と動かなかった。どうやらこの町はブラッド・レクイエム社の襲撃を受けたようだ。
男女を射殺したBL兵達はMP7の弾倉を新しいのに変えて周囲を見回す。
「よし、この辺りは粗方片付いた。次へ行くぞ」
「了解!」
BL兵達は男女の死体をそのままにして走り去る。その様子を民家の屋根の上に座って見下している人物がいた。銀髪を黒いリボンで両サイドにまとめた小柄な少女、以前ヴリトラ達の前に現れたジークフリート親衛隊の一人、リリムだ。
「あ~あ、この町にはいい素材がいないわねぇ~。やっぱり騎士団の連中が来るにのを待つしかないかぁ」
退屈そうに足を組みつまらなそうな顔で街道を見下ろす。そんな時、リリムの背後から一人のBL兵が姿を現した。
「リリム隊長、セイレーン隊長より連絡が入りました。『町の東側は完全に制圧した、そっちが終ったら町の中央へ来い』との事です」
「あっそ。りょ~かいって伝えておいて」
「ハッ!」
リリムの指示を聞いたBL兵は屋根から飛び下りてセイレーンへ連絡をしに向かう。その直後、今度は耳にはめてある黒い小型無線機からコール音が鳴り、リリムは小型無線機のスイッチを入れた。
「こちらゴーレム、聞こえるか?」
「ハ~イ、こちらリリム、聞こえてるよぉ?」
「リリムか、そっちはどうだ?」
「この辺りの住民や自警団の連中は全部片づけちゃったよ。やっぱこの町の連中は素材になりそうにないね」
リリムは小型無線機に指を当ててゴーレムと会話をする。
小型無線機の向こう側ではスキンヘッドの巨漢、ゴーレムが錘を担ぎながら周囲を見回しており、その隣では灰色の短髪をした美青年、ガルーダが自警団員の死体を椅子代わりにして寛いでいる姿があった。
「当然だ、こんなちっぽけな町に素材となる奴がいるはずがないだろう」
「じゃあこの後はどうするの?騎士団が来るまで待つつもり?」
「そうするしかねぇだろう。今日のノルマは達成しているがまだ目標の人数には届いていない。司令はこの町に来た騎士どもを倒して使えそうな奴を全員連れて帰るつもりだからな」
「ハァ、めんどくさ~い」
「文句を言うな!他の幹部クラスは全員別の所で素材を集めているんだ。親衛隊の俺等が手を抜けんだろう!」
めんどくさがるリリムに注意するゴーレム。そんな会話を聞いていたガルーダがふと何かに気付いてゆっくりと立ち上がる。
「・・・ゴーレム、話はそこまでだ」
「ん?」
突然名を呼ばれてゴーレムは通信を止めてガルーダの方を向く。ガルーダは近くに民家に屋根の上に飛び乗り、町の周辺を見回し始める。そして遠くに見える無数の小さな光を見つけた。ガルーダは単眼鏡を取り出して光の方を覗き見る。
「・・・お待ちかねの騎士団が到着した様だ。南の方からこっちに向かっている。距離はざっと3Kだな」
「何?規模は?」
「百人ってところだろう。意外に少ない」
「だが、百人もいればいい素材が何人かはいるだろうな」
ゴーレムは小型通信機に指を当ててリリムに状況を知らせた。
「リリム、騎士団が町の南、つまりお前の担当している方からこっちに向かっている。部隊を率いてその騎士団を叩け!」
「え?こっちに来てんの?」
「ああ、さっさとやれ!セイレーン達も向かわせる」
「ハイハイ」
騎士団を迎え撃つようにリリムに伝えるゴーレムは通信機を切ってセイレーンに連絡を入れようとする。
「ようやく騎士団が来たか・・・」
聞こえて来た声にゴーレムは振り返った。後ろには両手で動かなくなった自警団員二人の頭を鷲掴みにしているジークフリートが立っており、屋根の上にいたガルーダも屋根から飛び下りてゴーレムと隣までやって来る。
「司令、そっちはどうだ?」
「全て片付いた。もうこの町には私達以外に誰もいない」
「そうか。ところで、何時まで素材集めを探すつもりだ?もう百五十人は集まったはずだぞ」
「さぁな。だが目的の為にはいくつ素材があっても足りないと女王は、『ジャンヌ』は言っていた」
「我等ブラッド・レクイエムの人材は限られている、この世界でより大きく活動するにはより多くの駒が必要だという事ですね?」
ジークフリートの話を聞いてガルーダはジャンヌと呼ばれている女王、即ちブラッド・レクイエム社の社長の考えに真剣な表情を見せながら腕を組む。ゴーレムは錘の柄の部分で肩を軽く叩きながらジークフリートを見ている。
「しかしこの国で手に入る素材の数も限られている。別の国でも素材集めをした方がいいんじゃねぇのか?」
「分かっている。既に二個小隊をセメリトの派遣して使えそうな素材を集めさせている」
「セメリトと言えば、七竜将がいるレヴァートの同盟国だと聞いている。大丈夫なのか?奴等が動く可能性もあるぞ?」
ゴーレムの予想は当たっていた。既に七竜将はセメリト王国へ向かう準備を進めており、彼等はその事を知らない。
ジークフリートはアーメットから見える赤い目を光らせながら両手で掴んでいる自警団員の頭を放して腕を組む。
「その事も既に対策済みだ。セメリトには『デーモン』と『ドリアード』を行かせてある。奴等なら七竜将と出くわしても心配ないだろう・・・メリュジーヌの時の様な大番狂わせがなければな・・・」
低い声を出しながらセメリト王国の事をガルーダとゴーレムに伝えるジークフリート。それから三人は町の南へ向かいセイレーンとリリムに合流する。そして五人はやって来た騎士団を僅か三十分で全滅させてしまった。
セメリト王国の救援に向かう事になったヴリトラ達。しかし彼等はブラッド・レクイエム社の計画と彼等がセメリト王国に向かわせてある幹部クラスの機械鎧兵士の存在に気付いていなかった。