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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第八章~消えていく隣国の剣~
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第百四十九話  同盟国からの救援

 監獄に幽閉されていたファンストがブラッド・レクイエム社の手により暗殺された。口封じの為なのか、それともただ目障りになって殺したのかそれは分からない。だが、ヴリトラ達はこれをブラッド・レクイエムからの挑戦状と受け取り、より強く闘志を燃やすのだった。

 牢獄を一通り見た後、ヴリトラ達は静かに監獄から出てくる。あれから色々調べたが薬莢以外には何の手掛かりも見つからずに調査は終わってしまいヴリトラ達は帰る事になった。


「あの薬莢以外は何も見つからなかったね」

「不利になる証拠は残さずに挑戦状だけを残して行くか、ファンストを殺した奴は以外の頭の回転が速いのかもな」

「どんな奴なんだろう?」

「さぁな?少なくとも機械鎧兵士だって事は確かだろう。誰にも見つからずにファンストを殺して逃げるなんて普通の人間にはまずできない」


 リンドブルムとニーズヘッグが牢獄で見た事を思い出しながら犯人がどんな奴なのかを考える。二人の周りでもラピュス達が難しい顔をしていた。


「それにしてもおかしいな・・・」

「何が?」


 先頭を歩いているヴリトラが何かを不思議に思いながら呟く。それを聞いたリンドブルムがヴリトラの顔を見上げながら訊ねた。


「ファンストを殺したのはブラッド・レクイエムの連中で間違いない。だけど、奴等はどうやってこの町に侵入したんだ?」

「え?」

「前の武術大会の日以来、この町の警備は厳重になったはずだ。そうだよな、ラピュス?」


 ヴリトラが隣で歩いているラピュスに尋ねるとラピュスはヴリトラの方を向いて頷く。


「ああ、ジークフリート達が町に侵入してから町の正門以外で外へ繋がっている下水道の様な出入口は全て封鎖された。正門以外で町にはいるのは不可能だ」

「にもかかわらず、ブラッド・レクイエムはファンストと接触した時、そして今回のファンスト殺害の時に見張りに気付かれる事無く町へ潜入した」

「確かにおかしいな。正門には二十四時間見張りの番兵がいる。もし正門から入って来たのであればすぐに見つかって町中に広がるはずだ・・・」

「奴等は一体どうやって町へ・・・」


 ブラッド・レクイエム社のティムターム潜入方法が分からずに思わず足を止めてしまうヴリトラとラピュス。二人の後ろを歩いていたリンドブルム達も突然立ち止まる二人に驚いて止まった。ヴリトラ達は街道のど真ん中で立ち止まってしまう。


「おい、二人とも、こんな道のど真ん中で考え込まないで一度ズィーベン・ドラゴンへ戻ろうぜ?そこでゆっくりと考えればいいじゃねぇか?」


 ジャバウォックが立ち止る二人に場所を変える事を提案する。二人は自分達が立ち止っている事に気付き、振り返ってジャバウォック達の方を向いた。


「あ、ああ、そうだな。ワリィワリィ、ついつい考え込んじまって」

「なら、さっさと行こうぜ?」

「ああ、そうしよう」


 ジャバウォックに言われて再び歩き出すヴリトラとラピュス。リンドブルム達も歩き出して一同はズィーベン・ドラゴンへ向かうのだった。

 ズィーベン・ドラゴンに戻って来たヴリトラ達は来客フロアでそれぞれ椅子に座ったり、壁にもたれるなどをして体を休めている。リビングの方からジルニトラとファフニールが人数分の木製コップを持って来て全員に渡す。中には氷で冷やされた水が入っていた。


「さて、ブラッド・レクイエムの連中がどうやって町へ侵入したかって話だけど、皆がどんな方法を使ってると思う?」


 来客用の席につきながらヴリトラが周りのラピュス達に訊ねる。ラピュス達はブラッド・レクイエム社がどんな手段を用いたのか考え出す。そんな中、ファフニールが手を上げた。


「ハイ!」

「何だ、ファウ」

「もしかしたら、空を飛んではいったんじゃないの?町の城壁は機械鎧兵士でも跳び越えられない高さなんでしょう?だったら、オロチの機械鎧みたいなのを使って空を飛んだのかも」

「それは考え難い・・・」


 ファフニールの意見を聞いたオロチが壁にもたれながら否定した。


「どうして?」

「お前達も知っている通り、機械鎧に取り付けられているジェットブースターは点火時の音が大きい。もし空から飛んで侵入したのならそのブースター音ですぐに見つかってしまう・・・」

「あっ、そっか・・・」

「それに城壁の上にある見張り台にも警備の兵士がいる。空から侵入したのなら真っ先にソイツ等に見つかるだろう・・・」


 オロチの説明を聞いて納得するファフニールは難しい顔でコップの冷水を飲んだ。


「空からの侵入は無しか・・・他にはあるか?」


 ヴリトラが再び訊ねると今度はジルニトラが手を上げてきた。


「いい?」

「どうぞ」

「もしかして、城壁で見張りにも見えない死角を見つけてそこに隠れながら城壁をよじ登って来たんじゃないかしら?」

「成る程、裏をかいて城壁を昇って来たっというのも考えられるな・・・」

「でしょう?」

 

 ジルニトラの意見を聞いて一理あると考えたヴリトラ。するとそこへラピュスが話に加わって来た。


「待ってくれ、私はそれは無いと思う」

「え?何でよ?」

「あの壁は敵が外から登って侵入して来れない様に手を掛けられそうな穴や割れ目を全て泥で塞いであるんだ」

「そうなの?」

「確かに割れ目が無いんじゃ機械鎧兵士でも登る事はできないな・・・」


 城壁を登って侵入して来たという案も無くなりまた振り出しに戻る。


「空を飛ぶのも壁を登るのも無いか・・・」

「ヴリトラはどんな方法で侵入したと思っているんだ?」


 ラピュスがヴリトラの意見を訊き、リンドブルム達も一斉にヴリトラの方を向く。


「う~ん・・・・・・前に戦ったメリュジーヌみたいに変装して町へ入ったって考えもあるけど・・・」

「けど?」

「もしかしたら、透明になって町へ潜入したかもしれないって考えてるんだよ」

「透明?そんなバカな・・・」

「ええ、それは無いと思うわよ?」


 ヴリトラの話を聞いてラピュスとジルニトラは有り得ないと言いたそうな顔で冷水を飲む。


「だよな、ハハハハ・・・」


 二人に否定されて苦笑いをするヴリトラ。リンドブルム達もそんなヴリトラを見て呆れ顔を見せていた。ふざけて言ったのか真面目に言ったのか、それは言った本人にしか分からない。だが、ニーズヘッグだけはヴリトラの話を聞いて腕を組みながら何かを考え込んでいた。


(透明になる?・・・もしかすると、『あれ』が・・・・・・いや、有り得ない。あれは途中から計画を中止にされたんだ、存在するはずが・・・)


 まるで何か思い当たる節があるかのように何かを思い出して考え続けるニーズヘッグ。ヴリトラ達はそんなニーズヘッグに気付く事なくブラッド・レクイエム社の侵入方法について話を続けていた。

 しばらくして、ヴリトラ達は空になった木製コップをテーブルの上に置いて話を終わらせた。全員がずっと態勢を変えなかった為、疲れた表情を見えている。


「あぁ~、ずっと座ってたから疲れちまったよ・・・」

「座ってて疲れたのなら壁にもたれてた俺達はもっと疲れているぞ?」

「ああ・・・」


 席を立ち背筋を伸ばすヴリトラをジッと見るニーズヘッグとオロチ。ヴリトラは二人の方を向いてニヤニヤと笑った。


「まぁまぁ、お前等まだ若いんだからそう言うなって?」

「お前も大して歳は変わらないだろう!」


 笑うヴリトラにツッコムを入れるニーズヘッグ。周りではラピュス達が話の内容を確認したり空のコップを片づけるなどしていた。そんな中、玄関の扉をノックする音が聞こえて来て一同は一斉に扉の方を向く。


「隊長、皆さん、いらっしゃいますかぁ~?」

「アリサか。どうしたんだ、アリサ?」


 ラピュスが訪問して来たアリサに声を掛ける。


「あっ、隊長ですか?・・・実はガバディア団長がお話があるそうです。詰所までいらっしゃってください、七竜将の皆さんもお願いします」

「俺達も?」

「何だろう?」


 ラピュスだけでなく自分達まで呼ばれた事を不思議に思うヴリトラとリンドブルム。一同は話の内容が分からないまま詰所へ向かう準備を進めた。

 アリサに連れられて騎士団の詰所にやって来てヴリトラ達。中に入ると受付のある広間の中心でガバディアとラランが話をしている姿があった。


「おお、何度も呼び出してすまないな?」

「いえ、それで団長、どんな御用で?」

「うむ。実は近々お前さん達にセメリト王国に言ってもらう事になりそうなのだ」

「セメリト王国?」


 国名を聞いたラピュスは小首を傾げて聞き返した。


「セメリト王国って、確かレヴァート王国と同盟を結んでいる国ですよね?」


 ヴリトラはセメリト王国がどんな国なのかを思い出すと、ガバディアはヴリトラの方を向き頷く。


「そうだ。そのセメリト王国の王家から我が国に助力を求めて来たのだ」

「助力?」


 同盟国が助けを求めて来た、それを聞いたヴリトラは反応し、ラピュスやリンドブルム達も同じ様な反応を見せる。ガバディアはヴリトラ達を見ながら真面目な顔で口を動かし始めた。


「実は数日前、セメリト王国の優秀な騎士隊が何者かの襲撃を受けたのだ。その襲撃で隊の騎士達が皆行方不明になったらしい」

「行方不明?」

「ああ、一般の兵士は全員が無残に殺されていたが、騎士の遺体は一つも見つからなかったようなのだ」

「どういう事ですか?」

「分からん。王国も犯人の捜していたのだが、その翌日に任務を終えた別の騎士隊が襲撃されてまた兵士の遺体を残して騎士全員が行方不明になったとか」


 次々と騎士が消えて行く、その話を聞いたヴリトラ達の表情は鋭くなり、全員が黙って話を聞いていた。


「その後も何度かそういった事件が起き、今日までの間に既に十二人の騎士達が姿を消してしまったのだ」

「十二人も・・・」

「ああ、皆セメリト王国でも優秀な騎士や姫騎士達だったらしい」

「・・・・・・」


 ヴリトラは腕を組みながら俯いて考え始める。リンドブルム達も同じように考えだし、ラピュス達はそんなヴリトラ達をジッと見つめていた。


「・・・その騎士隊襲撃の犯人は間違いなく同一犯だろうな。もしくは、同じ組織の連中だろう。そしてソイツ等が騎士達を連れ去った可能性が高い」

「ああ。だが、どんな連中なんだ?王国の精鋭騎士達を襲うなんてよほど力と度胸のある連中かバカだぞ?」

「少なくとも盗賊や傭兵の様な連中ではないだろうな・・・」


 襲撃犯がどんな連中なのかを考えて話し合うヴリトラとジャバウォック。既に彼等は犯人が大きな力を持つ者だという事は確信していた。


「それじゃあ、別の国の騎士達とかか?」

「成る程ね、敵国の情報を聞き出す為に連れ去ったって事も考えられるわ」

「もしくは人質・・・」


 ジャバウォックの後ろにいるジルニトラとオロチが襲撃犯が騎士達を連れ去った理由を考えて口にする。


「団長、セメリト王国は今、何処かの国と緊張状態になっているのですか?」

「いや、そんな話は聞いていないな」


 ラピュスの問いかけにガバディアは顔を横に振って答えた。それを聞いたジルニトラは腰に両手を付けて残念そうな顔を見せる。


「となると、他国の仕業と言うのも考え難くなってきたな・・・」

「じゃあ、一体誰が・・・」


 ニーズヘッグとリンドブルムが難しい顔で犯人を考える。ヴリトラ達も同じだった。するとガバディアが席をしてヴリトラ達の注目を自分に集める。


「こう何度も騎士が行方不明になるような事件が起きて流石にセメリト王国の王家も不安に考え、我が国に捜査の協力をしてほしいとつい先ほど新書が届いた。それを知った陛下は我が国の騎士団の中から優秀な騎士隊を幾つか推薦し、お前達七竜将もその一つに選ばれたというのだ」

「・・・虫が良すぎませんか?前のストラスタ公国との戦争の時には全く手を貸してくれなかったくせに」


 リンドブルムがストラスタ公国との戦争の時の事を思い出して気に入らない表情を見せる。当時、レヴァート王国がストラスタ公国との戦争で混乱していた中、同盟国であるセメリト王国は見て見ぬ振りをした。そして今度は自分達を助けてほしいと助力の親書を送って来たと言う事だ。

 ストラスタ公国との一件を思い出してリンドブルムの周りでもヴリトラ達が同じように不服そうな表情を見せている。


「前にも話した通り、セメリト王国と我が国は情報と物資の交換という条件で同盟を結んでいる。相手側で問題が起きれば助力をするが、他国との戦争では一切互いに関わらない事になっておるのだ」

「むぅ~、やっぱり無茶苦茶な条件ですね・・・」

「確かにな。だが、そうする事で同盟国が戦争中の相手国から敵意を向けられないようにし、同盟国への損害を出さないようにする為でもあるのだ」


 むぅっとしているリンドブルムにガバディアが苦笑いをしながら説明し、それを聞いていたラピュス達も七竜将を見ながら頷く。


「そうする事で、同盟関係を続けて行けるようにしている訳だ」

「他人との戦いに相手を巻き込まないようにする為の思いやりとも言えますね」

「・・・友好」


 ラピュスに続いてアリサ、ラランもそれぞれ自分の思っている事を口にし、それを聞いた七竜将達も複雑な表情で一応納得する。


「とりあえず、今はどの部隊をセメリト王国へ行かせるか、陛下が元老院と相談中だ」

「元老院・・・大丈夫なんですか?」

「心配ない。新しい最高議長には選挙で正式に決まった人物だ。ファンスト公の時とは明らかに違う道を進むだろう」

「それなら、安心していいですね」


 生まれ変わった元老院の事を聞いてホッと一安心するヴリトラ。ラピュス達も元老院の事を聞き安心したのか微笑んでいた。


「セメリト王国へ向かう者達が決まったら教える。それまでは今まで通りに過ごしておいてくれ。あと、お前達が行く事になったらすぐに出発してもらうからな、しばらくの間、何も依頼を引き受けないでくれ?」

「え、えぇ~~?」


 笑いながら詰所の奥へ行くガバディアの背中を見ながら肩を落とすヴリトラ。リンドブルム達もジト目でガバディアを見ており、そんな七竜将をラピュス達が苦笑いで見ていたのだった。

 徐々に動きが大胆になって来たブラッド・レクイエム社。そんな中でレヴァート王国の同盟国であるセメリト王国で騎士隊の襲撃事件が起こり、救援の親書が送られてくる。ヴリトラ達の平和な日常はすぐに終わりを迎えそうな空気だった。


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