第十四話 拠点と資金を手に入れろ!
クリスティアとの決闘から翌日、七竜将はティムタームの町中を歩いていた。今回、七竜将は一昨日にリンドブルム達拠点探しチームが見つけた物件を見に行くためにその物件のある所へ向かっていた。
「それで?お前達の見つけた物件っていうのはどんなもんなんだ?」
「結構大きかったよ?ただ、かなり古い物だったからあちこちボロボロだった・・・」
「まぁ、そりゃ仕方ないな。今の俺達の持ち金じゃあ、あんまりいい物件は買えないし・・・」
リンドブルムから話しを聞いたヴリトラは苦笑いをしながら歩く。周りでもリンドブルムを始め、オロチ以外の七竜将が苦笑いをしている。
七竜将はクレイジーファングの一件で活躍した事により、王国から謝礼の報酬を少しだけ受け取っていたのだ。だが、それでも一ヶ月分の生活費くらいにしかならず、良い物件を変えるだけの資金は無かった。最悪、分割払いで少し高めの物件を買う事も考えている。
「とりあえずその物件を見てみないことには始まらないわね」
「ああ、後の事はその物件を見てからだ」
ジルニトラとジャバウォックが先の事は見つけた物件を見てから考える事を言い、ヴリトラ達も同じ考えなのか頷いて物件のある場所へと向かって行く。
しばらく歩き、人気の少ない裏路地を進むと家や小屋も無い寂しい場所に出た。更に先へ進み、そのお目当ての物件の前に着いて七竜将。その物件を見たヴリトラ達、特に情報集めに行っていた四人は顔に青くして固まっていた。目の前にあるのは窓ガラスが割れ、屋根や壁に穴が開き、ホコリを被り、蜘蛛の巣が張られているボロボロの一軒家だった。例えるなら廃墟と言うべきだ。
「な・・・何じゃこりゃ・・・」
「だから言ったでしょう・・・?」
眉をピクピクと動かしながら驚き、目の前の家を見ているヴリトラとその隣で肩を落としながら俯いているリンドブルム。ニーズヘッグ、ジルニトラ、ファフニールは青くなりながら家をジッと見ており、ジャバウォックはリンドブルムの様に肩を落として頭を掻き、オロチは目を閉じて腕を組み黙っていた。
「お、おい、もっといい物件はなかったのか?」
「これでも苦労したんだよ?僕達こっちの世界の文字やお金の事は全く分からないから、ラランが色々教えてくれたんだ。それでもこれくらいしか僕等の条件に合った物件を見つけられなかったんだよ」
「・・・確かに、こっちの世界の事を何も知らない俺達じゃこれが限界か」
ヴリトラはファムステミリアでは自分達の持つ知識は殆ど役に立たないと考えて溜め息をつく。目の前の家を見て、七竜将のメンバーが感想を述べ始めた。
「こんなにボロボロの家なんて、あたし達の世界でもなかなかお目にかかれないわよ?」
「何だかおばけとか出てきそうだね?」
「足を踏み入れた瞬間に崩れるかもな・・・」
苦笑いをしながら家の見た目や怪奇現象が出るのではないかと口にするジルニトラとファフニール、入った瞬間に崩れると不吉な事を言い出すオロチ。そんな二人を見てニーズヘッグが複雑そうな表所を見せて口を開いた。
「お前等、問題はそこだけじゃないぞ?俺達の持っている金ではこの家をギリギリで買えるかどうかってところなんだ」
「それで?」
「コイツを買えたとしても、このままボロいままの家に住むわけにはいかないだろう?」
ニーズヘッグの話しの糸が分からないファフニールは小首を傾げる。そこへオロチがニーズヘッグの方を向く。
「修繕か?」
「そうだ」
オロチの事がでようやく理解したファフニールはポンと手を叩き、周りのヴリトラ達もハッと気づいた様な顔を見せる。
ニーズヘッグの言いたい事はこうだ、例えこの家を買ったとしても、ギリギリの資金しかない自分達には買ったボロい家の壊れたり古くなっている部分を修繕、つまり家を直するだけの資金は残らないという事だ。その事を知った七竜将は更なる悩みに頭を抱えだす。
「そうだった~~!家買っても直す金がねぇんじゃ意味ねぇよ!」
「どうするの?元の世界の様に依頼を受けてその報酬でなんとかする?」
修繕の資金集めの方法を尋ねるリンドブルム。そこへジルニトラが困り顔で話しに加わわり首を振る。
「そりゃ無理よ。向こうの世界じゃ名を知られているけど、こっちの世界じゃあたし達は新米の傭兵同然なのよ?直ぐに仕事なんて来やしないわよ、それなりに名前を上げないと」
「でもこの前のクレイジーファングの件で私達の名前はこの町に広がったんじゃないの?」
「盗賊を一度倒した程度じゃまだ無理よ。信頼を得るのは時間が掛かりそうね」
手を広げてやれやれのポーズを取って首を振るジルニトラ。ファフニールも困り顔を見せてどうすればいいか考え込む。
「ならよぉ、俺達の持っている物資を売って金にするのはどうだ?」
ジャバウォックが自分達の持ち物を売って金を手に入れるという提案を上げる。だがそんなジャバウォックの提案を聞いたニーズヘッグは首を横に振った。
「無理だな。こっちの世界では俺達の世界の物はどう使えばいいのかすら分からないんだ、それに見た事も聞いた事もない物をいきなり買おうとする物好きはそうはいないさ」
「使い方を説明してやればいいじゃねぇか?」
「説明したとしても、いくらで売るつもりだ?この世界の金額とかは俺達には分からないんだぞ?せめて、この世界にもある物を選ばないと客も興味を持たないさ」
ニーズヘッグの話す理由を聞いたジャバウォックは腰に手を当てて面倒そうな顔を見せる。
確かにヴリトラ達の世界で作られた物はファムステミリアには存在しない為、上手くすれば高く売れるかもしれない。だが、得体の知れない物を見せられ、説明されただけじゃ誰も買おうとしない。しかもこの世界ではどれくらいの値段で売ればいいのかも分からない、自分達の世界では安い値段の物がファムステミリアでは高い値段になってしまう事も考えられる。そうなるとヴリトラ達の世界とこちらの世界の両方にある物を見つけ、値段を計算して売るのが一番確実と言える。
「・・・・・・あっ!」
頭を抱えて悩んでいたヴリトラが顔を上げて何かに気付いた。ヴリトラの声に反応し、リンドブルム達も一斉にヴリトラの方を向く。
「どうした?」
「・・・あったよ、俺達の世界とこっちの世界の両方にあって金になる物が!」
「何?」
笑いながらリンドブルム達の方を向き、持ち物の中に上手く売れる物があると言うヴリトラを見てニーズヘッグは訊き返した。だが、考えてもそれが一体何なのかリンドブルム達は全く分からない。
「俺達がこっちの世界に来る前に向こうの世界の依頼で得た報酬だよ」
「向こうの世界の報酬?・・・・・・ああぁ!」
しばらく考えていたファフニールがその答えに気付いて笑いながら顔を上げた。周りのリンドブルムも答えに気付いて顔を上げる。七竜将は顔を見合い、次にどう動くかを計画して一斉に頷き、行動に移った。
――――――
町に戻って来た七竜将は二手に分かれて行動していた。ヴリトラ、リンドブルム、ジャバウォックの三人はとある場所に向かっている。町の中を歩いて行くと、大きな建物の前にやって来た。石の壁に、幾つもの窓が付いている三階建ての立派な建物だった。入口の両開きドアの前上には大きな看板が掛けられており、そこにはファムステミリアの文字で何か書いてあるが、ヴリトラ達には読めなかった。
「ここなのか?」
「ああ、前にラピュスに町を案内された時に教えてもらったんだ。間違いない」
「じゃあ、入ろっか?」
三人は両開きドアを開いて建物の中に入った。中に入ると広いフロアは三人を迎え、机がフロアの真ん中に幾つも並べられており、町の住民が机で何を書いている姿があった。そしてその紙を持った別の住民が受付へ行き受付にいる女性と何やら話しをしている。更に奥では住民が二人の騎士と話しをしている姿もあった。
フロアを見回して建物の中がどんな風になっているのか興味を持つヴリトラ達。三人は一番近くの受付で眼鏡をかけた水色の三つ編みの髪をした女性に近づく。女性は近づいてくるヴリトラ達を見ると一礼をして挨拶をする。
「こんにちは、『王国騎士団依頼所』へようこそ」
「あのぉ、ここにラピュスはいますか?」
「ラピュス?彼女に何かご用ですか?」
「彼女の話しがあるんだ。いたら呼んでもらえますか?」
「お待ちください」
女性は立ち上がって受付の奥へと歩いて行く。しばらくすると、フロアの奥にあるドアが開き、ラピュスが入って来てヴリトラ達の方へ歩いて行く。同時に受付嬢も戻って来た。ラピュスに気付いたヴリトラは彼女の方を向いて手を振る。
「よぉ、ラピュス」
「ヴリトラ、今日はどうしたんだ?」
「ちょっと相談したい事があってな」
「・・・はぁ、私も忙しいんだ、手短に頼むぞ?」
「分かってるって」
ヴリトラは笑いながら両手を顔の前に持ってきて軽く縦に振る。話しをしているヴリトラとラピュスを見て受付嬢が不思議そうな顔をしている。
「ねぇ、ラピュス。この人達誰なの?あまり見かけないけど」
「ああ、紹介する。この三人は傭兵隊七竜将の隊員で、コイツは隊長のヴリトラだ。その後ろにいるのがリンドブルムとジャバウォックだ」
「七竜将・・・あぁ!貴方達がクレイジーファングを壊滅させ、クリスティア隊長をやっつけたって言う?」
「まぁな、よろしく」
ラピュスがヴリトラ達を紹介し、三人も受付嬢に軽く挨拶をした。どうやら七竜将はティムタームの町ではちょっとして有名人のようだ。
「三人にも紹介しておこう。彼女はこの依頼所の受付をしているメディム・ノーリアントだ。騎士団の訓練学校で私の同期だったのだ」
「同期って事は、この人も騎士なの?」
「いいえ。私は騎士ではなくこっちの事務関係の勉強をしてたから、同期と言っても立場は全然違うの」
自分がラピュスと違い事務関係の人間である事をメディムは眼鏡を直して笑いながら話す。そんなメディムを見て微笑むラピュス。二人を見てヴリトラ達は彼女達の友情を理解したのだった。
「それで、今日は何の様なんだ?わざわざ依頼所まで来るなんて」
「ああ。此処じゃなんだからバロンさんの酒場に行かないか?」
周りにいる人達の事を考えて場所を変えること提案するヴリトラ。ラピュスも構わないのか場所を変える為に依頼所を出てマリアーナへと向かった。
マリアーナにやって来たヴリトラ達が店の中に入ると、そこにはニーズヘッグ達他の七竜将、バロンとキャサリンの姿があった。どうやらヴリトラ達を待っていたようだ。
「来たか。わざわざ悪かったなラピュス」
「別にいい。それで、そろそろ用件を聞かせてくれないか?」
「何だ、ヴリトラ達から聞いていないのか?」
酒場に入って来たヴリトラ達を見て、話しを聞かされていないラピュスにニーズヘッグは意外そうな顔を見せる。ラピュスは隣で苦笑いをしているヴリトラをチラッと見た。
「コイツが周りに大勢の人がいると話し難いと言って全然話さないんだ」
「・・・まぁ、確かに周りの人がいると詳しく話せない内容だからね。今回は」
ヴリトラの顔を見ながら納得する様子を見えるジルニトラ。ニーズヘッグ達が集まっているテーブルの前までやって来て揃うべき者が全員揃い、ヴリトラが話しを始めようとする。
「あのぅ、儂等が呼ばれた理由をまだ聞いていないのですだ・・・」
「理由はこれから話しますよ」
バロンとキャサリンは自分が呼ばれた理由を聞かされておらず、少し困ったような顔で尋ねるとヴリトラは理由を話すよう伝えて本題に入った。
「俺達七竜将が新しい拠点を探しているって事は前にも話したよな?」
「ああ。そこで情報集めや仕事を始めると言っていた」
自分の方を向いて話すヴリトラに頷くラピュス。ラピュスが話しを聞いていた事を確認したヴリトラは頭を掻きながら話しを続けた。
「拠点になりそうな物件は一応見つけたんだけどよぉ、その家があまりにもボロボロでかなり修繕する必要がありそうなんだ。でも俺達の手持ちの金じゃ家を買うのが精一杯なんだよ」
「それでしたら、儂等がいくらか負担しましょう。それなら少しくらい・・・」
「そうはいきませんよ。バロンさん達には今まで食事や寝床の事で随分お世話になったんですから、これ以上迷惑はかけられません」
バロンが資金援助をしてくれると言う話をバロンの方を見て断るジルニトラ。わずか数日の間と言えど、七人の人間に掛かる食費などは安くはない。バロン達の生活も苦しくなってきていると感じた七竜将はこれ以上バロンの世話になる訳にはいかなかった。
援助の話しを断り、ジルニトラがラピュスの方を向いて話しを戻す。
「だからあたし達は自分達の持っている物資を売ったりなんかしてお金を稼ごうとしたんだけど、この世界のお金の基準が分からないから商売も出来なくて困ってるのよぉ」
「もしかして、私やバロン殿達を呼んだのはその基準を教えてもらいたいからなのか?」
ラピュスは少し低い声を出して尋ねる。騎士として忙しい自分が商売の事で呼び出されたのかと思い少し不機嫌になったのだろう。
気分の悪そうなラピュスを見ていたジャバウォックとリンドブルムがラピュスに更に細かく話しをした。
「確かに基準が知りたいっていうのもあるが、他にお前を呼んだ理由がある」
「ラピュス、前にクレイジーファングが廃鉱になった金鉱ををアジトにしていたって言ってたよね?」
「ん?ああ、確かに言ったぞ?」
リンドブルムの話しを聞き、クレイジーファングがファンダリームの岩山にある廃鉱をアジトにしていたという話をしたのを思い出すラピュス。その時、その廃鉱が以前は金鉱だったという話をした事も思い出した。
金鉱だったことを確認したリンドブルムは頷きながら笑ってヴリトラ達の方を見る。ヴリトラ達も笑って頷いていた。そんな七竜将を見て不思議そうな顔をするラピュス、バロン、キャサリンの三人。ラピュスは話の内容が分からず、今度は難しい顔を見せた。
「その金鉱がどうかしたのか?・・・・・・まさか、その金鉱へ行って金が残ってないか探しに行くから許可を出してくれとか言うんじゃ!?」
「違う違う違う!そんなセコイ事をする筈ねぇだろう?」
「どうだか・・・」
顔を振って否定するヴリトラにラピュスは疑うような視線を向ける。いい加減な性格のヴリトラをそういう視線で見るのは仕方がない、そう思いながらオロチ以外の七竜将は苦笑いをしながら二人を見ていた。
ヴリトラ自身もそれは自覚しているのか否定せずに苦笑いをしながら話しを戻した。
「俺達はこの世界でも金は値打ちのある物か知りたいだけだよ」
「金が?」
金の値打ちの事を知りたがっているといいですヴリトラの顔を見るラピュス。ラピュスは腕を組みながら真面目な顔で頷いた。
「当然、金は非常に値打ちのある物だ。二十年くらい前までは金は沢山鉱山で取れたのだが、今では殆ど採り尽くして希少価値も高く、値打ちは二十年前とは比べものにならないくらいだからな。いや、それ以前に最近では金を目にする事も殆どない」
「そんなに変わったのか・・・」
「・・・今はどれ位の値打ちがあるのだ?」
意外そうな顔を見せるヴリトラと今の金の価値を尋ねるオロチ。ラピュスは右手の小指の先に右手の親指つけ、指先ほどの大きさをイメージさせる。
「小指の先ほどの大きさの金でも半年は楽に暮らせるほどの価値がある」
「はぁ~~っ!?小指の先ほどの大きさで半年の生活費ぃ!?」
予想外の値打ちにテーブルを叩きながら立ち上がり、目を丸くして驚くヴリトラ。他の七竜将達も同じように目を丸くして驚いた。いつも冷静でクールなオロチも少し驚いてた。声を上げたヴリトラにラピュスやバロン、キャサリンも驚いていた。
「ヴ、ヴリトラさん、大丈夫ですか?」
「え?は、はい・・・」
思わず興奮してしまった自分を見て驚きながら心配するキャサリンを見て落ち着きを取り戻すヴリトラ。そんなヴリトラを見ているラピュス。そこへニーズヘッグがテーブルの上にアタッシュケースを置いた。それは元の世界でコロンビア警察から報酬として渡された金塊の入ったアタッシュケースだった。アタッシュケースから金塊を一つ取り出したニーズヘッグはラピュスに声を掛けた。
「ラピュス、この大きさならどれ位の値打ちになる?」
呼ばれた事に気付いてニーズヘッグの方を向くラピュス。そんなラピュスにニーズヘッグは手の中に金塊を投げて渡した。突然投げられた物に驚きながらキャッチしたラピュスは手の中にある重い物を見て目を見張った。手の平サイズで見た事の無い文字の彫られた金色に輝く物質に思わず見惚れてしまっていた。離れた所で見ていたバロンとキャサリンも同じ様子だった。
「お・・・おい・・・これは、金なのか?」
「ああ、本物だ」
「その大きさで1kgあるはずだよ」
驚きのあまり言葉が途切れ途切れになっているラピュスに金塊の重さを伝えるリンドブルム。最近では目にした事も殆どないと言っていたラピュスはその重さを知らされた更に驚く。小指の先ほどの大きさの金すら見る事の出来ない彼女等にとっては驚く事しか出来なかったのだ。
ラピュスは驚きながらも金塊の見た目と重さを計算して値打ちを調べる。しばらく考えてラピュスはゆっくりと答えを口にした。
「こ、これ程の金なら・・・五年、いや十年は贅沢して暮らせるぞ・・・?」
「マ、マジかよ?・・・正直そんなにするとは思わなかったぜ」
驚きながら値打ちを話すラピュスを見てヴリトラも驚いた。その様子を見ていたファフニールはテーブルの上のアタッシュケースをラピュスの前に持ってきてラピュスを見上げた。
「じゃあ、コレ全部ならどれ位?」
そう言ってファフニールはアタッシュケースの蓋を開けて中身を見せる。
「・・・うわああぁっ!!」
ラピュスはアタッシュケース一杯に敷き詰められている金塊を目にし、驚きのあまり尻餅をついた。黄金色に輝く光が店の中を照らして、店の壁が輝いていたのだ。勿論バロンとキャサリンも驚いて固まっている。
周りで驚いている三人に七竜将はまばたきをしながら見回している。尻餅をついていたラピュスは立ち上がり目の前の金塊を目にして震えた。
「・・こ、これは全部・・・本当に本物なのか・・・?」
「だから本当だって!」
「・・・・・・こ、これ程の金があれば、一等地に城が三つは建ち、なおかつ遊んで暮らせるぞ・・・」
「・・・・・・あら、そう」
この世界での金の価値を驚き、ジルニトラは目をピクピクさせながら苦笑いを見せる。ジャバウォックやニーズヘッグ、ファフニールも同じように苦笑いをしていた。
そんな中、リンドブルムはアタッシュケースから金塊を三つ取り出してバロン達の方へ向かって行き、バロンにその三つの金塊を手渡した。
「あ、あのぉ、これは・・・?」
「今までの食費と宿泊代、あと、お世話になったささやかなお礼です」
「ええぇっ!?」
一つで十年贅沢に暮らせるという金塊を三つも自分達に譲るリンドブルムの顔を見てバロンは声を上げて驚く。キャサリンも隣で目を丸くしており、言葉が見つからずに黙っていた。バロンが周りにいる七竜将を見回し、最後にオロチの方を向くと、オロチはバロンを見て静かな声で言った。
「私達も最初から貴方達に渡すつもりだったのだ、遠慮なく受け取ってくれ。たった三つで少ないと思うが・・・」
オロチの言葉を聞いてバロンは震えたままだった。そして隣になっていたキャサリンはフラ~っと仰向けに倒れてしまう。それを見ていたジルニトラとニーズヘッグは咄嗟にキャサリンの方へ駆け寄り、倒れるキャサリンをギリギリで支える。バロンも気を失いそうな状態であったが、なんとか意識を保っていた。
「あちゃ~~。ちょっとショックが大きかったかなぁ?」
「悪いことしちまったな?」
バロンとキャサリンの様子を見て申し訳なさそうな顔を見せるヴリトラのジャバウォック。
それから七竜将はラピュスから金塊を資金に変える鑑定屋の様な所へ案内されて金塊を貨幣に変えた。金塊を見た鑑定屋の人もやはり金塊を目の前に驚いて動揺していた。それからいろいろあったが、なんとか資金を手に入れた七竜将は例の物件を一括払いで購入し、更に修繕も行い、ファムステミリアでの新しい拠点を手に入れたのだった。