第百四十六話 逃亡劇の終わり 戻って来た竜達の安らぎ
苦戦を強いられながらもラピュスはメリュジーヌに一人で挑み勝利する。その戦果はヴリトラやエントランスにいる警備兵達を驚かせ、レヴァート王国に新たな強者の誕生を伝える事になった。
エントランスの中央ではラピュスが息を切らせながら目の前で仰向けになっているメリュジーヌを見下ろしている姿があった。メリュジーヌの腹部にはラピュスの気の力で放たれた炎の槍によってつけられた焦げ跡がくっきりと残っており、煙と焦げた臭いをエントランスに広げている。
「ハァハァハァ、勝負あったな?騎士が気の力を使えるという事を計算に入れてなかった事もお前の敗因だ」
「・・・カハッ!ほ、炎の槍なんて・・・卑怯でしょう・・・?」
「私からしてみれば、麻酔で相手の動きを鈍らせて一方的に相手を攻撃するお前の方が卑怯に見えるがな」
仰向けになりながらラピュスを見て笑っているメリュジーヌにラピュスは鋭い視線で見つめる。咳をする度に吐血をするメリュジーヌは自分がどんな状態なのか知っているのか既に覚悟を決めており笑顔のまま天井を見上げた。
「まさか・・・この世界に機械鎧兵士を倒す人間がいるなんてねぇ・・・」
「・・・お前なら分かっていると思うが、その傷は致命傷だ。体内を炎で焼かれてしまっては機械鎧兵士でも助からないだろう」
「ハ、ハハハ・・・こんな目に遭わせた張本人がよく言うわね?」
「私は騎士ではあるが聖者ではない。言いたい事はハッキリと言う」
笑いながらラピュスを見るメリュジーヌ。既に虫の息でいつ息を引き取ってもおかしくない状態だった。そんなメリュジーヌをラピュスは警戒し続けている。機械鎧兵士が自分の常識を超える存在だと知っている故に最後まで気を抜けないでいたのだ。
「・・・確かに、私はもう長くないわ。そして、貴方が機械鎧兵士を倒す程の実力を持っている存在だという事も分かった。だけどね、これで貴方が逃げ道を失ってしまったのよ」
「何?」
「私達ブラッド・レクイエムはこれまで七竜将だけを警戒していた。私達の正体を知っている貴方や連れのお嬢ちゃん達の事は脅威ではないとずっと無視して来たの。だけど、私を倒した事で貴方はブラッド・レクイエムから注目される事になるわ。つまり、貴方も七竜将の様に狙われる事になるのよ・・・もう今までの様な生活には戻れない、何時命を狙われてもおかしくない世界で貴方は生きなければならないわ」
「・・・・・・」
自分もブラッド・レクイエム社から命を狙われる事になる、メリュジーヌの話をラピュスは黙って聞いている。そこへ離れた所にいたヴリトラもやって来てラピュスの隣で倒れているメリュジーヌを見下ろす。
「・・・ヴリトラ、貴方にも責任がある。これから先、彼女が私達に狙われ続ける事になったら貴方が・・・いいえ、七竜将が守らなければならない。貴方にその覚悟と自信があるのかしら・・・?」
ヴリトラの方を向いて微笑みながら訊ねるメリュジーヌ。ヴリトラはまるで自分を嘲笑うかの様に言い放つメリュジーヌを見ながら森羅を鞘に戻した。
「・・・俺達はこれまで数え切れない程の戦いの世界へ足を踏み入れて来た。強敵と出会い、追い詰められた時だってあったさ。でも、そんな世界で俺達は常に助け合って来たんだ。だから今俺達は此処にいる。俺達と同じ世界に足を踏み入れた仲間を俺達は必ず守って見せる」
「仲間・・・フフフ、一度貴方達を裏切ったその子をまだ仲間だと思ってるの?」
「当然だ」
メリュジーヌの質問にヴリトラは即答する。ラピュスはそんな迷いの無いヴリトラの言葉を聞き、思わず彼の顔を見つめた。そんなヴリトラの顔を見てメリュジーヌは一瞬驚きの顔を見せていたが、すぐに笑い出し再び天井を見上げる。
「フ、フハ、フハハハハ!こんな甘ったれな坊やが七竜将の隊長だなんて、他のメンバーはこれからやって行けるのかしらねぇ?フフフフ・・・」
「うるせぇなぁ。と言うか、致命傷を負っているのに随分余裕そうじゃねぇか?」
「あら、これでも結構しんどいのよ・・・?」
「ハッ、そうですか・・・」
メリュジーヌの態度が気に入らないのか、ヴリトラは気分の悪そうな反応を見せる。ラピュスも黙ったままジッとメリュジーヌを睨みつけていた。
二人の反応を見た後、メリュジーヌはゆっくりと目を閉じて溜め息をつく。
「それよりも、ファンストを追わなくていいの?私の相手をしている暇があったら、さっさと追いかけたら?」
その言葉を聞いたヴリトラとラピュスはファンストの事を思い出してハッとする。二人は急いで二階へ続く階段の方へ走りファンストの後を追う。エントランスには動けなくなったメリュジーヌとエントランスの隅で固まっている数人の警備兵だけが残った。
「・・・さてさて、ジークフリートが認めた男がこれから先どれだけ強くなるのかしら・・・・・・女王、申し訳ありません。私はここまでの様です・・・」
目を閉じたまま呟くメリュジーヌ。その直後に彼女の両腕の機械鎧が低いブザー音を間隔を空けながら鳴らしだした。そして、ヴリトラとラピュスが階段を上がり切ったのとほぼ同時に機械鎧が光りだし大爆発を起こす。
背後から聞こえて来た爆音に反応してヴリトラとラピュスは足を止めて振り返る。エントランスの中央では炎と煙が上がり、警備兵達は突然の爆発で動揺してざわめいていた。
「爆発!?」
「・・・多分、メリュジーヌの機械鎧が爆発したんだろう」
「どうして爆発が?」
「ニーズヘッグが言っていたけど、幹部クラスの機械鎧兵士の情報を敵に与えない為、つまり証拠隠滅の為に強力な自爆装置が取り付けてあるんじゃないかって話だ」
「そう言えば、以前にラランからそんな話を聞いてことがあるような気がするな・・・」
「チッ、これでまたブラッド・レクイエムの手掛かりを手に入れる事ができなくなったって事か・・・」
メリュジーヌから色々な情報を得ようとしていたが、それができずに悔しそうな顔を見せるヴリトラ。そんなヴリトラを見てラピュスは静かに持っていた騎士剣と短剣を鞘に納めた。
「・・ヴリトラ、今はファンストを捕まえる事だけを考えよう。それ以外の事は後だ」
「そうだな、お前の言うとおりだ。行こう!」
目的を再確認して二階の奥へ向かおうとするヴリトラとラピュス。するとラピュスが突然フラつき壁にもたれてしまう。それに気づいたヴリトラはラピュスに近寄り方にそっと手を置いた。
「ラピュス、大丈夫か?」
「あ、ああ、少しめまいがしただけだ・・・」
「きっとまだ麻酔が効いてるんだろう。しかも今のお前は傷だらけだ、まともく歩く事なんてできねぇよ・・・俺が行って来るからお前は此処で休んでろ」
「わ、私も行く」
「お前はただでさえメリュジーヌとの戦いで体力を消耗しているんだ。これ以上無茶したら後が大変だぞ?」
「その時はその時だ!それに、私はブラッド・レクイエムの力を借りてお前達を殺そうとしたあの男を許せない。レヴァート王国の騎士として、アイツを捕らえて母様達を助ける!」
真剣な表情でヴリトラに自分の意思を伝えるラピュス。彼女の中にはもうファンストを元老院の人間と思う気持ちなど無かった。あるのは国を騙して自分の欲の為に動いた男への怒りだけだ。それを知ったヴリトラはしばらくラピュスの顔を見つめ、ゆっくりとラピュスに背中を向けて姿勢を低くした。
「乗りな」
「え?」
「おぶってやるから乗れって言ってんの」
「お、おぶるって・・・背負うって事か?」
「そうだよ。お前は体力に限界が来てるんだ、せめて体力がある程度回復するまでは俺が運んでやるよ」
少し照れる様な態度で前を向きながら背中を向けるヴリトラを見てラピュスは最初は驚いていたが、すぐに微笑みを見せて素直にヴリトラの背中の寄り掛かる。背中からラピュスが寄り掛かったのを確認したヴリトラはゆっくりと立ち上がって一度ラピュスを背負い直すと後ろを見てラピュスの顔を確認した。
「それじゃあ、少し急ぐからしっかり掴まってろ?」
「あ、ああ」
ラピュスはヴリトラに言われたとおり腕に力を入れてしっかりと掴まる。だがそれによりラピュスの腕がヴリトラの首を絞めつけられた。
「ぐぇ!おい、あまり力入れるなよ?」
「あっ、すまない・・・」
「にしても、お前意外と力があるんだな?」
「う、うるさい!」
力が強いと指摘されて女心が傷ついたのかラピュスは頬を赤くする。そんなラピュスの反応を見たヴリトラはニッと笑い、ラピュスを背負ったまま走り出した。鎧や騎士剣などを装備しているラピュスを軽々と背負って走るヴリトラにラピュスは小さな頼もしさと嬉しさを感じていた。
その頃、二階の奥ではファンストを追いかけて行ったジャバウォックと第三遊撃隊の騎士達がドアの前に集まっている姿があった。その周りにはファンストの警護をしていた白銀剣士隊の騎士が二人、そしてジャバウォック達を追いかけて行った警備兵達が気を失っている。どうやらジャバウォック達の倒されたようだ。
「おい、ここを開けろ!さもないと扉を蹴破るぞ!」
ジャバウォックはドアを強く叩きながら中にいる者に声を掛ける。その周りでは騎士達がドアを見ながら騎士剣やMP7などの銃器を構えている姿があった。
「ジャバウォック、もうドアを破って突入した方がいいぞ?」
「そうよ、警備兵の相手をしたせいで時間が掛かっちゃったから急がないと!」
「・・・確かにそうだな。よし、俺がドアを蹴破る。お前等は下がってな!」
ジャバウォックはドアを蹴破る為に後ろに下がってドアから距離を取る。それと同時に四人の騎士達も巻き込まれない様にゆっくりとドアから離れた。
「お~い!ジャバウォック~!」
「ん?」
聞こえてくるヴリトラの声にジャバウォックはふと声のした方を向く。騎士達も一斉に声のした方を向いて自分達の下へ走って来るヴリトラの姿を確認した。だがそれ以前にジャバウォック達はヴリトラが背負っているラピュスの姿に注目している。
「ヴ、ヴリトラ、無事だったのか?」
「ああ、何とかな」
「そ、そうか・・・ところで、そりゃ一体何だ?」
「え?・・・ラピュスをおぶってるんだけど?」
「見りゃ分かるよ。どうしておぶってるのか聞いてるんだ」
「ああぁ、実はな・・・」
ヴリトラはメリュジーヌとの戦いの事をジャバウォックに説明し始める。その間、ラピュスを背負ったままで騎士達はヴリトラが背負っているラピュスを目を丸くしながら見続けていた。当のラピュスは部下達に自分がおんぶされている姿を見られて顔を赤くしながら恥ずかしがっている。
それからジャバウォック達はラピュスが一人でメリュジーヌを倒したという事を聞かされて驚きの表情を見せる。姫騎士一人で幹部クラスの機械鎧兵士を倒すなど普通ではあり得ない事だからだ。
「・・・じゃあ、さっきの爆発音はメリュジーヌが自爆した時の音だったのか」
「まぁな」
「しかし、まさか本当に一人で幹部クラスを倒しちまうとは・・・」
「凄いです隊長!」
「あ、ああ・・・」
驚くジャバウォックと笑顔で感心する女性騎士にラピュスは照れ隠しをしながら返事をする。そんなラピュスを見ながらヴリトラも自然と笑みを浮かべていた。
「そ、それよりもヴリトラ、そろそろ降ろしてくれないか?私はもう大丈夫だ」
「何言ってるんだ、奴等の麻酔が簡単に抜けるはずねぇだろう?もう少し休んでろ」
「うぅ~・・・」
周りから注目されて正直早く降りたいと顔を赤くしながら願っているラピュスだったが、ヴリトラの自分を気遣う気持ちを拒否できずに顔を隠すのだった。そんな様子を見て騎士達はラピュスが可愛く見えたのかニヤニヤと笑っている。
「ところで、ファンストは何処にいるんだ?」
「ああ、今までずっと二階で鬼ごっこしててな。この部屋に逃げ込んでようやく追い詰めたんだが、鍵を掛けやがったんだ」
「それならさっさと蹴破っちまえよ」
「分かってる。俺がやるから下がってろ」
ジャバウォックが改めてドアを蹴破ろうと後ろに一歩下がる。ヴリトラ達もドアから離れてジャバウォックがドアを蹴破るの黙って見守る。そしてジャバウォックは勢いをつけてドアを蹴り、その力に負けたドアは部屋の奥へと吹き飛んで行く。ヴリトラ達は入口が開くのと同時に中へ突入し部屋を警戒する。部屋は畳十三畳程の広さの部屋で右側に窓、左側の隅には沢山の本棚があり、奥には大きな机が置かれてある。どうやら書斎の様だ。
「此処は書斎か?」
「らしいな。ファンストは何処だ?」
ヴリトラとジャバウォックが部屋の中を探すがファンストの姿は見当たらない。すると男性騎士が奥にある机の更に奥にあるドアを見つけて指差した。
「あれを見てくれ!もしかしたらあそこに・・・」
「いるんだろうな。よし、一気に追い詰めて・・・」
ジャバウォックがファンストが隠れていると思われる部屋のドアへ向かおうとすると、突然ヴリトラとジャバウォックの小型通信機がコール音を鳴らす。二人は小型通信機のスイッチを入れて応答した。
「こちらニーズヘッグ、皆聞こえるか?」
「ニーズヘッグ、どうした?」
「ヴリトラ、元老院が軟禁していた人質を発見した。全員騎士団の武器保管庫に閉じ込められていたんだ」
「そうか、よくやった!こっちも今ファンストを追い詰めているところだ」
「・・・ただ、一つ気になる事があるんだ」
「気になる事?」
低い声を出すニーズヘッグにヴリトラは訊き返す。ジャバウォックも部屋を警戒しながら通信を黙って聞いている。
「・・・人質の中にラピュスのお袋さんの姿だけが見当たらなかったんだ」
「何?ラピュスのお母さんがいない?」
「え!?」
ヴリトラの言葉を聞き、彼におぶさっていたラピュスも驚き思わず声を出す。すると、奥のドアが勢いよく開きヴリトラ達は一斉にドアの方を向く。そこにはラピュスの母、リターナとファンストの姿があった。そしてファンストの手には鋭いナイフが握られている。
「ラピュス・・・」
「母様!」
「動くな!動けばこの女の命は無いぞ!」
ファンストはリターナの喉元にナイフを突き付けて人質に取る。ヴリトラ達は動く事ができずにファンストを睨みつけた。
「ラピュスのお母さんがいないと思ったら、お前の手元にいたとはな。人質とは卑怯な事をしやがる!」
「黙れ!この女を助けたかったら儂の言うとおりにしろ!まずは武器を捨てるんだ!」
「諦めろ!メリュジーヌは死んでこの屋敷の警備兵達は全員動けなくなった。今更どう足掻いてもお前に逃げ場は無い!人質を放して投降しろ!」
「フン!貴様等こそ、自分達の立場が分かっているのか?儂の気分一つでこの女が生きるか死ぬかが決まるのだぞ!」
ヴリトラの説得も聞かずにファンストは叫ぶ様に声を上げながらリターナの喉元に切っ先を向けてヴリトラ達を脅す。リターナはナイフを突き付けられているせいか顔色が悪く、微量の汗を流していた。
「母様・・・」
「さぁ、早くしろ!儂の命令が聞けんのか!?」
「うるせぇ!テメェこそ何時までも偉そうな態度を取ってるんじゃねぇよ!」
「何じゃと!」
大きな態度を取り続けるファンストにジャバウォックは我慢の限界が来てファンストを睨みながら口を開く。
「テメェ、今自分が何をやってるのか分かってるのか?国を導く元老院の立場でありながら目的の為にブラッド・レクイエムと手を組み、俺達を殺そうとした挙句、自分の守るべき国民を人質にしているんだぞ!」
「それがどうした!?儂は国の為に貴様等を排除する事を選んだのだ!貴様等の様などこの馬の骨とも分からぬ輩を国に置いておくなど冗談ではない!儂は何時だって国の事を考えておるのだ、感謝される事はあっても恨まれる事など有り得ん!」
「ふざけんじゃねぇ!テメェのやっている事は国の為などと言っているが、結局自分の望みを叶える為にやった事、つまり自分の為じゃねぇか!自分の事しか考えない様な老いぼれがデカい口を叩くな!」
「ぐぅ~~っ!」
「元老院だからって何をやっても許されると思ったら大間違いだ!」
ジャバウォックが最後に一言言い放つと、窓の外から何者かが窓を割って飛び込んで書斎に飛び込んでくる。それは何とライトソドムを握っているリンドブルムだった。突然のリンドブルムの出現に驚くファンスト。リンドブルムはファンストに銃口を向けて引き金を引きファンストの左肩を撃ち抜いた。
「ぐわあああぁ!」
激痛に声を上げるファンストは思わずナイフとリターナを掴んでいる手を離し、それと同時に解放されたリターナが走り出す。騎士達はリターナを保護し、彼女を守る様に四方から囲んだ。
「母様!」
「ラピュス!」
母親の無事を確認したラピュスは安心したのはホッと息を吐いた。ヴリトラもリターナの無事を確認するとゆっくりとリンドブルムの方を向いて声を掛ける。
「よぉ、リンドブルム!ナイスタイミングだな?」
「へへへ、たった今屋敷に着いたところでね。二階からこのお爺さんの怒鳴り声が聞こえて何かあると思って外から回り込んだんだ」
「成る程。ところで、お前が此処にいるって事は、あっちの方は大丈夫なんだな?」
「勿論」
リンドブルムの笑顔を確認したヴリトラは「よしっ!」と言いたそうな顔を見せる。そしてファンストの方を向く笑顔から鋭い顔へと変わり、左肩を押さえてうずくまるファンストを睨む。
「終わったな、ファンスト?」
「フ、フン!何が終ったものか!この国ではまだ国民や騎士団はお前達を反逆者だと思い込んどる。元老院と反逆者と言われているお前達、どちらの言葉を国民が信じると思っておるのだ?」
「お前がブラッド・レクイエムと手を組み、反逆のウソをでっち上げた事を伝えれば皆俺達の言う事を信じると思うけど?それに警備兵達と言う証人もいるしな」
「バカめ!何処にも儂がブラッド・レクイエムと手を組んだ証拠などないわ!警備兵達も儂の部下達だ、儂の味方をするに決まっておるだろう!」
ファンストが勝ち誇りながらゆっくりと立ち上がる。だが、ヴリトラ、リンドブルム、ジャバウォックは「おめでたいな」と言いたそうに鼻で笑っていた。
「それは有り得ませんよ」
「「「「「!」」」」」
突如聞こえて来た声に七竜将以外の者達は驚き、声の聞こえた部屋の入口の方を向く。廊下から部屋に入ってきたのは何とパティーラムだった。その後にラランとオロチ、ガバディアと二人の黄金近衛隊の騎士が入室して来る。
「ひ、姫様!?」
パティーラムと登場に驚くラピュスとリターナ達。勿論ファンストも驚いている。パティーラムはゆっくりとヴリトラの前まで来てファンストをジッと見つめた。
「パ、パティーラム様・・・」
「ファンスト公、貴方の計画は全て聞かせて頂きました。貴方がブラッド・レクイエムの力を借り、元老院の立場を利用して七竜将の皆様を罠に掛けた事やラピュスさん達のご家族を人質に取り七竜将の討伐を命じた事も全て」
「そ、そんなバカな・・・どうやって・・・」
驚きを隠せないファンストを見ながらパティーラムは右耳から何かを取り出す。それは何とヴリトラ達が付けている小型通信機と同じ物だった。小型通信機は全て繋がっている為、ヴリトラ達とファンストの会話は全て小型通信機を通してパティーラムの耳に入っていたのだ。これはファンストが言い逃れのできない決定的な証拠になる。現に笑いながらファンストを見ているヴリトラとジャバウォックの小型通信機はスイッチが入ったままだった。
「この小型通信機という機械から貴方とヴリトラさんの会話を全て聞いておりました。私も証人の一人という事です」
「あ、ああ・・・」
「・・・エドワード・ガ・ファンスト。元老院最高議長の立場を利用し、何の罪もない七竜将に反逆の罪を被せ、第三遊撃隊の騎士達に七竜将討伐を強要させた事、断じて許す訳にはいきません!レヴァート王国第三王女の権限を持ち、直ちに貴方を拘束します!」
真面目な顔を見せるパティーラムがファンストを見つめながらゆっくりと片手を上げた。すると待機していた近衛騎士二人がファンストに近づいて両腕を掴み連行する。
ファンストが書斎から出て行くと、パティーラムはヴリトラの方を向いて微笑みを見せた。
「お久しぶりです、ヴリトラさん」
「パティーラム様、わざわざすみませんでした」
「いいえ、リンドブルムさん達が私の部屋にいらっしゃった時は驚きましたけど、ファンスト公が良からぬ事を企んでいると聞いた時は行かなければならないと思いましたから」
「え?リンドブルム達が・・・?」
未だにヴリトラにおぶってもらっているラピュスはふと顔を上げて聞き返した。
「ヴリトラ、もしかしてリンドブルム達を城に行かせた理由と言うのは・・・」
「そっ、パティーラム様、もしくはガバディア団長を連れて来てもらう為だったのさ。ファンストを確実に追い込むためにはファンストよりも権力を持ち、俺達の味方をしてくれる人が必要だったんだ。だからリンドブルム達に城へ行ってもらってファンストの計画を全て伝え、連れて来てもらったって訳だ」
「苦労したぞ?衛兵達に気付かれない様にわざわざバルコニーからパティーラム様の部屋へ向かったのだからな・・・」
黙っていたオロチが腕を組んでヴリトラの方を見ながら呟く。それを聞いたヴリトラとラピュスは両足の機械鎧のジェットブースターを使って空を飛んでいるオロチの姿を想像した。
「まったく、あの様な賊みたいな方法で城に入る奴があるか」
「・・・反乱の疑いが掛けられている以上、人前には出られません」
「それはそうだが・・・」
リンドブルム達の城への入り方が気に入らないガバディアが腰に両手を付けながら注意しようとすると、ラランがガバディアに人前に出れなかった理由を話し、ガバディアは納得する。
そんな会話を聞いていたヴリトラ達は苦笑いを見せながらララン達の方を向いていた。そしてヴリトラはパティーラムの方を向いて改めて礼を言う。
「パティーラム様、本当にありがとうございました」
「いいえ。でも、まだ全てが終わった訳ではありませんよ?元老院によって国中にバラ撒かれた貴方がたのウソの罪はまだ消えていません。ですから国中に真実を伝えるまでは町を出ずに目立った行動は控えてください。国王陛下には私から伝えておきます」
「・・・分かりました」
「とりあえず、後の事は私とガバディア団長で何とかします。皆さんはご自宅に戻られてお休みになってください」
「ええ、そうさせてもらいます」
そう言ってヴリトラ達は書斎を後にした。屋敷の中には大勢の近衛騎士達や警備兵達の騒ぎが聞こえ、ヴリトラ達は屋敷の中を歩いて行き外に出る。庭には人質を解放し終えたニーズヘッグ達の姿があり、その後ろには第三遊撃隊の家族の姿があった。騎士達は家族の無事を確認し再会を果たす。ラピュスもようやくヴリトラの背中から降ろされてリターナと抱きしめ合う。その光景を見た七竜将達は笑顔を浮かべる。すると一気に疲れが出たのか、七竜将は全員その場に座り込んだ。
「はぁ~、長かったねぇ?」
「ああ、今回は流石にな・・・」
「国中を敵に回すなんて、滅多にある事じゃないものねぇ~」
ファフニール、ニーズヘッグ、ジルニトラが座り込んで今回の一件の事を口にする。残りの四人も座りながら周りで騒いでいる騎士達の姿を眺めていた。
「これでようやく俺達の逃亡生活も終わり、普通の暮らしに戻れるって訳か・・・」
「でも、まだウソの情報が消えない限り、戻ったとは言えないよ?」
「ああ、しばらくは静かに暮らす事になるな・・・」
「・・・まっ、ゆっくり休もうぜ」
ジャバウォック、リンドブルム、オロチ、そしてヴリトラも疲れた表情を見せて話し合う。七竜将達は長かった旅を終わらせてようやく安らぎを取り戻し事ができたのだ。
元老院の企みを潰す事ができた七竜将。今回の一件で様々な事を経験した彼等はより心身ともに強くなった事であろう。それと同時にラピュス達との絆も一段と固くなったのだ。
第七章、完結しました。