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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第七章~裏切りと言う名の正義~
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第百四十五話  襲い掛かる眠気 ラピュス心身の戦い!

 ヴリトラに見守られながらメリュジーヌと戦闘を始めたラピュス。最初はラピュスが押していたが、メリュジーヌが機械鎧兵士の力は使い出して戦況は一転、ラピュスは徐々に追い込まれていってしまうのだった。

 エントランスでメリュジーヌの持つ二本の細剣の連撃をラピュスは騎士剣で必死に防ぐ。しかし、その一撃一撃が重くラピュスの表情には少しずつ疲労が見えて来ている。


「フフフフフ♪」


 両手に持つ細剣で斬撃や突きを連続で放つメリュジーヌ。ラピュスは騎士剣を両手でしっかりと握っているにもかかわらずメリュジーヌの攻撃をギリギリで防いでいる状態だった。機械鎧の腕によって繰り出される攻撃は強力でラピュスの腕には想像以上の重さと衝撃が加わりラピュスの表情は歪んでいった。


(クソッ、何て重い攻撃だ!これじゃあ攻撃を防いでいるだけで体力が削られていってしまう。なんとかこの連撃の隙を突いて反撃しなければ・・・!)


 攻撃を防ぎながらメリュジーヌへの反撃のチャンスを窺うラピュス。そんな疲労と攻撃の重さで歪んでいるラピュスの顔をメリュジーヌは笑顔で見ている。


「随分疲れているみたいね?無駄な抵抗は止めて降参しなさい?そうすれば楽に死なせてあげるわよ」

「抵抗してもしなくても死ぬと言うのなら、最後まで足掻いて死んだ方がマシだ!もっとも私は死ぬつもりはないがな!」


 ラピュスは声を上げてメリュジーヌに言い放ちながら攻撃を防ぎ続ける。だが、メリュジーヌの連撃は治まるどころか更に勢いを増して行き、ラピュスは全ての攻撃を防げなくなっていった。メリュジーヌの攻撃でラピュスの腕や足、体には無数の切傷や刺傷などが出来てそこから血がにじみ出てくる。ラピュスは体中から伝わる痛みに必死で耐えながらメリュジーヌに隙を探し、同時に攻撃パターンを見極めていった。

 

「ラピュス・・・」


 二人の戦いを遠くで見守っているヴリトラ。彼はラピュスの強い意志に心を打たれて一人でメリュジーヌと戦いたいと言う願いを聞き入れて戦いを見守り続けている。しかし、心の中では助けてやりたいと言う思いで一杯だった。森羅を握る手に力を入れてラピュスを見つめている。


(・・・ラピュス、俺はお前の仲間を国を思う気持ちに負けてお前を一人でメリュジーヌと戦わせる事にした。だけどな、俺は仲間や国は勿論、お前の事も守りたいと思っているんだ。だからお前が本当に危険な状態になったら迷わず止めに行くからな?)


 心の中でラピュスに語りかけるヴリトラ。だがラピュスはそんなヴリトラに思いに気付く事もできないくらい戦いに集中していた。

 メリュジーヌの連撃を防ぎ続けているラピュスは反撃しようとするも激しい攻撃で全く身動きが取れずにいる。そんな時、一瞬メリュジーヌの連撃が止まり、それに気づいたラピュスの表情がフッと変わった。


「よしっ!」


 声を出しながら姿勢を低くしたラピュスはメリュジーヌの足を素早く払う。足払いをされたメリュジーヌは態勢を崩して仰向けになり天井を見上げた。背中から床に倒れ込みメリュジーヌは驚きの表情を見せる。


「よっしゃあ!」


 ラピュスがメリュジーヌを倒したのを見てヴリトラは声を出す。そしてラピュスも仰向けになっているメリュジーヌに向かって騎士剣を勢いよく振り下ろした。ところがメリュジーヌはラピュスの方を見るとニッと笑い、左後前腕部をラピュスに向けて電磁シールドを展開する。騎士剣は電磁シールドによってメリュジーヌに傷を負わせる事もできずに止められてしまった。


「・・・チィ!」

「惜しかったわね?」


 メリュジーヌはラピュスを見つめながらささやき、右手に持つ細剣でラピュスに突きを放った。切っ先はラピュスの腕を掠り、痛みがラピュスの全身に伝わる。


「うわぁ!」


 痛みで声を上げたラピュスは態勢を崩して後ろに下がってしまう。ラピュスが下がるのと同時に騎士剣が電磁シールドから離れ、その隙にメリュジーヌは素早く立ち上がり後ろへ跳んだ。それと同時にメリュジーヌは右後前腕部から出ている銃口をラピュスに向けて数回発砲する。


「!?」


 痛みに耐えながらメリュジーヌの方を見たラピュスは発砲して来た事に気付き、咄嗟に体を右へ反らした。回避行動はギリギリで間に合い直撃は避けたが一発だけ頬を掠りラピュスの白い頬に赤い傷が出来てしまう。

 両者は互いに相手と距離を取って態勢を立て直し、剣を構えて相手の出方を見る。ヴリトラもそんな二人の戦いを見て緊張し、黙ったままラピュスとメリュジーヌを見ていた。


「驚いたな、ラピュスが幹部相手にここまでやるなんて。傷だらけだが、まだ重症と言える程の傷は負っていない。もしかしすると・・・」


 ヴリトラはラピュスが思った以上に戦える事に驚き、心の中で本当に勝てるかもしれないと考える。最初はもしかしたらという位にしか思っていなかったが、ここまで幹部クラスを相手に持ち堪え、隙を突いては反撃するという姿にヴリトラは強く感心していた。


「・・・もしかすると、アイツがその気になれば俺達よりも強いのかもしれねぇな」


 ラピュスが七竜将よりも強くなるかもしれない、そんな考えをしながらヴリトラはラピュスを見守り続けた。

 距離を取って相手を警戒しながら体力を回復させている両者。ラピュスは息を切らせながら体を休ませているが、メリュジーヌは余裕の表情で笑っていた。


「アイツ、あれだけの連続攻撃をしておきながら全く呼吸が乱れていない。機械鎧兵士がナノマシンによって治癒能力が高いとヴリトラは言っていたが、まさか疲労の回復までも早いとは・・・」

「それは違うわよ?」


 ラピュスが機械鎧兵士の回復力に驚いていると、突然メリュジーヌがラピュスの言葉を否定する。


「確かに機械鎧兵士は傷の治癒力が常人よりも高いけど、疲労の回復力は常人と大差ないわ」

「それなら、どうしてあれだけ激しく攻撃をしていたお前はそんなに余裕の表情を浮かべている?」

「そんなの簡単、まだ私の体力に余裕があるからよ」


 メリュジーヌの言葉にラピュスは驚きと同時に屈辱を感じた。こっちは全力で戦って体力も限界なのに、メリュジーヌはまだ体力に余裕があるという力の差にラピュスは悔しさを感じる。


「さっきも言ったけど、生身の人間が機械鎧に一人で戦いを挑むなんて愚かな行為なのよ。さっさと諦めなさい」

「それなら私も言ったはずだ。ここで引いたら私は色んな大切なものを無くしてしまう様な気がする、仲間と国の為にもお前を此処で倒すとな!」

「・・・ハァ、大した度胸で見直したって言ったけど、取り消すわ。貴方は力や状況を把握できない只のおバカな子だった・・・」


 ガッカリした様な顔で呟きながら俯くメリュジーヌ。ラピュスはそんな姿を見ながら騎士剣を強く握って構えた。すると突然ラピュスの視界がぼやけ、強烈な眠気が襲い掛かる。


「え?・・・な、何だ・・・?」


 頭がクラクラしだし、左手で頭を押さえながら必死で意識を保つラピュス。ヴリトラもラピュスの異変に気付いて驚きの表情を見せた。


「ラピュス、どうした?」

「きゅ、急に眠気が・・・」

「何だって?」


 突然眠気に襲われた事を聞かされてヴリトラは訊き返す。するとさっきまでつまらなそうな顔をしていたメリュジーヌがフッと笑ってラピュスの方を見る。


「ようやく効いて来たわね」

「な、何?どういう事だ・・・?」

「さっき貴方に向かって撃ったのは銃弾じゃないわ。薬を塗った針よ」

「は、針・・・?」


 ラピュスは自分の頬を掠ったのは弾丸ではなく針だと聞いて驚く。だがヴリトラは飛んで来たのが針だと聞くとそれが何を意味するのかすぐに気付いてメリュジーヌの方を向いた。


「そうか、右腕の銃口はニードルガンか!」

「ニードルガン・・・?」

「普通の銃と違って弾丸じゃなく針を撃って攻撃する銃さ。主に水中みたいな銃器の使えない場所で使う為の武器だ」


 針を飛ばす銃があると知ってラピュスは驚きながらメリュジーヌの方を向き、眠気と戦いながら騎士剣を両手で握り直す。幸い頭はクラクラするがそれ以上に酷い状態にはならなかった。

 頭を押さえるのを止めて両手で騎士剣を持つラピュスを見てメリュジーヌは笑い続けながら細剣の切っ先をラピュスに向ける。


「その状態でまだ戦うつもり?残念だけど無理よ。私のニードルガンの針に塗られているのは強力な麻酔でね、アフリカゾウでも一発で眠ってしまう程強力な物なの。貴方は針が直接刺さらずに掠っただけだったけど、それでも貴方の意識を朦朧とさせる事ができるの」

「う、うう・・・」

「眠気に襲われながら自分より強い相手とどうなるのか、貴方なら分かるでしょう?」


 メリュジーヌの言っている事の意味をラピュスはよく分かっていた。まともな状態で戦ってもギリギリの状態なのに眠気に襲われながら戦うのは無謀でしかなかった。


「クッ・・・ラピュス、後は俺がやるからお前は下がれ!」


 流石にこれではラピュスが危ないと判断したヴリトラは森羅を握ってラピュスの下へ向かおうとする。だが、ラピュスはヴリトラの方を向いて声を上げた。


「来るな、ヴリトラ!」

「!」

「私は、まだ戦える・・・!」

「バカを言うな!普通のお前ならともかく、麻酔でまともに戦えなくなっているお前じゃアイツには勝てない!」

「私はまだ動ける。私が動けるうちは絶対に手を出すな・・・」

「んぐぅ~!この頑固女!」


 決して引こうとしないラピュスを見てヴリトラは苛立ちを見せながら声を上げる。そんな二人のやり取りを見ていたメリュジーヌは笑い出した。


「アハハハ!こんな時に痴話喧嘩ぁ?ラピュスちゃん、さっきも言ったように針に塗られていたのは強力な麻酔よ?ちょっと傷つけられたくらいじゃ眠気は飛ばないわ」

「関係ない!相手がどんな手を使っても私は騎士として、この国の人間として、お前を倒す!」

「フッ、本当におバカさんね」


 嘲笑いながらメリュジーヌはラピュスに向かって飛んで行く。ラピュスの前まで来ると二本の細剣を同時に右から振って攻撃する。ラピュスは朦朧とする意識の中で右から迫って来る刃防ぐ為に騎士剣で斬撃を防いだ。しかし眠気のせいで上手く力を入れる事ができずにメリュジーヌの力に負けて大きく飛ばされてしまう。


「うわああぁ!」


 床を跳ねる様に転がって行き、エントランスの壁に叩きつけられるラピュス。その姿を見てヴリトラの表情は歪み、メリュジーヌは愉快な顔を見せた。


「ウフフフ、どう?少しは眠気が覚めた?」

「う、うう・・・」


 眠気と体の痛みに耐えながら体を起こそうとするラピュスであったがなかなか思うように動けない。メリュジーヌはそんなラピュスに笑いながら近づいて行き、両手に持つ細剣を回している。


「それにしても、貴方も愚かな事したわよねぇ?大人しく元老院に従っていればこんな目に遭う事なんてなかったのに」

「・・・・・・」

「なのに討伐任務を引き受けて戻ってきたら掌を返したように裏切っちゃって。主に忠誠を誓うと言うのが騎士ってものじゃないのかしら?」

「家族を人質に取られて強要されたんだ、忠誠を誓った訳ではない。ましてやこんな卑劣な事をする元老院を主などと・・・!」

「確かに無理矢理やらされたのよね。でも貴方は元老院の指示に従い、七竜将の討伐に向かった。貴方が元老院の命令に従ったのは事実よ」


 ラピュスの目の前まで来たメリュジーヌは左手に持つ細剣の切っ先を横になっているラピュスの顔に付きつける。それを見たヴリトラがラピュスを助けに行こうとした。だが、メリュジーヌは右腕のニードルガンをヴリトラの足元に向けて発砲する。ヴリトラの足元に数本の針が刺さり、ヴリトラは足を止めてメリュジーヌを睨んだ。ヴリトラを見てメリュジーヌは小さく笑い視線をラピュスに戻す。


「貴方は家族の命を救う為に騎士としての誇りを捨て、自分を何度も助けてくれた七竜将と二人の戦友を殺そうとした。貴方は最低の裏切り者よ」

「!」


 裏切り、その言葉がラピュスの心に深く突き刺さる。家族を助ける為とはいえ、自分を支え、守ってくれた仲間を自分は裏切った。騎士として、いや人としてやってはならない行為をした現実がラピュスの心の傷を抉っていく。

 自分の情けなさに表情を歪めるラピュスを見て楽しそうに笑うメリュジーヌ。二人の会話を聞いたヴリトラは鋭い表情でメリュジーヌを睨む。


「ラピュス、そんな奴の言う事を真に受けるな」

「あら?貴方だって、自分を裏切ったこの子を軽蔑してるんでしょう?素直言ってやったら?」


 メリュジーヌがヴリトラの方を向いて言うとヴリトラは「分かってないな」と言いたそうに呆れ顔を見せる。


「俺からしてみれば、ラピュスよりもお前の方がずっとバカだと思うぜ」

「どういう意味?」

「確かに彼女は俺達を一度裏切った。だけどな、ラピュスはその事で自分を責め、後悔し反省もした。大事なのは自分の罪を反省し、罪を償おうという意志なんだ!」

「ヴリトラ・・・」


 七竜将を裏切った自分を許しているヴリトラの意思を聞いてラピュスは驚きと同時に喜びを感じる。


「・・・それに俺だってラピュスの事情を知らずに勝手に裏切ったって思いこんじまったんだ。ラピュスを責めるつもりもその資格もねぇよ」


 自分にも反省する点があると口にし、ラピュスは朦朧とする意識の中でヴリトラを見つめてゆっくりと立ち上がる。彼の優しさがラピュスに力を与えたのだろう。立ち上がるラピュスを見たメリュジーヌは少し驚いたのか細剣を引いて構え直した。


「あらあら、麻酔が効いているのにまだ立ち上がれるなんて・・・」

「言っただろう?私はお前を倒すと・・・」

「この状況でまだそんな事言ってるの?いい加減に自分の立場を理解してよ。私、学習能力の無い人って嫌いなのよねぇ~?」


 めんどくさそうな声を出すメリュジーヌにラピュスは騎士剣を大きく横に振って攻撃する。だが、クラクラするせいで上手く狙いが付かず、メリュジーヌは大きく後ろに下がっただけで騎士剣を簡単にかわしてしまった。


「ハァ、もう飽きちゃった・・・さっさと殺してヴリトラの相手をしましょう」


 ラピュスの相手をこれ以上する気が失せたのか、メリュジーヌは細剣をラピュスの頭上から勢いよく振り下ろす。刃がラピュスの脳天に迫って行き、それを見たヴリトラは助けようと走り出した。すると、刃がラピュスの頭に触れる瞬間、ラピュスの体がフワッと右に反れ、メリュジーヌの細剣をギリギリでかわした。


「えっ?」


 斬撃をかわされた事に驚くメリュジーヌ。そこへラピュスが騎士剣で袈裟切りを放つ反撃する。メリュジーヌは電磁シールドで斬撃を止め、右手の細剣でカウンター攻撃を撃ち込もうとした。だが次の瞬間、ラピュスは騎士剣を右手だけで持ち、空いた左手で腰に納めてある予備の短剣を抜くとメリュジーヌの腹部に突き刺した。


「ううぅ!?」


 腹部に伝わる痛みに声を漏らすメリュジーヌ。ラピュスはメリュジーヌを睨みながらゆっくりと口を動かす。


「お前の機械鎧は両腕だけだろう?だったら体や足は生身のままで普通に攻撃しても傷を負わせる事ができるはずだ」

「ど、どうして?麻酔のせいで意識が朦朧として正確な狙いはできないはず・・・」

「クラクラしているだけで見えない訳ではない。近づいて自分と相手の位置を把握していれば朦朧とした意識の中でも攻撃を当てられる。お前が光の盾で私の剣を止めてくれたおかげでお前との距離を掴む事ができたんだ・・・」

「クッ、私に近づく為にギリギリで攻撃をかわして一気に近づいたって訳ね・・・」

「さっきのは偶然ふらついて攻撃をかわせただけだ。麻酔という物も少しは役に立つようだな・・・」


 動きを封じる為の麻酔で攻撃をかわされたという現実にメリュジーヌは屈辱を感じる。体勢を立て直す為に後ろに跳んで距離を取り、遠くで騎士剣と短剣を持つラピュスをジッと見て二本の細剣を構えた。


「チッ、さっきは油断したけど、今度はさっきみたいな偶然は有り得ないわ。確実に仕留める為にニードルガンの麻酔で眠らせてあげる!」


 メリュジーヌがラピュスを眠らせる為にニードルガンの銃口をラピュスに向けた。ラピュスもクラクラの状態で遠くから銃口を向けているメリュジーヌを見て騎士剣と短剣を構える。その時、ヴリトラはラピュスに向かって大声を出した。


「ラピュス!コイツを使え!」


 声のした方を二人が向くと、エントランスの壁に付けられているランプの中から蝋燭と取り出してそれをラピュスに向かって投げた。ラピュスは朦朧とする意識の中で飛んで来る蝋燭を確認するとヴリトラが何を考えているのか気付いてハッとする。その直後、騎士剣と短剣を天井に向けて意識を二本の剣に集中させた。すると宙を舞う蝋燭の火が突如強く燃え上がり、勢いを増して炎となると騎士剣と短剣の刃に纏いだした。ラピュスが気の力を使ったのだ。


「あ、あれは・・・」


 初めて見る気の力に驚くメリュジーヌ。そんなメリュジーヌに向かってラピュスは炎を纏った短剣を投げる。しかし麻酔のせいで狙いが逸れてしまった短剣はメリュジーヌの真横を通過しただけだった。


「・・・何だ、火を纏っただけの短剣かぁ。麻酔のせいで狙いが付けられないのなら驚く程の事でも・・・」


 ラピュスの短剣がこけおどしだと思ったメリュジーヌは安心したのか笑顔でラピュスの方を向いた。すると、いつの間にかラピュスはメリュジーヌの1m前まで近づいて来ておりメリュジーヌの顔が急変する。


「なっ!何時の間に・・・」

「短剣はお前の注意を逸らして近づく為の囮だ・・・!」

「・・・フッ、そんな事をしても無駄よ!麻酔のせいでクラクラの状態の貴方の攻撃なんて、少し下がれば簡単にかわせる・・・」


 メリュジーヌは後ろに下がってラピュスの攻撃を回避しようとする。だがその直後、ラピュスが鋭い目でメリュジーヌを見つめて騎士剣の刃に纏われている炎に意識を送り更に勢いを強くした。


炎槍流撃波えんそうりゅうげきは!」


 ラピュスが勢いよく騎士剣をメリュジーヌに向かって突いた瞬間、刃に纏われていた炎がもの凄い勢いで伸びてメリュジーヌの体に直撃する。そして炎は槍の様に体を刺し貫いた。


「ぎやぁーーーっ!!」

「・・・剣は、斬る為だけの武器じゃない。槍の様に付いて使う時もあるんだ!」

「がっ、があああぁ!!」

「それに麻酔で上手く攻撃が当てられないのなら、攻撃範囲を伸ばせばいい。そもそも後ろの下がると口にした時点で、お前は戦士として失格だ!」


 相手の攻撃パターンを把握していなかった事、麻酔で相手の戦力が削れたと思い込んだ事、そして自分の考えを相手に教えてしまった事、それが敗因だと熱さと痛みに苦しむメリュジーヌを鋭く睨み付けながらラピュスは言った。ゆっくりと仰向けに倒れるメリュジーヌを見てヴリトラは目を丸くして驚く。ラピュスは、たった一人で幹部クラスの機械鎧兵士に勝利したのだ。

 ファンストの屋敷で起こったレヴァート王国の姫騎士とブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士の対決は苦戦しながらもラピュスが勝利する。生身の人間でありながら機械鎧兵士に勝つと言う驚きの結果、これはラピュスに更なる自信と勇気を与える事になった。


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