第百四十二話 ファンストとの再会と対決!
元老院最高議長であるファンストに接触する為に上級住宅街へ潜入したヴリトラ達。だがそこは沢山の屋敷が建つ広い敷地でファンストの屋敷を見つけるのは容易ではなかった。それでもヴリトラ達は自分達の無実を証明しする為、ラピュス達の家族を助ける為に上級住宅街を探索する為に先へ進む。
広場を出てから上級住宅街の奥へと進んだヴリトラ達は自分達を囲む様に建つ屋敷を見回してファンストの屋敷を探している。だがどの屋敷にも表札なんて物は無く、人の姿も見えない為どの屋敷が誰の物なのか分からずに行き詰っていた。
「かなり奥の方に来たけど、どれがファンストの屋敷なのか全く分からねぇな」
「全くだ」
静かな道を歩きながら周りの屋敷を見回して会話をするヴリトラとジャバウォック。その後ろをラピュスと騎士達が警戒しながらついて来ている。
「しゃあない。こうなったら一つずつドアをノックして誰がいるのか聞くとするか」
「アホか!俺達はお尋ね者なんだぞ、顔を見られた瞬間に大騒ぎになるだろう!しかも俺達は上級貴族しか入れない住宅街に来てるんだ。不法侵入してる事までバレたら取り囲まれちまうじゃねぇか!」
「じょ、冗談だよ。落ち着けって・・・」
目くじらを立てるジャバウォックに少し驚きながら宥めるヴリトラ。二人のやりとりを見ていたラピュスは溜め息をついて呆れ顔を見せている。
「しかし、このまま探し回っても分からないままなのは確かだ。何か手を打たないと何時まで経ってもファンスト公の屋敷を見つけられないぞ?」
ラピュスは探し方を変える事を提案し、それを聞いたヴリトラとジャバウォックはラピュスの方に視線を向ける。
「変えるっつっても、さっきも言ったように俺達は今此処に不法侵入してるんだ。誰かに見つかれば住宅街中が騒がしくなってファンストの屋敷を探す事もできなくなる」
「ああ、何か情報でもあればいいんだけど・・・ラピュス、お前はファンストの屋敷がどんなのか知らないのか?」
ヴリトラはファンストの屋敷の情報をラピュスに尋ねるとラピュスは顔を目を閉じて横に振った。
「いや、他の屋敷よりも大きいという事しか分かっていない」
「大きな屋敷ねぇ・・・どれも大きさが同じに見えるし、地上からじゃ見分ける事ができない・・・ハァ、こんな事だったらオロチを同行させるべきだったぜ・・・」
「だがそれじゃあ、切り札を用意する事ができなくなるぜ?」
落ち込むヴリトラのジャバウォックは腕を組みながら言った。
「・・・そう言えばずっと気になっていたのだが、どうしてリンドブルム達を城へ行かせたんだ?その事について私達は何も聞いていないぞ?」
ジャバウォックの話を聞いていたラピュスは不思議そうな顔でアリサと同じ質問を二人にした。
「ファンストを追い詰める為の切り札の準備をさせる為だよ」
「詳しい事は話せねぇが、ソイツが決まれが俺達は一気に有利になれる」
「?」
二人の説明の内容が理解できずに小首を傾げるラピュス。後ろにいる騎士達も同じように理解不能の反応を見せる。
「とりあえず、もう少し奥に行ってデカい屋敷を探そうぜ?」
「やっぱそうやって探すしかねぇか」
ジャバウォックが先に進む事を話し、それを聞いたヴリトラはめんどくさそうな表情を見せる。ヴリトラ達は再び歩きだし、上級住宅街のさらに奥へと進んで行く。
しばらく進むと、ヴリトラ達は他の屋敷よりも庭が大きい屋敷の前にやって来た。目の前の大きな門をヴリトラ達は驚きながら見上げる。
「デケェな、おい・・・」
「他の屋敷と比べると庭が広いし、屋敷と庭を囲む塀も高いしな」
「もしかして、これがファンスト公の屋敷か?」
「いや、まだ確証ない。もし間違えて屋敷に入って住人に騒がれたらマズイからな。そうなったらファンストの耳にも入って逃げられちまう可能性だってある。情報を手に入れねぇと・・・」
ヴリトラが目の前の屋敷が誰の物なのか調べる必要があると考えて腕を組みながら俯く。ラピュスやジャバウォックも目の前の門を見つめながら難しい顔をする。
「・・・どうするヴリトラ?まだ先があるし、とりあえず此処を第一候補って事にして先へ進むか?」
上級住宅街はまだ先があり、その奥にも目の前の屋敷より大きな屋敷がある可能性があった。ジャバウォックがヴリトラに先へ進むか尋ねるとヴリトラはゆっくりと顔を上げる。
「そうだな、とりあえずもう少し先を調べてから――」
「何者だ?」
「「「「「「「!」」」」」」」
突如何者かに声を掛けられて反応するヴリトラ達。声はまだ進んでいない上級住宅街の奥の方から聞こえ、ヴリトラ達が声のした方を向くとそこには槍を持った二人の兵士が自分達を睨んでいる姿があった。
「此処は上級貴族の身が出入りを許された場所、なぜ此処にいる?」
(おいおい、確かこの住宅街には警備の兵士はいないんじゃなかったのか?)
ラピュスの情報と違う事にヴリトラは心の中で驚き、目の前にいる兵士達を見つめる。ラピュス自身も驚いており、ジャバウォックは舌打ちをしながら兵士達を見つめる。騎士達も腰の騎士剣を握り、何時でも鞘から抜けるようにしていた。
二人の兵士はヴリトラ達に近づき、ヴリトラ達の外見をチャックする。もう一人の兵士も槍を肩に担いでヴリトラ達をジッと見つめていた。彼等が不審な動きをした時にすぐ対応できるようにしているのだろう。
「・・・見たところ、傭兵と遊撃隊の騎士達のようだが、どうして此処にいるんだ?」
「・・・・・・実はこの屋敷の方に御用があって伺ったんです」
兵士の質問にしばらく黙っていたヴリトラは突然小さく笑って敬語を話し兵士の質問に答える。いきなり敬語を話したヴリトラとラピュスと騎士達はまばたきをしながらヴリトラを見ている。だがジャバウォックだけはヴリトラが何を考えているのか気付いているらしく、表情を変えずに目の前の兵士達を見つめていた。
「はぁ?何を言っている。此処は元老院最高議長のファンスト公のお屋敷だぞ?あのお方がお前達の様な輩と繋がりがあるなど信じられるか」
「「「!」」」
兵士の言葉を聞いたヴリトラ、ラピュス、ジャバウォックはピクリと反応した。目の前の屋敷はファンストの屋敷、探していた場所を見つけてヴリトラはニッと笑みを浮かべる。
「そりゃラッキーだ」
「は?」
ヴリトラの言葉に兵士は思わず聞き返す。その直後、ヴリトラは素早く姿勢を低くして兵士の腹部にパンチを撃ち込んだ。
「ぐあっ!?」
突然腹部を殴られた兵士はその場で両膝をつき、俯せになり気絶する。仲間が倒れたのを見て動揺を見せるもう一人の兵士。そんな兵士の背後にジャバウォックが回り込んで首裏に手刀を放つ。もう一人の兵士も抵抗する間もなく俯せに倒れて気を失う。一瞬にして二人の兵士を気絶させたヴリトラとジャバウォックにラピュス達は驚き目を丸くする。
「フゥ、とりあえずこの二人にはこのまま此処で眠っててもらうか」
「ああ、目立たない所を探して隠す時間もねぇしな」
気絶している二人の兵士をそのままにしてファンストの屋敷の方を見るヴリトラとジャバウォック。するとヴリトラがジト目でラピュスの方を向き、自分を見るヴリトラにラピュスも反応する。
「ラピュスゥ~、どういう事だよ?確か館の外には警備兵は徘徊していないって言ってなかったか?」
「あ、あぁ~・・・そのはずだったんだが・・・どうやら勘違いだったようだ。ハハ、ハハハハ・・・」
苦笑いをしながら誤魔化すラピュスをヴリトラはジト目で見続け、ジャバウォックも苦笑いをしながらラピュスを見ている。
「ホラ、それくらいにしておけ。いよいよ敵陣に乗り込むんだ、気合入れて行くぞ!」
「ああ、分かってるよ」
ヴリトラは屋敷の方を向き森羅を鞘から少し抜き、もう一度納める。ジャバウォックも右腕の手首を軽く回し機械鎧の調子をチェックした。ラピュス達も気持ちを切り替えて自分達の武器の状態を確認し始める。
「ところでヴリトラ、屋敷に入ったらどうするつもりなんだ?」
「・・・多分屋敷の中は警備兵とかでいっぱいだろう。見つからずにファンストに会うのはまず無理だ、しかも何処にいるかも分からないし」
「じゃあどうやってファンスト公を探す?」
「簡単だよ。分からないなら本人に出て来てもらえばいいのさ」
「は?」
ラピュスは意味が分からずにヴリトラに聞き返す。ヴリトラは右手の拳をポキポキと鳴らしながら屋敷を見てニッと笑った。
「正面から入って一暴れしてやるのさ。そうすればファンストも何か起きた事に気付いて姿を現すだろう」
「何ぃ?あれだけ騒ぎを起こすのはマズイと言っておきながら・・・」
「それはファンストを見つける前に俺達の存在を気付かれないようにする為だ。居場所が分かったんなら騒ぎを起こしても問題ないさ」
「何と無茶苦茶な・・・」
ヴリトラの考えを聞いてラピュスは呆れ顔で肩を落とす。彼女の後ろに引かている四人の騎士も目を点にしてポカーンとヴリトラを見ている。
話が終り、戦いの準備を終えたヴリトラは目の前の門をゆっくりと押した。門が開くとヴリトラは森羅を抜いて遠くに見える屋敷に切っ先を向ける。
「それじゃあ、黒幕さんにご挨拶に行きましょう!」
そう言ってヴリトラは屋敷に向かって走り出し、ラピュス達もそれに続いて走る出す。普通は敵陣に踏み込む時、見張りや罠に気を付けながら進むべきだが、此処は上級貴族の屋敷。侵入する者などいないと考えているのか罠など張られていなかった。
屋敷の入口前に着くとヴリトラ達は二枚扉をジッと見つめながら武器を構える。ラピュスは騎士剣を両手でしっかりと握り、騎士達も同じように騎士剣を構えていた。
「それで、どうするんだヴリトラ?まずはさり気なく中へ入ってそれから動くのか?」
ラピュスはこの後どのように行動するのかをヴリトラに訊ねるとヴリトラはラピュスの方を向いてウインクしながら笑った。
「いんや、殴り込みって言うのか最初が肝心なんだよ」
「な、殴り込み・・・」
「そうそう。という訳でジャバウォック、頼む」
「あいよ」
やれやれと言いたそうな顔をするジャバウォックは構えているデュランダルを下ろすと左手に持ち替えて右手で握り拳を作りニッと笑った。
屋敷の中では入口前にヴリトラ達がいる事も知らず、入口前のエントランスでメイドが仕事をし、槍を持った警備の兵士達はエントランスの隅に立っている。
「おい、あの話って本当か?」
「あの話?」
エントランスの隅に立っている二人の兵士が何やら小声で何かを話している。近くにいるメイドや執事に気付かれない様に兵士達は注意した。
「例の七竜将の討伐任務だよ」
「ああぁ、あれか。本当らしいぜ?何でも元老院の方々が奴等の事が気に入らないからと言ってウソをでっち上げたとか・・・」
「ウソ?それって、七竜将が王国に反乱を起こしたっていうのがウソって事か?」
「らしいぜ?白銀剣士隊の騎士様がそんな事を言ってた」
「おいおい、それってヤバくねぇか?」
「まぁ、俺達みたいなただの警備兵には関係ねぇ事だよ」
兵士達が七竜将の反乱が元老院の仕組んだ事だという噂の話をしながらエントランスを見回して誰かが自分達を見ていないかを確かめる。そんな時、突然入口の二枚扉が大きな音を立てて吹っ飛んだ。
「うわあああっ!?」
「キャアアア!」
「な、何だ!?」
轟音と共にエントランスの中央まで飛んだ扉を見て騒ぎ出す執事やメイド、兵士達。そんな騒がしいエントランスにヴリトラ達は堂々と入ってきた。
「おっじゃましま~す」
軽い挨拶をしながらエントランスを見回すヴリトラ。ジャバウォックはデュランダルを両手で構えながらニッと笑い、ラピュスは騎士剣を構えて真剣な表情を見せている。勿論ついて来た四人の騎士も同じだった。エントランスの隅にいた数人の警備兵達は持っていた槍を構えてヴリトラ達の前に立ちはだかり、メイドや執事達は屋敷の奥へ避難した。他の部屋からも警備兵が姿を現し、二階からも数人の警備兵が階段を下りてくる。ヴリトラ達はあっという間に十人の警備兵に囲まれた。
「おうおう、こんなに大勢で歓迎してくれるとは、やっぱ俺達って人気あるんだなぁ」
「何を呑気に言っている!」
ニヤニヤと笑いながら警備兵達を見ているヴリトラにツッコミを入れるラピュス。警備兵達はヴリトラ達を睨みながら槍先を向ける。
「お前達は七竜将!どうしてこの町にいる!?」
「ヘッ、戻って来たんだよ。ファンストに用があってな」
「な、何?」
さっき七竜将の噂話をしていた警備兵がヴリトラの顔を見て槍を強く握り警戒心を強くする。彼は心の中で復讐に来たのだと感じ取っていたのだ。
「おいコラーッ!出て来いファンストォー!」
エントランスを見回しながら大声でファンストを呼ぶヴリトラ。警備兵達は大声を出すヴリトラに驚き一歩下がって警戒した。
「お前に用がある!出て来いハゲェー!」
「直球だな、その言い方・・・」
ヴリトラを見下ろしながらジャバウォックは小さな声で呟く。
「ええい、何と騒ぎだ?鬱陶しい!」
ヴリトラが騒いでいると二階へ続く階段から杖を持ってファンストが白銀剣士隊の騎士を二人警護に連れた現れた。
「お前達は七竜将!どうして此処におる?」
階段をゆっくりと降りながらヴリトラを睨むファンスト。ヴリトラもゆっくりと歩いて来るスキンヘッドの老人をジッと睨みながら森羅を強く握る。やがてファンストが階段を下り切り警備兵達を挟む形でヴリトラと睨み合り、騎士の一人がファンストの斜め前に立ち騎士剣を何時でも抜ける態勢に入った。
「なぜお前達が此処にいるのだ?此処は上級貴族のみが入る事の許される神聖な場所、貴様等の様な身の程知らず共が軽々しく足を踏み入れてよい場所ではない!そもそもなぜ反逆者の貴様等がこの町におる!?」
「反逆者?・・・ハッ、それはお前が仕組んだ大ウソだろうが!」
「何ぃ?」
「今回の七竜将の反乱は全てお前達元老院・・・いや、お前が俺達を始末する為に計画した事だろう!」
「フッ!何を世迷言を!」
「とぼけるな!」
白を切るファンストにヴリトラは怒鳴り付ける。ファンストや警備兵達はヴリトラの怒鳴り声に驚きフッと彼の方を向く。ヴリトラの隣に立っているラピュスとジャバウォックもファンストを黙って睨みつけている。
「お前達元老院は俺達がブラッドレクイエムの様にレヴァート王国にとって危険な存在になる可能性があると考えて抹殺を提案したみたいだが、元老院でのお前の評判は最悪、他の議員達がお前の考えに賛同するなんて考えられない。だからお前は独断で俺達の暗殺を考え、自分と考え方が正反対のバーバント・シェンダーを上手く言いくるめてトーマス達白銀剣士隊に俺達の討伐命令を記した指令書を書かせた。それでもし今回の件で元老院に不都合な事が起きてもバーバント・シェンダーに罪を擦り付ける事もできる。お前に矛先は向けられないって訳だ!」
真剣な表情で自分が推理した事を説明していくヴリトラ。ファンストはそんなヴリトラを睨みつけている。だがよく見ると、彼の額から微量の汗が垂れていた。
「だが、ストラスタ公国軍を撃退する程の実力を持つ俺達に白銀剣士隊をぶつけても勝てる可能性が低いと考えたお前はダメ押しとして特務隊を編成した。特務隊の隊員達は皆俺達と何度も戦場を共にしてきた者達だ。俺達の事をよく知っている彼等なら俺達を殺すのに打ってつけだと考えたんだろう。だが、特務隊の隊員が俺達を討伐しろなどと言う命令をすんなりと受けるはずがない。だからお前は使者を使い特務隊の家族を人質に取った事を告げて無理矢理戦わせたんだ!」
ヴリトラの隣に立つラピュスはキッとファンストを睨みつけて怒りをぶつけた。すると、黙って話を聞いていたファンストが突然笑い出す。
「フ、フフフフ、面白い事を言うな?そんなものは所詮お前の想像にすぎない。そもそも私がお前達に反逆の罪を被せたという根拠がないではないか」
「根拠はある!陛下との謁見の時にお前は俺達を目の仇にし、俺達と口論をした時に陛下に止められて大勢の上級貴族達の前で恥を掻いた。それでお前は俺達に対して強い怒りと憎しみを抱いたんだ。言ってみれば幼稚な逆恨みだな」
「何だと!?」
挑発されて頭に血が昇るファンストは杖で強く床を付いた。そんなファンストにヴリトラ達は怯む事無く睨み続ける。
「儂が逆恨みでお前達を殺そうとしただと!?そんな勝手な考えをするとは、やはり傭兵とは己の事しか考えん愚かな存在よ!」
「自分の事しか考えていないのはお前じゃねぇか」
ジャバウォックがファンストを睨みながら低い声で言い放った。
「黙れ!知ったような事を言うんじゃない青二才が!そもそもお前達を討伐させようとしたのが儂だという証拠が何処にある?」
ファンストがヴリトラの方を向いて証拠があるのかを訊ねるとヴリトラは森羅の峰で肩を軽く叩きながら答えた。
「証拠はある。特務隊の隊員がお前の使者から指示を受けたと言っていた」
「え?」
ヴリトラの言葉にラピュスは思わず彼の方を向いた。ファンストはヴリトラの話を聞いて呆れるように鼻で笑う。
「ハッ、デタラメを言うんじゃない。そこにいるラピュス・フォーネに指示を出した使者が儂の差し向けた使者だとどうやって分かるというのだ?」
「・・・今の言葉で完全に墓穴を掘ったな?」
「何っ!?」
突然のヴリトラの言葉にファンストの表情は急変する。ラピュスや遊撃隊の騎士達、そして警備兵達も驚きながら一斉にファンストの顔を見た。
「お前は今こう言った、『ラピュス・フォーネに指示を出した使者が』って?どうしてラピュスが特務隊の隊員だって事をお前は知っているんだ?俺は今まで特務隊の隊員達の名前を一度も口にしていないぞ?」
「そ、それは・・・」
「・・・お前は自分自身が黒幕だという事実に俺達が少しずつ近づいている事に危機感を感じていた。だが、最後に俺が特務隊の隊員がお前の使者から指示を受けたというテキトーな事を言った事で俺の言っている事がハッタリだと感じ、緊張が解けて口を滑らせちまったんだ」
「う、うう・・・」
「もう言い逃れできないぞ?お前が俺達にあるはずの無い反乱の罪を被せてラピュス達を使い俺達を殺そうとした事を自分で認めた。此処にいる全員が証人だ!」
ヴリトラはラピュス達、そして自分達を囲む様に立っている警備兵達を指してファンストを追い詰める。ファンストは大量の汗を掻きながら一歩ずつ下がり、彼の企みを知っていた護衛の騎士もファンストを守りながら下がっていく。ファンストを追い詰め、遂に長かった冤罪事件も終わったと思われた、その時・・・。
「あぁ~あ、最後にドジ踏んでくれたわねぇ?」
「「「!」」」
背後から聞こえてくる女性の声にヴリトラ、ラピュス、ジャバウォックの三人は反応して表情を変える。するとヴリトラ達の真上を何かが跳び越え、警備兵達の真ん中に着地した。突然現れた女性にヴリトラ達は武器を構えて女性を見つめる。すると、その後ろ姿にヴリトラ達は見覚えがあり驚きの表情を浮かべた。銀色の鎧を着てクリーム色の長髪をした女性の後ろ姿、腰に納められている二本の細剣。そして女性が振り返るとそこにはグリンピスの森でヴリトラ達を討とうとした白銀剣士隊の姫騎士、シャーリアの顔があったのだ。
「お前は・・・!」
「ギリギリで追いついたわ。よかったよかった」
意外な人物の登場にヴリトラ達は驚きを隠せないでいる。勿論警備兵達やファンストも驚いてシャーリアを見つめていた。
遂にファンストと再会し、全てが彼の仕組んだ事だという証拠を掴み追い詰めたヴリトラ達。だが、その直後に現れたシャーリアによって事態は思わぬ方向へ進んで行くのだった。