第百三十八話 熱戦! 白銀剣士隊を倒せ!
元老院へ反撃する為にグリンピスの森を脱出しティムタームへ戻る事を決意したヴリトラ達。だが、その前に森の出入口で待機している白銀剣士隊の本隊を叩かなくてはならない。ヴリトラ達は彼等の不意を衝き奇襲を仕掛ける事に成功した。
特務隊に変装して本隊の中心に現れたヴリトラ達と森の出入口前に現れたリンドブルム達に白銀剣士隊は驚くも何とか戦闘態勢に入って迎え撃つ。人数では圧倒的に有利な白銀剣士隊はヴリトラ達を取り囲み逃げ道を塞いだ。
「あらら、囲まれたね」
「・・・どうするの?」
リンドブルムとラランが周りの兵士達を見ながらどう動くかを話し合う。彼等を取り囲んでいる兵士や騎士の人数は約三十人。無表情で突撃槍を構えながら訊ねるラランにリンドブルムは余裕の表情でライトソドムとダークゴモラを抜いた。
「別に?普通に戦うだけだよ。数は全部で四十人くらい、僕達の前にいるのは三十人程。これくらいなら楽勝だよ」
そう言って高くジャンプし、取り囲んでいる兵士達を見下ろすリンドブルムは愛銃二丁を構えた。突然跳び上がったリンドブルムに驚きながら彼を目で追う兵士達。そしてリンドブルムはそんな兵士達に向かって引き金を引いた。銃口から吐き出される弾丸は兵士達の肩や腕に命中、撃たれた兵士達は痛みで声を上げてその場に倒れる。
「こ、攻撃して来たぞ!?」
「くそぉ!あのガキを撃ち落とせ!」
弓兵達が弓を構えて空中のリンドブルムを狙う。跳び上がっている間は攻撃をかわせない事を知っていた兵士達はリンドブルムは仕留めたと確信していた。勿論、狙われているリンドブルム自身も空中では攻撃を回避できない事は知っている。にもかかわらず彼は余裕の表情を浮かべていた。
「俺らを忘れるな」
聞こえて来たジャバウォックの声に兵士達はジャバウォックの方を向く。その直後、ジャバウォックは右腕を突きだし、機械鎧に内蔵されている火炎放射器を放った。炎は兵士達を包み込み次々と兵士や騎士達の服やマントに燃え移る。炎に驚き、熱さに声を上げる兵士達は地面を転がったりマントを捨てたりなどして炎を消そうと騒ぎ出す。
「完全に動揺しているな・・・」
「一気に畳み掛けましょう!」
敵の陣形が崩れていく光景を見てオロチとアリサはチャンスと動き出す。オロチは斬月を肩に担ぎながら走り出し、目の前にいる兵士達に向かって斬月を投げた。回転しながら飛んでいく斬月は目の前のいる兵士や騎士達の体を鋭い刃で切り裂き、攻撃が終るとブーメランの様にオロチの手の中に戻った。
「あ、あんな大きな斧を軽々と・・・!」
「ひ、怯むな!囲んで叩けぇ!」
兵士達は剣や槍を構えてオロチに向かって走り出す。オロチは三人の兵士に正面、右、左の三方向から囲まれるも、表情を変えず冷静に状況確認をする。
「私を甘く見るな・・・」
冷たい声で呟くオロチは斬月を両手で持ち、正面から向かって来る兵士を攻撃する。真横から迫って来る斬月を見て兵士は回避行動を取ろうとするも、大きさとは裏腹にもの凄い速さで迫って来る斬月に反応しきれず腹部から真っ二つにされてしまった。すかさずオロチは右から来る兵士の方を向き、地を蹴って兵士の方へ跳んだ。兵士は突然向きを変えて迫って来るオロチに驚き、足を止めると持っていた槍で攻撃した。だがオロチは跳んだ状態で体を器用に動かして槍の突きを回避。斬月で袈裟切りを放ち反撃した。
「ぐわあぁ!・・・バ、バカな・・・」
オロチの予想外の動きに兵士は驚きゆっくりと仰向けに倒れて動かなくなる。二人目を倒したオロチは足が地面に付くとそのまま高く跳び上がりバク宙した。そして三人目の背後に回り込むと斬月を振り下ろして背中から兵士を斬り捨てる。
「があああぁ!」
背後から斬られた兵士は声を上げながら俯せに倒れる。オロチは冷たい表情で斬月を振り、刃に付いて血を払った。そして周りにいる他の兵士達を睨み付ける。その冷酷な表情に兵士達は怯えて後ろに下がった。
オロチの姿を見ていたアリサは若干恐怖していたがそれよりもオロチの強さを見て恐怖よりも心強さの方を強く感じていた。
「オロチさん凄い・・・敵に囲まれていたのに全く動揺せずに敵を全て倒し、尚且つ相手を睨み付けただけで威圧するなんて・・・」
アリサはオロチの勇姿を見て自分も負けていられないと思ったのか騎士剣を両手で握り目の前で剣を構えている二人の兵士と向かい合う。
「チッ!反逆者の肩を持つ裏切りの姫騎士め、この場で成敗してやる!」
「先に裏切ったのは貴方達元老院でしょう!?それに反逆は貴方達がでっち上げた大ウソじゃない!」
「フン、王国に危険を及ぼす可能性がある者達から国を守る為に元老院の方々が考えられた事だ。国の為にも七竜将は此処で死ぬべきなのだ!」
(・・・この部隊の人達は斥候隊や今まで襲って来た賞金稼ぎと違って七竜将や私とラランに被せられた罪がウソだという事を知っている。やっぱり真実を知っているトーマスの直属の部隊だから知ってて当然か・・・)
斥候隊とは違い、今回の一件が元老院の仕組んだものだと知っている兵士達をジッと睨むアリサ。それと同時に彼等には手加減は不要と考え騎士剣を構え直した。すると、兵士達が動き出してアリサに先制攻撃を仕掛けてきた。一人の兵士が剣を振り下ろして攻撃し、アリサはその斬撃を騎士剣を横にし防ぐ。そこへもう一人の兵士がガラ空きとなったアリサの腹部に向かって剣を横に振り攻撃する。それに気づいたアリサは咄嗟に後ろに跳び、斬撃をギリギリで回避する。そして後から攻撃して来た兵士に騎士剣でカウンター攻撃をする。騎士剣の切っ先が兵士の右腕を掠り切傷を作った。
「ぐうぅ!?」
腕から伝わる痛みに兵士は思わず声を漏らした。大きなダメージを与えられなかった事にアリサは悔しそうな顔を見せる。そんなアリサに二人の兵士は再び攻撃を仕掛けてきた。アリサは迎撃する為に騎士剣を構え直す。その時、向かって来た兵士の内の一人が銃撃を受けてその場に倒れる。アリサともう一人も兵士が驚いて倒れた兵士を見つめる。
「これは・・・」
「大丈夫ですか!?」
驚くアリサに何者かが声を掛けて来た。アリサがふと振り返ると、そこにはMP7を構えた男性騎士の姿がある。第三遊撃隊の騎士だった。
「貴方は・・・」
「隊長、ご無事ですか?」
「ええ、大丈夫よ。でも、騎士の戦いに横から手を出すのか感心しないわ」
「相手は二人だったんです。二人で一人の相手に戦いを挑む事の方が騎士道に反しています」
「・・・彼等は一般の兵士なんだけどね」
「それに、どんな理由であれ私達は隊長達を殺そうとしたんです。その罪を償わせてください」
「・・・・・・」
元老院の言いなりとなりアリサ達を殺そうとした自分の行いを償うという男性騎士の強い意志を知りアリサは少し驚いていた。だが直ぐにアリサの表情は微笑むへと変わる。
「隊長達は私達が命を賭けて守ります!」
「・・・・・・分かったわ、ありがとう。でも、残った一人は私が相手をするわ。手出し無用よ?」
「分かってます」
アリサの命を聞き、笑って返事をする男性騎士はMP7を構えて他の敵の相手をしに行く。周りでは他の第三遊撃隊の騎士達もリンドブルム達やドレッドキャットと一緒に他の兵士や騎士に応戦している姿がある。
(・・・皆が私達の為に命を賭けて戦ってくれている。でも皆、貴方達には家族がいるのだから、無理はしないでね)
心の中で呟くアリサは残ったもう一人の兵士を見て騎士剣を強く握る。仲間を倒されて驚いていた兵士はアリサを見て剣を構えた。だがその手は小さく震えており、アリサを恐れている事が一目で分かる。
「・・・貴方も王国騎士団の一員なら、戦士らしく戦いなさい!」
そう言ってアリサは兵士に向かって走り出す。兵士は向かって来るアリサに袈裟切りを放ち応戦する。だがアリサは斬撃をかわして兵士の持っていた剣を騎士剣で払った。剣は地面に刺さり、武器を失った兵士は固まる。アリサは隙を見せた兵士の背後に回り込み首裏に手刀を打ち込み気絶させた。すると、そこへまた別の兵士や騎士達がやって来てアリサを取り囲む。
「まったく、次から次へと・・・」
「この数は一人では無理でしょう?」
真上から聞こえて来たファフニールの声に反応しアリサが上を向くと空からファフニールが下りて来てアリサの隣に着地した。
「ファフニールさん!」
「アリサさん、私も手伝います!」
「・・・フフ、流石に騎士だからと言ってこの人数を一人で相手にするのは無理ね・・・」
「ん?何ですか?」
「何でもありません。ありがとうございます!」
騎士道にこだわっていられない時もある、そう感じたアリサは微笑みながらファフニールに背中を預ける。ファフニールも「まぁいっか」という様な表情を見せてアリサに背中を向けてギガントパレードを構えるのだった。
リンドブルム達が三十人の兵士達を相手にしている時、ヴリトラ達も隊長であるトーマスとシャーリア、そして十人の兵士と騎士の相手をしていた。ヴリトラとラピュスの前では騎士剣を構えるトーマスと二本の細剣を握るシャーリアがおり、ニーズヘッグ達の前には四人の騎士と六人の兵士が武器を構えて立っている。
「たったこれだけで俺達に挑むと、ナメられたもんだな?」
「それだけ自分の力に自信があるって事でしょう?」
ジッと目の前の敵を睨むニーズヘッグと呆れ顔を見せるジルニトラ。そんな二人を見て兵士や騎士達は剣や槍を構えながらヴリトラ達が動くのを待っている。
「コイツ等、俺達をジッと見ているだけで動かねぇな。なら、こっちから先に行くぜ!」
兵士達を見ていたガズンが痺れを切らし攻撃する事を宣言する。ガズンはジャバウォックから受け取った金属鞭のスパークテイルを見ると兵士達の方に視線を戻し一度地面をスパークテイルで叩いて兵士達を威嚇する。兵士達も一瞬驚いたがすぐに武器を構え直してガズンを睨む。
「ほぉ?流石はレヴァート王国の騎士団だ。この程度じゃ動揺しないか・・・じゃあ、コイツの本当の力とやらを見せてもらうか」
ガズンは左手で髭を手入れしながらニッと笑い、スパークテイルのグリップに付いている小さなボタンを押した。するとトングの部分全体が突然青白く光り出し電気を纏いだす。それを見た兵士達やガズン本人も驚いた。
「な、何だあの鞭は?光ってるぞ・・・」
「あの鞭、よく見ると全部鉄で出来てやがる」
「気を付けろ?」
光り出したスパークテイルを見て警戒心を強くする兵士達。ガズンも驚いてスパークテイルを見ていたが、それと同時にこの金属の鞭は何か凄い力を持っていると直感していた。
「ほぉ~?こりゃあスゲェ!どれ程のモンか、早速試させてもらうぜ!」
ガズンはスパークテイルのグリップを強く握るとトングの部分だけを回し始めて勢いをつける。そして目の前で剣を構えている二人の兵士に向かってトングを横から勢いよく振った。側面からの迫って来る攻撃に兵士達は反応して後ろに下がる。兵士達は直撃を避けたが電気を纏ったトングは兵士達の持っている剣の刃に触れ、兵士達の剣は火花を散らせながら中心から真っ二つに折れてしまった。
「な、何ぃ!?」
「お、俺達の剣が・・・折れた・・・?」
二人の兵士は自分達の剣が鞭で折れてしまった事が信じられず驚きながら折れた剣を呆然と見つめている。周りにいた他の兵士や騎士も同じように驚いているが、一番驚いていたのは使ったガズン本人だった。
スパークテイルの威力に驚くガズン達を見てヴリトラ達は小さく笑っている。だがラピュスとトーマス、シャーリアの三人はガズン達の様に驚きの表情を見せていた。
「ハハハッ!大した威力だな、ニーズヘッグの作る武器は?」
「まったくね」
ヴリトラとジルニトラは目の前にいる兵士の相手をしながらガズンの戦いを見て笑いながら話している。そこへラピュスが敵を警戒しながらヴリトラに近寄ってきて声を掛けて来た。
「おい、ガズンが持っているあの鞭は一体何なんだ?」
「あれはスパークテイルっていうニーズヘッグが開発した電撃鞭だ」
「で、電撃鞭!?」
「そう。あれはこっちに来てから今までに回収したブラッド・レクイエムの機械鎧を分解してそれを元に作った物だ。仕込まれてあるメトリクスハートから作られた電気をグリップ部分に送り込んで威力を上がっている。上手く使えば俺達の乗っている自動車すらも真っ二つにできるくらいだよ」
「そ、そんなにか・・・?」
スパークテイルの力を聞かされて驚くラピュス。そこへラピュスの隙を突いた騎士が騎士剣を振り上げて襲い掛かってくる。ラピュスはそれ気にづいて咄嗟に攻撃を回避し側面からカウンターの斬撃を放つ。騎士はラピュスの一撃を受けてその場に倒れ込んだ。ラピュスは騎士が倒れてのを確認すると近くで自分を見つめているシャーリアの方を向いた。シャーリアも二本の細剣を両手で握りラピュスを見て笑ている。
「・・・七竜将と共に戦った姫騎士が寝返るという事は想定していた。だが、忘れてはいないか?貴公等の家族は今監禁されているという事を?」
「分かっている!だから、ティムタームに戻って母様達を助け出す、その為に私達はお前達に勝負を挑んだのだ!」
「フフフ、なかなかの覚悟だ。だが貴公は私には勝てない!元老院白銀剣士隊の『ソードダンサー』と呼ばれた私にはな!」
「お前の事は団長からよく聞かされている。ソードダンサーの実力、見せてもらうぞ!?」
互いに相手を見つめながら騎士剣と細剣を構えるラピュスとシャーリア。二人の美しい姫騎士はほぼ同時に一歩踏み出して斬撃を放ち、二人の剣がぶつかり火花を散らす。この瞬間、ラピュスとシャーリアの戦いが始まった。
ラピュスがシャーリアと戦いを始めた頃、ヴリトラも騎士剣を構えているトーマスと向かい合っていた。だが二人はまだ戦いを始めていない。
「どうした?俺を殺して手柄を手に入れるんじゃんかったのか?」
「そ、そうだ!国に反逆したお前達を倒せば私達の名は国の歴史に必ず残る。それがもうすぐ叶うと思うて武者震いがしてくる!」
武者震い、トーマス自身はそう言っているがヴリトラはそれが強がりだという事に気付いていた。トーマスの顔には微量だが汗が浮かび上がり、騎士剣を持つ手も小さく震えている。その姿を見たヴリトラは呆れ顔で溜め息をつく。
「ハァ・・・お前なら俺と自分の力の差ぐらいは分かるだろう?そんな強がりをしてないで投降してくれよ?それに『反逆者』じゃなくて『元老院にとって目障りな相手を殺して歴史に名を残す』、だろう?」
「な、何をふざけた事を!私がお前を恐れているとでも言いたいのか?」
「最初にナギカ村で俺達と会った時のお前は俺達の実力を知らなかった、だからあんな気丈な態度を取っていたんだ。だけど今のお前は明らかに動揺している。俺達は百人以上の兵士や騎士を倒し、特務隊としてやって来てラピュス達を味方に付けたんだからな」
「ぐぐぐぅ!・・・・・・面白い、だったら戦って直接私の力を確かめてみる事だな。そして、お前のその憶測がどれだけ愚かなのかという事を思い知るがいい!」
苛立ちの表情から小さく笑う表情へと変わったトーマスは騎士剣に構えてヴリトラに向かって走り出す。迫って来るトーマスを見たヴリトラも森羅を構えて迎え撃った。トーマスの騎士剣とヴリトラの森羅の刃がぶつかり合い大量の火花と金属が削れる音が周囲に広がる。トーマスは騎士剣が森羅から離れるとそのままヴリトラに連続で斬りかかった。ヴリトラはトーマスの連撃を冷静に全て森羅で防ぎ、ゆっくりと後ろに下がりながら隙を探っている。
「貴様ぁ、何を余裕の態度を見せている?そんな顔をして本当はかなり無理をしているのではないか?」
「別に?・・・ただちょっと意外に思っただけだよ。お前の一撃が思ってたより軽いから」
表情を変えずにトーマスを挑発するヴリトラ。その挑発にトーマス本人は頭に来たのか表情が険しくなりヴリトラを睨みつけている。今のトーマスには挑発された事でヴリトラに対する警戒と恐怖よりも怒りの方が強くなっていた。
「貴様ぁ!何処までも私を侮辱しおって!ならが私の騎士としての全ての力をお前にぶつけてやろう!」
トーマスは騎士剣を右手で持ち横にすると左手で刀身をゆっくりと撫で始める。すると刀身が黄色く光りだし、足元の砂や土が刀身に纏われ始めた。
「・・・ッ!ヴリトラ、気を付けろ!気の力を使う気だ!」
シャーリアと剣を交えていたラピュスがヴリトラとトーマスの戦いを見て驚きの表情でヴリトラに気の力の事を伝える。それを聞いたヴリトラは森羅を構えて意識を集中させた。
「バカめ、気の力だと言う事を知っても私の渾身の一撃をかわす事などできんわぁ!」
トーマスはそう言って騎士剣を両手で持つと勢いよく振り下ろした。すると刀身に纏われていた砂や土がヴリトラに向かって飛んで行き、大きな土の塊に変化する。ヴリトラは森羅を平らにして構えると飛んで来る土の塊を見つめた。
「皆藤流剣術弐式、木の葉戦塵!」
以前に使った事のある技の名を叫ぶ勢いよく森羅を振るヴリトラ。そして素早く森羅を鞘に戻すと飛んで来た土の塊は粉々になり周囲に散らばった。それを見たトーマスは目を丸くしてヴリトラを見ており、周りでも兵士や騎士達の相手をしていたラピュス達が全員ヴリトラに視線を向けている。
「バ・・・バカな・・・私の気を宿して土が・・・」
自分の気の力で放った土の塊がこんなにアッサリの粉々にされてしまった現実にトーマスは固まっていた。そんな彼にヴリトラは素早く近づいてオートマグの銃口を額に押し付ける。
「わあぁ!?」
突然目の前に現れて銃口を向けるヴリトラにトーマスは声を上げて座り込む。ヴリトラは冷たい視線をトーマスに向けてゆっくりと引き金に指を付ける。
「・・・三秒だけ待つ」
「・・・・・・わ、分かった。投降する・・・」
トーマスはアッサリと投降し、ヴリトラはオートマグを下ろした。所詮はプライドだけが高い元老院の直轄騎士隊。力も覚悟も殆どないと感じたヴリトラは呆れ顔で座り込んでいるトーマスを見下した。
ヴリトラとトーマスの戦いを見届けていたラピュスとシャーリアは二人から目の前の相手に視線を向けてジッと相手を見つめている。
「・・・お前達の隊長は降参した。お前はどうする?」
「・・・・・・フッ、いいだろう。負けを認めよう」
シャーリアは意外にもアッサリと負けを認めて持っていた二本の細剣を捨てる。予想していたよりもすんなりと負けを認めた副隊長にラピュスは少し拍子抜けの様な顔をして騎士剣を下ろす。
「勝ったな」
「意外と呆気なく終わったわね?」
「あ~あ、もう少しこの鞭の力を試してみたかったぜぇ」
ヴリトラとラピュスの近くで戦っていたニーズヘッグ達も敵将が降参した事で武器を下ろす。三人と戦っていた兵士や騎士達も戦意を失い両膝をついて俯く。トーマスとシャーリアが降参した事はすぐにリンドブルム達の下へ伝わり、リンドブルム達と戦っていた兵士達も一斉に武器を捨てて投降する。森を脱出する為に行われた白銀剣士隊との戦いは予想以上に早く終わった。
元老院直属の白銀剣士隊を倒したヴリトラ達。だが、彼等の戦いはここからが本番だった。ティムタームへ戻り、ヴリトラ達が無実である事を証明する方法を見つめ、ラピュス達の家族を助け出さなくてはならない。この戦いが終わった事でヴリトラ達に更なる闘志が宿るのだった。