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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第七章~裏切りと言う名の正義~
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第百三十四話  現れた予期せぬ敵

 全ての斥候隊を倒した七竜将。だがそれはまだ森に進軍していない本隊に更なる警戒心と慎重さを与え、作戦を変えさせるきっかけを与えてしまう事になる。しかしヴリトラ達はそんな事を気にもせずに次に攻めて来る敵を迎え撃つ準備を進めるのだった。

 森の入口では白銀剣士隊の隊長であるトーマスと副隊長であるシャーリアが斥候隊からの報告を待っていた。既に四番隊と五番隊も突入しており、二人の部隊も何時でも出撃できる状態のなっている。


「遅い、斥候隊はまだか?」

「斥候隊が森に入ってから既に三十分が経過している。四番隊と五番隊もまだ戻って来ていない。となると・・・」

「奴等にやられたとでも言うのか?」

「そう考えるのが自然だろう。それか森の猛獣達の餌食になったか・・・」


 シャーリアが斥候隊がどうなったのか想像しそれを隣に立っているトーマスに話す。トーマスは森の入口の方を向いて舌打ちをしながら腕を組む。


「チッ、役立たずどもめ!もういい、こうなったら私とお前の部隊で行く。どの道奴等は私自らの手で仕留めるつもりだったからな!」

「待てトーマス、冷静になれ」

「私は十分冷静だ」

「言っただろう?冷静さを失えば足元をすくわれると」

「だから、私は冷静だと・・・」


 トーマスとシャーリアが突入するかしないかで口論していると、二人の下に一人の兵士が駆け寄って来た。


「申し上げます!斥候隊の者が二名戻りました!」

「何?本当か?」

「ハイ!」

「・・・しかし、二人とはどういう事だ?他の者達は何処にいる?」

「そ、それが・・・・・・戻った騎士によりますと、メガトンベアに襲われ、何とか撃退したもののそこを七竜将に襲撃されて部隊は全滅。自分達は命からがら戻って来たと・・・」

「何だとぉ!?騎士でありながら敵に背を向けておめおめと戻って来たのか!」


 兵士の報告を聞いて目くじらを立てながら怒鳴り散らすトーマスに兵士は怯えた顔でビクつく。シャーリアは腕を組み呆れた顔で兵士の方を見ている。


「確かに、誇り高き騎士が敵に恐れを成して逃げると言うのは感心しないな」

「騎士の面汚しどもめ!・・・おい、その戻って来た二人は拘束しておけ!首都に戻り次第、その二人は軍法会議に掛ける。敵前逃亡は重罪だ、逃げ出さない様に見張っておけ!」

「ハ、ハッ!」


 兵士は驚きながら敬礼をして走り去って行く。トーマスは腰に納めてある騎士剣を抜くと目くじらを立てたまま近くに立て掛けられてある槍の柄の部分を騎士剣で切った。切られた柄はゆっくりと地面に落ちて転がって行きトーマスのつま先にコンと当たる。


「・・・トーマス、物に八つ当たりは止せ」

「うるさい!これが八つ当たりせずにいられるか!」

「だが、彼等が戻ってきたおかげで斥候隊の現状が把握できた。もし彼等が戻らずに斥候隊が全滅していれば森の中の事や敵の戦力を知る事もできなかったんだぞ?」

「フン・・・」


 トーマスを宥めながら情報を得る事ができた事を話すシャーリアにトーマスはそっぽ向いて騎士剣をゆっくりと下ろす。シャーリアはトーマスの隣まで歩いて行き、薄暗い森の中を見つめながら再び腕を組む。


「それで、この後はどうするつもりだ?四番隊と五番隊も猛獣か七竜将と遭遇して恐らく全滅しているだろう。このまま私と貴公が森に入って行っても彼等と同じ末路を辿るだけだ」

「そんな事を分かっている。だから今どうするかを考えているのだ・・・」


 シャーリアの言葉を苛立ちの表情で聞きながらトーマスは作戦を考える。


「我が隊の戦力は全部で百四十人、その内の六十名が既にやられてしまった。四番隊と五番隊の計四十名もどうなったか分からない以上、残るは私とお前の部隊のみ。下手に戦力を送り込んで削る訳のもいかん・・・」


 白銀剣士隊の戦力がヴリトラ達の予想よりも多く、まだトーマスとシャーリアの手元には四十人の戦力がある。だが、斥候隊と同じ構成で七竜将の戦い方が分からない彼等は迂闊に進軍する事ができずにいた。

 トーマスがどの様な作戦で行くか考え、それを黙って見ながらトーマスの案を待つシャーリア。すると、シャーリアが何を思い出したような顔を見せてトーマスに声を掛ける。


「トーマス、ここはあの者達にやらせたらどうだ?」

「何?」


 シャーリアの方を向いて訊き返すトーマス。シャーリアは後ろを振り返り指を差した。彼女の指の先にはフード付きマントで顔を隠した騎士、元老院が用意した特務隊の姿がある。


「本気で言っているのか?あの様な訳の分からない者達を行かせても何もできやしない」

「しかし、彼等は元老院の方々が七竜将を倒す為にと用意した部隊、我々よりも奴等との戦い方を知っているはずだ」

「だから行かせろと?・・・フン、あの様な奴等の力を借りなければならない程私は愚かではない!」

「でも、仮に彼等が勝利してもその手柄は指揮官である貴公が得る事になる。そして失敗しても七竜将の戦力を削る事ができ、そこへ私達が一気に攻撃を仕掛ける事もできるのだ。どちらにしても私達は損をしないのだ」


 シャーリアが小さく笑いながら特務隊を行かせる事を勧め、トーマスは特務隊を見つめてしばらく考え込む。


「・・・・・・いいだろう。奴等に行かせろ」

「決まりだな」


 トーマスの許可を得たシャーリアは特務隊のところへ向かう。指示を受けた特務隊の騎士達は森の入口の前まで行き、先頭に立つ騎士が振り返って仲間達の人数を確認すると合図を送り一斉に森の中へ走って入って行った。その姿をトーマスは不服そうな顔で見つめており、シャーリアは少し期待しているような顔で見ている。


――――――


 その頃、ヴリトラ達の方も少し動いていた。ヴリトラはラランとニーズヘッグを連れてリンドブルムと合流し、一番隊がバンディットウルフに襲われた場所から北北西に200m進んだ場所にある小さな川の前にやって来て体を休めている。ヴリトラとニーズヘッグが地図を見て自分達の現在地を確認し、リンドブルムとラランは川の水が飲めるかを確認していた。


「俺達が此処から来たから、この川はこの辺りにあるな」

「ああ、間違いないだろう」


 地図を指差しながら自分達がどの方角から川に来たのかを確かめるヴリトラとニーズヘッグ。一通り確認し終わるとヴリトラは川の前で座っているリンドブルムとラランの方に視線を向ける。


「そっちはどうだ?」

「うん、大丈夫。飲めそうな水だよ」

「・・・透き通ってるから害は無いかも」

「そっか、それじゃあ水筒に少し水を入れておけ。水分補給ができなくなると戦いの時に支障が出るかもしれないからな」

「分かった」

「・・・うん」


 二人は言われたとおりに水筒の中に川の水を入れる。既に水筒の中身は空になっていたので水分を補給できなくなっているヴリトラ達にとって好都合だった。リンドブルムが水筒に水を入れるとラランが別の水筒をリンドブルムに渡してそれにまた水を入れるという作業を繰り返す。

 リンドブルムとラランが川の水を補給しているとヴリトラはまた地図の方を見て次に敵がどう動くかを考え始める。


「奴等は百近くの戦力を持っている。リンドブルム達が見た敵の斥候部隊は三つでその全てが二十人で構成されていた。となると残りは四十人くらいになるだろうな」

「まぁ、待て。百人くらいというのは俺達の想像だ。まだ大勢の仲間がいる可能性だってある」


 ニーズヘッグは白銀剣士隊がまだ大勢の仲間を連れていると考えて意見を述べる。確かに白銀剣士隊は百四十人とヴリトラ達の想像を超えた人数を引き連れており、更に特務隊までも連れて彼等を森へ向かわせている。だが、ヴリトラ達はその事を知らなかった。


「分かってるさ、奴等がまだ兵力を残しているって事も考えてる。それにさっきのオロチとファフニールの通信で斥候隊は全滅して、その内の二人が逃げ帰ってるってオロチから聞いた。奴等が本隊にこの事を伝えて攻め方を変えて来る可能性もあるだろうしな」

「ああ。だから、もし次に戦いが起こるような事になれば面倒な事になるかもしれない。待機してるジャバウォック達にオロチとファフニールの二人に合流させた方がよくないか?」

「そうだな・・・一人で戦っていればいつかは限界が来るしな。よし、ジャバウォック達に連絡を入れてくれ」

「了解だ」


 ヴリトラの指示を聞いてニーズヘッグは小型無線機を使い、遠くにいるジャバウォック達に連絡を入れた。ヴリトラは地図をしまい、水を補給しているリンドブルムとラランの下へ歩いて行った。


「補給は終わったか?」

「うん、ヴリトラ達の分もね」

「・・・ハイ」

「ああ、アンガト」


 ヴリトラはラランから水の入った水筒を受け取り、バックパックのベルトに取り付けて何時でも飲めるようにした。


「それで、この後はどうするの?」

「とりあえず、ジャバウォック達に連絡を入れてオロチとファフニールに合流させる事にした。移動はその後だ」

「・・・さっきの敵が攻め方を変えて来るっていうのが理由?」

「ああ。敵の正確な戦力が分からない状態で敵が戦い方を変えて来るのならこっちも対策を変えないとな」


 話を聞いていたラランの質問に答えたヴリトラはニーズヘッグの方を向く。そこには周囲を警戒しながら仲間達に連絡を入れてるニーズヘッグの姿があった。


「・・・ああ、だから敵の対策の為に合流してくれ。合流したら連絡しろ、その時に次の指示を出す・・・それじゃあ」


 内容を伝え終えたニーズヘッグは通信を切りヴリトラ達の方を向いた。そんなニーズヘッグにヴリトラは水の入った水筒を投げ、ニーズヘッグもそれを咄嗟にキャッチする。


「連絡は終わったか?」

「ついさっきな。オロチのところにはアリサとガズンが、ファフニールのところにはジルニトラとジャバウォックが行くと言っていた。各自、合流したら連絡を入れてくれるそうだ」

「そっか、なら俺達はそれまでに次にどう動くかを考えないとな?」

「ああ。だが何時猛獣や敵と遭遇するか分からない。警戒はしておけよ?」

「分かってるって」


 ニーズヘッグの忠告を聞いたヴリトラは苦笑いをしながら返事をする。リンドブルムとラランも二人の会話を聞いてそれぞれの武器を取り周囲を警戒し始めた。

 警戒を始めてから僅か数分後、南南西の方向から数人の男の声が聞こえて来た。声の気付いたヴリトラ達は茂みや木の陰に隠れて様子を窺う。すると茂みの奥から四人の兵士が姿を見せた。その表情には疲労が見られ大量の汗を掻いている。


「ハァハァハァ・・・畜生!あんな猛獣がいるなんて聞いてねぇぞ!」

「隊長も他の連中も皆やられちまった。どうするんだよ!?」

「知るか!さっさとこんな森出て他の隊と合流するぞ!」


 兵士達は声に力を入れて仲間の兵士達は話し合う。どうやら他の仲間達は全員が猛獣に襲われ、彼等だけが生き残ったようだ。その様子を隠れて窺っていたヴリトラ達はもう少し様子を見る為に息を潜める。

 ヴリトラ達が隠れている事も知らずに兵士達は川を見つけて駆け寄って行く。疲労のせいか喉が渇いていたらしく一斉に川の水を飲む兵士達。


「・・・ぷはぁ~!生き返ったぜぇ!」

「ああ、しばらく此処で休んでから移動しようぜ」

「だが、何処に七竜将が潜んでるか分からない以上、油断もできない」

「そうだな。しかもたった四人で奴等に勝つなんて事も無理だしよ」

「何弱腰になってるんだ」


 近くにヴリトラ達がいる事にも気付かずに話をしている四人の兵士。その姿を見ていたヴリトラ達は呆れ果てていた。


「おいおい、近くに敵がいるのにその事に全然気づく様子がねぇぞ?」

「元老院直属だと言うからどれだけ優秀な奴等かと思ったが、名前だけって事か・・・」


 ヴリトラとニーズヘッグが兵士達に聞こえない様に小さな声で話し合い、二人の後ろにるリンドブルムも二人に小声で話し掛けてきた。


「それでどうするの?このまま彼等がいなくなるまで隠れている?それとも奇襲を仕掛ける?」

「そうだな・・・・・・よし、とっ捕まえて情報を聞きだすか」

「え?無理だと思うよ?彼等は僕等を殺しに来てるんでしょう?そんな人達が敵の僕等に自分達の情報を話すとは思えないけど・・・」

「いや、そうとも限らないぜ?」


 そう言って余裕の笑みを浮かべるヴリトラを見てリンドブルムとその隣にいるラランは小首を傾げる。ニーズヘッグはヴリトラの考えている事が分かったのか納得して小さく笑った。

 川の水を飲み一休みする兵士達は自分達の武器を地面に置き、大きな石や地面に座り込んで休んでいる。未だにヴリトラ達の事には気付いていないようだ。


「それにしても、アイツ等って本当に何者なんだ?」

「アイツ等?七竜将の事が?」

「違う違う。トーマス隊長が連れてた特務隊の事だよ」

「ああ、そう言えば全員フード付きのマントで顔を隠してた奴等がいたな。何か不気味な奴等だったぜ」

「何でも元老院の方々が七竜将を倒し為にわざわざ編成したって奴等なんだとよ」


 まるで高校の男子生徒の様に周りを気にせずに話をしている兵士達。既に彼等からは警戒心などというものは監視られなかった。


「へぇ?それってどんな奴等なんだ?」

「「「「!?」」」」


 突然背後から聞こえてくるヴリトラの声に驚く兵士達は振り返り、自分達の後ろに立って武器を手にしているヴリトラ達を見る。


「お、お前達は、七竜将!?」

「それと裏切り者の姫騎士・・・」

「・・・ッ!」


 兵士の言葉にカチンと来たのかラランは突撃槍の槍先を兵士に向けて睨み付ける。そんなラランに兵士は怯えて表情が歪む。兵士達は武器を取ろうにも既に臨戦態勢に入っているヴリトラ達を前に身動きが取れないでした。動けなくなった兵士達をヴリトラはジッと見下して森羅の切っ先を兵士の一人に向ける。


「幾つか質問に答えてもらうぞ?素直に話してくれれば見逃してやるよ」

「な、何だと?バカにするな!俺達は誇り高い白銀剣士隊の兵士だぞ?敵の脅しに乗る程愚かではない!」

「ずっとそこに茂みに隠れていたのに気づかなかった兵士がよく言うな?」

「な、何?ずっと隠れていたのか?」


 今までヴリトラ達の気配に気付かなかった兵士達に呆れ顔を見せるヴリトラ達。ニーズヘッグは頭痛がしてきたのか頭を片手で押さえながら溜め息をついた。


「・・・まぁ、そんな事はいいや。とりあえず、その特務隊の事を話せ。あとアンタ達の正確な戦力もな?」

「言わないと言っているだろう!」

「・・・そっか。それじゃあ、生かしておく必要も無いから消えてもらうぜ?」


 ヴリトラはゆっくりと森羅を振り上げて兵士達を切り捨てようとする。兵士達はヴリトラの表情を見て、本気だと感じたのか全員の顔から血の気が引いた。


「ま、待てぇ!話す、話すから助けてくれぇ!」


 兵士の反応を見たヴリトラはニッと笑い森羅を下ろした。ヴリトラは猛獣によって部隊を壊滅させられて戦意を失い、森の中を逃げ惑う兵士達なら命惜しさに情報を話すという事が分かっていたのだろう。だから自信満々でリンドブルムを見え笑ったのだ。

 ヴリトラ達が武器を下ろすと兵士達は座ったまま自分達の部隊の情報をヴリトラ達に話した。話を聞いたヴリトラ達は真剣な顔で情報を整理する。


「成る程な。敵の兵力は全部で百四十人、三つの斥候隊とお前達の四、五番隊の人数は全部で二十人になっているって事か」

「それで、貴方達四番隊の兵士は此処に来る前に猛獣に襲われて壊滅、五番隊は行方不明って事ですね?」

「そ、そうだ・・・」


 ヴリトラの隣でリンドブルムは兵士に質問し、兵士もその質問に素直に答える。


「それで、その特務隊というのは俺達七竜将を倒し為に元老院のお偉いさんが編成してこの作戦に参加している、という訳だな?」

「あ、ああ。だがもう森に入っているのかもしれない」


 特務隊の事を再確認するニーズヘッグはその特務隊がどんな部隊なのか気になって腕を組み考え込む。その隣に立っているラランが無表情で兵士の一人に声を掛けた。


「・・・どんな奴等?」

「そこまでは知らねぇよ。何しろトーマス隊長やシャーリア副隊長も知らないらしいからな・・・」

「・・・トーマス、あの時ナギカ村で私達に無実の罪を被せた騎士」


 ラランはナギカ村で自分達に王国反乱の無実を被せて始末しようとしたトーマスの事を思い出して小さな目くじらを立てる。怒りで表情を染めている姫騎士を目にした兵士は驚いて座ったまま後ろに下がる。

 兵士達から一通りの情報を得たヴリトラ達は兵士達を警戒しながらそれぞれの武器をしまう。


「特務隊の事が気になるな。奴等がどんな連中なのか分からない以上安心はできない。ジャバウォック達にも連絡を入れておこう」

「ああ、俺達もすぐに移動した方がいい」


 ヴリトラとニーズヘッグは特務隊を警戒して場所移動をする事を決め、リンドブルムとラランもそれに賛成なのか黙って頷く。そんな中、ヴリトラは座り込んでいる兵士達の方を向いた。


「それじゃあ、約束通りアンタ達はこのまま見逃すけど、もし俺達が背を向けた瞬間に襲おうとするのなら・・・遠慮無く切り捨てるからな?」


 冷たい目で兵士達に警告するヴリトラに兵士達は怯えきった表情で何度も頷く。そして兵士達が動けなくなった事を確認したヴリトラ達は走って川から移動した。兵士達はヴリトラ達の存在感と迫力にすっかり固まってしまっている。

 森の中を走るヴリトラ達は既に川から東に500m離れた所まで移動しており、周囲を警戒しながら先へ進んでいく。そしてヴリトラ達は周りが岩や石が剥き出しになっている小さな荒地にやって来ると走るのを止めて立ち止まる。そして周囲を警戒しながら地図を取り出す。


「よし、とりあえず此処で場所を確認してからジャバウォック達と連絡を入れよう。特務隊の事を知らせておかないといけないしな」

「うん、そうだね。それじゃあ、僕がジャバウォック達に連絡を・・・」


 リンドブルムが小型通信機のスイッチを入れようとした瞬間、何処からか銃声が聞こえヴリトラ達の足元に一つの弾痕が生まれる。


「「「「!?」」」」


 ヴリトラ達は自分達が銃撃された事に驚いた。当然だ、今この森で銃器を使うのは自分達だけなのだから。ヴリトラ達は銃声の聞こえた方を向くと、ヴリトラ達から見て十時の方向にフード付きマントを被って顔を隠す騎士、特務隊に一人が立っていたのだ。その姿を見たヴリトラ達は一斉に武器を構えた。


「もしかして、あれが特務隊?」

「ああ、その一人のようだな・・・」

「だけどよ、それ以前にもっと驚くところがあるんじゃねぇか?」

「・・・あの騎士、銃を使った」


 四人は特務隊の騎士が銃器を使っている事を知り、今まで戦ってきた騎士や兵士達とは違う事に直ぐに気付く。特務隊の騎士の後ろからは六人の別の騎士が現れて一斉にヴリトラ達を見て構える。


「・・・銃器を使うって事は・・・アイツ等、ブラッド・レクイエムの連中か・・・」

「そう考えるのが普通だよね?」

「まさか、元老院がブラッド・レクイエムの奴等と手を組んでいたとはな・・・」

「・・・ますます気に入らなくなった」


 ヴリトラ達はレヴァート王国元老院が自分達の天敵であるブラッド・レクイエム社と手を組んでいると考えて表情を鋭くした。ブラッド・レクイエム社の人間が相手ならもう手加減する必要は無いと考えて四人は自分達の武器を強く握る。だが、次の瞬間、ヴリトラ達の考えた答えとは全く違う答えが出るのだった。

 最初にヴリトラ達の前に現れた騎士がマントの下から細い腕を出した。その手には一丁の拳銃が握られており、その拳銃を見た瞬間、ヴリトラ達の表情は急変する。


「お、おい、あの銃は・・・」

「・・・ウソ?」

「エ、FNハイパワー?」


 なんと、騎士が持っていたのはハイパワーだったのだ。その銃を見慣れているヴリトラ達は大きな衝撃を受けた。そしてヴリトラ達がそんな衝撃を受けている中、騎士は顔を隠しているフードをめくって顔を見せる。


「「「「!!」」」」


 フードの下から出た顔を見てヴリトラ、リンドブルム、ララン、ニーズヘッグは目を疑う。フードの下から出て来たのは二十代前半の美しい女性の顔で銀色のポニーテールに額には髪と同じ銀色の小さなサークレットが着けられていたのだ。そしてその顔をヴリトラ達のよく知っている顔だった。


「・・・久しぶりだな、皆」

「・・・・・・ラピュス?」


 目の前に立つラピュスの姿にヴリトラは呆然とする。それと同時に、ラピュスが自分達の前に敵として現れたという事を悟ったのだった。

 斥候隊を全滅させられた白銀剣士隊は元老院が用意した特務隊を森へ向かわせる。だがその特務隊の隊長がラピュスだと知り、ヴリトラ達に想像を絶する驚きと戦いを与える事になった。


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