第百三十三話 少女達が見た戦場での精神
オロチとファフニールが斥候隊の二番隊と三番隊に接触、それぞれが戦闘を開始する。一見、一人で十人以上の斥候隊に挑むのは無謀と思えるが彼女達は機械鎧兵士、普通の傭兵とは訳が違った。
二番隊と戦闘を開始したオロチは斬月を片手に走り出し、二番隊へ向かって行く。それを見た二番隊の隊員達もそれぞれ戦闘態勢に入りオロチを迎え撃つ。
「防ぎ矢、放てぇ!」
隊長である男性騎士の命で弓兵達はオロチに向かって矢を放った。だがオロチは飛んで来る矢を簡単に避けたり、斬月で弾き落としたりして矢をもろともせずに距離を縮めて行く。そんなオロチを見て兵士達は驚き一歩下がる。
「臆するな!相手は所詮一人だ、取り囲んで一気に叩けぇ!」
冷静にオロチの動きを見て仲間達に指示を出して行く隊長。兵士達も言われたとおりに行動をし、向かって来るオロチの側面へ移動して取り囲もうとする。それを見たオロチは急停止し、その場で立ち止まった。
「何だ?アイツいきなり立ち止まったぞ?」
「チャンスだ、囲んで逃げ道を塞いじまえぇ!」
兵士達は突然立ち止まったオロチの行動を不思議に思うが直ぐにチャンスだと考えで動き出す。オロチは十二人の兵士全員に取り囲まれて逃げ場を無くすが、その表情には焦りが見られず、無表情でジッと前だけを向いていた。
「フン・・・」
オロチは取り囲んでいる兵士達を哀れむような視線で見ている。兵士達もそんなオロチを見てバカにされている様に感じていた。
「コイツ、俺達をバカにするような目で見てやがる」
「自分の立場が分かっていないのか、反逆者め!」
怒りを露わにする兵士達。その中の弓兵の一人がオロチに狙って矢を放った。しかし、オロチは正面から飛んで来た矢を左手で簡単に掴み取る。それを見た弓兵は驚いて目を丸くする。
「ウ、ウソだろう?矢を素手で掴みやがった?」
「私は機械鎧兵士、お前達の知っている傭兵達とは違うのだ。軽い気持ちで戦いを挑むと酷い目に遭うぞ・・・?」
持っている矢を捨てて周りにいる兵士達に警告するオロチ。兵士達も七竜将が普通の傭兵隊でない事は知っていたが、自分達が想像していたのとは全く違う力に驚いて固まってしまっている。オロチはそんな敵の力を見誤り、敵を取り囲んだくらいで自分達が有利に立ったと思い込んでいた兵士達に呆れ果てていたのだ。
三人の騎士達もオロチが矢を素手で止めるのを間近で見た事で少し驚いていたが直ぐに我に返り、驚いている兵士達に大きな声で呼びかける。
「矢を素手で掴んだくらいで動揺するな!七竜将が普通の傭兵ではない事はお前達も知っているだろう?それならこれぐらいの事をしても不思議ではないはずだ!」
「それにこれくらいの事ができないとストラスタ公国を倒す事などできない!」
「皆、力を合わせて彼女を倒すのよ!」
兵士達と違い冷静に仲間達に気合を入れる三人の騎士。そんな騎士の言葉に兵士達も冷静さを取り戻して行く。一般兵である自分達と違い、エリートである騎士が自分達には付いている。負けるはずがないと思っているのか兵士達はオロチの方を向いて武器を構え直した。
オロチは戦意を取り戻した兵士達を見回しながら斬月を肩に担いだ。
(騎士達の言葉で戦意を取り戻し、再び戦う気になったか。戦士としての精神はそれなりにあるようだな、だが精神だけでは戦いに勝つ事はできない。相手と自分との力の差を見分ける事も重要だ・・・)
オロチは心の中で自分を囲む兵士達に語りかけ、戦場で生き残る為に必要な事を伝える。だが、兵士達にその言葉が届くはずもなく、兵士達は少しずつオロチとの距離を詰めて行く。
兵士達が自分の5m手前まで近づいて来ると、オロチは腰のバックパックのベルトに付いている金属製の物を数本指で挟んで手に取った。それは忍者が使いクナイに似た形をしている。だが、以前ブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士であるスケルトンが使っていた物と違って小さく、刃の近くに小さなスイッチが付いていた。
「コイツ、何かを手に取ったぞ!」
「動く前に全員で攻撃するんだ!」
兵士達はオロチがクナイを取るのを見て一斉に襲い掛かる。オロチは四方から一斉に走って来る兵士達に動揺せず、両足に力を入れて真上に跳び上がった。突然高くジャンプしたオロチに兵士達は一斉に跳び上がったオロチを見上げ、オロチは左手に持っていた数本のクナイを兵士達に向かって投げる。クナイは兵士達には当たらず足下に静かに刺さった。
「な、何だ?投げナイフか?」
地面に刺さっているクナイを見て兵士達は不思議そうな顔を見せる。だがオロチは空中からそれを見下ろして小さく笑う。そして次の瞬間、地面に刺さったクナイ全てが一斉に爆発し、周囲の兵士を全員爆風で吹き飛ばす。吹き飛ばされた兵士達は地面や木に叩きつけられてそのまま動かなくなり、その光景を見ていた騎士達は驚いていた。
兵士達が全員倒れたのを確認したオロチは降下して地面に着地する。オロチは周りを見回して動かなくなった兵士達と爆発地点から上がっている煙を見ていた。
「流石はニーズヘッグの作った爆雷クナイだな。十二人全員を簡単に吹き飛ばすとは・・・」
オロチはニーズヘッグの作った兵器の凄さに感心すると離れた所にいる騎士達の方を向いて斬月を構え直した。騎士達も自分達に視線を向けるオロチに驚きの表情を浮かべる。
「な、何という奴だ、一瞬にして十人以上の兵士達を・・・」
「これが、七竜将の力なのか?」
男性騎士と女性騎士もオロチの力を目にして怖気づいたのか震えている。だが、隊長の男性騎士は動じる事もなく騎士剣を構えてオロチを睨んでいる。
「お前達まで何だ!我々が弱腰になってしまったら兵士達の犠牲も無駄になる、彼等の為にもこの者を討ち取るのだ!」
隊長は騎士剣に気の力を送り風を纏わせて戦闘態勢に入った。それを見たオロチも斬月を両手で構えて迎え撃つ準備に入る。その時、突然何処からか轟音が聞こえ、それと同時に一瞬地面が揺れた。
「な、何だ今のは!?地震か?」
突然の地面の揺れに隊長は驚き轟音のした方を向く。それを見たオロチは素早く跳んで隊長の目の前まで移動した。隊長はオロチの気配に気付いて態勢を立て直そうとするが既に時遅く、オロチは斬月で隊長の袈裟切りを放つ。斬月の刃は銀色の鎧ごと隊長の体を切り裂き、赤い血を宙に広げる。
「ぐわああああっ!」
斬られた隊長は断末魔を上げながら仰向けに倒れて動かなくなる。それを見て二人の騎士は隊長までもがやられてしまった事に完全に冷静さを失い、武器を落してその場から逃げ出した。オロチは逃げ出した二人の騎士の後ろ姿を呆れ顔で見つめている。
「隊長がやられた途端に血相を変えて逃げ出すとは、騎士のくせに情けない奴等だ。とても精鋭の白銀剣士隊の者とは思えん・・・」
騎士の風上にも置けない、オロチは心の中でそう考えていた。オロチはその場から動かずに周りで倒れている兵士達をジッと見つめる。七竜将は今まで襲ってきた騎士団や賞金稼ぎは元老院の者ではなかったので命までは取らなかったが、元老院の者達は自分達を陥れた存在なので襲って来たら容赦なくその命を奪って来た。だが、戦意を失った者を追いかけて殺すほど七竜将は腐ってはいない。何より殺す価値もない者を手に掛けるつもりはなかった。
「これでアイツ等は自分達の部隊が全滅した事を本隊に知らせる。それで敵の動き方が変わって来るだろう・・・ジルニトラ達に連絡を入れておいた方がいいだろうな・・・」
オロチは今後の事を考えてジャバウォックやジルニトラに連絡を入れる為に小型無線機のスイッチを入れる。コール音が鳴り、応答を待つ間、オロチは轟音のした方を向いた。
(あの轟音、間違いなくファフニールだな・・・)
先程の轟音と地震がファフニールによるものだと確信するオロチ。その直後、小型通信機から応答の音が聞こえ、オロチは静かに呼びかけた。
それと同時刻、ファフニールは三番隊と交戦しながら小型無線機から聞こえてくるオロチ達の会話を聞いていた。現在ファフニールはミルバから降りてギガントパレードを構えながら数人の兵士を相手していた。ファフニールの周りでは既に数人の兵士が倒れており、目の前には槍と剣を握る四人の兵士が大量の汗を掻きながらファフニールを睨んでいる。
(へぇ~、オロチの方はもう終わっちゃったんだ?でも、オロチなら簡単に倒せるよねぇ)
兵士達に睨まれている事も気にせずにファフニールは小型通信機から聞こえてくる情報に黙って耳を傾けている。兵士達は全く表情を変えない目の前の少女に若干恐怖を感じていた。
「お、おい、どうしたんだあのガキ?まったく動かねぇぞ?」
「知るかよ!それより、どうするんだ?どうやって攻撃する?」
ファフニールに聞こえない様に小声で話し合う二人の兵士。先程、彼等はファフニールがギガントパレードによる一撃を目にして完全にファフニールに怯えていた。何しろ、さっきファフニールはギガントパレードを振り下ろして地面を叩き、轟音と同時に地面を揺らして衝撃波を放ち周囲の兵士を全て倒してしまったのだ。小柄な少女に似合わない怪力、三番隊の隊員達は完全にファフニールを過小評価していた。
「くぅ!どうやって攻めればいいんだよ?」
「俺達に任せろ」
四人の兵士の斜め後ろに控えている三人の弓兵が小声で四人に話し掛けた。
「俺達が離れて弓で援護する。それでアイツが隙を作ったらお前達で四方から攻撃しろ」
「わ、分かった。上手くやってくれよ?」
兵士が弓兵に頼み、弓兵も頷いてゆっくりと離れていく。そしてファフニールと兵士達を見下ろせる3m程の高さの石の高台へ移動した。そしてファフニールが目の前の四人の兵士に視線を向けて自分達から意識を外している隙を突いて狙いを付ける。
「見てろよ、ガキめ」
ニッと笑いならファフニールに狙いを付ける弓兵達。そして矢を放とうとした瞬間、三人の弓兵の背後から突然ミルバが現れて弓兵の一人にのしかかり高台から落した。襲われた弓兵は叫び声と共に落ちて行き、残りの弓兵達やファフニールの相手をしていた四人の兵士達も悲鳴を聞いて振り向く。
「ミーちゃんナイス♪」
ミルバが弓兵を倒した事で笑顔になるファフニール。ギガントパレードを両手で持ち、勢いよく横に振り目の前にいる兵士四人をまとめてギガントパレードで殴り飛ばした。その四人も声を上げながら飛ばされて大きな木に叩きつけられる。兵士達はそのまま意識を無くし全員動かなくなった。その光景を見ていた周りの他の兵士達は固まってしまいファフニールとミルバを見て震えてしまう。
「コ、コイツ、強すぎだろう?しかも何でドレッドキャットがコイツの言う事を聞いてるんだよ、ドレッドキャットは簡単には人間に懐かないはずだ・・・」
「あの小さな体でどうして自分よりもデカいハンマーを振り回せるんだよ・・・」
「化け物だぜあのガキ・・・」
ファフニールの力を恐れて震えた声で話す兵士達。それを聞いたファフニールは兵士達の方を向いて頬を膨らませる。
「ぶぅ~!私、化け物じゃないもん!」
不機嫌な顔を見せるファフニールを見て兵士達は警戒し、ミルバも弓兵と一緒に高台から降りてファフニールの方へゆっくりと歩いて来る。すると高台に残っていた二人の弓兵が背を向けているミルバに狙いをつけて矢を放とうとした。それに気づいたファフニールは弓兵の方を向いて右肩の機械鎧の装甲を動かした。機械鎧の中から人質救出用の内蔵銃を出して発砲する。弾丸は高台の上にいた二人の弓兵の命中し、弓兵達は矢を撃つ間もなく絶命し高台から真っ逆さまに落ちた。それを見届けたファフニールは内蔵銃をしまい、周りの兵士達を鋭い視線で見回す。
「・・・私の前で動物達を傷つける事は許さないよ?」
目付だけでなく口調も少し鋭くなったファフニールに兵士達はビクつく。だが三人の騎士が兵士達の前に出てファフニールとミルバを見つめる。その手には騎士剣や突撃槍が握られており、何時でも戦える状態になっていた。
「・・・お前の力は認めてやろう。その力を使えば王国の者達も皆お前達を認めただろうに・・・なぜ反乱など起こした?」
「私達は反乱なんてしてません。貴方達が仕組んだ事じゃないですか」
「何を寝ぼけた事を言っている。我々がお前達の反乱を仕組んだだと?デタラメを言うな!」
ファフニールの言っている事が理解できない隊長の女性騎士は騎士剣を構えてファフニールを睨む。隣にいた男性騎士と女性騎士も同じように騎士剣と突撃槍を構えてファフニールを睨んでいた。
(・・・もしかしてこの人達は上から何も聞かされていない?となると、私達の反乱を仕組んだのは元老院の人達と直属の騎士団の中でもかなり上の方の人達って事に?)
騎士達の態度を見てファフニールは目の前にいる斥候隊は何も知らない事に気付く。斥候隊の者達は七竜将の反乱の真実を知っている元老院の者達に言いくるめられて利用されているのではないかとファフニールは考えたのだ。
ファフニールは目の前で武器を手に構えている騎士達を見つめてゆっくりとギガントパレードを下ろした。
「聞いてください。私達は反乱なんて起こしていません。全て元老院の人達が仕組んだ事なんです!」
「まだ言うか!?これ以上元老院と我等を侮辱すると許さんぞ!」
隊長はファフニールの話に聞く耳を持たず怒りの表情のまま騎士剣を構える。周りでも生き残っている数人の兵士達が剣や槍を持ってファフニールとミルバを睨んでいた。
全く話を聞いてくれない三番隊の人達にファフニールな残念そうな顔を見せる。
(・・・ヴリトラやジャバウォックは元老院の騎士団には情けは無用と言っていたけど、真実を知らない人達は殺す必要は無いと思ったのに話も聞いてもらえないなんて・・・)
ジャバウォックは自分達を殺す事が目的の白銀剣士隊に情けを掛けても恩を仇で返すだけだと言っていた。だが真実を知らずに自分達を殺そうとする相手を手に掛けるのには流石に抵抗があるファフニール。しかし、命を賭けた戦いの中で躊躇いを持つと生き残れない、それを知っていたファフニールは顔を左右に振って静かにギガントパレードを構えた。
(ファフニール、自分を殺そうとしている相手に情けを掛けたり、殺す事を躊躇っちゃダメ!生き残る為にも今は心を鬼にするんだよ!)
心の中で自分に言い聞かせるファフニールはジッと目の前で武器を構える三人の騎士と兵士達を警戒した。ミルバもファフニールの背後に近づいて周りの兵士達を睨みながら唸り声を出す。
突然戦闘態勢に入ったファフニールとミルバを不思議そうに見ていた三番隊の隊員達であったが、直ぐに表情を鋭くしてファフニールを睨む。
「何だ?さっきは自分の無実を訴えておきながらいきなり戦闘態勢に入るとは、やはりさっきのは私達を油断させる為の大ウソか!」
「・・・ウソじゃありません。でも、これ以上は話しても信じて貰えないと思って考えを変えただけです」
「フン、被害者の様な態度を取るな。お前達は反逆者、被害者はこの国に住む国民なのだぞ!」
隊長は騎士剣の切っ先をファフニールに向けて怒鳴ると周りの騎士や兵士達を視線だけを動かし力の入った声を掛けた。
「お前達!この娘は私達に誇りである元老院を侮辱し、なおかつ私達が自分達の反乱を仕組んだのだと戯言を言った!もはや手加減は無用、全員で攻撃を仕掛けろ!」
「「「「「おおぉーーーっ!」」」」」
隊長の言葉で隊員達は声を上げる。その直後に兵士達は一斉にファフニールとミルバに向かって突撃した。ファフニールはギガントパレードの柄にスイッチを押す。するとギガントパレードの頭が黄色く光り出してファフニールはゆっくりとギガントパレードを上段構えに持つ。
「・・・真実を知らない皆さんの命を奪うのは抵抗がありますが、私達も此処で死ぬつもりはありません。ですから、先に謝らせてください・・・ごめんなさい」
真実を聞かされずに元老院の駒として動かされた斥候隊の騎士達に小さな声で謝罪するファフニールは向かって来る兵士達に黄色く光るギガントパレードで攻撃した。ギガントパレードが兵士達の足元を叩いた瞬間、周囲に轟音と衝撃波を広げて近くの兵士達を吹き飛ばす。兵士達は叫び声を上げながら飛ばされるも轟音で彼等の声はかき消されて聞こえなかった。ファフニールはギガントパレードを持ち上げるとすぐに移動して次の攻撃に移る。次々とギガントパレードで殴り飛ばされていく兵士達。ミルバもファフニールの攻撃で驚き隙だらけのなっている兵士達に攻撃をして倒して行く。
ファフニールの攻撃力にさっきまでの威勢が無くなってしまった兵士達、勿論隊長である女性騎士や他の二人も固まって動けなくなっていた。
「た、隊長、何なんですか?あの子は?」
「ほ、本当に化け物なのでは・・・」
「ひ、怯むな!どんな強力な攻撃も当らなければ意味がない!それなら隙を見て一気に攻撃・・・」
隊長が騎士達の方を向いて話をしていると、何時の間にか目の前にファフニールがやって来て三人を見上げていた。
「う、うわあぁ!ば、化け物ぉ!」
男性騎士が騎士剣でファフニールに突きを放つ。切っ先はファフニールの機械鎧化しているファフニールの右胸に刺さり高い金属音を上げる。機械鎧の装甲を固く、騎士剣で刺した程度では傷すら付かない。ファフニールは無傷だった。
「バ、バカな、剣が効かない!?」
「・・・狙うなら生身の左腕を狙うべきでしたね?」
静かに呟いたファフニールは右手に持っているギガントパレードで勢いよく横に振り、目の前に立つ三人の騎士をまとめて殴り飛ばした。飛ばされて三人の騎士はファフニールが最初に吹き飛ばした四人の兵士と同じように気に叩きつけられて動かなくなる。結局、隊の主力である騎士達はファフニールに傷を負わせる事もできずに命を落とした。
隊の要である騎士を全員倒したファフニールは振り返り周りも見回す。そこには倒れて動く気配を見せない兵士達の姿とゆっくりと自分の方へ歩いて来るミルバの姿があった。ミルバが自分の前に目でやって来るとファフニールは優しくミルバの頭を撫でる。
「大丈夫?怪我はない?」
ミルバの心配をしながら体を見回すファフニール。幸い怪我は無く、ミルバは頭を撫でられて気持ちよさそうにしている。その姿はとても猛獣と恐れられていたドレッドキャットとは思えなかった。
「・・・この人達は何も知らなかった。ただ元老院の命令に従って私達に戦いを挑んだだけ、きっと他の斥候隊の人達も・・・」
何も知らない三番隊の隊員達を殺した事に罪悪感を感じながら悲しそうな顔でミルバの頭を撫で続けるファフニール。だが戦わなければ自分が殺されていた、戦場にいる以上それは仕方がない事だと心の中で自分に言い聞かせた。それと同時に別の感情がファフニールの中に生まれる。
「・・・私達に反乱の罪を被せて、ラランちゃんやアリサさんを口封じに殺そうとする。そして、何も知らない騎士の人達を利用するなんて・・・元老院、許せない!」
自分の都合で何の罪もない者達を利用し、そしてその命を奪う事を平気でやる元老院に怒りを覚えたファフニールは空を見上げて怒りの籠った表情を見せる。しばらくしてファフニールは小型通信機を使いオロチと同じように戦闘が終った事を他の仲間達に伝えるのだった。
オロチとファフニールの活躍で残りの斥候隊も倒す事ができた。だが生き残った二番隊の騎士二人が斥候隊が全滅した事を本隊に知らせれば戦況は更に変わって来る。この後の戦いがどうなるのか、ヴリトラ達には想像できなかった。