第百三十二話 斥候隊の激戦
進撃して来た元老院の白銀剣士隊。しかし森に住み付いている猛獣達によって斥候した一番隊が全滅する。それにより敵が攻め方を変えて来ると考えたヴリトラはラランとニーズヘッグを連れてリンドブルムの下へ向かうのだった。そして、ファフニールとオロチの方でも斥候隊に異変が起きる。
リンドブルムが見張っていた一番隊が全滅してから数分後、オロチが見張っていた二番隊も猛獣に襲われていた。草や木に囲まれている中、二番隊の隊員達は三匹の大きな熊の様な猛獣に囲まれており、騎士とレヴァート兵達が武器を構えて応戦している。
「弓兵、前に出るな!後方から矢を放て!」
前線に立つ男性騎士が後方から弓を構える兵士に指示を出し、兵士達も言われたとおりに距離を取って矢を放った。矢は熊の体に刺さるも、まるでダメージを受けていない。その様子を見て騎士剣を構える男性騎士が舌打ちをした。
「こんな所で『メガトンベア』と遭遇するとは、運が悪いとしか言いようがない!」
「隊長、一度後退をして体勢を立て直しましょう!」
女性騎士が男性騎士を隊長と呼んで後退する事を勧める。だが、男性騎士はメガトンベアと呼んだ熊を睨みながら騎士剣を構え続けた。
「ダメだ!コイツ等は見かけの割に素早く、背を向けた瞬間にやられてしまうぞ!馬も全て逃げてしまったし、人間の足では逃げ切れん。此処で倒すしかない!」
隊長は自分達が乗って来た馬がメガトンベアに怯えて逃げた事を話し、目の前で四足歩行をするメガトンベアを睨みながら騎士剣を構えて攻撃する。刃はメガトンベアの前足を切り、その痛みにメガトンベアは声を上げて後退した。他の騎士や兵士達もそれぞれ目の前にいるメガトンベアを攻撃して追い返そうとするがメガトンベア達にとって人間は貴重な食料、簡単に諦めたりはしなかった。
メガトンベアの一匹が槍と剣を構える兵士を見てゆっくりと後ろ足だけで立ち上がる。二本足で立ち上がったメガトンベアは軽く3mを超えており、目の前で武器を構える兵士達を見下ろす。
「う、うわああぁ!」
「た、立ちやがった!」
突然二本足で立ち上がったメガトンベアに兵士達は驚いて一歩下がる。中には驚きのあまり腰を抜かす者もいた。
「怯むなぁ!立ち上がったらがら空きの腹部を攻撃しろ!」
隊長と別の男性騎士が兵士達に指示し、それを聞いた兵士達も槍や弓矢で立ち上がったメガトンベアの腹部に攻撃した。槍先や矢が大きな腹部に刺さりメガトンベアに傷を負わせ、メガトンベアも痛みで鳴き声を上げながら前足を降ろして四足になる。
「よし、四足になったぞ、顔を狙え!」
一人の兵士が剣を握ってメガトンベアに向かって行く。だが次の瞬間、メガトンベアは右前足を横に振り向かって来た兵士に攻撃する。前足の鋭い爪は鎧ごと兵士を切り裂き、体を切り裂かれた兵士は悲鳴を上げながら一撃で倒されてしまった。目の前で倒れ動かなくなった仲間を見て兵士達を動揺し、顔から血の気が引いて行く。
「バカ者、油断しおって」
やられた兵士を見て男性騎士は歯を食いしばる。仲間が殺されて怒りと悔しさが込み上がてくるが、男性騎士は感情に流されずに目の前にいる別のメガトンベアに集中する。
少し離れた所では木の上からオロチが二番隊の様子を窺ていた。無表情で肩に斬月を担ぎながら静かに気配を消している。
「熊に剣や槍の様な近接戦闘の武器で挑むとは無謀だな。大きさや力では私達人間の方が遥かに劣っている、だったら弓矢の様な遠くから攻撃する武器を使うのが当然の事・・・」
メガトンベアと交戦している二番隊を見つめながら呟くオロチ。いくらこの世界の者達が剣などの武器を使い慣れているとはいえ、熊相手に接近するのは危険すぎる。にもかかわらず近づいている騎士や兵士達をオロチはジッと見つめながら呆れていた。
二番隊は剣、槍、弓などで何度もメガトンベアに攻撃をするもほとんど効果は無く、二番隊の兵士達は次々とメガトンベアの鋭い爪の餌食になって行く。既に五人がやられ、残った騎士と兵士達は三匹のメガトンベアを前に後退を始める。
「た、隊長、このままでは全滅です!他の隊に応援を・・・」
「バカ!他の隊が何処にいるのか分かんねぇのに応援なんて呼べるか!それにさっき聞いただろう?遠くで別の部隊の奴等の悲鳴が・・・?」
兵士達はバンディットウルフに襲われた一番隊の隊員達の悲鳴を聞いていたらしく、既に仲間がやられた事に気付いて完全に混乱していた。
混乱し始めた兵士達を見て隊長の男性騎士が兵士達に向かって声を上げた。
「狼狽えるな!我等は誇り高き王国騎士団の白銀剣士隊だ!動揺し、隙を作れば命を落とす。冷静さを失うな!」
隊長はそう言って自分の騎士剣を構えて目の前のメガトンベアを睨む。すると彼の騎士剣の刃に風が集まりだし、刀身が風の纏いだす。どうやら隊長は気の力を使った様だ。
「ほぅ?あの騎士、気の力を使ったから。一番隊の奴等とは違い冷静なようだな・・・」
木の上から隊長が気の力を使ったのを確認するオロチ。一番隊の隊長は冷静さを失って気の力を使う前にバンディットウルフにやられてしまったが、二番隊の隊長は冷静に戦況を把握して気の力を使っている。その冷静さにオロチは少し感心した。
隊長は刀身に風が纏ったのを確認するとそのまま勢いよく目の前のメガトンベアに袈裟切りを放つ。メガトンベアは体を騎士剣で斬られるのと同時に刀身に纏われた風で勢いよく後方へ飛ばされた。メガトンベアの巨体が宙を舞い、大きな木に叩きつけられる。飛ばされたメガトンベアはそのまま倒れて動かなくなった。
「おおぉ!やったぞ!」
「隊長が一匹倒したぁ!」
「喜んでいる場合じゃないわよ!まだ二匹いる事を忘れないで!」
喜ぶ兵士達に女性騎士が注意し、自分達の前にいるもう二匹のメガトンベアを見て武器を構える。兵士達も女性騎士の忠告を聞いて剣や槍を構え直し、弓兵も遠くから弓を構えて矢を射れる体勢に入った。一方でメガトンベア達は仲間が飛ばされた事に驚き二番隊から距離を開けていく。動物の本能が危険だと感じて怯えているようだ。
「奴等が我々を見て怯えだしたぞ。一気に畳み掛けろ!」
隊長の合図で兵士達がそれぞれの武器で攻撃し、他の二人の騎士も気の力を使い攻撃する。最初は優勢であったメガトンベア達も仲間が一匹やられて事で隙ができ一気に押し返されてしまった。それはまさにバンディットウルフと戦っていた一番隊の様子その物だった。結局メガトンベア達は二番隊の攻撃に押し切られ、二匹ともその場から逃げ去って行った。
メガトンベアを追い返して二番隊の隊員達は生き残った事に大きな喜びを感じ声を上げた。
「おおーーっ!やったぜぇ!」
「あの化け物熊どもを追い返したぞぉーーっ!」
「やっほーい!」
猛獣を追い返した事が嬉しくて跳びはねるなどをして喜び続ける兵士達。そんな兵士達を見た隊長がゆっくりと兵士達に近づいて来た。
「お前達、仲間が数人犠牲になったんだ。生き残った事を喜ぶよりもまずは仲間の死を悲しむべきだろう?」
「あっ・・・す、すみません」
隊長に注意されて反省する兵士達。その様子をオロチは無表情のまま木の枝の上で姿勢を低くし、遠くにいる二番隊を眺めていた。
「・・・元老院の騎士団の中にもまともな奴がいたのだな。てっきり出世欲や名誉を強く望んでいた欲の塊かと思ったが・・・」
元老院直属の白銀剣士隊の姿が自分の予想とは違い、仲間想いの一面がある事に知りオロチの中の元老院の見方が少し変わった。オロチがそんな気持ちで二番隊を眺めていると、体を休めていた二番隊の弓兵が遠くから自分達を見つめているオロチに気付く。
「あれは・・・隊長!木の上から我々を見ている人影が!」
「何?・・・・・・ッ!?あれは!」
「チッ、気付かれたか・・・」
隊長や他の隊員達がオロチの方を向いて驚きの表情を見せる。オロチも見つかった事に気付き舌打ちをしてゆっくりと立ち上がり斬月を構え直す。
「間違いない、七竜将の一人だ!総員、戦闘準備に入れぇ!」
隊長の命令で騎士や兵士達が一斉に武器を構え直し、弓兵達も弓矢の狙いを木の上のオロチに定める。
「隊長、本当にあの女が七竜将の一人なのですか?」
「ああ、間違いない。あの巨大な斧を持ち、両脚が鉄の義足になっている。間違いなく七竜将だ!」
兵士の質問に隊長は力の入った声で答える。そして騎士剣の切っ先を遠くにいるオロチに向けた。
「奴はこの国に反逆を起こした傭兵の一人だ!情けは無用、全力で始末しろ!奴等がどれ程の力を持っていようと所詮は一人、こちらは十五人もいるのだ。負けは有り得ん、全員で攻撃しろ!」
「「「「「おおぉーー!」」」」」
隊長の言葉に兵士達は一斉に声を上げる。そしてその直後に弓兵達は一斉に矢を放ちオロチに攻撃した。オロチは向かって来る矢を見ながらゆっくりと木の枝から飛び下りて矢をかわすのと同時に地上に着地する。そして遠くにいる二番隊を見て斬月をゆっくりと下ろす。
「仲間が死んで落ち込んでいたのに、私を見つけた途端に態度を変えて向かって来るか・・・」
二番隊の行動を何処か哀れむ様に呟くオロチ。下ろしていた斬月を構え直して向かって来る二番隊を見つめる。
「折角熊達から生き延びたのにな・・・。だが、私も死ぬ訳にはいかないのだ。だから、先に謝っておくぞ?・・・殺してすまない・・・」
オロチはそう呟いた瞬間に両足に力を入れて二番隊に突撃していった。元老院の中にもまともな者達がいる、そう理解したオロチであったが、彼等が自分達を殺そうとしている以上、自分達も生き残る為に戦わざるを得ない。オロチは心を無にして目の前の敵に刃を向けるのだった。
その頃、ファフニールはミルバに乗りながら遠くにいる三番隊の動きを警戒している。三番隊は馬に乗った三人の騎士を先頭に兵士達が少しずつ森の奥へ順調に進んで行き、そこには森の猛獣を恐れている様子は見られなかった。
「凄いね、あの人達周りを全然警戒せずに進んでる。それだけ自分達の強さに自信があるって事なのかなぁ?それともただめんどくさいなのかなぁ?う~ん・・・」
高台の上でミルバに乗ったまま三番隊の余裕の態度を不思議に思い、その理由を考えるファフニール。だが一向に答えが出てこない。
「う~~ん!・・・ミーちゃんはどう思う?」
ファフニールが自分を乗せているミルバの方を向いて訊ねた。ミルバは内容が理解できずにファフニールの方をチラッと向いた後に直ぐに前を向き直しジッと遠くの三番隊を見ている。
「・・・やっぱり分かんないよね?それじゃあ、もう少し様子を見ていようか」
ミルバの背中から降りたファフニールはギガントパレードを地面に降ろしてその場に座り込んで遠くを歩いている三番隊をジーっと見つめる。ミルバもその場に座り込んでファフニールの隣で三番隊を黙って見るのだった。
そんな事も知らずに三番隊の隊員達は森の中を進んで行く。兵士達の表情には警戒心が殆ど見られず、全員が堂々とした態度を取っていた。
「この森の中にお尋ね者の七竜将と裏切り者の姫騎士二人がいるんだよな?」
「ああ、バカな連中だよ。今まで王国の為に尽くして名誉や金も思いのままだったのに反乱を起こすなんてよぉ」
「いくら強いって言っても所詮は七人だろう?王国全てを敵に回して勝てる訳ねぇのにさ、愚かとしか言えない」
兵士達が七竜将の事を罵り、ニヤニヤと笑いながら歩いている。そんな兵士達の会話を騎士達は馬に乗りながら黙って聞いている。
「この森に棲みついているのも無知な獣だけだ。俺達人間様に勝てるはずもねぇよ」
「まったくだ。ハハハハハハッ!」
七竜将だけでなく、森に棲む猛獣達までも軽く見ている兵士達。この時の彼等は既に一番隊が全滅し、二番隊も五人やられている事に気付いておらず完全に力を過信していた。そんな兵士達の会話を聞いていた騎士の中、先頭を歩いている女性騎士は我慢できなくなったのか馬を止めて振り向き、兵士達を怒鳴り付ける。
「いい加減にしろ、お前達!それでもお前達は誇り高き白銀剣士隊の一員か!?」
「ヒッ!?」
「うわぁ!?」
女性騎士に怒鳴られて驚く兵士達は口を閉じて女性騎士の方を向く。雰囲気からして彼女が三番隊の隊長のようだ。
「そうやって何の根拠も無く相手を弱いと決めつけ、自分の力を過信する者は必ず墓穴を掘る。そして自分が見下していた相手にやられて無様に敗北するのだ!」
「た、隊長、どうか落ち着いてください・・・」
隊長の隣にいる男性騎士が声を掛けて落ち着かせようとする。もう一人の女性騎士も少し怯えた様子で隊長を見ていた。
「奴等はストラスタ公国の軍隊や海賊どもを一瞬で片づけた連中だ、決して油断するな!此処にいる猛獣達もそこら辺の動物とは訳が違う事を忘れるんじゃない、いいな!?」
「「「「「ハッ!」」」」」
隊長に喝を入れられて気を引き締め直し敬礼する兵士達。話が終り、落ち着きを取り戻した隊長を見て二人の騎士がホッと胸を撫で下ろす。そんな二人に隊長は申し訳なさそうな顔を見せた。
「・・・悪かったな?脅かしてしまって」
「い、いえ。隊長の考えは間違ておりませんから・・・」
「ハイ、私もそう思います」
男性騎士と女性騎士が隊長をフォローすると、二人を見ながら隊長も苦笑いを見せて前を向き直す。そして三番隊は再び前進し始める。
「しかし隊長、先程も仰ってましたが、ストラスタ軍を倒す程の傭兵達をどうやって倒すのですか?」
「確かに七人で敵の軍隊を蹴散らす程の連中です。この人数でもしも出くわしたら我等に勝ち目はないのでは?」
男性騎士と女性騎士が七竜将と戦う時になった時にどうするかを隊長に訊ねた。すると隊長は馬を歩かせながら静かに答える。
「その時はこの地形と森に棲む猛獣達を利用すればいい。奴等もこの森をさまよっている限り高い確率で猛獣達と遭遇するはずだ。奴等が猛獣と戦い、体力を消耗したところを攻撃すれば我々にも勝機はある」
「それなら、我々も同じ条件なのでは?それに奴等はこの大陸には存在しない未知の武器を使うと聞いています」
「ああ、銃とか言うカラクリか?それも問題ないだろう。元老院が得た情報ではその銃という武器は弾薬という物がないと使えないらしい。そしてその弾薬も無限ではない、猛獣との戦いで使い切ってしまえば奴等の戦力は大きく低下する」
隊長の細かく正確な作戦に騎士達は驚いて目を丸くする。既に元老院は七竜将、ブラッド・レクイエム社が銃器を使って戦うと言う情報を得ており、ヴリトラ達に対しての戦い方の知識も得ていた。故に彼等は七竜将と戦う事になっても少しも動揺していなかったのだ。
その光景を高い台の上からファフニールは座ったまま眺めており、何処か意外そうな顔を見せている。
「何の話をしてるんだろう?・・・でも、不思議な部隊だなぁ。さっきまで皆余裕の態度を取ってたのにいきなり周囲を警戒して進みだすなんて」
ファフニールは三番隊の雰囲気の変化に少し驚き頬を掻く。その隣でミルバが座ったまま退屈そうに欠伸をした。すると、遠くでファフニールの方へ近づいて来ている三番隊の兵士がファフニールの方を向いて驚きの表情を浮かべているのに気づく。周りの兵士達もファフニールの方を向き、続けて驚いた。
「あれ?・・・もしかして、見つかっちゃった?」
自分の姿が見られている事に気付きファフニールは意外そうな顔を見せる。三番隊の距離が約180mあるにもかかわらず自分を見つける兵士の視力に驚くファフニールはゆっくりと立ち上がってギガントパレードを拾い上げると肩に担いだ。
「仕方ないね。それじゃあ、行こうか?ミーちゃん」
ファフニールがミルバの方を向いて言うと、ミルバもゆっくりと立ち上がりファフニールに近づく。ファフニールはギガントパレードを担いでミルバの背中に乗ると、遠くで自分の方を向いている三番隊の方を見た。ミルバも背中に掛かるファフニールとギガントパレードの重さを物ともせずに三番隊の方をジッと見ている。
「よぉ~し!ミーちゃん、行こう!」
「グァウッ!!」
まるで返事をする様に鳴き声を出したミルバはファフニールを乗せながら高台を飛び降りた。低い所から低い所へ飛び乗って少しずつ地上へ近づいて行き、地上に降り立った瞬間に三番隊のいた方角へ走り出した。ファフニールも風を感じながらミルバにしがみ付いて三番隊のいた場所へ向かって行く。
三番隊でも高台の上から自分達を見ていた人影に気付いた兵士達が騒ぎ始めていた。
「おい、今あの高台の上に誰かいたよな?」
「ああ、しかも黒い動物に乗って降りて行ったぞ?」
「もしかして、この森に住んで猛獣どもを手なずけているんじゃねぇのか」
兵士達は人影がファフニールだと気付いておらず森の住人だと勘違いしているようだ。騎士達も難しい顔をして考え込んでいる。
「隊長、あの人影が何でしょう?」
「見た感じでは女の子の様でしたが・・・」
「うむ・・・猛獣を連れて巨大な武器を担いでいる少女か。そう言えば、七竜将の中にも大きなハンマーを振り回す幼い少女がいると聞いている。もしかしると、あの人影は・・・」
隊長の女性騎士は七竜将のメンバーが現れたと感じ、俯きながら考え続ける。そこへミルバに跨ったファフニールが三番隊の前に飛び出して来た。突然現れたファフニールとミルバに三番隊の隊員達は驚き武器を構える。
「おはようございます、皆さん」
「な、何だ!?」
「子供?・・・お、おい、アイツが跨ってるの、ドレッドキャットだぞ!」
「何でドレッドキャットがこの森にいるんだ!?」
微笑みながら挨拶をするファフニールに対し、兵士達はファフニールと彼女が跨るミルバの存在に更に驚いた。
「落ち着け!」
隊長の一声で兵士達は静かになる。隊長はファフニールの方を向き警戒心の籠った目を向けた。
「・・・お前は七竜将の一人か?」
「ハイ、ファフニールと言います」
「一人で私達の前に現れるとは、それだけ自分の力に自信があるのか?それともただの愚か者なのか?」
「う~~ん・・・自分ではよく分かりません」
「フッ、そうか・・・」
悩み顔のファフニールを見て隊長は鼻で笑い、腰に納めてある騎士剣を抜いた。
「お前が愚か者か強者なのかは戦って見れば分かる。お前の様な幼い子供を斬るのは騎士道に反する行為だが、それが国に牙をむける反逆者なら話は別だ!悪く思うなよ」
「私達は反逆者じゃないんですけど・・・多分、信じてもらえませんよね」
ファフニールは説得する前にアッサリと諦めてギガントパレードを構えた。三番隊の隊員達もそれぞれ武器を構えてファフニールをジッと睨む。そして数秒の沈黙の後、双方は相手に向かって走り出した。この瞬間、ファフニールと三番隊の戦闘も開始される。
オロチとファフニールもそれぞれ見張っていた斥候隊と戦闘を開始し、森の中は次第に騒がしくなる。猛獣達が棲みつく森で行われた人間同士の争いは猛獣達をも巻き込み熱くなっていくのだった。