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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第二章~傭兵と騎士の生き方~
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第十二話  第八遊撃隊長 クリスティア

 元の世界へ戻る為の情報を集めるためにラピュス達と町を回るヴリトラ達。そんな彼等に突然誰かが声を掛けてきた。その声を聞いた第三遊撃隊の表情が一変する。

 声の聞こえた方を向くヴリトラ達。そこには金髪のロングヘアーに赤いヘアバンドをつけ、銀色の鎧にミニスカート、腰にはレイピアを収めて赤いマントを纏っている女性騎士が立っており、その女性騎士の後ろには数人の若い男性騎士が立っていた。状況から考えて、金髪の女性騎士はラピュスやアリスと同じ姫騎士にようだ。


「平民の人達と話しをしてそんな風に笑うなんて、何だかみっともないですわね。もう少し貴族としての威厳を持ったらどうです?」

「・・・誰かと思えば貴方か、クリスティア殿」


 ラピュスはクリスティアと呼ぶ姫騎士と向かい合い、彼女を鋭い目で見つめる。それに引き替えクリスティアはラピュスはあざ笑うような目で見ていた。見つめ合う二人の姫騎士を見ていたアリサは困り顔をしており、そんなアリサの肩をジルニトラが突いて呼んだ。


「アリサ、誰なの?あの偉そうな騎士は?」

「・・・あ、は、はい。彼女はクリスティア・ママレート殿、私達と同じ王国騎士団に所属している第八遊撃隊の隊長をしている方です」

「という事は、あの子も姫騎士なの?」

「はい、しかも名門貴族ママレート家の息女です」

「息女・・・それで、その家は有名なの?」


 ジルニトラがクリスティアの家の事を訊ねるとアリサは頷きクリスティアの方を向いた。


「ママレート家はレヴァート王国で代々騎士を務めてきた由緒正しい貴族です。ママレート家の人間は全員が騎士の中でも高い地位についており、騎士を引退したママレート家の当主、クリスティア殿のお父上は今でも伯爵の地位を持ち王国の内務事務官の一人を務めていらっしゃいます」

「内務事務官・・・つまり、あの子はお偉いところのお嬢様って訳ね?」

「ええ・・・性格は見ての通りで、今遊撃隊の隊長を務めていらっしゃるのもお父上であるママレート伯爵のお力とママレート家の名前のおかげ。彼女の騎士としての実力は、ハッキリ言って一般騎士と大して変わりありません」

「高飛車なのに実力は下、そんな相手に随分と偉そうなこと言われてるじゃない?カチンと来ないの?」


 偉そうな態度を取ってラピュスを馬鹿にするような目で見ているクリスティアを見てアリサに訊ねるジルニトラ。ジルニトラ自身もクリスティアの態度を見てイライラしているのか、表情が若干険しくなっている。ジルニトラの方を向いてアリサは弱々しく首を振った。

 

「・・・それは勿論。ですが私も隊長も平民上がりの貴族。それに引き替え、相手は名門貴族の上に内務事務官のお嬢様です。下手をすればママレート家を敵に回して私達の立場も悪くなってしまうんですよ」

「はぁ、言い返したくても言い返せない。なんだか情けないわねぇ・・・と言いたいけど、気持ちは分かるわ。私達の世界でも似たような物があるしね」


 自分達の世界でも政治家の息子や大手企業の令嬢などが大きな態度を取って平民や公務員をいい様に動かしている。それを考えて同情するジル二トラ。ニーズヘッグとファフニールもジルニトラの隣でラピュスとクリスティアの会話を見ていた。

 ジルニトラ達が話をしている時、クリスティアはラピュスを見ながら楽しそうな態度で話をしている。


「貴方は平民出身の貴族でしたわよね?それでしたら平民達と楽しく接してしまうのも分かりますわ。でも、貴族になった以上はもっと貴族らしくしてくださいませんこと?わたくし達の様な名門貴族まで貴方がたと同じように見られるのは不愉快ですもの」

「・・・貴族が平民と笑って接してはいけないと誰かが決めたのか?私が町の人々とどう接しようと勝手ではないか」

「確かに。ですが貴族は平民の上に立ち、彼等を導く立場にあります。いくら平民上がりの三流貴族であったとしてもその事は心しておいてくださいませ」

「くうっ!」


 平民から貴族になったラピュスの存在が面白くないのか、クリスティアはラピュスを見ながらクスクスと笑ってからかっている。周りでも彼女の取り巻きと思われる男性騎士達が同じように笑っていた。そんなクリスティア達を見ながら苛立ちを押せているラピュス。

 そんなクリスティアの態度を見ていたジルニトラと隣になっていたファフニールが我慢できなくなり、ラピュスの隣までやって来た。


「ちょっとアンタ!何なのよさっきから偉そうにして!」

「そうですよ!ラピュスさんは町の人達と楽しく笑ってただけじゃないですかぁ!」

「お、お前達・・・」


 自分の味方をするジルニトラとファフニールに驚くラピュス。さっきまで話しをしていたアリサも驚き、慌てる様子を見せていた。周りでも名門貴族のクリスティアと揉め事を始めたジルニトラ達に気付いた住民達が彼女達の方に視線を向け始める。

 突然自分に文句を言って来たジルニトラとファフニールに一瞬戸惑いを見せるクリスティアであったが、すぐに落ち着いて二人の方を見た。


「な、何ですか貴方がたは?」

「あたしはジルニトラ、こっちがファフニール。傭兵隊七竜将のメンバーよ」

「七竜将?・・・ああ、貴方がたですか、ラピュスさん達第三遊撃隊と共にクレイジーファングを壊滅させたと言う傭兵隊は?」


 七竜将の事を聞いていたのか、ジルニトラとファフニールを見てもあまり驚かないクリスティアは頷きながら二人の頭の先から爪先までを見下ろす。見慣れない格好のした傭兵達の事を聞いてはいたが、実際に見ないと信じられなかったのかクリスティアはしばらく二人を観察していた。


「確かに見た事の無い服装をしていますね。それに変わった武器を持っていらっしゃるとか?」

「あたし達の事を知っているとは光栄ね」

「騎士として平民や傭兵隊の事を調べておくのは常識ですからね?それにしても、ラピュスさんもまだまだですね?傭兵隊の力を借りないと盗賊ごときを倒せないなんて」

「何?貴方はあの状況を知らないからそんな事が言えるのだ!」

「あらあら、随分と大口を叩きますねぇ。ご自分の立場が分かってて?」


 見下して笑うクリスティアにラピュスも次第に苛立ちを抑えられなくなってきていた。ジルニトラとファフニールもクリスティアの態度を見てますます機嫌を悪くしていく。


「アンタねぇ、クレイジーファングの連中はかなりの人数だったのよ?遊撃隊だけの力じゃ壊滅させるのは無理よ」

「あら、わたくし達第八遊撃隊なら簡単に殲滅させる事ができましたわ」

「フン、口だけなら何とでも言えるわよ。特に自分の力を過信している馬鹿な子とかはね?」

「・・・何ですって?・・・それはわたくしに向かって言ってるのかしら?」


 ジルニトラの挑発され、さっきまで人を馬鹿にしていた表情から一変しジルニトラを睨めつけるクリスティア。自分は平気で人を見下すのに、他人に馬鹿にされた途端に熱くなるその態度は傲慢な性格の持ち主のお決まりの反応だった。

 名門貴族であるママレート家の息女を馬鹿にしているジルニトラを見てラピュスとアリサは言葉を失い、そして周りの騎士達や住民達はどよめき始める。平民が貴族に喧嘩を売るなんてありえない事だからだ。だが、七竜将はファムステミリアの住人ではないため、そんな事は関係なかった。


「お、おい止せ。彼女の父上はこの国の内務事務官を務めてらっしゃるのだぞ?下手に喧嘩を売れば、大きなとばっちりを受ける」

「何よ?アンタだってさっきまでイライラしていたじゃない?」

「そ、それは・・・」


 さっきまでの自分顔を見られていた事にラピュスは黙り込む。ジルニトラとファフニールはクリスティアを睨み、クリスティアも二人を睨んでいる。傭兵二人と名門家の姫騎士が対立している姿を見て周りの人間達が皆ジルニトラとファフニールを哀れむような目で見ていた。平民と貴族が争い、どちらが勝つかなど分かり切った事だからだ。


「わたくしのお父様はこの国の内部事務官を務めていらっしゃるのです。つまりその気になれば貴方がたをこの国から追い出す事だって可能なのですよ?

「それであたし達が怖気づくと思ってるのかしら?生憎、あたし達は法に縛られない世界で生きて来たの」

「ですから、私達はどんな権力を持っている人達が相手でも怖くありません!」


 クリスティアの身分を知っていながらも下がらない二人にクリスティアは一瞬驚きの表情を見せた。彼女の後ろに控えていた数名の騎士達も同じような反応をし、ラピュス、アリサも目を丸くしている。


「それに、うちのリーダーもアンタみたいな人間を嫌っていてね。きっとあたし達と同じ反応をすると思うわよ。そうよね、ヴリトラ?」


 ジルニトラがヴリトラの方を向いて呼びかける。だが、さっきまで野菜屋の前で立っていたヴリトラの姿は無かった。気付いたジルニトラ、ファフニール、そしてラピュスが周りを見回して探していると、ニーズヘッグが三人を手招きで呼ぶと指を指した。指を指した方向を見ると別の店の前で果物を見ているヴリトラの姿があった。


「おばちゃん、これリンゴだよね?」

「ああ、そうだよ。買っていくかい?」

「おう、一つくれ♪」


 リンゴを店の女性から受け取り、ファムステミリアの硬貨を渡しリンゴを買っているヴリトラの姿がラピュス達の目に入る。


「ずっとあそこにいたぞ?」

「「ガクッ!」」


 ヴリトラの行動を説明するニーズヘッグの言葉にジルニトラとファフニールはその場でコケる。ラピュスとアリサはジト目で呑気なヴリトラを見ていた。

 倒れたジルニトラは立ち上がりリンゴをかじっているヴリトラを叫ぶように呼ぶ。


「ヴリトラー!アンタ何やってんのよ!?」

「ん?」


 呼ばれたヴリトラはリンゴを片手にラピュス達の所へ歩いて行き、周りを見回す。何が起きたのか理解していないような顔をしていた。


「何かあったのか?」

「あったのか?じゃないわよ!何も聞いてなかったの?」

「ん~、お前とファウの大きな声が聞こえてその子の姫騎士さんともめてる事は知ってんだけど・・・」

「つまり、一部始終って事?」


 ファフニールが呆れるような顔で訊ねると、ヴリトラは頷いてリンゴをかじる。


「ああ。確か俺が聞いたのは・・・『ちょっとアンタ!何なのよさっきから偉そうにして!』のあたりから・・・」

「殆ど最初の方じゃない!」


 ジルニトラの第一声から聞いていた事を知ってツッコミを入れるジルニトラと再びコケるファフニール。ニーズヘッグもそんなヴリトラに呆れ顔をしており、ラピュスとアリサはガックリと肩を落とす。

 残されたクリスティアは状況が理解できていないのかポカーンとしている。だがすぐに顔を横に振って我に返った。


「な、何ですか?このだらしない人は?」

「ん?誰がだらしないって?」


 自分の事を言われてムッとするヴリトラはクリスティアの方を向いた。ジルニトラが一度溜め息をついてクリスティアの事をヴリトラに改めて説明する。


「この子が第八遊撃隊のクリスティア隊長よ。何でもお父さんがこの国の内務事務官を務めてるんですって」

「内務事務官っていうと、国家や治安自治に関わる仕事をしているんだな?」

「そういう事よ。かなりの権力を持ってるってわけ」


 ジルニトラは目を閉じ、やれやれという様に手を広げる。ヴリトラはジルニトラの方を見て話を聞いた後にもう一度クリスティアの方を向いた。手に持っているリンゴをかじりにながら目の前の姫騎士をジーっと見ている。クリスティアは自分の事を興味の無さそうな目で見ているヴリトラの表情とリンゴを食べ続けている態度が気に入らないのか顔に苛立ちが見えだす。


「あ、貴方!人と話す時にリンゴを食べているなんて、失礼とは思わないのですか!?」

「ん?・・・ああ、こりゃ失礼、すぐに全部食っちまうから待っててくれ」

「なっ!食べ続ける気ですの・・・?」


 リンゴを食べ続けようとするヴリトラの態度にクリスティアの我慢も限界に来ていた。リンゴを食べ終えて芯だけとなったリンゴを何処に捨てようか、辺りを見回しているヴリトラ。


「くぅ~~~っ!いい加減になさい!貴方、姫騎士を、しかも内務事務官の娘であるわたくしを目の前にして何も感じませんの!」

「・・・ん?」


 辺りを見回すのを止めてクリスティアの方を見るヴリトラは不思議そうな顔をしていた。状況を理解していないような顔をしているヴリトラにクリスティアはますます機嫌を悪くする。周りでもラピュスとアリサは汗を掻き、騎士達や住民達は悪くなる雰囲気にヴリトラ達から離れ始めた。だがニーズヘッグ達七竜将はヴリトラとクリスティアの傍から離れようとせずにその場でジッとする。

 クリスティアは貴族の中でも上の方にいる自分に失礼な態度を取ったり、言葉を発する七竜将達を睨み付け指を指して怒鳴り散らす。


「貴方がたは貴族に対する接し方がまるでなっていません!ましてやわたくしは名門ママレード家の人間ですよ!?そのわたくしに対して何という無礼な態度ですの!」

「・・・あのねぇ、アンタがどれだけ偉いかなんてあたし等には関係ないの。あたし等は自由気ままな傭兵、気に入らない奴にはとことんぶつかるのよ」

「そーだそーだぁ!」


 クリスティアを睨み返すジルニトラはその隣で小さく跳びはねるファフニール。その後ろではニーズヘッグが腕を組みながらジッとクリスティアを見ており、ヴリトラはリンゴの芯を離れた所にある屑籠の様な物の中に投げ入れていた。

 七竜将の態度を見ていた住民達は恐れる様な視線で見ており、騎士達は驚きと哀れみの表情で七竜将を見ている。アリサも青ざめて言い合いを見ていた。しかし、ラピュスはさっきまでの驚きの表情から何か大きな存在を見るような目で黙り込んでいる。


(な、何なんだアイツ等は・・・?大きな力を持っているクリスティアを前にして一歩も下がらずに言い返すなんて、この世界では考えられない行為だ。アイツ等の世界は上下関係の無い世界なのか?それとも、アイツ等はそういう事を何も感じないのか・・・?)


 七竜将の態度に驚きと尊敬の様な気持ちを胸に抱き、黙ったまま彼等を見ているラピュス。そんなラピュスに気付いたアリサは青ざめた顔から一変しラピュスの横顔を目を丸くして見ている。

 一方で自分に対して全く敬意の無い態度を取る七竜将にクリスティアの我慢も限界に来ていた。


「・・・もう許しません!貴方がたの様な人はお父様にお話ししてすぐにでもこの国にいられないようにします!今更泣いて謝っても手遅れですからね!それからラピュスさん、彼等の知り合いである貴方の管理能力の悪さをしっかりと報告いたしますので!」

「なっ、何だと?」


 ラピュスに八つ当たりをするように言い放つクリスティア。彼女はそう言ってヴリトラ達に背を向けてその場を去ろうとする。そんなクリスティアの後ろ姿を見ていた七竜将は黙ってその背中を見ていた。するとヴリトラは腕を組み、目を閉じてそっと口を開く。


「どうぞ、ご自由に・・・」


 ヴリトラの言葉に足を止めるクリスティア。ゆっくりとヴリトラの方を向くと、そこにはさっきまでの抜けているところを見せていたヴリトラと違い、以前クレイジーファングと戦っていた時に見せた鋭い表情のヴリトラが立っていた。その後ろにはニーズヘッグ達も同じ表情でクリスティアを見つめている。


「俺達の事はどうしても構わない。だが、関係の無いラピュスの罰するのは筋違いじゃねぇのか?」


 鋭い目でクリスティアを見つめるヴリトラ。クリスティアはその鋭い目に一瞬驚いて後ろに下がった。

 ヴリトラは自分達がクリスティアを挑発して彼女の敵に回るとい事を覚悟していた。だが、ただ見ていただけにラピュスに八つ当たりをするように罰を与えようとするクリスティアの行動は見過ごせなかったのだ。そんなヴリトラを見てラピュスはまばたきをしながら驚きの顔を見せている。


「今のアンタは自分のイライラを関係の無いラピュスにぶつけて逆恨みしている様にしか見えない。それはとても騎士のやる事とは思えないな?」

「な、何を言うのです?わたくしは八つ当たりなど・・・」

「してるじゃないのよ。自分の思い通りに動かないあたし等が自分に喧嘩を売った事が気に入らないからラピュスに八つ当たりしたんでしょう」


 ヴリトラに続いてジルニトラもクリスティアの口論をする。クリスティアは自分が逆恨みしている事実を指摘され、更に騎士のやる事ではないと言われた事で動揺を見せていた。今まで自分はそんな事を言われた事が無かったのか、それを聞かされたクリスティアはかなり動揺している。そこへ更にヴリトラ達の口論が続く。


「アンタみたいな箱入り娘は世間の事を何も知らずに悠々自適な生活を送って来たんだ。だから何でもかんでも自分の思い通りになると思ってたんだろう?」

「でも、実際自分の思い通りにはならなかった事を知って、家と父親に力を使い、気に入らない事を全部抑え込んできた」

「皆、汗を掻いて一生懸命働いて自分の欲しかった物を手に入れるの。ラピュスさんもそうやって姫騎士になったんだよ」

「親の力で何でも手に入れ、何一つ努力もしていないような小娘が、偉そうな事を言うな」

「な・・・なぁ・・・何ですって・・・」


 名門貴族の自分を説教する平民がいた。その現実がクリスティアに大きな衝撃を与える。周りでは名門貴族のクリスティアに説教をする七竜将を見て驚いている住民達、固まっている騎士達、そして貴族に屈しない七竜将を見て驚くアリサとラピュスの姿があった。

 ヴリトラはクリスティアを指差して止めの一言を言い放った。


「人を見下しているお前の方が、騎士として失格だと俺達は思うけどな?」


 その一言がクリスティアに今までに感じた事の無い屈辱と衝撃を与えた。しばらく自分の耳を疑っていたクリスティアは顔を横に振った後に七竜将を睨み付ける。


「よよよよ、よくもこのわたくしを、おおお、お説教などとぉ!貴方がたの言動はわたくしだけではなく、我がママレート家に対する侮辱ですわ!貴方がたの事は必ずお父様にご報告させていただきます!」

「だから好きにしろっていてるだろう?でもそんな事をしたらアンタが自分の気に入らない相手は全員親の力でなんとかする卑怯者って認めた事になるぞ?」

「!!」


 ヴリトラの言葉に表情を急変させるクリスティア。今目の前で起きているのは姫騎士としての自分と傭兵である七竜将の問題だ。もしここで親の力を使えば、クリスティアは騎士としての誇りを捨てて親の力にすがった只の娘と自分と認める事になってしまう。

 今は一人の騎士として此処に立っているクリスティアのとって、その行動が騎士の誇りに反する行為となる。クリスティアは拳を震えさせて黙り込んだ。


「・・・どうした?お父様のところに行かないのか?」


 白々しく訊ねるヴリトラ。俯いていたクリスティアは顔をあがてヴリトラを睨み、自分の手袋を外してヴリトラに投げつけた。それを見たヴリトラはその手袋の意味をすぐに理解する。

 

「決闘か?」

「そうです!ヴリトラとおっしゃいましたね?貴方に決闘を申し込みます!」

「な、何ぃ!?」


 突然ヴリトラに決闘を申し込んだクリスティアにラピュスは驚く。周りでも騎士や住民達は驚いてざわめき始める。手袋を拾い上げたヴリトラは後ろにいるニーズヘッグ達の方を向き、ヴリトラを見たニーズヘッグも黙って頷く。確認したヴリトラは再びクリスティアの方を向いた。


「貴方のような礼儀知らずの傭兵ごときにお父様のお手を煩わせるわけにはいきません!姫騎士として貴方の無礼をわたくし自らの手で償わせます!」

「へぇ~、どうやら騎士としての誇りくらいは持っていたようだな?」


 手の平を返したように親の力を借りる事から決闘に切り替えたクリスティアを見てヴリトラは少しだけ彼女を見直した。手袋を投げ返し、それを受け取ったクリスティアはヴリトラをジッと睨む。


「決闘は明日の正午。この町の中央広場にある噴水の前で行います。もしわたくしが勝ったらわたくしへ非礼を詫び、即刻この町、いいえ、この国から出て行ってもらいます!」

「・・・OK。だけどもし俺が勝ったら、ラピュスを馬鹿にした事で彼女に謝罪してもらうぜ?」

「え?」


 ヴリトラの口から出た意外な言葉にラピュスは思わず声を漏らした。自分ではなく、関係の無いラピュスの事を条件に出した事に驚いたのだ。ヴリトラの条件を聞いたニーズヘッグ達は小さく笑いヴリトラの見る。


「な、何でわたくしがラピュスさんに謝罪しなくてはならないのですか!?」

「・・・逃げるのか?」

「なっ!・・・・・・いいですわ、もし貴方が勝ったら土下座でも何でもして差し上げますわ!」

「ニッ・・・決まりだな」


 ニヤついて決闘条件を整えたヴリトラとクリスティアは火花をちらつかせた。

 ファムステミリアに来てから僅か二日でとんでもない大事をティムタームで引き起こしてしまった七竜将。名門貴族の姫騎士との決闘、一体どんな展開へと進んでいくのだろうか。


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