第百二十七話 全国指名手配! 七竜将の潜伏
七竜将を危険な存在だと判断した元老院は直轄の白銀剣士隊を使って七竜将を無人のナギカ村に誘き寄せて抹殺しようとする。そしてナギカ村とグランドウルフ団の一件が元老院の仕組んだ事だという事を七竜将に知らせに来たラランとアリサも証拠隠滅の為に抹殺の対象のしてしまう。ヴリトラ達は何とか白銀剣士隊から逃げ延びたも、レヴァート王国中で指名手配されてしまうのだった。
ヴリトラ達が逃亡した翌日、首都ティムタームを始め、国中の町や村に七竜将と二人の姫騎士の反乱という偽りが書かれた号外は広がる。ヴリトラ達の偽りの汚名は瞬く間に国民の耳に入り、傭兵や騎士団は血眼になってヴリトラ達を探し始めるのだった。
「な、何ですって・・・?」
ティムタームの騎士団詰所でラピュスはガバディアと向かい合いながら耳を疑う。十数分前、任務から戻って来たラピュスは町が騒がしい事に気付いて任務の報告をするのと同時に何があったのかを詰所で訊ねた。そして詰所にいたガバディアからヴリトラ達が王国に反乱したという話を聞いたのだ。
「お前、今まで知らなかったのか?」
「ハ、ハイ。任務を終えてティムタームに戻るまでの間、号外を読む事がなかったので・・・」
「そうか。それなら知らないのも無理はないな・・・」
「・・・それで、ヴリトラ達は今何処に?」
ラピュスがヴリトラ達の居場所を尋ねるとガバディアは目を閉じて顔を横へ振る。
「分からん。元老院の話では彼等はナギカ村を襲撃し、偶然通りがかった元老院の白銀剣士隊と出くわしてそのまま逃亡したと・・・」
「ヴリトラ達が村を襲撃・・・?」
「何でも既に村には誰もおらず、七竜将が遺体をすべて処分したとか・・・」
「まさか団長、それを信じていると・・・?」
「勿論信じてなどおらん。彼等がこの国の為に今まで何度も尽くしてきてくれたのだ、そんな七竜将が反乱するなど考えられん!」
ガバディアは元老院ではなく七竜将を信じていると真剣な表情で話す。それを聞いたラピュスは少しホッとしたのか小さく息を吐く。二人の周りでは大勢の騎士や受付を担当している者達が二人の方を黙って見つめていた。
ラピュスは周りの騎士達の視線を気にする事無くガバディアとの話を続ける。
「・・・それで、ラランとアリサも七竜将に加担し共に反乱したと?」
「少なくとも元老院はそう言っている」
「バカな!二人はこの国を守る為に姫騎士となったのですよ?その二人が王国に反乱を起こすなど、あり得ないし無茶苦茶です!」
「落ち着け、フォーネ。儂もお前と同じ気持ちだ、七竜将と同じでアーナリアとレミンスが反乱したなどと思っていない。だから詳しい話を聞く為に元老院に面会を求めた」
「それで元老院は?」
「・・・『奴等は反逆者だ』と言ってまともに話もしてくれなかった」
ろくに話もせずに追い返した元老院の行動を不審に思ったガバディアは詳しい事を調べようとするも、まったく情報が無く調べる事すらできなかったのだ。
ガバディアの話を聞いたラピュスは俯いたまま難しい顔で考え込む。七竜将や自分の部下だったラランとアリサが国に反乱を起こすはずがない、彼女は心からそう信じていた。
「私はそんな話は信じません。彼等は傭兵ですが恩を仇で返す様な人間ではないです!この国の為に何度も敵と戦い、人の苦しみや痛みを自分の事の様に感じる者達です」
「フォーネ」
「そもそも、彼等が反乱する動機や証拠が無いではないですか?どうして彼等がそんな事をする必要があるのです?」
「フォーネ!」
「疑うのならあの謁見の日に七竜将をよく思わなかった元老院や上級貴族を――」
「ラピュス・フォーネェ!!」
「!!」
ガバディアの怒鳴り声にラピュスは驚き言葉を止める。周りの者達も驚きて全員固まった。
「今の言葉は王国の貴族達に対する侮辱だぞ?口を慎め!」
「・・・すみません」
我を忘れて貴族に対する暴言を口にした事に気付いたラピュスは謝罪する。落ち着いたラピュスを見ながらガバディアも腕を組んで息を吐いた。
「お前の気持ちも分かる。だが、元老院の権力がどれ程大きいものなのかはお前もよく知っているだろう?騎士団長である儂でも簡単に異議を唱える事もできんのだ。ましてやお前は爵位を持っているとはいえ平民の出、元老院に盾突いて意見すればただでは済まん」
「クゥ・・・」
自分と元老院の立場と権力の違いを突きつけられて悔しがるラピュスは俯いて歯を食いしばった。
「陛下も今回の件を不審に思われて元老院と話し合いをされている。今は陛下にお任せするのだ」
「ハイ・・・ところで、姫様は?」
ラピュスがパティーラムの事を訊ねると、ガバディアは腕を組むのを止めて詰所の窓に近づき外を眺める。
「パティーラム様も七竜将の事を聞かれた時はとても驚いておられた。でも、儂等やお前と同じであの方も七竜将が反乱するわけがないと仰っておられたよ」
パティーラムも自分やガバディアと同じようい七竜将を信じている事を知ってラピュスは気持ちが少し楽になったのか小さな笑みを浮かべる。ガバディアは振り返りラピュスの方を向いて真剣な表情で口を動かした。
「姫様も真実を知る為にご自分にできる事をされておられる。あの方なら儂等以上の権限をお持ちだ、儂等では知ることのできない事も知る事ができよう」
「ハイ・・・」
「今は陛下と姫様にお任せするしかない。儂もできる限りのことはする。だからお前は無茶をせずに自分のできる範囲の事をするのだ。いいな?」
「分かりました・・・」
話が終り、ラピュスはガバディアに一礼すると静かに詰所から出て行く。残ったガバディアや騎士達は詰所に出入口をだたジッと見つめているのだった。
詰所を出たラピュスは街道を静かに歩いていた。周りでは住民達が号外を見つながら何やら話をしており、その内容が殆ど七竜将と自分の部下だった二人の姫騎士の事。その中には七竜将は反逆者と罵る者もいれば、七竜将の反乱は間違いだと否定する者もいた。町中から聞こえてくる七竜将に対する暴言はラピュスの心に突き刺す様な痛みを与える。
(なぜこんな事が起きたんだ?元老院が発表した七竜将反乱の事実、普通に考えれば元老院が七竜将を消す為に仕組んだ罠だと考えられるが、証拠と言えるものが無い・・・)
ラピュスは頭の中で元老院が何か絡んでいる確信しており、必死で元老院の証拠が無いかを考えていた。だが全く思いつかず、ラピュスはその場で立ち止まり俯きながら頭を掻いた。
「くそぉ!団長の仰る通り、私の権力ではこの状況をどうにかする事はできない。一体どうすれば・・・・・・ん?」
顔を上げたラピュスはふと目の前の細い道を見つめる。その道は七竜将の本拠地であるズィーベン・ドラゴンへ続く道だ。既にズィーベン・ドラゴンは騎士団の管理下に入っており、一般の住民は勿論、騎士でも無許可ではいる事はできなくなってしまっていた。ラピュスは細道を黙って見つめている。
(・・・落ち着けラピュス。アイツ等ならきっと大丈夫だ。こんな事では絶対にくじけたりやられたりなどしない。私は私のできる事をするんだ、そしてヴリトラ達が無実である事を証明する!)
心の中でヴリトラ達が無実である事を自分に言い聞かせて気合を入れ直すラピュス。そして彼女は騎士としての自分の職務を熟しながら七竜将が無実である証拠を探す為に行動するのだった。
――――――
その翌日、天気は生憎の雨。太陽は雨雲で隠れてしまい、大量の雨がレヴァート王国の大地を濡らしていく。国中の町や村でも人々は家の中に逃げるように入って行き、静かになっていた。
レヴァート王国の北部にある小さな町「リーリン」の近くにある森の中にある洞穴。その中に停められているジープとバン。そしてその奥では焚き火を囲んでいるヴリトラ達の姿があった。ナギカ村で逃げた後、彼等はひたすら北の方へ逃げてリーリンの近くにあるこの森の中に逃げ込み、この二日間潜伏していたのだ。
「今日は凄い雨だな・・・」
「そうですね・・・」
焚き火の前で丸太を椅子代わりにして座り込んでいるヴリトラとアリサ。その後ろではオロチ、ニーズヘッグ、ファフニールが姿勢を低くしてジープに積まれていた荷物を確認しており、バンの中ではジャバウォックとリンドブルムがまだ降ろされていない段ボールや武器などを運んでいた。
「これで全部かな?」
「ああ、武器弾薬や食料を全部下ろした」
バンから降ろした荷物をチェックしたリンドブルムとジャバウォックはそれをニーズヘッグとオロチの下へ運ぶ。
「それで終わりか?」
「ああ」
「これであと何日持つだろうな・・・」
オロチはリンドブルムとジャバウォックが運んで来た荷物とさっきまで自分とニーズヘッグがチェックしていた荷物を見ながらあと何日持つかを考える。グランドウルフ団の依頼で使う分の食料と弾薬しかなく、長くは持たない事は分かっていた。だがそれで何とかしようとオロチは頭を働かせる。
考え込むオロチを見た後、ジャバウォックは周りを見回した後に焚き火の前で号外を見ているヴリトラの方を向く。
「そう言えば、ジルとラランは何処にいるんだ?」
「町へ行ったよ。このままじゃいずれ食料も尽きるから何とか食料を確保してくるって」
「おいおい、大丈夫なのかよ町なんかに行って?俺達は今では賞金首なんだぞ?」
町へ行った事を聞かされたジャバウォックは心配そうな顔で訊ねる。するとニーズヘッグがジャバウォックの方を向いて立ち上がった。
「食糧が尽きてしまうと言うのは確かだ。それに今この国でどんな状況なのかを情報を得る必要がある。情報を得て俺達の濡れ衣を晴らす方法を考えないといけない。じゃないと俺達は何時まで経っても潜伏生活をする事になるからな」
「確かにそうだが、俺達は指名手配される前から有名人なんだ。町の中には俺達の顔を知ってる奴だっているかもしれねぇぞ?」
「それなら心配ねぇよ。変装して行ったから」
「変装?」
ヴリトラの言葉にジャバウォックは小首を傾げて訊き返す。すると、洞穴の入口の方から声が聞こえ、ヴリトラ達は自分の武器を手に取る。外から洞穴に入ってきた二つの影、フード付きマントとサングラスを付けて顔を隠しているジルニトラとラランだった。
「フゥ~!今戻ったわよぉ~」
「・・・ずぶ濡れ」
濡れているフード付きマントを脱ぎ、サングラスを外したジルニトラとラランはマントの下に隠していた自分達の武器と町で買って来た食料と号外を下ろした。
「お疲れさん。町はどうだった?」
「この雨だからね、外には殆ど人もいなかったわ。まぁ、買い出しの時にお店の中で店員さんと話をしたくらいで誰にも怪しまれなかったわ」
「・・・これのおかげ、かも」
ラランはそう言って掛けているサングラスを外す。今まで見た事の無い道具に少し意外そうな顔を見せていた。
「何ですか?その黒い眼鏡は?」
アリサはサングラスを指差しながら尋ねると、ジルニトラが自分が掛けているサングラスを外してアリサに見せた。
「これはサングラスって言って日差しや強烈な光から目を保護する為の眼鏡よ。普通の眼鏡と違って目を隠す事もできるから変装なんかにはよく使われるの」
「目を隠す・・・けど、目を隠しただけでは直ぐにバレちゃうんじゃ・・・」
「そうでもないわよ?人間ってサングラスぐらいで結構バレないし。現に食料を買ってた時も店員さんに顔見られたけど、怪しまれなかったわ」
「・・・ただ、サングラスが珍しかったのかジッと見てた」
ラランが持っていた荷物をオロチの所へ運びながら静かな声で言う。だがその表情は変装して気付かれなかった事が楽しかったのか笑っている様にも見えた。
「それよりも、新聞を見てよ?」
ジルニトラはそう言って持っている号外をヴリトラに向かって投げる。それをキャッチしたヴリトラは号外を広げた。リンドブルム達も号外の内容が気になって顔を覗き込ませる。
「・・・へぇ~、また賞金が上がってやがるな?『国家反逆の罪を犯した傭兵隊七竜将と元王国騎士団の姫騎士ララン・アーナリア、アリサ・レミンスの二名。七竜将七名の懸賞金を4000ティルから5500ティルに、姫騎士二名の懸賞金を3400ティルから4200ティルに変更。目撃情報を求める』か。・・・ったく、僅か二日で懸賞金を上げるとは、完全に俺達を凶悪犯に仕立て上げやがって!」
号外の内容にジャバウォックは苛立ちを見せる。リンドブルム達も納得が行かずにジッと号外に書かれている内容を見ていた。
「酷い書かれ様だね?私達が反逆者なんて、やっぱりこれも元老院の仕業なの?」
「間違いないだろう。奴等が私達に存在すらしていない反逆の濡れ衣を着せて抹殺しようとしているのだから、この号外の内容も元老院が発表してそれを書かせているんだ・・・」
ファフニールの後ろから彼の質問に答えるオロチ。その顔は無表情だが、声は低く苛ついている事が分かる。
「でも、町の人達や傭兵達はともかく、どうして騎士団の人達まで私達を反逆者と見ているんでしょう?騎士団の殆どが七竜将の活躍を知っています。存在すらしていない反逆の罪を簡単に信じるとは思えません」
「・・・私達の事も」
アリサとラランはなぜ元老院がでっち上げた罪を騎士団の人間達が信じて自分達を反逆者として探しているのか分からなかった。今まで共に戦ってきた七竜将や自分達が突然反乱を起こしたと知らされて疑問を持たなかったのか考えているのだ。
二人が悩んでいると、ニーズヘッグが号外を見ながら二人の疑問に答えた。
「それは恐らくあのナギカ村だろうな・・・」
「ナギカ村?あの無人になっていた村ですか?」
「ああ。多分奴等は無人のナギカ村に寄った後にギャルトム砦に来たところを住民達を俺達が殺したからその罪で処刑するとでも言って砦で殺すつもりだったんだろう」
「・・・それは考え難くないですか?だってあの村は数日前までは普通に村人が住んでいたんですよ?村が無人だったからってたまたまやって来た私達が殺したと信じるのは・・・」
「確かに普通は考え難い事だ。だが、もしあの村が俺達が行く直前に無人になっていたとしたら?」
「え?」
ニーズヘッグの言葉にアリサは思わず聞き返す。
「・・・もし、あの村が俺達が行くほんの数分前に何者かに襲われて、村人が全滅、無人になっていたとしたら、俺達が村を襲ったと考えられても不思議じゃない。そしてその罪を俺達に擦り付けた」
「そ、そんな・・・」
「・・・でも、それなら騎士団の人達が村が無人になった直後に来た私達を疑っても不思議じゃない」
「そういう事だ。そしてそんな事ができるのは・・・あの白銀剣士隊、もしくは奴等の仲間意外に考えられない。つまり、元老院が仕組んだという事は確実って訳だ」
「・・・それって、皆さんを処刑する為だけに何の罪もない村人達を殺したって事ですか・・・?」
「あくまで、俺の想像だ」
ニーズヘッグの言葉を聞いたアリサは驚きの表情で丸太の椅子に座り込んだ。アリサも俯いて握り拳を震わせている。
「そして奴等は俺達が村から逃げた後に首都に戻って俺達がナギカ村を襲ったと騎士団の連中や城の人達に話して俺達が反乱を起こしたと信じ込ませたって訳か・・・ったく、よく考えられた作戦だよ」
ヴリトラは号外を畳んで後ろから覗き込んでいるジャバウォックに渡すと、ジャバウォックは号外の表紙を見て舌打ちをする。
アリサは座ったまま俯き、歯を食いしばって悔しがっていた。
「自分達の気に入らない相手を始末する為に何に罪もない村人達を殺してしまうなんて、絶対に許せません!」
「・・・陛下にこの事を知らせる」
アリサとラランは顔を上げて怒りと悔しさに満ちた表情を見せる。するとヴリトラとジャバウォックがそんな二人を宥めた。
「落ち着け、二人とも。気持ちは分かるが今は耐えろ」
「そうだぜ?今俺達は国中を敵に回しているんだ。そんな状態で人前に出てみろ、話をする前に捕まっちまう」
「でしたら、首都に送られた時に陛下にその事を伝えれば!」
「話をする為だけにわざと捕まるって言うのか?例え陛下に話を聞いてもらえたとしても、元老院が仕組んだという証拠が無い」
「うっ・・・」
アリサはヴリトラの言葉に黙り込むまた俯いてしまう。そんなアリサを見てヴリトラをそっと肩に手を置いた。
「・・・悪かったな?俺達のせいでお前とラランまで巻き込んじまって?」
「ヴリトラさん?」
「お前の気持ちはよく分かる。俺だって腸が煮えくり返りそうだ。だけど、だからと言って先走ったら捕まってそれで終わっちまう。冷静になってチャンスを待つんだ、時間はまだある」
「・・・分かりました。私こそすみません、カッとなってしまって」
冷静になって謝るアリサを見えヴリトラ達は小さく笑う。ラランも冷静になったのかその場で膝を抱えながら座り込んだ。
「それでヴリトラ、これからどうするの?」
「もう少し此処に身を隠していよう。まずはあの事件が元老院の仕組んだ事だという証拠を集めるんだ。だけど、これほどの計画を立てる連中だ、簡単には証拠を残したりしないだろう。だから元老院の騎士隊が現れたら、奴等から情報を得る為に戦う事になる。それまでは無駄な戦いはしない為にできるだけ身を隠すんだ。弾薬や食料も限られてるわけだし」
ヴリトラの提案を聞いたリンドブルム達は頷く。それからヴリトラ達は二日、洞穴の中で過ごして次の潜伏場所を探す為に森を出て行ったのだった。
レヴァート王国中を敵に回す事になってしまったヴリトラ達。元老院の仕組んだという証拠を見つけ出し、自分達の無実を証明する為の戦いが幕を今幕を開ける。