第百二十四話 打ち明けた真実 新しい仲間はお姫様!
謁見を終えて帰ろうとするヴリトラ達の前にパティーラムが姿を現す。彼女はヴリトラ達に話があると言って彼等を自分の部屋へ招待した。戸惑いと驚きを感じながらもヴリトラ達はパティーラムの後をついて行く。
ヴリトラ達はパティーラムに案内されて廊下を歩いて行くと一つの部屋の前にやって来た。木製の二枚扉の前に立ち、ゆっくりとドアノブを回して扉を開けるパティーラム。中に入ると、学校の体育館の半分くらいの広さの部屋で天井からはシャンデリア、壁には肖像画が絵画などが飾られている。アンティークの机と椅子に大きな鏡、そして部屋の奥にはキングサイズのベッドが置かれてあった。まさに王族の部屋に相応しい場所と言える。
「さぁどうぞ?楽になさってください」
微笑みながらヴリトラ達を自室に招待するパティーラム。今まで見た事の無い豪華な部屋にヴリトラ達は目を丸くして驚き部屋を見回している。
「こ、これが、パティーラム様のお部屋、ですか・・・?」
「ええ。お父様やお姉様のお部屋と比べたら大したことはありませんが・・・」
(これより凄いって、陛下やお姉さんの部屋はどんだけ豪華なんだよぉ~!?)
パティーラムの部屋よりも豪華な部屋があると聞かされて更に目を丸くして驚くヴリトラ。ラピュス達も同じように驚いている。ガバディアは城に何度も出入りしており、見慣れているせいか殆ど驚いておらず、オロチもあまり興味が無いのか無表情のまま部屋を眺めていた。
ヴリトラ達が驚いている中、パティーラムは机の上に置かれているベルを手に取り軽く鳴らした。すると部屋の入口の扉が開き、メイド服を着た女性二人が静かに入ってくる。どうやらパティーラムの侍女のようだ。
「お呼びでしょうか?姫様」
「この方々にお茶をお出ししてください」
「「かしこまりました」」
侍女達は揃って返事をすると一礼して静かに部屋を出て行く。扉が閉まるのを確認したパティーラムはヴリトラ達の方を向いて小さく息を吐いた。
「突然部屋にお連れしてすみませんでした」
「い、いえ、別に構いませんよ。それより俺達に聞きたい事っていうのは何ですか?」
ヴリトラはパティーラムに訊ねると、ラピュス達も一斉にパティーラムの方を向いた。パティーラムはゆっくりと部屋の窓の方を向き空を眺める。
「・・・皆さんは何処からいらっしゃったのですか?」
「え?」
突然の質問にヴリトラは上手く理解できずに思わず声を漏らした。
「・・・何処からって言いますと?」
「皆さんは本当にこのヴァルトレイズ大陸とは違う大陸からいらっしゃったのですか?」
「「「「「「「!」」」」」」」
パティーラムの言葉を聞いた七竜将全員の表情が一瞬驚きの表情に変わる。ラピュス達姫騎士やガバディアも少し驚きの表情を浮かべていた。
「・・・どうしてそう思われたのですか?」
ラピュスがパティーラムを見て訊ねた。彼女の額には微量だが汗が浮かび上がっている。パティーラムはゆっくりとラピュスの方を向いて真剣な表情で見つめて来た。
「・・・やはり違うのですね?」
「えっ?」
「もし違うのでしたら、最初に私の質問の内容を否定すると思っていました。ですがラピュスさんは、どうしてそう思うのかと尋ねてられました。まるで、私の質問の内容の一部が当たっているかの様に・・・」
「・・・ッ!」
「しまった!」と言いたそうな顔を見せるラピュス。それを見たヴリトラ達も「あちゃ~」という顔を見せている。ガバディアも呆れる様な顔で溜め息をついた。
ラピュスの反応を見たパティーラムは自分の推測が確信へと変わったと感じてラピュスや七竜将をジッと見つめる。
「・・・お話しして頂けますか?皆さんが本当は何処から来られたのか、そしてどうして陛下や皆さんにウソをついたのか?」
何処か不機嫌そうな声を出すパティーラム。友達になったばかりの者達からいきなりウソをつかれたのだから不快な気分になるのは当然の事だ。ヴリトラとラピュスはパティーラムを罪悪感の籠った目で見つめて黙り込んでしまう。その時、黙って話を聞いていたガバディアが助け船を出してきた。
「ヴリトラ、姫様にだけはお話ししたらどうだ?」
「団長?」
秘密を話す事を勧めて来るガバディアにヴリトラは少し驚き、ラピュス達も同じ様な反応を見せる。
「お前達が周りの人々を危険な目に遭わせたくないから自分達の秘密を隠して陛下達に本当の事を話さなかった事は分かっている。だが、さっき廊下で聞いた話によると、お前達は姫様の友人になったようじゃないか?」
「だ、団長、気付かれていたのですか?」
自分達とパティーラムの関係に気付いていたガバディアに更に驚くラピュス。ガバディアはラピュスの顔を見て苦笑いを見せた。
「最初に聞かされた時は分からなかったが、姫様がお前達をご自分のお部屋に招待された時にもしかしたらと思っていたのだ。まさか本当に姫様の友人になっていたとはな?」
「・・・・・・」
自分とパティーラムの身分の違いを知っておいて王族の友人になるという恐れ多い行動をした事がガバディアに知られて俯くラピュス。ヴリトラ達も困り顔となりガバディアから目を反らす。
「友人である姫様を危険な目に遭わせたくないというお前達の優しさも分かる。だが、友人なら隠し事をせずに話す事も大切だと思うぞ?ましてやブラッド・レクイエムの連中が絡んでいるのなら、奴等への対策ができるように奴等の事やお前達の情報を姫様にお話しておくべきだ」
「団長・・・」
ガバディアの言っている事も一理ある。そう考えるヴリトラは腕を組んで考え出す。
パティーラムはガバディアの話を聞いて彼は七竜将の事を何か知っていると直ぐに気付いた。
「ガバディア団長、貴方は七竜将の事で何かご存じなのですか?」
「・・・ハイ。黙っており申し訳ありませんでした。彼等から誰にも言わないでほしいと言われてましたので・・・」
「それは一体どんな内容なのです?」
「それは・・・」
「待ってください、団長」
ガバディアがパティーラムに説明しようとすると、ヴリトラがガバディアを止める。パティーラムやガバディア、そしてラピュス達は一斉にヴリトラの方を向く。
「・・・そこからは俺が話します」
「えっ?」
「・・・やっぱり話すつもり?」
ヴリトラが全てを話すと言い、ラピュスは意外そうな顔を見せ、リンドブルムはヴリトラが話す事を察していたのか真面目な顔で訊ねる。
「ああ。ブラッド・レクイエムの事がレヴァート中に広まった以上はもう俺達が何処から来たのかを隠す必要も無い。それに団長の言うとおり、友達であるパティーラム様にだけは全てを話しておこうと思う」
「・・・僕はヴリトラがそうしたいならいいけど、皆はどう?」
リンドブルムが自分の後ろに立っているジャバウォック達の方を向いて訊ねると、ジャバウォック達も困り顔や真面目な顔を見せてヴリトラの方を見ている。
「俺もヴリトラが話したいならそれでいいと思うぜ?」
「正直、姫様達を騙した事について罪悪感を感じていたからな・・・」
「伝えない方がいい事もあるでしょうけど、パティーラム様一人に話すくらいなら、ねぇ?」
「しかし、話す以上はそれなりの覚悟と責任を取る必要があるぞ?お前にも、姫様にもな・・・?」
「あっ、オロチのその言い方、ちょっと冷た~い!」
他の七竜将はこれといって反対する様子も無いようだ。リンドブルム達はいいと考えたヴリトラは今度はラピュス達姫騎士の方を向いた。
「お前達はどうなんだ?」
「・・・確かに、姫様には話しておいた方がいいだろうな。ブラッド・レクイエムと戦う者として、そして友人として」
「私も同じ意見です」
「・・・右に同じ」
ラピュス、アリサ、ラランの三人も話す事に賛成し、それを確認したヴリトラはパティーラムの方を向いて真面目な顔を見せる。
「では、俺達の事を全てお話しします。ただ、この事は他言無用でお願いします。下手をすれば陛下やパティーラム様のお姉さんの身にも危険が及ぶ可能性がありますし、国中がパニックになる事も有り得ますから・・・」
「分かりました・・・」
パティーラムは息を飲みヴリトラの話を真剣に聞いた。それからヴリトラは自分とブラッド・レクイエム社がファムステミリア以外の世界から来たという事、自分達が機械鎧兵士である事などを全てパティーラムに話していく。話を聞いている間、パティーラムは驚きと興味のある表情を浮かべながら頷いていた。
しばらくして、ヴリトラが話し終えた直後に侍女達がお茶の乗ったお盆を持って部屋に戻ってくる。侍女は部屋にいる者全員にお茶を配り終えると速やかに部屋から出て行き、パティーラムは侍女が入れてくれた紅茶を一口飲むとゆっくりと深呼吸をした。
「・・・別の世界、ですか」
「ええ・・・」
ヴリトラが頷いて返事をすると、パティーラムは静かに持っているティーカップを机に置いた。
「お話しして下さってありがとうございます。そして、すみませんでした。皆さんが私達を守る為に黙っていらっしゃったのに、あんな子供の様な不機嫌な態度を取ってしまい・・・」
「い、いえ、私達こそ姫様に隠し事をして大変申し訳ありません・・・」
互いに相手に謝罪するラピュスとパティーラム。何とか誤解も解けて空気が和やかになった事にヴリトラ達は一安心する。
「それにしても、別の世界へ行けるほどの技術を持っておられるとは、貴方がたの世界は凄い所なのですね」
「ええ、まぁ。と言ってもブラッド・レクイエムの連中が偶然作り出した技術みたいですけどね・・・」
驚きながらヴリトラを見つめるパティーラムにヴリトラも苦笑いをしながら答える。
「・・・姫様は七竜将の事を信じるんですか?」
二人が会話をしているとラランが紅茶を飲みながら静かな声でパティーラムに訊ねた。
「信じる、とは?」
「・・・だってガバディア団長も最初に別の世界から来たって聞いた時は信じていませんでしたから。姫様も信じていないのかと」
「ちょ、ちょっとララン!姫様に対して失礼じゃないの?」
王族を疑う様な大胆な発言をするラランにアリサは少し慌てた様子で止める。するとパティーラムはゆっくりとティーカップを机の上に置いた。
「確かに、普通は別の世界から来たなんて言われても信じられないでしょう。ですが、私は信じます。皆さんは私達の為に今まで尽くしてくださった素晴らしい戦士であり、私の友人なのですから。信じる理由としても十分ではありませんか?」
「・・・ハイ」
微笑みながら七竜将は自分達を信じると言うパティーラムを見て無表情のまま頷くララン。次から次へとやって来る緊張状態にガバディアは頭を抱えている。
「ハァ・・・お前達、いくら姫様の友人になったとはいえ、もう少し考えて発言をしろ。もしこれがアンナ様やエリス様だったらどうなっていた事か・・・」
「大丈夫ですよ、ガバディア団長?エリスお姉様はともかく、アンナお姉様はお優しいですから、寧ろ友達感覚で話した方がお喜びになります」
「そ、そうなのですか・・・?」
パティーラムや長女アンナの以外な性格に驚くガバディア。ヴリトラ達も苦笑いや笑顔でパティーラムの話を聞いている。するとヴリトラは真面目な表情となりパティーラムを見つめた。
「パティーラム様、さっきもお話ししたように、この事は俺達だけの秘密にしてください。もしこの事が陛下や上級貴族の人達の耳に入ると国中に広がって人々が混乱してしまう可能性があります。それに、ブラッド・レクイエムの連中が自分達の正体を知った人達を始末する事だってあり得ますから」
「・・・分かりました」
「と言っても、既にパティーラム様をその狙われる可能性がある一人に俺達はしてしまいましたけど・・・」
「覚悟していましたから、皆さんが気になさることではありません。それに黄金近衛隊もいますし」
「確かに城の中にいれば安全でしょうけど、決して油断しないでくださいね?奴等は目的の為ならどんな事でもする連中ですから」
「分かりました・・・」
ヴリトラの忠告を聞いて真剣な表情で頷くパティーラム。ラピュス達も自分達の世界にパティーラムを巻き込んでしまった事に責任を感じ、何があろうとも彼女を守ると心に誓った。
一通りの話が終ると、ヴリトラはバックパックの中から何かを取り出してパティーラムに手渡す。それは手の中に納まるほど小さな自動拳銃だった。
「念の為にこれを渡しておきます。何かあった時の為に持っていてください」
「これは?」
「『マルシン・コルトポケット』と言う護身用の小型拳銃です。ブラッド・レクイエムは俺達が想像もしないような事をしてきますから・・・」
「・・・分かりました」
パティーラムはヴリトラからコルトポケットを受け取りジッと手の中の小型拳銃を見つめる。
「使い方は今から教えます。まずは・・・」
ヴリトラはパティーラムに分かりやすく銃の使い方を教えていく。パティーラムも物覚えが良く、ヴリトラの説明を聞いて直ぐに使い方の基本を覚えた。それからしばらくしてヴリトラ達はパティーラムの部屋を出て城を後にした。
城を後にした七竜将や姫騎士達は一度解散し、それぞれ個人の用事を済ませにバラバラになって出かけて行く。その中でヴリトラとラピュスの二人はガバディアに連れられて街の公園にやって来た。
「これで、儂等だけでなく、パティーラム様もこちらの世界に足を踏み入れてしまったという事か・・・」
「ええ・・・ブラッド・レクイエムがこの世界でどれ程の力を持っているのかハッキリしない間はパティーラム様は常に警戒しながら生きて行かないといけません」
三人は公園の中央にある噴水の前に立っており、ヴリトラは噴水の石段に腰を下ろしてパティーラムを巻き込んだ事に対して疲れた様な表情をしている。ラピュスも同じ様な状態だった。
「・・・ヴリトラ、フォーネ、姫様に真実を話す事を勧めた儂が言うのもなんだが、姫様も知ることを望んでおれらえたし、覚悟もしておられたのだ。あまり深く考えすぎない方がいいぞ?」
「ええ、分かっています」
「城には黄金近衛隊や衛兵がいますから町中にいる私達よりは安全でしょうしね・・・」
「ああ」
パティーラムが自分達よりも安全な場所にいるという事がヴリトラとラピュスの罪悪感を少しだけ和らげてくれていた。そんな二人を見てガバディアは真面目な顔をして二人を見つめる。二人もガバディアに見られている事に気付いてフッと顔を上げた。
「お前達、これだけは覚えておけ?儂等の様な戦士の敵は国の外だけではない、国の内側や身近に潜んでいる可能性があるのだ。例え、自分達が安全な立場にいるとしても、決して油断するな?それが儂等の背負った宿命なのだからな」
「「・・・ハイ!」」
自分達よりも戦士として生きてきた時間が長いガバディアの忠告をヴリトラとラピュスは真面目に聞いて頷いた。敵は常に自分達の近くにいる、それが戦いの世界に足を踏み入れた者達の運命なのだから・・・。
――――――
その日の夜、上級貴族達が住む地域にある一軒の館。ラピュスが住んでいるような屋敷とは違い、とても大きな物だ。その館にバルコニーにはワインの入ったグラスを持つファンストの姿があった。
「おのれぇ~!あの若造どもめぇ!陛下の前でこの儂に恥をかかせおってぇ!見ており、儂を敵に回す事がどれほど愚かな事が後悔させてやるわ!」
ファンストは苛立ちながらグラスの中のワインを一気に飲み干し、バルコニーを後にして部屋へ戻って行く。
「しかし、どのようにして奴等を始末するか・・・」
「困っている様なら手を貸すが?」
「!?」
突然聞こえてくる男の声にファンストは驚き振り返る。そしてバルコニーの真ん中に立つ人影を見つけた。
「な、何者だ!?」
「フフフフフ・・・」
警戒するファンストを見ながら笑う謎の人物。その目は赤く光り、不気味な雰囲気を漂わせていた。
パティーラムに自分達の秘密を話したヴリトラ達。彼等は新たな仲間を得るのと同時にパティーラムを全力で守る事を強く決意した。だがこの時、ヴリトラ達に大きな災いが降りかかろうとしていた事を誰も知らない・・・。