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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第六章~荒ぶる海の激闘~
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第百十八話  海賊事件解決 引いて行く争いの波


 上級BL兵を撃退した後にマーメイドを追い詰めるも、彼女は船の自爆装置を起動させて逃げてしまう。ヴリトラ達は船内を隈なく探して自爆装置を見つけ、ギリギリで解除する事に成功する。ブラッド・レクイエム社との戦いは終わったが、まだ問題が残っていた。

 ブラッド・レクイエム社との戦いが終ってから一時間後、避難していた自警団員や第三遊撃隊の騎士達は街へ出てきて戦いの後始末に取り掛かった。町のいたる所に転がっている海賊や仲間の遺体を丁寧に運び、街の隅に並べて大きな布を被せる。港でもBL兵達の遺体を港の隅へ移動させて同じように並べて布を被せて隠した。戦いが終わり、少しずつ落ち着きを取り戻そうとしている時に遺体を隠さずいるのは良くないと考えたのだろう。


「・・・・・・」


 港ではヴリトラがニーズヘッグと共に目の前で停泊しているブラッド・レクイエム社の中型船を黙って見上げている。七竜将もそれぞれ後始末の手伝いをする為に人手不足の所へ向かった。ヴリトラとニーズヘッグの二人は港の後始末の手伝いをしており、それが終って船を眺めていたのだ。


「・・・とんでもない戦いだったな」

「ああ、海賊の調査に来ただけだったのにブラッド・レクイエムの中隊規模の部隊と戦う事になるとは思わなかった」


 頬の貼られている絆創膏を指でかきながら話すニーズヘッグ。その隣ではヴリトラも額に絆創膏を貼って腕を組みながら俯いている。


「今回の戦いで出た被害は酷かったからな。得に自警団の被害は大きかったんだろう?」

「ああ。最初の海賊との戦いで出たのは負傷者が十三人、死亡者が八人だ。そしてブラッド・レクイエムの襲撃の時に三人死んでいる。俺達や騎士団がいなかったらもっと大勢の犠牲者が出てただろうな」

「・・・騎士団の方は?」

「海賊との戦いで負傷者が六人出てる。だけど、ブラッド・レクイエム襲撃の時には五人も死者が出てしまった」

「俺が追った別働隊に殺された人達か・・・」


 ヴリトラはラピュス達の前に現れて騎士達を殺した殺したBL兵達の事を思い出して低い声を出す。ラピュスは気にするなと言ってくれていたが、それでもやはり仲間が死んだのを気にしてしまうのは当然の事。ニーズヘッグもそんなヴリトラを見て気の毒そうな顔で見ていた。


「・・・ヴリトラ、彼等だって王国の騎士だぜ?何時何処で死ぬかもしれないという覚悟をしていたはずだ。自分を責めるなよ?」

「ああ、分かってる」


 ラピュスと同じ様な事を言うニーズヘッグの方を向いて頷くヴリトラ。自分達も傭兵として戦場に出て常に死と隣り合わせなのだ、今更仲間が死んだ事に動じても仕方がない。ヴリトラはそう自分に言い聞かせた。

 

「それで、この船はどうするんだ?」


 ヴリトラは目の前で停泊している船を見上げながらどうするかをニーズヘッグに訊ねた。ニーズヘッグは港の隅に並べられているBL兵の遺体の方を向いて口を開く。


「この船に積まれている機材の一部や使えそうな武器と弾薬、それから奴等が混合したと言う液体燃料を少し貰おう。その後にあの奴等の遺体と使っていた武器を船に積んで沖へ移動させてから船ごと燃やす」

「火葬、て訳か・・・でも大丈夫なのか?船に積んだ銃器の弾薬や残った液体燃料に引火して大爆発を起こしたら大変だぞ?」

「心配ねぇよ。液体燃料は全部下ろして人の来ない場所に捨てて処分しちまう。海に流したりしたら汚染する可能性があるからな?」

「成る程ねぇ。でもよぉ、俺達で使った方が何かと役に立つんじゃねぇか?それに銃器だって騎士団とかに配れば戦力強化にもなるぞ?」


 ヴリトラは液体燃料や銃器を有効に使わず処分すると言い出したニーズヘッグの考えが分からずに訊ねる。するとニーズヘッグは真面目な顔でヴリトラの方を向き、自分の腰に納めてあるアスカロンを軽く手で叩いた。


「この世界は俺達の住んでいた世界とは全く違う異世界だ。この世界にはこの世界の秩序がある。そこへ俺達の世界の武器などを広げると秩序が崩壊する可能性だってあるんだ。必要以上に俺達の武器や物資をこの世界の人達に渡さない方がいい」

「な、成る程・・・」

「ラピュス達の場合は俺達の協力者、そしてブラッド・レクイエムの存在を知った人間として身を守る為に最低限の武器を渡しているだけだ。下手に武器を与えるとより多くの人達を巻き込む可能性があるだろう?」

「まぁ・・・彼女達の場合はそれを覚悟しているからな。今関わるなって言っても『今更何を言うんだ!?』って怒られるのが落ちか」


 ラピュスの怒った顔を想像して苦笑いを見せるヴリトラとニーズヘッグ。ラピュス達は既に七竜将と共に戦う事を決めた者達だ。何を言っても引き下がらない事は彼等が誰よりもよく知っている。


「それじゃあ、とりあえず皆を呼んで船の中を調べ直すか」

「ああ、リブル達は別の所で手伝いをしているはずだからな」


 ニーズヘッグが小型無線機を使ってリンドブルム達を呼び出そうする。そこへラピュスが中央の街道を通ってヴリトラとニーズヘッグの下へ走って来る姿が見えた。


「おーい!ヴリトラァ!」

「ん?」


 ラピュスに呼ばれて声の聞こえた方を向くヴリトラ。ニーズヘッグも通信を止めてラピュスの方を向く。ラピュスは二人の前までやって来ると街の方を親指で差した。


「これから海賊達と今後の事について話がある」

「海賊と?」

「ああ、悪いがお前も一緒に町長の家に来てくれ。ザザムスと言う海賊の老人がお前と話したいと言っているんだ」

「俺と?何で?」

「分からない。一度戦った者として話をしておきたいんじゃないのか?」


 ザザムスが呼んでいる事を意外に思いに目を丸くするヴリトラ。しばらく考え込んでいると、ヴリトラはゆっくりとニーズヘッグの方を向いた。


「ニーズヘッグ、悪いけど此処は任せていいか?」

「ああ、行って来いよ」

「・・・じゃあ、ちょっと行って来るわ」

「おう!」


 ヴリトラは船やBL兵達の事をニーズヘッグに任せて街へ向かった。残ったニーズヘッグはもう一度小型無線機を使ってヴリトラ以外の七竜将に連絡を入れ始める。

 街道を通り、街の中を歩いて行くヴリトラとラピュスはボロボロになっている建物や残っている仮拠点の中で座り込んでいる自警団員を見て真剣な表情を浮かべている。避難していた住民達も戻って来て自警団と共に怪我人の手当や食料運びなどをしていた。


「街の人達は全員戻って来たのか?」

「ああ。今は怪我をした人の手当てや今後の事を話し合う為に集まっているところだ」

「そうか・・・そう言えば、海賊達は今どうしてるんだ?」

「話し合いをするザザムス殿と数人の海賊以外は全員町長の家の倉庫の中に入ってもらっている。戦いが終り、互いに戦意がないとは言え立場的に色々と問題があるからな・・・」

「まぁ、それは仕方がないけどな・・・」


 海賊達の扱いを聞いて若干表情を曇らせるヴリトラ。ラピュスも戦う意志の無い者達を閉じ込めておくという事には少し心が痛んでいるようだ。ヴリトラと同じように曇った表情を見せて歩いていた。


「生き残った海賊は全部で十九人。その殆どがロージャックのやり方に納得できなかった者達のようだ」

「ロージャック、確か亡くなった先代の船長に変わって新しく船長になったっていう男だったな?」

「ああ、欲に囚われて全てを奪い取ろうとする外道だとザザムス殿は言っていた。そして先代の忘れ形見であるシャンと言う少女も・・・」


 一人の男のせいで変わってしまったソフィーヌ海賊団にも事情があった事を話し合いながら歩いて行くヴリトラとラピュス。二人も今回の騒動は船長であるロージャックに強要されてやった事だとは承知している。だがそれでも彼等の行いを見逃す事はできない。二人はザザムス達の今後の事を話し合う為に町長の家へと向かっていた。

 しばらく歩いていると、二人は町長の家の前にやって来た。入口の前には二人の自警団員が警備しており、ヴリトラとラピュスの姿を確認すると静かに二人を招き入れる。二人が扉の前にやって来てヴリトラが軽くノックをする。すると扉が開き、中から町長ハリーの息子であるゲイルの妻、ウェンディが顔を出した。


「お待ちしておりました。お入りください」


 招かれて扉を潜るヴリトラとラピュス。二人はウェンディに案内されて通路を通り部屋へと入った。そこは食堂の様な広い部屋で中央にあるテーブルにはハリーとゲイルが座っており、その向かいの席にはザザムス、シャン、パージュ、海賊の下っ端である男が座っていた。そしてそのテーブルを囲む様に八人の自警団員が立っている。

 ヴリトラとラピュスの姿を確認したハリーは立ち上がり、二人の下へ歩いて来る。


「お待ちしておりました。ヴリトラ殿、ラピュス殿」

「町長、怪我はありませんか?」

「ええ。私は他の住民達と共に先に避難しておりましたので。怪我などはありません」

「そうですか」


 町長が怪我をしていない事を知って安心するヴリトラ。ラピュスも会話をする二人を見て小さく笑っていた。


「・・・それでは、早速ですがソフィーヌ海賊団の今後について話し合いを始めたいのですが・・・」

「・・・分かりました」


 本題に入ると聞かされ、真剣な顔で頷くヴリトラ。ラピュスも笑顔から真剣な顔へと変わり、二人はゲイルの隣の空いている二つの席について海賊達と向かい合う形で座った。ハリーも自分の席につき、目の前で座っている海賊達をジッと見つめた。部屋に広がる緊迫した空気に自警団員達は緊張している。

 話し合いに参加する者が揃うと、最初に口を開いたのはザザムスだった。ザザムスはヴリトラ達を見てゆっくりと深く頭を下げる。


「まずは我々がこの町でした事について深くお詫びさせて頂きたい。大変申し訳なかった・・・」


 深々と頭を下げるザザムスに続いて幼いシャンも頭を下げ、その隣に座っていたパージュもシャンを見て驚き頭を下げた。

 海賊達が頭を下げて謝罪する姿を黙って見つめるヴリトラ達。するとハリーがザザムスを見ながらゆっくりと口を開く。


「どうか頭をお上げください。貴方がたソフィーヌ海賊団の事はヴリトラ殿から聞きました。船長であるロージャックが貴方がたの様な心優しい人達に略奪を強要していたという意事も聞いております」


 優しく声を掛けるハリーにザザムスは申し訳なさそうな表情でハリーを見る。シャンとパージュも意外な反応に少し驚いたのかハリーの方を向いていた。


「待ってくれ父さん」


 ハリーの隣に座っていた息子のゲイルが納得の行かない表情で話に参加して来た。ハリー達は一斉にゲイルの方を向く。


「例え彼等が船長に命令されて仕方なく動いていたとしても、彼等の行い全てが許される訳じゃない。彼等にもしっかりと罰を受けてもらわないと」

「ゲイル!謝罪している人を前に何という事を言うんだ!」

「事実じゃないか。彼等の仲間が僕等の町を迫撃砲で破壊し、金品を奪ったんだぞ?それに僕だけじゃない。町にも彼等に罰を与える事を望んでいる人が大勢いるんだ」

「ゲイル、止さんか!」


 ゲイルを止めようと立ち上がって息子を睨み付けるハリー。向かいの席に座っているパージュや海賊もゲイルの方をジッと見て気分の悪そうな顔をしていた。

 食堂に広がる重い空気にヴリトラとラピュスは黙って話を聞いている。するとザザムスがハリーとゲイルの方を向いて二人の口論を止めに入った。


「待ってください。彼の言うとおり、町を襲った事には儂等にも責任があります。ロージャックを止められる立場にありながら奴を止める事ができずに言われたとおりに動いたですから、儂等も同罪です」

「ザザムス殿・・・」

「・・・・・・」


 自分達にも責任があり、罰を受けるのは当然だと言うザザムスをハリーとゲイルはジッと見つめる。


「・・・儂等は海賊船を失い、仲間を大勢失いました。もう海賊に戻るつもりもありません、仲間で話し合い決めました」

「そうなのですか」

「ハイ。ですが、だからと言って罪を許してほしいと言う気はありません。今まで犯した罪はしっかりと償います」


 自ら罪を償うと言うザザムスを見てハリーは席につき、ゲイルも落ち着いたのか姿勢を直してザザムス達海賊側の者達を見つめる。するとザザムスは申し訳なさそうな顔でヴリトラ達を見て来た。


「その代り、と言っては難ですが、一つだけ希望があります」

「希望?何ですか?」

「・・・お嬢とパージュの罪を許して頂きたいのです」

「え・・・?」

「な、何言ってるんだよ爺さん!?」


 ザザムスの予想外の希望にシャンとパージュ、そしてヴリトラ達は驚いた。ザザムスはそれを気にする事無く話を続ける。


「この子達はまだ若く、やり直す事ができます。お嬢は先代の船長の娘であっても争いを望んでおらず、先々代が死んでからは部屋に閉じこもって何もしていません。パージュもお嬢にとっては実の姉の様な存在なのです。もし儂等全員がいなくなったら誰がお嬢を支え、面倒を見ればいいのですか?」

「つまり、シャンと言うお嬢さんは何も悪事を行ってはいないので、パージュさんはシャンちゃんの姉替わりである為、許してほしいと?」

「虫が良すぎるという事は十分承知しております。ですが、どうかお願いします!」


 再び深々と頭を下げるザザムス。シャンとパージュは戸惑いの表情でザザムスを見ており、もう一人の下っ端もザザムスの様に頭を下げて頼み込んだ。それを見たハリーとゲイル、ラピュスは驚きの表情のまま彼等をつめている。


「・・・ラピュス殿、この場合はどうなるのでしょう?」

「・・・・・・首都にこの事を伝えて相談してみない事には何とも言えませんが、二人の様にまだ若く大きな罪を犯していなければ罪には問われないと思いますが・・・」

「そうですか。・・・私等も罪の無い少女達を罰しようとは思っておりません。私はお二人を許そうと思っております」

「おおぉ!」


 ハリーの言葉にザザムスは笑顔を見せる。


「ゲイル、お前もそれでいいな?」

「・・・ま、まぁ、僕も子供を裁こうとは思っていないし・・・」


 ゲイルも流石に少女に罪を償えとは言えないのかハリーと同じようにシャンとパージュの罪を許す事にしたようだ。それを聞いてザザムスは更に笑顔を見せて無言のまま喜ぶ。

 だが、シャンはザザムスの服を掴んで彼を弱々しく揺する。


「そんなのヤダよぉ!じぃじとお別れなんてしたくないよぉ!」

「お嬢、そうは行かんのじゃ。儂等は悪い事をしたのだからその罪を償わなくてはならない。だったらその役目は儂等がするべきじゃ」

「じゃあシャンも一緒に行くぅ!」

「爺さん、シャンがここまで言ってるのにアンタはアタイとシャンを残して行っちまう気か!?」


 シャンと同じようにザザムスの考えに反対するパージュ。ザザムスはパージュの方を向いて真剣な顔で彼女を見つめる。


「パージュ、お前とお嬢ならまだ新しい人生をやり直せる。牢獄に入るのは儂等の様な長い間海賊として生きてきた者達だけで十分じゃ」

「何を言ってるんだよ!アンタ達だってまだ十分やり直せるよ!」

「儂等は海賊としての生き方しか知らん。だから、別の生き方のできない儂等には牢屋の中で残りの人生を過ごしながら罪を償うのがいいんじゃよ・・・」

「そんな――」

「無責任な事を言うんですね?」


 パージュが言い返そうとした時、黙っていたヴリトラが口を挿んできた。一同は一斉にヴリトラの方を向き、ヴリトラは真剣な表情でザザムスの方を向く。


「海賊達が言ってましたよ?貴方は先代が亡くなってからその子を代わりに育てて来たって。それなのに、父親代わりの貴方が罪を償うと言ってその子を残して牢獄に入りつもりですか?」

「しかし、儂等は大きな罪を犯してしまいました。その罪を償う為にも牢獄に入るのは当然の事ではないですか?」

「牢屋にはいるだけが償いになる訳ではありませんよ?」

「え・・・?」

シャバに出て人々の為に生きる事だって立派な罪の償いになります。海賊以外の生き方が分からないのなら、新しく見つければいいんですよ」

「そ、そんな事できません。他の者はともかく、儂はもうこの歳です。今更振り出しには戻れませんよ。それに儂等がどう考えても牢行きは免れません・・・」

「・・・いいえ、できない事は無いと思いますよ?」

「・・・は?」


 ヴリトラの言葉にザザムスは驚く。するとヴリトラはゆっくりとラピュスの方を向いた。


「なぁ、ラピュス。海賊は捕まるとどんな罰を受けるんだ?」

「え?・・・そ、そうだなぁ・・・ロージャックの様な凶悪な海賊なら死刑が下るだろうけど、ザザムス殿の様に自分達の罪を認め、自ら罪を償おうという者達には、運が良ければ数年間牢獄で過ごすという罰が下されると思うぞ?と言ってもそれは裁判によるものだがな・・・」

「禁固刑って事か・・・それじゃあ、弁護士を付けるとどうなる?」

「ベンゴシ?・・・ああぁ、弁論を行う者か。付けれる事ができれば罪は軽くなるだろう、だが雇うのにはかなりの金がかかる」

「ふ~ん・・・」


 ヴリトラは天井を見上げながら何かを考え始める。そしてしばらくするとザザムス達の方を向いて意外な事を言いだした。


「貴方達の裁判ですけど、弁護士を雇う金は俺達が出しましょう」

「・・・ええ!?」


 ザザムスやパージュ達はヴリトラの言葉に耳を疑い、ハリー達も同じように驚いている。ラピュスはそれほど驚きの表情は見せなかった。まるでヴリトラが何を考え、言おうとしていたのか分かっていたかのように。


「既にラピュスは首都に手紙を送り、貴方達を護送する騎士団を手配しています。貴方達はその騎士団と一緒に首都へ行って裁判を受けてください。ただ、俺達の雇った弁護士と会ったらその人の指示に従うようにすること。そうすれば少しは罪が軽くなるはずですよ?」

「な、なぜそんな事を?儂等はアンタ達とは敵同士じゃったのに・・・」

「・・・その子の為ですよ」


 ヴリトラはテーブルに肘を乗せてザザムスの服を掴んでいるシャンを見つめて言った。


「もし、貴方達がそのまま牢獄に入ってしまったらシャンちゃんは一人ぼっちになっちゃいます。いや、パージュがいるから一人じゃないか・・・。だとしても、親の愛情を知らずに育つ事が子供達にとってどれほど辛い事なのか、俺はそれを知っているからその子の為に貴方達を助けるんです。それだけですよ・・・」


 何処かクールな言い方をするヴリトラだが、彼を見ていたラピュスはヴリトラが幼い頃に両親を亡くし、家族愛を知らずに育った自分とシャンを重ねて見た為、自分と同じ思いをさせない為にそうしたのではないかと考えていた。ヴリトラの遠回しな優しさを知ってラピュスは彼に気付かれない様に小さく笑った。

 ラピュスの見られている事に気付かず、ヴリトラは肘をテーブルに乗せたまま話を続ける。


「親代わりになった以上、最後まで責任を持ってその子を育ててください。それもまた、貴方の償いになると思いますよ?」

「お嬢を育てる事が、償い・・・?」


 ザザムスは自分の服を掴んでいるシャンを見下して優しく彼女の頭を撫でた。パージュもシャンの小さな肩にそっと手を乗せて微笑んだ。突然和らいだ空気にハリー達は目を丸くしており、上手く状況が理解できなかった。

 するとヴリトラはゆっくりと立ち上がり食堂の出口の方へ歩いて行く。


「これ以上は俺がいてもあまり意味の無い話になりそうですからこれで失礼しますよ?町の後片付けもしないといけませんので・・・」

「あっ!待ってください。貴方にはまだ聞きたい事があります。この町を襲ってきたあの黒い船の連中は何者なのですか?」


 ザザムスがブラッド・レクイエム社の事を聞こうとヴリトラを呼び止める。するとヴリトラはゆっくりと振り返り口を開いた。


「・・・聞かない方がいいですよ?奴等の事を知ったら、貴方達は今以上にまともな生活ができなくなります」


 ヴリトラの低い声を聞きラピュス以外の者達は一瞬寒気を感じ取る。そしてヴリトラはそう言い残して食堂を出るとそのまま町長の家を後にした。そして残ったラピュスはハリーやザザムス達と一緒に話を振り返りながら今後の事を相談する。

 町長の家を出た後、ヴリトラは街道を歩いて港の方へ戻って行く。実はさっきの彼の言葉はザザムス達を自分達とブラッド・レクイエム社の戦いに巻き込まない様にする為の物だったのだ。


「・・・これ以上ブラッド・レクイエム社の事を広げればまたこの港町にも危険が及ぶし、ザザムス達も危ない。この世界の人達を俺達の世界の出来事に巻き込むわけにはいかないな・・・」


 ヴリトラは真剣な顔で独り言を言いながら街道を歩いて行き後始末を再開するのだった。それからヴリトラ達はカルティンで一夜を過ごし、町を訪れた騎士団と共に海賊達をティムタームへ連れて行き、事の内容を騎士団の報告。この一件を終わらせるのだった。

 海賊調査に行ったつもりがブラッド・レクイエム社の部隊と遭遇して激戦を繰り広げるも、見事に勝利して事件を解決した七竜将と第三遊撃隊。・・・しかし、この時、ヴリトラは、いや七竜将は気付いていなかった。後に彼等は異世界ファムステミリアで嘗てない最大最悪な事件に巻き込まれるという事を・・・。


第六章、終了です!

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