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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第六章~荒ぶる海の激闘~
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第百十四話  死と隣り合わせの生

 港でブラッド・レクイエム社の大部隊と交戦していた七竜将。その激しい戦いの中でヴリトラは数人のBL兵が街へ侵入したのを見てラピュス達の事が心配になり港をジャバウォック達に任せて一人街へ向かうのだった。

 中央の街道を抜けた所にある街の広場。そこでラピュス達第三遊撃隊は自警団員や生き残った海賊達を建物の中へ避難させており、自警団員達も騎士達の誘導を受けながら建物の中へと入って行く。


「急ぐんだ!七竜将が港でブラッド・レクイエムを食い止めている間に早く建物の中へ!」


 ラピュスは広場の中心で非難する自警団員や海賊達に急ぐよう伝えながら誘導する。広場の出口付近にはMP7やベレッタ90を持った第三遊撃隊の騎士達が周囲を警戒している姿があり、海賊との戦いで弾薬を撃ち尽くし銃器を使えなくなった騎士達も騎士剣を持ちながら自警団員達を誘導していた。

 広場には第三遊撃隊の騎士を含めて自警団員や海賊があと十人ほど残っているだけで騒ぎ声も聞こえないほど静かになっている。広場を見回しながらラピュスは敵の姿や他に逃げ遅れた者がいないかを確認した。


「・・・他に遅れている者はいないな。此処に残っているのはもう私達だけか」


 ラピュスは残っているのは広場にいる自分達だけだと知って小さく息を吐いた。するとラピュスは広場の東側にある街道から広場に向かって来る人影を見つける。よく見るとそれは突撃槍を持って全力疾走してくるラランの姿だった。


「あれは、ララン?」


 不思議そう顔で走って来るラランを見つめるラピュス。

 広場に入ったラランはそのまま真っ直ぐラピュスの下へ向かい、彼女の目の前で立ち止まった。全力で走って来た為、ラランの息はかなり乱れている。


「・・・ハァ、ハァ、隊長、向こうの広場は終わった」

「そ、そうか・・・それよりも大丈夫か?凄い汗だし、かなり息が乱れているぞ?」

「・・・ハァ、ハァ、急いで知らせないといけないと思ったから」

「わざわざ知らせに来なくても、避難が終ったらお前もアリサ達と一緒に隠れればよかっただろう?」

「・・・でも、隊長達の方が人数が多かったから」

「・・・わざわざ手伝いに来てくれたのか。すまなかったな」


 ラピュスは少しずつ落ち着いてきたラランを見下ろしながら微笑む。二人は港を七竜将達に任せた後に二手に分かれてブラッド・レクイエム社が港に近づいて来ることをアリサや他の騎士達に知らせに行ったのだ。ラピュスは騎士達と共にパージュ達や自警団員達を中央の街道から一番近くにある広場、つまり今いる場所の建物の中に避難させ、ラランは街の東側にいるアリサ達に知らせるとそのまま自警団員達を避難させた。そしてそれも終わり、こうしてラピュスと合流したという事だ。


「・・・まだ結構いるね」

「ああ、この広場に近くには拠点が多く作られていたからな。それだけ人数も多かったのだが、それもようやくここまで済んだ。あと数分ほどで終わる」

「・・・じゃあ、手伝いに来なくてもよかったんだ」


 無駄足だったか、と思ったラランは無表情のまま少し暗い声を出した。折角全力で駆けつけて来たのに骨折り損の草臥れ儲けになってしまったのだから無理もない。そんなラランを見てラピュスは小さく苦笑いをしてラランの頭にそっと手を置いた。


「暗い声を出すな。お前は私達の事を心配して来てくれたんだ、それだけでも私は嬉しい。それにまだ避難は完全に終わってない、全員が避難し終えて私達が建物の中に入るまでは警戒し続けないといけないんだ。お前も皆と一緒に周囲を警戒していてくれ」

「・・・分かった」


 ラピュスの優しい声掛けを聞いてラランは少しだけ声を明るくしてラピュスを見上げて頷いた。そして突撃槍を握り周囲を警戒し始める。ラピュスはそんなラランを見た後に港の方を向き、遠くから聞こえてくる銃声や爆発音に耳を傾けた。


「ヴリトラ、皆、無理はしないでくれ・・・」


 ヴリトラ達の事を心配しながら港の方を見つめるラピュス。そんな彼女に気付いたラランはフッとラピュスの方を向きまばたきをする。ラピュスが七竜将の事を心配している事にラランは気付いたのだろう。そして彼女も港の方を無表情のまま見つめる。


「・・・きっと大丈夫、絶対に負けない」

「ん?」

「・・・どんな時でも、どんな敵でもリンドブルム達は最後まで諦めなかったから」


 無表情ではあるが七竜将の事を信じているラランの言葉にラピュスは再び微笑みを浮かべた。


「そうだな、今回もきっと大丈夫だ」

「・・・うん」


 港の方を向いて七竜将を信じながら話をするラピュスとララン。その時、港に繋がっている街道の方から二人の男性騎士が三人の自警団員を連れて広場にやって来た。広場の入口で警戒をしていた女性騎士がやって来た男性騎士達に気付いて近寄っていく。


「逃げ遅れた人達?」

「ああ、すぐそこの街道の隅に隠れていたから連れて来たんだ」

「他にはいなかったの?」

「彼等意外には誰とも会わなかった」

「そう、それじゃあ急いで避難しましょう。隊長の話では何時此処に敵が来るか分からないからって言って・・・」

「ぐわあああああぁ!」

「「!?」」


 女性騎士が広場の方を向いて自警団達を避難させようとした瞬間に聞こえて来た男性の悲鳴。それを聞いて驚いた女性騎士と男性騎士達。広場にいたラピュスとララン、他の騎士達も驚いて一斉に悲鳴の聞こえた方を向いた。ラピュス達の視線の先には男性騎士達が連れてきた自警団員の一人をマチェットで斬り殺したBL兵の姿があった。その後ろにはMP7を持ったBL兵が二人、マチェットを持ったBL兵が二人、そして他のBL兵とは違いジャバウォックと同じ2mほどの身長に大剣を持ったBL兵が一人立っている。彼等こそ、港でヴリトラが見た街へ侵入したBL兵達だったのだ。

 突然背後から襲ってきた見た事のない姿の敵に自警団員やブラッド・レクイエム社と接触していない第三遊撃隊の騎士達は驚きを隠せないでいた。


「な、何だコイツ等は!?」

「見た事のない格好をしてるわ・・・」

「ま、まさか、コイツ等が隊長が行っていたブラッド・レクイエムとか言う連中なのか?」


 騎士達は目の前で武器を手にジリジリと近づいて来るBL兵に騎士剣やMP7を向ける。自警団員は仲間を殺されて事で完全に冷静さを失い、悲鳴を上げながら広場の方へ走って逃げていく。だがBL兵がそれを見逃すはずも無く、背を向けて逃げている二人の自警団員にMP7を向けて発砲。自警団員達の背中に無数の銃創が出来て自警団員達は命を落とした。

 目の前で自警団員達を無慈悲に殺したBL兵達を見て三人の騎士は武器を構えてBL兵達を睨み付ける。


「コ、コイツ等、逃げる相手を殺すなんて!」

「戦士の風上にも置けない連中だ!」

「これ以上、この町の人達は殺させないわ!」


 騎士達はカルティンの住民である自警団員をこれ以上殺させない為にBL兵に向かって行く。だが、それを見たラピュスとラランは驚いて目を見張った。


「止せぇ!お前達の敵う相手じゃない!」


 ラピュスが叫びながら止めるが、既に遅かった。男性騎士の一人が騎士剣を構えてBL兵達に突っ込んでいく。それを見たBL兵の一人がMP7を向けて引き金を引き男性騎士を銃撃した。弾丸は騎士の腕や足に当たり、鎧も貫通して男性騎士を蜂の巣にする。もう一人の男性騎士は仲間がやられた事に驚くも怯まずに敵に向かって行く。目の前にいるマチェットを持ったBL兵に向かって騎士剣を振り下ろしが、BL兵がその斬撃をマチェットで簡単に止め、騎士剣を払うとマチェットで鎧を切りバラバラにする。超振動によって切れ味が増しているマチェットの前では鎧など紙切れ同然だった。

 鎧を細切れにされて驚く男性騎士。そんな男性騎士をBL兵はマチェットで斬り捨てる。男性騎士の体から赤い血が吹き出て男性騎士は声を上げる事もできずにその場に仰向けになって倒れた。


「そ、そんな、一瞬で二人も・・・」


 女性騎士は目の前で呆気なく殺された仲間の騎士を見て流石に動揺し手が震わせる。そこへ男性騎士を斬り殺したBL兵がマチェットを持って女性騎士に向かって走り出す。


「う、うわああぁ!」


 驚いた女性騎士は声を上げながら向かって来るBL兵に向かってMP7を撃つ。だが銃撃は全てかわれてあっという間に距離を縮められてしまった。そしてMP7をマチェットで払うと女性騎士の体をマチェットで刺し貫く。それに続き、他の二人のBL兵もマチェットで女性騎士の体を刺した。三人のBL兵から刺された女性騎士は吐血をして体を震わせている。やがてBL兵達はマチェットを抜き、刃に付いた血を払い飛ばす。それと同時に女性騎士もその場に倒れて息絶えた。

 一瞬で騎士と自警団員を惨殺したBL兵達を見てラピュスとララン、他の騎士達は自分達の目を疑いながら驚いている。


(・・・な、何て奴等だ。ヴリトラの言った通り、本当にアイツ等には罪悪感や後ろめたさが無いのか?)

(・・・まるで悪魔)


 ラピュスとラランはそれぞれ心の中でBL兵の残虐さを感じ汗を流し始める。広場にいた騎士達も驚きのあまり言葉を失い、持っているMP7や騎士剣を構えながら後退し始める。それを見た六人のBL兵は騎士達を見て一斉に走り出した。

 走って来るBL兵達を見たラピュスは騎士剣を構えて周りにいる騎士やまだ広場に残っている自警団員達の方を向いて声を上げる。


「皆、下がれ!コイツ等は私達が今まで戦ってきた敵とは違う!まともに戦った殺されるぞぉ!」


 ラピュスは叫ぶ様に騎士達に声を掛けて騎士達を下がらせようとする。ラランも突撃槍を構えて迫って来るBL兵を警戒し始めた。

 騎士達はラピュスの言葉を聞き、危険な相手だと悟ったのか言われたとおりにBL兵を警戒しながら後退を始める。だがBL兵の予想以上の速さに後退をする前に距離を縮められてしまい騎士の一人がBL兵のマチェットで斬殺されてしまう。まだ避難をしていない自警団員達も剣を抜いて何とかしようとしたが、そんな彼等の覚悟を撃ち砕くかのようにBL兵はMP7で自警団員達を蜂の巣にしてしまう。


「クゥ!おのれぇ!」


 次々に仲間を殺していくBL兵達に我慢の限界が来たのか、ラピュスは騎士剣を構えてBL兵達に突っ込んでいく。ラピュスはマチェットを持つBL兵に袈裟切りを放ち攻撃する、BL兵はその斬撃をマチェットで止め、ラピュスの騎士剣を払うとマチェットで反撃した。ラピュスは咄嗟に体を反らしてBL兵の斬撃を回避、騎士剣を両手で握りながら勢いよく横へ振る。そんな横切りをBL兵は大きく後ろに跳んでかわした。攻撃が当たらずにBL兵から距離を取られたラピュスは悔しそうな表情を見せる。


「クソォ!やはり普通の人間である私には機械鎧兵士と互角に戦う事はできないのか・・・?」


 BL兵に一つの傷をつける事の出来ない自分と相手との力の差に歯を食いしばるラピュス。

 ラピュスから少し離れた所でもラランが突撃槍でBL兵と交戦していた。ラピュスの連続突きを余裕でかわし続けるBL兵。隙が出来ればBL兵もマチェットで反撃して来るが、ラランは突撃槍でその斬撃を払い何とか防ぐ。


「・・・強い!」


 BL兵の斬撃をギリギリで防いだラランは一度大きく後ろに跳んで体勢を立て直そうとする。BL兵は目の前で突撃槍を構える幼い少女を見て退屈そうにマチェットをクルクルと回した。


「・・・余裕を見せて」


 BL兵がマチェットで遊んでいる姿を見たラランは不機嫌そうな顔と声を出して突撃槍を構え直す。ラランはBL兵を睨みながら突撃槍に風を集め始める。どうやら気の力を使って戦うようだ。

 突撃槍が風を纏うのを見たBL兵は流石に嫌な予感がしたのかマチェットを構え直してラランを見る。そしてラランは突撃槍を構えながらBL兵に向かって走り出した。


「・・・これが私の全力。烈風天馬槍!」


 ラランはBL兵に向けて風を纏う突撃槍を勢いよく突いた。BL兵はラランの突きを横に移動してギリギリでかわす。だが纏われている風によって体勢を崩し、着ている黒い特殊スーツやタクティカルベストは切り裂かれてBL兵の体にも小さな切傷が多数生まれた。

 風によって体勢を崩したBL兵にラランはすかさず攻撃する。突撃槍を構え直し、まだ風を纏っている状態でBL兵に突きを放つ。槍先はBL兵の体を貫いてダメージを与え、更に纏われている風でBL兵の体を切り裂いた。ラランの一撃を受けたBL兵は持っていたマチェットを落してその場に仰向けに倒れる。そしてラランは動かなくなったBL兵をジッと睨みつけた。


「・・・貴方達が殺した人の苦しみ、少しは味わって」


 ラランは殺された仲間の騎士達、そしてこれまでブラッド・レクイエム社に殺されてきた人々の無念を彼等の代わりに口にする。これで少しでもブラッド・レクイエム社の連中に殺された者達の無念が晴れればいい、ラランな心の中でそう思っていた。

 そんなラランの後ろではNP7を持った別のBL兵が離れた所から彼女を狙っていた。ラランは強敵であったBL兵を一人倒した事で完全に油断していたのだ。そんな彼女にBL兵は狙いをつけて背後から銃撃しようとしていた。


「・・・ガキが、背中がガラ空きなんだよ」


 BL兵がラランには聞こえない小さな声で呟き、引き金を引こうとした。MP7の銃口から弾丸は吐き出されようとした、次の瞬間、突如ラピュスがラランに飛び掛かりラランをその場から移動させる。その直後にBL兵がMP7を発砲したがラランに当たる事は無かった。

 ラランとラピュスは地面を転がっていき、しばらくするとゆっくりと止まった。ラランは突然の出来事にラピュスの腕の中で目を見張って驚いている。


「ハァ・・・ララン、大丈夫か?」

「・・・隊長?」

「敵を倒したからと言って油断するな!今、お前の後ろからブラッド・レクイエムの兵士が銃で狙ってたんだぞ!?」

「・・・え?」


 気付かないうちに命の危険が迫っていた事にラランは驚く。もし、ラピュスが飛び掛かっていなかったら今頃自分は背後から蜂の巣にされて死んでいた。そう考えると急に悪寒と恐怖が全身に広がっていき、ラランの顔から血の気が引いて行く。


「私がそれに気づいて飛び掛かったからよかったものの、もし私が気付かなかったら・・・」

「・・・ごめんなさい」


 戦場のど真ん中で警戒心を解くという致命的なミスを犯した事にラランは表情を曇らせてラピュスに謝る。そんなラランをゆっくりと起こしながらラピュスは真剣な表情でラランを見つめる。


「いいか、ララン。私達は常に死と隣り合わせだ、少しでも油断すれば私達は命を落とす存在である事を忘れるな?」

「・・・ハイ」


 ラピュスの忠告を聞いたラランは落ちている突撃槍を取りゆっくりと立ち上がる。ラピュスも自分の騎士剣を拾ってしっかりと握り、目の前で自分達を見ながらMP7やマチェットを持つBL兵を見つめた。二人の前にはMP7のBL兵が一人、マチェットを持つBL兵が二人の三人が立っている。MP7を構えているBL兵は何時でも二人を撃てるように引き金に指を掛けていた。


「観念しろ、小娘ども」

「どう足掻いてもお前達は逃げられねぇ」


 BL兵達が武器を構えているラピュスとラランにゆっくりと近づいて行き、二人もBL兵達に警戒しながらゆっくりと下がって行く。二人はまさに絶体絶命の状態だった。すると、突然銃声が聞こえてくる。そして銃声の直ぐ後に叫び声が聞こえて来た。

 叫び声を聞いて一斉に銃声のした方を向く一同。そこにはMP7を持つBL兵を森羅で斬り捨てたヴリトラの姿があった。


「ヴリトラァ!」

「大丈夫か!?」


 ヴリトラの登場にラピュスは笑みを浮かべて名を叫ぶ。ヴリトラもラピュスとラランを見て安否を確認した。突然現れたヴリトラにBL兵達は一瞬驚くも直ぐに武器を構え直してヴリトラを見つめる。ヴリトラは武器を構えたBL兵を見ると森羅を脇構えに持ち、BL兵達に向かって走り出した。BL兵は走って来るヴリトラに向かってMP7を発砲するもヴリトラはジグザグに走って銃撃を全てかわす。まれに自分に向かって来る弾丸は森羅で簡単に弾き、一気にBL兵達との距離を縮めていく。

 怯む事なく向かって来るヴリトラにBL兵達もマチェットを持って走り出す。ヴリトラがBL兵達の数m前まで近づいて来ると二人のBL兵はマチェットで同時に攻撃を仕掛ける。ヴリトラはBL兵達の斬撃を森羅で止め、触れ合う刃から火花が飛び散る。ヴリトラはマチェットを払い隙の出来たBL兵達を素早く森羅で斬った。斬られたBL兵達はその場に倒れて動かなくなり、ヴリトラは奥でMP7を持つBL兵の方を向く。


「後はアイツだけだ!」


 ヴリトラは残りの一人を倒す為に再び走り出す。BL兵もヴリトラを狙って再びMP7を発砲した。弾丸を森羅で弾きながら走り続けるヴリトラは一瞬にしてBL兵の懐中に入り込みBL兵を斬る。BL兵はMP7を落して無言のまま倒れた。

 BL兵を全て倒したヴリトラはラピュスとラランの方を向いて森羅を軽く振り付着している血を払うとゆっくりと彼女達の方へ歩く。


「怪我は無いか?」

「ああ、お前のおかげで助かった」

「・・・ありがとう」

「そうか・・・だけど・・・」


 ヴリトラは表情を曇らせてフッと視線を変える。ラピュスとラランは不思議に思い彼の向いている方に視線を向けた。そして二人は遠くで倒れている騎士達や避難していなかった自警団員達の変わり果てた姿を見つける。彼等はBL兵達が襲撃する前からラピュスとラランと一緒に広場にいた者達だ。そんな彼等もBL兵達に命を奪われて帰らぬ者となってしまった。現に今広場にいるのはヴリトラ達の三人だけで他には誰もいない。

 倒れている騎士達を見てラピュスとラランも苦い表情を見せて倒れている仲間達を見つめた。


「俺がもっと早く来ていればアイツ等だって助かったのに・・・ゴメン」

「お前が謝る事は無い。相手が悪かったんだ。それに、彼等も王国騎士団の騎士、戦場に出て命を落とす事は覚悟していただろう・・・」

「・・・私達は、常に死と隣り合わせ」


 ヴリトラをフォローするラピュスとさっき自分がラピュスに言われた事を口にするララン。戦場に出ている以上、味方に死者が出なくても敵には出て、敵に死者が出なかったら味方に死者が出る。命を賭けた戦いでは必ずどちらかに死者が出る。死からは誰も逃れられない、その事を三人は十分理解している。だがそれでも仲間の死を目にして動じるのは当然の事だ。


「・・・とにかく、これ以上仲間を死なせる訳にはいかない。周囲を確認して他に逃げ遅れた奴がいないか・・・」


 ヴリトラが周囲を確認して他に生きている者や逃げ遅れた者がいないかを探そうとすると、何やら背後から気配を感じ、ヴリトラは言葉を止めて振り返りながら森羅を構える。そこには広場に攻めて来たBL兵達の中で唯一長身で大剣を持っていたBL兵の姿があった。


「チッ!もう一人いたのか!」

「アイツだけ今までの兵士と雰囲気が違う。一体何なんだ?」

「あれはブラッド・レクイエムの上級の機械鎧兵士だ」

「上級?」

「ああ、俺達が今まで戦って来た奴は下級の機械鎧兵士、一番下っ端で弱い連中だ。だがコイツ等は幹部から指示を受けてその下級の連中を引き連れて行動する、言わば隊長の様な存在だ」

「・・・やっぱり強いの?」

「ああ、少なくとも下っ端どもとはレベルが違う」


 今までの敵とは明らかに雰囲気の違う上級のBL兵を見て森羅を構えながら気を引き締めるヴリトラ。ラピュスとラランも騎士剣と突撃槍を構えて警戒している。


「・・・二人とも、コイツは今までの連中とは違う。俺一人でやるからお前達は下がってろ」

「何?だが、お前一人で大丈夫なのか?」

「心配ねぇよ。俺を誰だと思ってるんだ?例え上級でも相手が一人なら楽勝だ」

「・・・一緒に戦う」


 加勢しようとするラランを見てヴリトラは顔を軽く横へ振った。


「お前達じゃまだ上級の兵士には勝てない。下がってるんだ」


 少し声に力を入れてラランに言うヴリトラ。それを聞いてラランはスッと突撃槍を下ろし、ラピュスも騎士剣を下ろした。二人が下がって距離を作るのを確認すると、ヴリトラは上級BL兵に向かって走り出した。そして上級BL兵も大剣を構えてヴリトラに向かって走り出す。二人は相手に向かって跳び、自分達の得物の刃をぶつけ合う。周囲に火花と衝撃、金属が削れる様な音が広がった。

 ラピュスとラランの前に現れたBL兵達。二人以外の者達は皆殺されてしまい、二人も命を奪われそうになるが寸前でヴリトラに助けられるが、仲間達の死を目にして三人は戦争の恐ろしさ、虚しさを感じるのだった。そしてその気持ちを胸にしまい、ヴリトラ達は目の前の上級BL兵に立ち向かう。


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