第百七話 戦いで無慈悲になる事も・・・
港と町を繋ぐ西側の街道から海賊達が町へ侵攻して来たと知らせを受けたヴリトラ達。海賊達を食い止める為に七竜将の誰かを向かわせようとするも皆、手が離せない状態にあり、そこへ町長の家の警備についていたファフニールが行くと進言し西側の街道へ向かう。そしてその途中、ファフニールは攻めて来た海賊達と遭遇し戦いを始めるのだった。
海賊達はサーベルを振り上げてファフニールに攻撃を仕掛ける。しかし、ファフニールはサーベルの斬撃を簡単に回避し、持っていたギガントパレードで反撃する。
「ハアァ!」
ファフニールはギガントパレードを両手で握り、力一杯横に振る。ギガントパレードの頭は海賊の脇腹にめり込む様に命中、海賊はそのまま殴り飛ばされて民家の壁に叩きつけられた。海賊達は一撃で動かなくなった仲間を見ながら目を丸くして驚く。
「さあ、次は誰?」
ギガントパレードを担ぎながら目の前で固まっている海賊達に言い放つファフニール。海賊達は見た目とは裏腹にとてつもない怪力を持つファフニールに恐れをなして後ろにゆっくりと下がって行く。すると先頭に立っていた一人の海賊が後ろで驚いている仲間達の方を向いて喝を入れる。
「お、お前ら、ビビってるんじゃねぇ!相手はたった一人の小娘だぞ?数はこっちの方が上なんだ、そんな状態でもし負けたら海賊のいい恥だぞ!さっさとこんなガキを殺して町へ攻め込むんだ!」
先頭に立ちサーベルを掲げる仲間の姿を見て、退いていた海賊達は隣に立つ仲間の顔を見ながら状況を再確認する。そして自分達が有利である事に気付くと士気が戻りざわめき始めた。
「そうだ、相手はデカいハンマーを持ってるだけのガキじゃねぇか、恐れる事はねぇ!」
「俺達は最強のソフィーヌ海賊団だぁ!」
「「「「「おおぉーーっ!」」」」」
士気を高めて大声を出す海賊達。そんな彼等をファフニールは細い目でジッと見つめていた。
(・・・自分達が最強。そうやって力を過信している人ほど弱い人はいないってヴリトラやジャバウォックが言ってたけど、この人達が力を過信してるだけじゃなくて人数でも自分達が有利だって思い込んでる・・・。戦士としては一番命を落としやすいタイプだ・・・)
自分と相手の力の差に気付かずに自分達が一番だと思い込んでいる海賊達の態度の言葉にファフニールは心の中で哀れんでいる。彼女も幼いが一人の傭兵としてそういった知識は身につけているので海賊達の過信している姿に若干呆れているのだろう。ファフニールは表情を変えずにギガントパレードを構え直した。
海賊達は士気が戻ると再び一斉にファフニールに向かって走り出した。ファフニールはギガントパレードを頭上で勢いよく両手で回し、近づいて来た海賊達に向かって振り下ろす。ギガントパレードの頭が地面に触れると、そこを中心に轟音と衝撃波が周囲に広がり海賊達を吹き飛ばした。
「「「「「うぉわああぁ!」」」」」
叫び声を上げながら吹き飛ばされていく海賊達は地面や民家の壁に叩きつけられたり、民家の前に置かれている木箱や樽に突っ込んでそれらをバラバラにした。そしてギガントパレードで叩かれた地面は大きく凹み、ひび割れて砂埃を上げている。
ファフニールはギガントパレードをゆっくりと持ち上げてまた肩に担ぎながら周囲で倒れている海賊達を見回した。
「相手の実力を外見で判断したり、数が多いからって自分達が有利だと思うのは素人の考え方だよ?貴方達も戦士なら自分達と私の力の差を感じ取って勝ち目が有るか無いかを瞬時に察し逃げるべきだと思うけど・・・」
海賊達を見ながら少し声を低くして呟くファフニール。周りではギガントパレードの一撃で海賊達が倒れており、その奥ではファフニールの攻撃範囲に入らずに無傷でいる数人の海賊達の姿もあった。
「何なんだよ、あのガキは・・・?ただの子供じゃねぇぞ・・・」
「クッソォーッ!港の連中といい、コイツといい、一体どうなってるんだぁ!?」
「これが、ストラスタ公国の軍隊を倒したっていう傭兵団の力なのか・・・?」
ファフニールの力を目にして再び士気を低下させる海賊達。その殆どが戦意を失って何時降参してもおかしくない程の状態だった。だが、中にはまだ戦意を失っていない者もおり、サーベルや斧を握ってファフニールを睨んでいる。
「テメェ等、怖気づくんじゃねぇ!さっきまでの勢いはどうした?」
「俺達は最強の海賊なんだぞ?ストラスタ公国軍を撃退した傭兵達を倒せばそれこそ船長の言うとおり俺達の名は国中に広がり、敵無しになるんだ!」
自分達の名を上げる事だけを考え、ファフニールに戦いを挑む事を考える数人の海賊達。最初に二十人いた海賊の中、既に半分はファフニールの攻撃で息絶え、気を失い倒れており残りの十人の中の六人が武器を持ちファフニールを睨んでいた。
ファフニールは周りで倒れている海賊、そして奥で自分を見ている海賊を見て黙り込んでいる。
(・・・まだ諦めない人がいるなんて。諦めずに敵に立ち向かうもの大切だけど、あれじゃあ勇気と無謀をはき違えてるだけだよ)
自分達の身を大切にしようとしない海賊達に完全に呆れているファフニールは溜め息をついた。そんなファフニールの反応を見ていた海賊達はカチンと来たのかサーベルを握る手に力を入れてファフニールを睨み付ける。
「あのガキィ、今俺達を見て溜め息なんかつきやがって!」
「完全にナメてやがる!」
「行くぞ皆ぁ!あの小娘に大人の怖さってのを教えてやるんだぁ!」
戦意を失っていない海賊達は武器を手に取りファフニールに突っ込んでいく。ファフニールは自分に向かって走って来る海賊達を見てあまりの無謀さに哀れむのも嫌になったのか、もう一度溜め息をつくと鋭い表情へと変わり海賊達を見つめる。ファフニールがギガントパレードを構えると海賊の一人がサーベルを両手で持ち勢いよくサーベルを振り下ろした。ファフニールはその斬撃を横に移動して回避するとギガントパレードの柄の先で海賊の顔を突いた。
「ぐわぁ!」
顔を攻撃された海賊はよろけ、そこへファフニールがキックが腹部に直撃。海賊はそのまま蹴り飛ばされて仰向けに倒れる。そこへ今度は斧を持った海賊がファフニールの後ろから迫って来た。
「このアマァ!」
海賊は斧を振り下ろしてファフニールに攻撃するもファフニールは後ろを振り向く事なく横へ移動して回避する。そして振り返りながらギガントパレードで海賊を殴り飛ばした。海賊はまるで打たれた野球ボールの様に飛んで行き民家の屋根の上に叩きつけられる。そしてファフニールの前に海賊が持っていた斧が落ち、高い金属音を上げた。
「コ、コイツ、後ろも見ずに・・・!」
槍を持った海賊がファフニールが後ろからの攻撃を簡単にかわした姿に驚いていると、ファフニールはそのまま連続攻撃に移った。ギガントパレードで槍を持った海賊を右から殴り、海賊の左肩に直撃させる。
「ぐがああああぁ!」
振動ハンマーの頭が当たったところからミシミシと音が聞こえて海賊の表情が苦痛で歪む。ファフニールはそのまま両腕に力を入れて海賊をギガントパレードで打ち飛ばす。海賊はT字路の角に叩きつけられて地面に俯せに倒れる。それを見た残りの海賊達はサーベルや斧を持ったまま固まってしまう。そこにはさっきまでの威勢は全く残っていなかった。
「んん?」
ファフニールが残りの海賊達の方をジロッと見ると海賊達はビクッと反応して武器を構える。
「ひ、退くなぁ!相手はたった一人のガキだぞぉ!」
海賊の一人が他の海賊達に声を掛けてサーベルを強く握る。しかし、海賊達の表情は鋭くなっているが微量の汗を掻き、武器を持つ手は震えていた。そんな海賊達を見てファフニールはゆっくりと近づいて行く。
「ひ、怯むなぁ・・・!」
「・・・降参してくれませんか?これ以上の戦いは私も気が重くなります・・・」
海賊達の見苦しい姿を見てファフニールは戦う事に気が進まなくなったのか投降を勧める。奥の方で戦意を失っていた海賊達はそれを聞いて少し安心したのかホッとする。しかしまだ若干戦意を残している海賊達は汗を掻いたままファフニールを弱々しく睨んだままだった。
「ふ、ふざけるな・・・俺達は誇り高い大海賊だぞ?テメェの様な何処の馬の骨かも分からないような奴に降参してたまるか・・・!」
「・・・・・・」
「知ってるぜ?お前等七竜将って言う傭兵隊なんだろう?お前等だって、金の為に国や王国のお偉いさんの命令に従って物を奪ったり、人の命を奪う犬どもじゃねぇか・・・!」
「・・・・・・」
海賊の話を目を閉じて話を聞いている。一見、何も気にせずに黙って話を聞いている様に見えるが、彼女の眉を少しピクピクと動いている。どうやら若干イラついているようだ。そんなファフニールの事を気にせずに海賊は話を続けた。
「大体、俺等と同じで金にしか興味の無いテメェ等に俺達のやり方を否定したり、邪魔する資格なんてあるのかよ?雇い主がいないと何もできない犬どもが、自由な俺達海賊様の邪魔をするなんて十年早いんだ――」
海賊がファフニールを嘲笑うように話していると、ファフニールは目を見開き、機械鎧の肩の装甲を動かして中から小さい五つの筒状の物、人質救出用の内蔵銃を出した。そしてそのまま素早く内蔵銃を撃ち、目の前で武器を構えている海賊全員の額や心臓に命中、喋っていた海賊は全てを言い終わる前に絶命し、残りの海賊達もその場に倒れた。海賊達を黙らせるとファフニールは倒れている海賊達を睨みながら内蔵銃を機械鎧の中へしまう。
「・・・口は災いの元だよ?私、自分の事はいくらバカにされてもいいけど、七竜将の事や仲間の事をバカにする人は許せないの・・・」
動かなくなった海賊達を見ながらファフニールはギガントパレードを担いで倒れている海賊達の奥を見る。そこには怯えて目で座り込み、ファフニールを見ている残りの海賊達の姿があった。ファフニールは目を細くしてその海賊達を見ながら口を開く。
「降参、してくれますか?」
「「「「・・・・・・!」」」」
静かに投降するか尋ねるファフニールを見て生き残った海賊達は黙ったまま素早く数回頷く。どうやらファフニールが怖くて言葉も出なくなったようだ。海賊達が投降したのを確認したファフニールは周りで動かなくなった海賊達を見回す。
(・・・それにしても、此処にいる海賊だけでも二十人くらい。町の入口や他の港に繋がっている街道から攻めて来た海賊達の人数を足しても五十人以上はいる・・・。ヴリトラの話では海賊は四、五十人はいるって話だったけど、実際はそれ以上いるって事になるね)
ファフニールは海賊達の人数がヴリトラが町長から聞いた人数を超えている事に気付いてギガントパレードを担いだまま難しい顔を見せて考え込む。
「考え込むのは後にしろ。まだ海賊達がいるかもしれないぞ・・・?」
「!」
何処からか聞こえてくる声にファフニールはフッと顔を上げて声の聞こえた方を向く。そこには民家の屋根の上に乗り、愛用の超振動戦斧を担いでいるオロチの姿があった。オロチはファフニールが自分の方を向くと屋根から飛び下りてファフニールの目の前に着地する。
「オロチ、何時からいたの?」
「ついさっきだ。お前一人で大丈夫なのかと思ってな、急いで駆け付けたのだが、不要だったようだな・・・」
「まぁね」
オロチを見上げてファフニールはニッコリと笑う。そんな彼女をオロチは無表情で見下しており、視線を倒れている海賊達の方へ向けた。
「それにしても、お前があんな風に怒る姿を見るのも久しぶりだな・・・?」
「・・・さっきの見てたの?」
「ああ、お前が海賊達を内蔵銃で撃つ直前に着いたからな・・・」
「そう・・・」
海賊達の方を向きながら何処が寂しそうな表情を見せるファフニール。傭兵とは言え、ファフニールはまだ十四歳、無慈悲に相手の命を奪った事に少し抵抗を感じているのだろう。そんなファフニールを見てオロチは無表情のまま口を開く。
「今更、無慈悲に相手の命を奪った事にショックを受けてどうする?私達は今までその様な経験を何度もしてきたはずだ・・・」
「・・・うん、そうだね。・・・ゴメン」
「お前が自分を責めるのは勝手だ。だが、今更その罪悪感から逃げ様などとは考えるな。人の命を奪った時点で私達はもう後戻りはできないのだからな・・・」
オロチのクールな発言を聞いたファフニールは真剣な顔でオロチを見上げながら頷く。七竜将のメンバーは全員が人の命を奪っている。その時点で彼等はもう普通ではなくなった。それでも、彼等はその生き方を続けると自分の胸に誓っている。それが七竜将の心の強さでもあった。
T字路の海賊達を倒したファフニールとオロチは生き残った海賊達から情報を聞き出し始める。海賊達は怯えており、二人の質問に対してウソをついたり黙秘する事は無かった。
「間違いないんだな・・・?」
「ハ、ハイ!うちの一味は全部で八十五人の海賊団です!」
「八十人以上もいるなんて、ビックリ・・・」
「ああ。それで、どの道に何人を送り込んだんだ・・・?」
「そ、そこまでは・・・。船長かテキトーに決めて送り込んでるだけだから・・・」
海賊はオロチの質問に答え、それを聞いていたファフニールも港の方を向いて海賊達の戦力を想像する。
「八十五人もいてそこに迫撃砲が加わればかなりの戦力になるよ?下手をすれば王国の軍隊に匹敵するかも」
「確かにな。そこに海賊船と言う移動手段があり、そこに大砲が積まれていればまさに海上を移動する要塞だ・・・」
ファフニールとオロチはソフィーヌ海賊団が自分達の想像以上の力を持っていると知って真剣な表情を見せながら話をする。二人の顔を見ていた海賊達は落ち着きがないのか周囲をチラチラと見回していた。
「・・・何をキョロキョロしている・・・?」
オロチが海賊達の様子を見て低い声で尋ねる。すると海賊達はオロチの声にビクッと反応して顔を左右に振った。
「い、いい、いえ!別に何も!」
「ななな、何でもないです!」
未だに怯えている海賊達を見てオロチは目を細くしながら海賊達を見つめていた。そこへファフニールが海賊達に近寄ってきて姿勢を低くする。
「ところで、西側の街道を通って港から侵攻して来た海賊は貴方達だけなの?」
「い、いや・・・此処に来る途中で十人くらいが別れて別の道を通って行った・・・」
「何っ?何処へ行った・・・?」
オロチが海賊の胸ぐらを掴んで顔を近づけて尋ねる。海賊は自分を睨んで問い詰めて来るオロチに驚いて表情が固まった。
「み、港を出て最初の分かれ道で別れたんです。俺達は二つに分かれて町長の家を襲撃し、その家の財産を奪って来るよう言われたんで・・・」
「町長の家を・・・?」
「ハ、ハイ。俺達が港の方から町長の家に行って、別れた連中が大通りを通って正面から町長の家に攻撃を仕掛ける予定だったんです」
「大通り?・・・・・・成る程・・・」
何かに気付いたオロチは海賊の胸ぐらを離し、小型無線機のスイッチを入れて誰かの連絡を入れ始める。
「こちらオロチ、皆、聞こえるか・・・?」
オロチの通信する姿を目の前で見ていたファフニールはまばたきをしながら不思議そうにオロチを見つめている。それからしばらく通信をしていると、町長の家の方から数人の自警団員がやって来てオロチとファフニールの下へ駆け寄って来た。
「・・・という事だ。誰でもいいから一番近くにいる奴はその大通りに向かってくれ。じゃあ・・・」
自警団員に気付いたオロチは通信を終わらせると小型無線機のスイッチを切った。ファフニールはオロチを見上げて少し驚きの顔を見せている。
「・・・まさかリンドブルムとジルニトラの予想通りになるなんてね・・・」
「まだ海賊達がその大通りを通る可能性があるというだけだ。本当にそうなるとは限らん・・・」
「でも、可能性が大きいからその大通りに誰かを向かわせるようにしたんでしょう?」
「まあな・・・」
先程の通信の内容の事を話し合っているオロチとファフニールを見ていた海賊達は理解できないのかボーっと二人の姿を座り込んで見ていた。そして合流した自警団員達が二人の下に駆け寄って来る。
「大丈夫ですか?」
「すみません、準備と編成に手間取り遅れてしまいました・・・」
「もう戦いは終わった。あとはこの海賊達を拘束しておくだけだ・・・」
「では、そちらは我々が・・・」
「頼む。私とファフニールはもう少し港の方へ行って海賊達の様子を伺って来る・・・」
投降した海賊達を自警団員達に任せて、オロチは斬月を担ぎ歩き出す。ファフニールもギガントパレードを担いで歩き出すオロチを見ていた。
「行くぞ?もし他にも海賊達が侵攻していたらそのまま迎え撃つ・・・」
「でも私、ジャバウォックに町長の家の警備を任せてきちゃったし、戻らないと・・・」
「アイツは心配ない。一人でも十分守れる・・・」
「そう?」
「・・・行くぞ・・・」
オロチが港の方へ向かって街道を走り出すと出遅れたファフニールも慌ててその後を追う様に走り出す。自警団員達は海賊達を拘束しながらあっという間に見えなくなった二人に目を丸くしていたのだった。
その頃、町長の家へと続く大きな通りには十人ほどの海賊がサーベルを持って集まっていた。その通りこそオロチが海賊から聞き、戦いの前にリンドブルム達が見つけた海賊が通る可能性が高いと言われていた大通りだ。そして彼等こそ、西側の街道を通った海賊達と別れた連中で、今まさにその大通りを通って町長の家に向かおうとしていた。
「後は此処を真っ直ぐ行けば町長の家はすぐそこだ!」
「ああ、そこにあった拠点にいたのも自警団員だけだったし、大した事もなかったな」
「迫撃砲を失った事は痛かったが、町長の家に無傷で辿り着けたんだからよしとしようぜ」
「おうよ!それじゃあ、行くぜ皆ぁ!」
一人の下っ端の合図で十人全員が大通りを突き進む。隠れられる所も無く、騎士や自警団員達からの奇襲も無いと安心しきっている海賊達は全力で走る。
その時、突如先頭を走っていた下っ端の足元に弾痕が生まれ、その時の音に海賊達は驚き足を止める。
「な、何だ?」
「攻撃か?だけど、何処にも敵の姿は無いぞ」
海賊達が大通りを見回して敵の姿を探すが、隠れる場所の無い大通りには自分達以外に人影は無かった。すると、突如海賊達の上の方から声が聞こえてきた。
「敵がその通りにいるとは限りませんよ?」
聞こえて来たのはリンドブルムの声。海賊達は一斉に上を向くと、大通りを挟む左右の民家の屋根の上から銃器で自分達を狙っているリンドブルムと五人の騎士の姿があった。
「その大通りは隠れる所も無く、数の少ない僕達にとっては不利な場所。でも、屋根の上からなら話は別です、此処なら敵の攻撃も届かず、隠れる所の無い敵を一網打尽にできる!」
リンドブルムは海賊達がこの大通りを通る事を予想して屋根の上の銃器を持った数人の騎士を待機させるように作戦の直前にヴリトラの頼んでおいたのだ。これこそ、リンドブルムが用意した仕掛けだったのだ。海賊達は上から狙われている事に動揺を隠せずに戸惑い始める。そして地上からは自警団員達が大勢武器を持って集まり、海賊達は大通りで挟まれ逃げ場を無くした。
「投降してください!さもないとこのまま皆さんに一斉攻撃を仕掛けます!」
完全に自分達に勝ち目がないと悟った海賊達は戦意を失い、武器を捨てて潔くリンドブルムの警告を聞きいれる。そして町長の家を襲おうとしていた海賊達は全員拘束されたのだった。
ファフニールとリンドブルムによって町の西側から攻めて来た海賊達は全て倒され、捕らえられた。予想以上に人数の多い海賊ではあるが、七竜将と第三遊撃隊の騎士達は怯む事無く自警団と共に海賊達を押し戻していく。