第百六話 海賊圧倒! 町中で燃える戦火
町での海賊達の戦いは徐々に激しさを増していく。浜辺から町に侵攻しようとしていた海賊達の別働隊も前もってニーズヘッグが仕掛けておいたクレイモア地雷によって全滅、それを確認したリンドブルムとラランは急いで仲間達の下へ戻るのだった。
街道を走りながら港の方にある仮拠点を目指すリンドブルムとララン。向かっている途中で何度か銃声や爆音、海賊達の声が聞こえて来たが二人が真っ直ぐ仮拠点へ向かって走った。
「だんだん銃声や爆音なんかが激しくなってきてる!」
「・・・皆が海賊達を押し戻す為に必死で攻撃してる証拠」
「急ごう!弾やグレネードが無くなれば後は剣で戦うしかない。そうなると数の少ないこっちが不利になるよ!」
仲間達の事が心配になった二人はより速く走り仮拠点へと向かった。しばらく街道を走り、T字路やって来て二人は左右の道を素早く見て確認する。そして右の道の奥に仮拠点がありその中から数人の騎士と自警団員が海賊達と交戦している姿が目に入った。
「海賊だ!」
「・・・あっちは港に続いている道。つまりそこにいるのは港から来た海賊達」
「・・・どうやら元の拠点に戻る前にあそこを助ける必要がありそうだね」
「・・・行く?」
「当然!」
ラランの方を向いて力強い声で答えたリンドブルムは仮拠点へ向かって走り出す。ラランも走って行ってリンドブルムの後を追って走り出した。
仮拠点では騎士達がバリケードに身を隠しながら持っているMP7やベレッタ90を撃って港から攻めて来た海賊達を食い止めていた。だが、海賊達の中、何人かは銃撃を受けて倒れたり民家の壁に寄り掛かるなどをしているが、殆どが民家と民家の間にある細道に隠れて銃撃を凌いでいる。そして銃撃している騎士達の中にはヴリトラ達と一緒に港の防衛についていたアリサの姿もあった。
「皆!海賊達を何としても食い止めるのよ!」
MP7を撃ちながら周りで銃撃をしている騎士達に声を掛けるアリサ。既に足元には大量の薬莢が転がっており、長時間銃撃していた事が一目でわかった。にもかかわらず撃った銃弾の殆どが民家の壁に当たったり、街道の隅の積まれている木箱に当たるなどで殆どが外れている。
「副隊長!こちらの銃の弾が無くなりました!」
「こっちもです!」
MP7を撃っていた二人の男性騎士が弾が切れた事をアリサに伝える。それを聞いたアリサの表情に若干焦りと驚きが浮かんだ。
「クゥ!・・・弾が無くなったら後はいつものように剣で戦う事になるわ。人数ではこちらの方が不利、白兵戦に入る前に一人でも人数を減らしておくのよ!」
アリサはMP7を撃ちながら周りのいる騎士や自警団員達に言った。今仮拠点にいるのはアリサを含めて騎士が四人、自警団員が五人の合計九人。それに引き替え海賊達は少なくても十八人はいる。白兵戦に入ったら数で劣るアリサ達の方が不利になるのは明白だった。アリサは白兵戦に入った時に少しでもこちらに勝機があるように人数を減らしておく為、銃器で一人でも多く倒しておく事を考えていたのだ。
男性騎士達の銃器の弾が切れてからしばらく銃撃していると、今度はアリサの隣でベレッタ90を撃っていた女性騎士が銃撃を止めてアリサに声を掛けた。
「副隊長、私の銃も弾が無くなりました!」
「ええっ!?予備の弾は?」
「そ、それが、もう残っていません・・・」
予備の弾薬も無くなった事を知らされ、MP7を撃ちながら更に焦った表情を見せるアリサ。そしてアリサのMP7も遂に弾が無くなり、街道から銃声が完全に消えた。
「しまった!私の銃も・・・」
自分のMP7も弾切れになり驚くアリサ。周りの騎士や自警団員達も若干焦りを見せ始めた。すると、遠くで隠れていた海賊達が銃声が止んだ事に気付いてゆっくりと姿を見せる。
「おい、静かになったぞ?」
「どうやら騎士達の使っていた変の武器が使えなくなったらしいな」
「へっ!あれさえ使えなければ俺達にもう怖いものはねぇ!」
「おうよ!奴等を捕まえて使っていた武器を全部奪っちまおう。そうすれば俺達は最強になれるんだぁ!」
「ついでに奴等も人質にして町の連中を降伏させようぜ!」
海賊達が自分達が有利になったと確信して騒ぎ出し、アリサ達に勝った後の事を話しだす。アリサ達は海賊達が何を話しているのか聞こえていないが、その表情を見ればどんな内容なのかは分かるらしく真剣な顔で海賊達を見つめて剣を抜いた。
「何かろくでもない事を考えてるって顔ね・・・。だけど、銃が使えなくなったってまだ私達には剣があるのよ!」
アリサは鞘に納めてある騎士剣を構えて海賊達の方を向く。周りの騎士や自警団員達も剣や槍を手に取り構えた。
「例え数で不利だとしても、まだ私達は戦える。皆、最後まで諦めちゃダメよ!?」
騎士達の方を向いてアリサが勇気付ける様に声を掛ける。騎士達はアリサの言葉に力強く頷くも、自警団員達は自信が無いのか不安そうな顔を見せている。
海賊達もサーベルを片手にアリサ達のいる仮拠点へ向かって走り出した。アリサ達も仮拠点から出てバリケードの前に立ち、一斉に剣を構える。海賊達は走るスピードを緩めず、徐々にアリサ達に近づいていき、あと十数mという所まで来た。
「・・・皆、行くわよ!」
アリサが周りの騎士達に声を掛けて戦いを始める事を告げた、その時、突然何処から三発の銃声が聞こえてきた。そして突っ込んで来る海賊達の中の三人が俯せに倒れる。海賊達はいきなり倒れた仲間に驚いて一斉に急停止した。
「な、何だ!?」
「今度は何なんだよ?」
「もうアイツ等は訳の分かんない武器は使えねぇはずだろう?」
アリサ達が銃器を使えないと知って攻めて来た海賊達はまたしても銃撃された事に驚きを隠せずにいる。だが、驚いていたのはアリサ達も同じだった。
「副隊長、今のは・・・?」
「私にも分からないわ・・・」
男性騎士の質問に答えられずに首を横に振るアリサ。他の騎士や自警団員達も驚いている。そんな時、突如アリサ達の前に一つの人影が空から降りてきて街道の真ん中に着地した。アリサ達は人影に一瞬驚くも、後ろ姿と身長を見て直ぐにそれがリンドブルムだと気付く。
「リンドブルム!」
「大丈夫ですか?皆さん」
チラッと後ろを向いてアリサ達の安否を確認するリンドブルム。すると今度はアリサ達の背後から気配がし、アリサ達は一斉に振り返り、仮拠点の入って来ているラランの姿を確認した。
「ララン!」
「・・・アリサ、皆、平気?」
無表情で静かな声を出して尋ねるララン。アリサ達は質問に答える代りに笑いながらラランとリンドブルムの顔を見る。二人もアリサ達が無事なのを確認してとりあえず安心した。ラランは仮拠点の中を通ってリンドブルムの隣まで来ると突撃槍を構えて海賊達を睨み付け、リンドブルムも右手に持つライトソドムを海賊達に向ける。
「アリサさん、銃っていう武器は弾が無いと使い物にならなくなってしまうんです。無駄撃ちをすると直ぐに無くなっちゃういます、大切に使ってください?」
「・・・うん」
リンドブルムの言葉に同意してラランも頷く。アリサ達は何も言い返せずに小さく俯いて恥ずかしそうな顔を見せた。
海賊達は突然現れたリンドブルムとラランを見てサーベルを構えながら睨んでいる。既に突然の奇襲で仲間がやられた事へと驚きも無くなり、冷静さを取り戻していた。
「何だぁ?あのチビどもは?」
「小娘の方は騎士らしいが、小僧の方は何だ?・・・アイツも変な武器を持ってやがるぞ」
「・・・て事は、あのガキも変な攻撃をしてくるのか?」
「チイィ!全員隠れるぞ!」
海賊達はリンドブルムのライトソドムを見てまた銃器による未知の攻撃が来ると気付いてアリサ達の銃撃を凌いだ時の様に積まれている木箱の陰や近くにある細道へ逃げ込んだ。それを見たリンドブルムは隠れている海賊達を鼻で笑う。
「フッ・・・無駄ですよ。僕の銃には壁や盾なんて意味がありません」
そう言ってリンドブルムはライトソドムに付いている小さなスイッチを押した。するとライトソドムの銃身でスパークが発生し銃口へ集まる様に動き出す。以前ティムタームの武術大会でジージルとの試合で見せたレールガンシステムだ。そして海賊が隠れている木箱に狙いをつけて引き金を引くと、轟音と共に銃口から弾丸はもの凄い速さで発射されて木箱を貫通、その陰に隠れていた二人の海賊の体も貫いて民家の壁に命中する。だがそれでも弾丸は止まらずに石の壁をも貫いて屋内にまで入って行き、飛んでいった先にある別の石の壁に当たってようやく止まる。弾丸が当たった所からは煙が上がり、弾丸は熱で赤くなっていた。
「あ、ああ・・・」
「何が・・・起きて・・・」
体を貫かれた二人の海賊は何が起きたのか理解できずにその場に倒れて息絶えた。別の所に隠れていた他の海賊達も轟音と共に仲間が二人死んだ光景を目にし、顔色を悪くして震えている。騎士や自警団員達も海賊達程ではないが驚いているが、ラランとアリサは武術大会で一度見た事があるので少し驚いているだけだった。
「・・・やっぱり凄い」
「ええ、武術大会で一度見たけど改めて見ると本当に凄い・・・」
レールガンの凄さを見て驚き目を見張るラランとアリサ。リンドブルムは銃口から出ている煙を吹き消すと隠れている海賊達に向かって少し力の入った声を出す。
「海賊の皆さーん!僕は今の様な攻撃は何度も行う事ができます!これ以上この町で暴れようとしたり、抵抗すると言うのでしたら、またさっきのを撃ちますよぉー?」
海賊達に向かってのレールガンを使用する事を告げるリンドブルム。それは同時に海賊達へ投降するようにという警告でもあった。目の前でとてつもない破壊の一撃を見せられ、その攻撃で仲間が目の前で倒されたのを見れば大抵の者は戦意を失い投降する。隠れている他の海賊達も皆怯えた表情を見せている。やがて隠れていた海賊達がサーベルを捨てて物陰から出て来た。警戒するララン達であったが、リンドブルムが海賊達の表情を見てそれを止める。
「・・・降参してくれるんですね?」
リンドブルムが少し声を低くして尋ねると海賊の一人がゆっくりと頷く。リンドブルムがララン達の方を向いて小さく笑った。ララン達は安心したのか少しだけ表情が和らぐ。
「フゥ・・・。皆、海賊達を捕らえて拘束しておきましょう」
アリサの指示を聞いて騎士と自警団員達は一斉に頷き、ロープを持って海賊達の下へ駆け寄ると一人ずつロープで縛って拘束すると全員を近くの民家の中へ連れて行く。海賊達が全員民家に入るのを確認すると残ったリンドブルム、ララン、アリサは仮拠点の前で見つめ合っていた。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
「いえ、一人も怪我した人がいなくてよかったです」
「ええ、本当に・・・ラランもありがとう」
「・・・別にいい」
アリサに礼を言われたラランは少し照れくさいのか顔を背けて呟く。それを見たリンドブルムはどこか楽しそうに笑って彼女の顔を見ている。
「さて、此処は銃器の弾が無くなっちゃったみたいだから、僕か待機しているオロチ、もしくは町長の家を警備しているジャバウォックかファフニールの誰かを呼んで此処の付いてもらう事に・・・」
リンドブルムが七竜将の誰かに救援を求めようと小型無線機のスイッチを入れようとした時、小型無線機から突然コール音が聞こえてきた。自分が連絡を入れる前に呼び出しがあった事に少し驚いたのか、リンドブルムは耳にはめてある小型無線機を見てスイッチを入れる。
「こちらオロチ、皆、聞こえるか・・・?」
「オロチ?どうしたの?」
「リンドブルムか・・・。お前、今何処にいる・・・?」
「町の東側、港から街へ繋がってる街道の拠点の前にいるよ」
「東側か・・・」
リンドブルムの居場所を聞いてオロチは少し低い声を出す。その声を聞いたリンドブルムは小首を傾げて不思議そうな顔を見せる。
「一体どうした?」
「町の西側にある街へ続く街道の拠点が海賊達に突破されたらしい・・・」
「ええぇ?街道って、僕のいる所みたいに港から街へ続く街道って事?」
「ああ、その拠点の守りについていた騎士からの知らせだ、間違いないだろう。話によると自分以外の者は皆やられたようだ・・・」
「そんな、確か騎士の人は皆銃器を持っていたはずでしょう?それなら簡単に・・・・・・あっ!」
ついさっき銃器の弾を全て使い果たしてしまったアリサ達の方を向くリンドブルム。彼はその西側の仮拠点の警備をしていた騎士達も全ての弾を使ってしまい銃器が使えない状態で戦い海賊達に負けてしまったと考えたのだ。アリサは自分を見て口を開けたまま目を見張っているリンドブルムを見て小首を傾げた。
「リンドブルム、どうした・・・?」
小型通信機から聞こえてくるオロチの声に気付いてリンドブルムはフッと我に返る。
「ううん、何でもない。それよりもどうするの?きっと海賊達は町中へ広がって色んな場所を攻めるはずだよ」
「分かっている。港にいる海賊達もその突破した西側の街道から一気に攻め込んで来るだろう、放っておいたらこちらが不利になる・・・」
「だからそれをどうするのさぁ?」
リンドブルムがその侵攻してくる海賊達を対処するのか尋ね、オロチも黙り込んで考える。その時今度は小型通信機からファフニールの声が聞こえてきた。
「オロチ、リンドブルム、聞こえる?」
「ファフニール?」
「どうした・・・?」
「そっちには私が行くよ。今いる町長さんの家からその街道までならすぐ行けるし、上手くすれば海賊が町に広がる前に止められるかも」
「お前がか・・・?」
「でも、それなら一番近いヴリトラ達が行った方がいいんじゃないの?」
リンドブルムがファフニールが行くよりも一番近いヴリトラ達が行った方がいいのではないかと話す。
町長の家の前に立つファフニールはギガントパレードを担いだまま小型通信機に指を当てて答えた。
「ううん、私が行った方がいいと思う。確かにあそこの街道は港に繋がってるから隣の街道を守ってるヴリトラ達の誰かが行った方がいいかもしれないけど、二つの街道の間には沢山の家があるでしょう?一度町に戻ってから西の街道に行くと時間が掛かって海賊達の侵攻に時間をあげちゃうかもしれないもん。町長の家からなら道は一本だし走って行けばもっと早く着くでしょう?」
「確かに・・・」
十四歳の少女でありながら先を読んで考える頭の回転の速さにリンドブルムとオロチ、そしてファフニールの近くで話を聞いていたジャバウォックも驚いている。彼女も七竜将の一員、これくらいは簡単な事だった。
「・・・確かにそうだな。早く着くならファフニールが行った方がいい。・・・私はファフニールに行かせる事に賛成する・・・」
ファフニールの話を聞いてオロチはファフニールに行かせる事に賛成した。小型通信機を通して話を聞いていたリンドブルムもしばらく考え込み、答えを出して語りかける。
「・・・分かった。じゃあファフニールに任せる。ヴリトラ達もそれでいいでしょう?」
「ああ、俺達は構わないぜ」
リンドブルムがヴリトラ達に声を掛けると、小型通信機からヴリトラの声が聞こえてくる。小型通信機は全て繋がっているので他の七竜将にも今の会話は全て聞こえていたのだ。
「ファフニール、そっちはお前に任せたぞ?」
「了解、隊長♪」
ヴリトラに期待されて嬉しそうな声を出すファフニール。通信が終り、ファフニールが小型無線機のスイッチを切るとジャバウォックの方を向いて小さく笑った。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるから、此処はお願いね?」
「ああ、分かった。その代わり無理はするんじゃねぇぞ?ヤバくなったら直ぐに俺達に連絡を入れるんだ」
「分かってる。それじゃあ!」
ジャバウォックの忠告を聞いたファフニールはギガントパレードを担いでバリケードを跳び越えると港の方へ走り、西の街道へと走って行った。大きなハンマーを担いでおきながらもの凄い速さで走って行くファフニールを見て自警団員達は目を丸くしている。ジャバウォックはファフニールの後ろ姿を見て頼もしく思える様な顔を見せていた。
町長の家から出たファフニールは道に沿って走り続け、目の前の下り坂を駆け下りていく。
「急いだ方がいいかな?早くしないと海賊達が町の中心に来ちゃう」
海賊達にこれ以上攻め込まれないようにする為にファフニールは急いで西の街道へ向かう。その途中で遠くから銃声や大勢の男の声が聞こえたりと戦いの激しさが伝わって来る。それを聞いたがファフニールは坂道を下り続けた。しばらく走っていると下り坂が終りT字路の真ん中にやって来たファフニールは一度足を止めて周囲を見回す。
「え~っと、港へ一番早く辿り着く道は・・・」
港までの近道を考えていると、前の道から大勢の男の声が聞こえてきたそれに気づいたファフニールが前を向くと、奥の方からサーベルや槍、斧をを片手に持って走って来る大勢の海賊達が視界に入ってきた。それを見たファフニールは真剣な表情でギガントパレードを構える。海賊達も走ったまま、T字路の真ん中に立つファフニールを見つけた。
「おい、何だあのガキは?」
「港の方で小型船を沈めた連中の仲間じゃないのか?」
「だったら捕まれる必要もねぇ!ガキだろうとぶっ殺しちまえぇ!」
ファフニールに対して殺意をむき出しにする海賊達は走る速さを上げてファフニールに突っ込んでいく。ファフニールも自分に向かって走って来る海賊達を睨みつけて地を蹴り、海賊達に向かって行った。
少しずつ激しさを増していくカルティンの戦い。各七竜将、第三遊撃隊のメンバー達は協力しながら海賊達を迎え撃つ。町への侵攻を許してしまったがファフニールが攻めて来た海賊達の迎撃に向かい、今まさにその戦いが始まろうとしていたのだった。