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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第六章~荒ぶる海の激闘~
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第百五話  戦術と戦力 

 海賊達が上陸し、遂に町に攻め込んで来た。ヴリトラ達は町への被害を少しでも抑える為に海賊達を迎撃する。だが、持っている銃器の弾数にも限界があり、銃器で戦い続ける事は無理だと考えたヴリトラはラピュス達と共に正面から海賊達に接近戦で挑む事を決意した。

 港から町へと続く三つの街道の中、中央にある街道の奥にある仮拠点では武器を手に取り、仮拠点の前で堂々と立つヴリトラ達の姿があった。既に銃器での応戦はやめて剣などの接近戦の武器を握り、目の前にいる大勢の海賊達と睨み合っている。


「皆、ここからは剣を使った接近戦だ。条件は同じだが数が多い分、むこうが有利にある。油断するなよ!?」

「「「「「おおーーっ!」」」」」


 ヴリトラの言葉に彼の後ろにいる騎士や自警団員達が大きな声で返事をする。そしてヴリトラと騎士達の間ではラピュス、ジルニトラ、ニーズヘッグの三人も自分の得物を持ち海賊達を見ていた。


「いよいよ本当の意味で海賊達との戦いが始まるんだな・・・」

「そうだ。この街道はまだ広さがあるから戦い難いというのは無いが、後ろに回り込んだ海賊達に囲まれる可能性もある。気を付けろ?」

「ああ、分かってる」


 ニーズヘッグの忠告を聞いたラピュスは騎士剣を構えて返事をする。すると二人の間に立っているジルニトラは若干困った様な顔をして声を出した。


「それよりも、あたしはどう戦えばいいのよ?あたしの使ってる武器はこのサクリファイスなのよ?皆が海賊達と剣を交えている中でアサルトライフルなんて撃てないわよぉ~」

「確かに、海賊だけじゃなく俺達にも当る可能性があるから危ないな」


 ジルニトラが白兵戦で全力を出せない事に気付いたニーズヘッグも困り顔を見せる。ラピュスも海賊達を警戒しながらジルニトラをチラッと見た。


「・・・だが、見たところ海賊達は十数人はいるんだ。こちらは負傷者を除いても七人、銃を使っても海賊達に当たる確率の方が高いと思うか・・・」

「数が少ないからって仲間達に当たらないという保証はないわ。敵の近くに仲間がいる時に銃を使うのは危険よ、しかも激しい戦いの最中なら尚更」

「な、成る程・・・」


 海賊達と戦う他の騎士や自警団員に当たる事を心配し、ラピュスに真面目な顔で銃器を使うリスクを話すジルニトラ。それを聞いてラピュスも納得したのか汗を垂らして頷く。すると今度はヴリトラが海賊達を見たまま話に参加して来た。


「ジルニトラ、お前、何か大事な事を忘れてるんじゃないか?」

「大事な事?」


 ヴリトラの方を向いて不思議そうな顔を見せるジルニトラ。ラピュスもヴリトラの言った事を気になり同じような表情で彼の方を向いている。だがニーズヘッグはヴリトラが何を言いたいのか既に気付いているのか、ジッとヴリトラの背中を見ていた。


「俺達七竜将はどんな状況でも最低限の戦いができるように体を鍛えてるんだぞ?」

「ええ、それは知ってるわ」

「なら、武器が使えない状態はどう戦えばいいのかも知ってるはずだ。よく思い出してみろ?」


 最低限の戦い方、その意味を理解する為に俯いて考え込むジルニトラ。そしてある事を思い出してハッと顔を上げた。


「あっ!そういう事ね・・・」

「思い出したか?」

「ええ、おかげさまでね」


 ジルニトラは自分の方を向いてニッと笑うヴリトラにウインクをすると構えていたサクリファイスの負い紐を肩に掛けてサクリファイス本体を背負う形にすると両手を顔と胸の前に持って来て左足を一歩下げる。ジルニトラは何やら格闘技を使う構えとなり海賊達を見て笑う。


「武器が使えないのなら使わなくてもいい戦術で戦えばいいのよ。そう、格闘技と言う戦術でね!」

「そうだ、こういう時の為に俺はお前達に格闘技を教えたんだよ」


 ジルニトラが構えたのを見たニッと笑いながら海賊達の方を向き、ヴリトラは森羅を構えた。ラピュスとニーズヘッグも騎士剣とアスカロンを構えて戦闘準備に入る。ヴリトラ達の後ろにいる騎士と自警団員も剣を構えた。

 海賊達はそんなヴリトラ達の会話の内容を理解できずにただジッと見つめていた。


「おい、アイツ等何の話をしてるんだ?」

「知るかよ。だけど、向こうはたったの七人しかいないんだ。もうさっきのおかしな武器も使えねぇみてぇだから、もう恐れる事はねぇ。押し切るぞ!」

「おお、そうだ!全員ぶっ潰してやれぇ!」


 銃器を使わなくなったヴリトラ達を見て自分達が完全に有利に立ったと思い込んだ海賊達は更に勢いづいた。そして海賊達は一斉にサーベルを握ってヴリトラ達に向かって突撃する。


「おっ?向かって来やがったな」

「俺達が銃を使わなくなったから数が多い自分達が勝つと思い込みやがったな」

「考え方が甘いわね」


 七竜将三人がそれぞれ突撃して来る海賊達を見て自分達の思った事を口に出した。その直ぐ後にニーズヘッグが一歩前に出て右手に持つアスカロンをゆっくりと振り上げる。


「俺達は人数が少ない分、技術と武器の性能で補ってるんだよっ!」


 ニーズヘッグはそう言った瞬間に柄のスイッチを押して勢いよくアスカロンを振り下ろした。アスカロンの刀身は伸びて向かって来る海賊達の中心に向かって振り下ろされる。そして瞬間に周囲に砂煙と衝撃、大きな音を広げた。


「「うわああああっ!」」

「「ぐおおおおおっ!」」


 海賊達はニーズヘッグの一振りによって起きた衝撃で吹き飛ばされて街道の挟んでいる民家の壁に叩きつけられた。ニーズヘッグはアスカロンの柄を力一杯引っ張ると鞭状とかした刀身は元の剣の形に戻る。吹き飛ばされた海賊達は数人が壁に叩きつけられた事で気を失い、数人は痛みに耐えながらニーズヘッグ達を見ていた。


「な、何だよあの剣は?」

「見た事があるぞ、確か蛇腹剣って言う鞭みたいに伸び縮みする剣だ・・・」

「あんな物を使ってる奴がいるのかよ・・・」

「にしても、何て力なんだ。一振りで石の道に割れ目が出来たぞ」


 海賊達は自分達の真ん中に出来た大きな割れ目を見て驚きながら声を出す。超振動蛇腹剣であるアスカロンを機械鎧の腕で振り下ろされればこれくらいはどうって事はない。しかしその事を知らない海賊達は驚くことしかできなかったのだ。

 驚く海賊達を見てヴリトラは森羅を構えて地を蹴ると隙だらけの海賊達に向かって跳んで行った。ラピュスとジルニトラもそれに続く。


「はあああっ!」


 ヴリトラは森羅で目の前の海賊に袈裟切りを放ち斬り捨てると次の海賊に攻撃してアッサリと倒してしまう。海賊達も突然攻撃して来たヴリトラに驚いて慌てて後退し距離を取る。そして森羅を構えるヴリトラとその両脇で構えているラピュス、ジルニトラを見てサーベルを構えた。


「コ、コイツ等、他にもおかしな武器を使ってきやがるのか!?」

「おかしな武器など使っていない。普通の剣だ!」


 そう言ってラピュスは騎士剣で海賊に攻撃をし、海賊も慌ててサーベルでラピュスの斬撃を防いだ。だがラピュスは素早くサーベルを払い海賊を斬る。そして次の海賊に連続で攻撃を仕掛けた。

 ヴリトラに続き、ラピュスまでも攻撃して来た事に完全に海賊達は冷静さを失って混乱状態になっていた。そこへジルニトラが走って近づき、海賊の持つサーベルを左手で払うと腹部にパンチを撃ち込む。


「ぐほぉ!?」

「フッ!ハアァ!」


 目の前の海賊を気絶させるとジルニトラは左右にいる別の海賊にパンチとキックを放ちアッサリと倒した。


「何だこの女どもは!?」

「どうしてこんな強い女がいるんだよぉ!?」

「強い戦士に性別は関係ないでしょう!」

「まったくだ!」


 二人の圧倒的な強さに驚く海賊達を睨みつけるジルニトラとラピュス。二人はそのまま海賊達への攻撃を続け、それを見ていたヴリトラとニーズヘッグも怯んでいる海賊達に突っ込む。そして残った騎士と自警団員も四人に続いて剣を持つ海賊達に攻撃を仕掛けた。


「敵は完全に怯んでる!このまま押し戻せ!」


 完全に自分達が有利な状態になった事でヴリトラは周りのラピュス達に力強く声を掛けて士気を高めようとする。ラピュス達もヴリトラの声を聞きますます勢いづいて海賊達を倒していき、港へ押し戻していくのだった。

 一方、リンドブルムはヴリトラとの通信を終えた後に自分の持ち場に戻る為に民家の屋根から屋根へとジャンプして移動していた。オロチもあの通信の後にリンドブルムと別れ、広場から入口前の仮拠点に戻ると仮拠点を直した後に別の仮拠点の様子を見に行に移動したのだ。


「随分時間が掛かっちゃった。ラランは大丈夫かな・・・?」


 一人残して来たラランの事が心配なリンドブルムは急ぐ為に足に力を入れてより高くジャンプして民家の屋根へ跳び移る。リンドブルムが港の方へ移動をしていると、街道を走っている一つの人影を見つけた。


「ん?あれは・・・」


 宙に浮いたまま街道を見下ろしてその人影をジッと見つめると、その人影は突撃槍を握って走っているラランの姿だった。


「ララン?」


 人影をラランだと確認したリンドブルムは民家の屋根の上に足がついた直後に街道へ飛び下りる。そして走っているラランの前に着地した。


「ッ!?」


 突然目の前に飛び出して来た人影に驚いたラランは足を止めて突撃槍を構えた。だがその人影がリンドブルムだと気付くと直ぐに警戒を解く。


「ララン、こんな所で何してるの?」

「・・・脅かさないで」

「ゴメンゴメン・・・・・・いやいやいやいや、そうじゃなくって!どうして一人で此処にいるのって聞いてるんだよ」


 話が反れた事に気付いたリンドブルムは顔を横に振り慌てて話を戻した。


「・・・リンドブルムがあんまり襲いから様子を見に来た」

「そうだったんだ、ゴメンね?・・・でも、他の騎士や自警団員の人達を残して一人で移動するのは感心できないな。それに、いつ敵が攻めて来るか分からない今のカルティンの町を一人で行動するのも」

「・・・ゴメン」


 勝手に行動してしまった事を謝るララン。リンドブルムも俯いているラランを見て後頭部を掻いた。


「まぁ、今は戦闘の真っ最中だから話はこれでお終いにしよう。急いで拠点に戻らないと」

「・・・うん」


 自分達がついている仮拠点に戻ろうと二人は走り出す。既に港の方は騒がしくなっており、戦いが始まっている事が分かった。リンドブルムとラランは急ぐ為により速く走り出す。

 二人が街道を走って港の方へ向かっている途中に一本の細道の前を通った。すると突然リンドブルムが止まったその細道の方を向く。


「・・・どうしたの?」


 立ち止まったリンドブルムに気付いたラランも足を止めて立ち止まっているリンドブルムの方を向いて訊ねた。リンドブルムは顔の向きを変えずに細道を指差す。


「・・・この道って、確か僕達が昨日特訓の時に使った浜辺に繋がってるんだよね?」

「・・・うん」

「今、こっちの方から数人の人の声が聞こえた・・・」

「・・・え?人の声?」


 リンドブルムの言葉にラランは少し驚いて耳を澄ませる。しかし、人の声などは聞こえてこなかった。


「・・・何も聞こえない」

「いや、確かに聞こえたよ」

「・・・本当に?」

「僕達機械鎧兵士はナノマシンで視覚や聴覚といった五感も鋭くなってるんだ。だから普通の人には聞こえ難い小さな音や声も聞こえるんだよ」


 リンドブルムの口から出たナノマシンという言葉を聞いたラランはピクリと反応して真面目な表情に変わった。


「・・・ナノマシンは力を強くする為だけのものじゃないの?」

「うん。身体能力を強化する以外に五感を鋭くして、頭の回転も良くしてくれるんだ」

「・・・凄いね」


 ラランはナノマシンの性能の凄さを聞いて驚く。しかし表情はいつも通りの無表情のままだった。ナノマシンのよって聴覚が鋭くなった事を知り、リンドブルムの言葉に信頼性が出てラランはリンドブルムと同じように細道を見つめる。しばらくすると、細道の奥の方、即ち遠くから数人の海賊が細道を走って自分達の方へ向かって来る姿が視界に入った。


「・・・あれは!」

「やっぱり・・・こっちも読み通り、浜辺からも海賊達が攻めて来た」

「・・・どうするの?皆を呼びに行く?」

「いや、ダメだね。今からじゃ間に合わない・・・」

「・・・なら、どうするの?」

 

 浜辺から侵攻して来た海賊達をどう対処するのかを少し慌てた様子で尋ねるララン。リンドブルムはホルスターに納めてあるライトソドムを抜いて弾倉の中をチェックして再び弾倉を叩き込む。


「大丈夫。見たところ海賊の人数は二十人ってところだし、僕達なら十分倒せる人数だよ」

「・・・でも・・・」

「それに、ニーズヘッグが浜辺から町までの道にちょっと仕掛けをしてくれてたみたいだしね?」

「・・・仕掛け?」


 リンドブルムが口にする仕掛けという言葉が気になりラランは小首を傾げた。リンドブルムは余裕なのか小さく笑って細道を走って来る海賊達を見ている。

 細道を走って町へと向かっている海賊達も細道の出口前に立っているリンドブルムとラランの姿を確認した。


「おい、あんなところにガキが二人いるぜ?」

「何?・・・確かにボウズと小娘がいやがるな」

「よく見ると小娘の方は鎧を着てるぜ?まさか姫騎士ってやつじゃねぇのか?」

「ほぉ~?だったらとっ捕まえようぜ!奴隷商になら高く売れるはずだ!」

「ボウズの方もそれなりに売れるだろうし、二人とも捕まえちまおう!」


 海賊達は遠くで自分達を見ているリンドブルムとラランを捕まえようとサーベルや槍を構えて更にや速く走る二人に近づいて行った。その海賊達を見たラランはリンドブルムの特殊スーツの掴んで「逃げないの?」と言いたそうな顔を見せる。だがリンドブルムはラランの方をチラッと見た後にニッと笑い再び海賊達の方へ視線を戻す。

 細道を走って行き、二人までの距離はあと30mという所まで海賊達が近づくと突然海賊達の足元で小さな何かが赤く光り出す。そして次の瞬間、海賊達の足元で爆発が起きた。


「「「「「ぐわああああっ!?」」」」」

「・・・!何?」

「おっ?上手くいったね」


 足元が爆発して断末魔を上げる海賊達を見て驚くラランと意外そうな顔を見せるリンドブルム。爆発は数回起こって細道を通って来た海賊達のほぼ全員を吹き飛ばす。そして爆発が治まると海賊達が全員細道に俯せに倒れたりなどして動かなくなっていった。


「・・・どうなってるの?」

「地雷だよ」

「・・・ジライ?」

「そう、この細道にはニーズヘッグがブラッド・レクイエムとの戦いで手に入れたクレイモア地雷をセットしてあったんだ。地雷って言うのは敵が近づいて来た時の爆発で相手に危害を加える兵器の一つで罠として使う事ができるんだ」

「・・・それで、海賊達はその地雷っていうもので吹き飛んだの?」

「そういう事」


 地雷の性能を教えられてラランは細道で倒れている海賊を達をジッと見つめる。この時、改めてラランはリンドブルム達の世界の技術の凄さを実感するのだった。


「・・・さあ、急いで戻ろう。もしかすると他にも別の道を使って町に忍び込んでいる奴等がいるかもしれない、拠点に戻って皆に伝えないと!」

「・・・分かった」


 リンドブルムとラランは仲間達の下へ戻る為に再び港の方へ向かって走り出したのだった。

 町中で始まった海賊との白兵戦。戦術と戦力を上手く使いながらヴリトラ達と海賊達は更に白熱した戦いを繰り広げていく。どちらがこの戦いに勝利するのか、それはまだ誰にも分からない。


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