第百四話 戦況確認と海賊の上陸
港から侵攻してきた海賊達を迎え撃ったヴリトラ、ニーズヘッグ、ジルニトラの三人は迫撃砲を積んだ小型船を半分以上沈めた。全ての迫撃砲を破壊すると後退したラピュス達と合流するのと同時に残った海賊船とそれに乗る海賊達をおびき寄せる為に街まで後退する。しかし、迫撃砲を全て使えなくした事で海賊達は警戒するのと同時に七竜将を倒すという執念を燃やすのだった。
港を出て街道を走るヴリトラ達は後ろを警戒しながら一番近くの仮拠点へ急いだ。自分達の持つ銃器の弾倉を新しくするヴリトラとジルニトラに機械鎧の内蔵機銃に弾を補充するニーズヘッグ。三人は次の戦いの準備をしながら全力で走っていた。
「港から攻めて来る迫撃砲は全部使えなくなったがまだ町の入口から攻めて来た部隊がある。アイツ等も迫撃砲を持っているってリンドブルムが言ってたな?」
「ああ、確か三つだったはずだ」
「しかも威嚇の為に町を狙って砲弾を撃ったって言ってたでしょう?大丈夫かしら?」
ヴリトラとニーズヘッグがリンドブルムからの通信で聞いた内容を思い出しながら走り、二人の後ろでジルニトラがリンドブルム達の事を心配した。
「心配ねぇよ。リンドブルムとオロチが行けば迫撃砲なんて簡単に破壊できるし、海賊達も簡単に倒せる。それにいざとなったら町長の家を守ってるジャバウォックかファフニールのどちらかを救援に向かわせればいいしな」
「・・・確かにそうね」
前を向いて走りながらヴリトラはジルニトラを安心させるように告げる。それを聞いたジルニトラも笑いながら余裕を取り戻した。二人がそんな話をしていると、街道の奥の方に何やら積まれている土嚢と木箱の様な物が見えてきた。それを見たニーズヘッグは直ぐにそれがバリケードだと気付く。
「バリケードだ、仮拠点が見えて来たぞ」
一番近くの仮拠点が見えたのを確認したニーズヘッグはヴリトラとジルニトラにも教える。三人は奥にある仮拠点に少しでも早く着く為により速く走った。
仮拠点のバリケードからは二人の男性騎士が顔を出して走って来るヴリトラ達の方を見ていた。そしてその手にはMP7が握られている。
「おい、誰か来るぞ?」
「海賊か?」
「いや、立った三人しかいない。・・・・・・あれは七竜将だ!」
「何!?じゃあ、ヴリトラ達が戻って来たのか?」
「ああ、間違いない!」
見張りをしていた男性騎士達が嬉しそうに笑って話をしていると、彼等の後ろから後退したラピュスが近づいて来た。
「どうした?」
「隊長、ヴリトラ達が戻ってきました!」
「何だって?」
驚いたラピュスは男性騎士達の隣から街道の方を見る。そして自分達の方に向かって全力で走って来るヴリトラ達の姿を確認した。ヴリトラ達もバリケードの内側からこちらを覗いているラピュスに気付いて手を振りながら走って行く。
「ヴリトラ!」
「お~い!」
三人は仮拠点に到着するとバリケードを乗り越えて中へと入る。仮拠点は畳十畳ほどの広さで十字路の真ん中にバリケードに囲まれる形で設置されていた。中にはラピュスを含めてMP7を持った男性騎士二人にベレッタ90を持つ女性騎士が一人、そして三人の自警団員の姿がある。その中には怪我をしている者の二、三人程いた。
「無事だったのか」
「ああ、そっちもな」
「私は平気だが、さっきの港での戦いで爆発に巻き込まれて怪我をした者がいる、だから無事とは言い難いな・・・」
「負傷者がいるのか?・・・ジルニトラ!」
「任せて!」
ヴリトラの指示を受けてジルニトラは負傷者の下へ行き、傷の状態を見る。ジルニトラは土嚢にもたれている自警団員の顔色をうかがいながらを真剣な表情を見せていた。
「どうだ、ジルニトラ?」
「大丈夫よ、軽い火傷と打撲だけ。あたしが今持っている薬だけでもなんとかなるわ」
「そうか。それじゃあ応急処置を頼む」
「OK!」
ウインクをしてジルニトラは負傷者の応急処置を始める。それを見た後にヴリトラは自分達が仮拠点に向かう時に通った道の方を向いて海賊達を警戒していた。ニーズヘッグは仮拠点の真ん中に立ち、周りを警戒している。
「アリサ達はどうしたんだ?」
「彼女達は別の仮拠点に行ったようだ」
「そうか・・・」
「・・・ところで海賊達はどうなった?」
ラピュスは街道に注意を払っているヴリトラに近づいて海賊達がどうなったのかを尋ねる。ヴリトラは街道の方を見たままラピュスの質問に答えた。
「積まれていた迫撃砲は全部壊しておいた。だけど小型船はまだ数隻残っているから小型船に乗っていた海賊達もまだ残ってるよ。きっと上陸して白兵戦に持ち込んで来るはずだ」
「白兵戦か・・・。それでも迫撃砲が無くなっただけでもかなり違う、私達の方が有利のはずだ」
「確かにな。だけど、アイツ等にはまだ海賊船があり、それに乗っている海賊達の数も五十人以上はいる。しかも奴等がどれほど武装しているのかも分からない。まだ安心はできないぜ?」
迫撃砲が無くなってもまだ油断できない、用心深いヴリトラを見てラピュスも真剣な表情を見せた。すると町の入口近くの方で再び爆発が起き、爆音を聞いたヴリトラ達は一斉に爆発したの方を向く。
「また町の中で爆発が!?」
「きっと陸から侵攻して来た海賊達だ!」
黒煙が上がるのを見てラピュスとヴリトラが立ち上がり、ニーズヘッグとジルニトラもフッと空を見上げる。すると爆発に合わせるかのように小型通信機からコール音がなり、七竜将はスイッチを入れた。
「ヴリトラ、皆!聞こえる?」
「リンドブルムか?今何処だ?」
小型通信機から聞こえてきたリンドブルムを聞いたヴリトラは爆発の直後に通信が入った事からリンドブルムとオロチの状態が気になり真っ先に居場所を尋ねた。
「今、入口から少し離れた所にある広場の前にいるよ。入口から侵入して来た海賊達は半分倒したけど、もう半分は町の外へ逃げがしちゃったよ・・・」
「そうか、オロチ達はどうだ?」
「皆無事だよ。ただ、迫撃砲で何人かが怪我をしちゃったんだ」
リンドブルムは両手にライトソドムとダークゴモラを握りながら小型通信機でヴリトラと会話をしている。その周りには斬月を担いでいるオロチと数人の騎士、自警団員が広場の前の道で座り込んでいる姿があった。その中にはリンドブルムの言った通り負傷している者の姿もある。
「死者は出てないんだな?」
「うん、大丈夫。迫撃砲も三つとも壊したから」
「そうか、よくやった」
「へへっ。それで、これから僕達はどうすればいい?最初みたいに町の拠点に戻ればいいの?」
リンドブルムが今後の行動についてヴリトラに尋ねると仮拠点の中から港へ続く街道を見つめているヴリトラが指示を出した。
「ああ、そうしてくれ。港から攻めて来た海賊達の迫撃砲は全部潰したけど、まだ海賊船に乗っている大勢の海賊達がいる。これから激しい白兵戦になる、町中の拠点を回って海賊達が攻めて来る事を皆に知らせろ」
「分かった!」
「了解した・・・」
ヴリトラの指示を聞き、リンドブルムと今まで黙っていたオロチが返事をする。
「ジャバウォック、ファフニール、聞こえるか?」
「おう!」
「聞こえてるよ?」
ヴリトラが次に町長の家の警備に付いているジャバウォックとファフニールに声を掛ける。小型通信機からはジャバウォックとファフニールの二人の返事が聞こえてきた。
「聞こえたとおり、もうすぐ大勢の海賊達が攻めて来る。もし各拠点が押されていたらお前達の二人の中、どちらかにその拠点の救援に行ってもらう事になるかもしれない。その時は頼むぞ?」
「ああ、任せておけ」
町長の家の前に設置されている仮拠点の中でジャバウォックとファフニールが小型通信機に人差し指を当ててヴリトラの話を聞いている。周りには自警団員が姿勢を低くしてバリケードから周囲を警戒している姿があった。
「よし、それじゃあ海賊達が来る少しの間だが、体を休めて次の戦いに・・・」
ヴリトラが体を休めるよう伝えようとした時、ヴリトラ達が通って来た港に繋がる街道の方から大勢の声が聞こえてきた。その声に反応したヴリトラ達は一斉に街道の方を向く。そして遠くから大勢の海賊達がサーベルを持って走って来る姿が見えたのだ。
「・・・どうやら体を休める時間は無くなったようだ」
「どうしたの?」
「もう海賊達が町に入ってきやがった」
「ええぇ?」
リンドブルムの驚きの声が小型通信機から聞こえてくる。ヴリトラはオートマグを構えて海賊達を狙い、ラピュス、ジルニトラ、ニーズヘッグ、そして騎士達もそれぞれ銃器を構えて街道を走って来る海賊達に狙いを付けた。
「という事で皆、俺達はこれから海賊達を迎え撃つ。もしかすると別の道を通って町に侵入して来る海賊も入るかもしれない。その時はソイツ等の相手を頼むぜ?」
「分かったよ」
「了解だ!」
小型通信機からリンドブルムとジャバウォックの返事が聞こえ、ヴリトラは小型通信機のスイッチを切るともう一度海賊達の方を向いてオートマグを構え直した。
「迫撃砲が無いからと言って油断するなよ?向こうはこっちと比べて数が多いんだ。しかもこっちの銃器の弾もいずれ無くなる。その時は剣を使った接近戦になる。ここからが本番だと思え!」
「「「おう!」」」
「「「了解!」」」
ヴリトラが周りにいるラピュス達に忠告をすると、ラピュス達は声を揃えて返事をする。そして海賊達が残り数十mのところかで近づいて来るとヴリトラは鋭い目で海賊達を睨んだ。
「・・・撃てぇ!」
合図と共にヴリトラ達は一斉に海賊達に向かって発砲した。町の中に無数の銃声が響き渡る。
ヴリトラ達が町に侵攻して来た海賊達と交戦を始める数分前、港では海賊達が海賊船を港に停泊させて海賊達が降りて荷物を下していた。その中には武器の手入れをしている者、大砲の整備をしている者と大勢おり、船長であるロージャックの姿もあり下っ端達に指示を出している。
「いいか、野郎共!さっきの第一陣の連中が町へ向かって五分経過した。次の奴等は左の街道を通って町へ攻め込め!第三陣は右の街道から行け!」
「「「「「おおぉーーっ!」」」」」
ロージャックの指示を聞いた下っ端達はサーベルを掲げながら声を上げる。ロージャックはカルティンの地図らしき紙を見て町の構造を確認した。
「右の街道は途中で浜辺に繋がっている道がある。その浜辺には此処に来る前に船から降ろした連中が小型船に乗って向かっているはずだ。今頃ソイツ等も上陸してるだろう、第三陣はソイツ等と合流してから町を襲え!」
「へい!」
ロージャックの指示を聞いた一人の下っ端が仲間達の下へ戻って行き、ロージャックも地図を丸めて笑いながら町の方を向く。実はロージャックは港に入る前にヴリトラ達が第三遊撃隊と特訓の時に使っていた浜辺に十数人の下っ端を降ろしてきたのだ。恐らく港の方に自警団達の戦力が集中した時に街に忍び込ませて町に奇襲を掛けるつもりだったのだろう。だが七竜将と第三遊撃隊が加わった事でカルティンの戦力が予想以上に強化され、計画を変更する羽目になってしまったのだ。
準備をしている下っ端達を見ながら自分のサーベルを眺めているロージャック。するとそこへザザムスが近寄ってきてロージャックに声を掛けた。
「なぁロージャック?本当にこのままへ攻め込む気か?」
「ああ?まだそんな事言ってるのかジジイ?」
ロージャックは町の侵攻に納得できず反対するザザムスの方を向いて不機嫌そうな声を出す。ザザムスはロージャックが自分の方を向いたのを確認するとゆっくりと停泊している海賊船の方を向く。
「さっきの戦闘で迫撃砲と小型船、そしてそれに乗っていた仲間の半数近くが命を落とした。さっきそれを聞かされたお嬢は今も悲しんでおる。船長が死んで家族同然である仲間も次々に死んでいく事にお嬢は耐えられんのだ。頼むロージャック、お嬢の為にも今回はこの町から手を引いてくれ」
先代の船長の忘れ形見である娘にとって同じ海賊船の仲間が死ぬ事は更に娘の傷を深くして悲しませるだけだとザザムスは話してロージャックを説得する。だがロージャックはそんなザザムスの話を鬱陶しそうに聞きザザムスの頭を大きな手で鷲掴みにした。
「何度も言わせるな!船長はこの俺だ!俺がこの町を攻めると決めたら必ず攻める、そして奪えるものは全て奪うんだよ!そもそも海賊とはそう言うものだろうが?」
「じゃ、じゃが・・・」
「現に先代が死んで俺が船長になってから野郎どもの士気は一気に回復したじゃねぇか?全員俺のやり方を心の何処かで求めてたんだよ。同じ海賊船の連中は襲って、罪の無い町の連中を襲うのは抵抗がある、何て言う腰抜けの先代よりも俺の方が船長に相応しいって事だろうが!」
先代のやり方を真っ向から否定するロージャックの言葉を聞いて、さっきまで大人しく話をしていたザザムスは突如表情を険しくして自分の頭を掴んでいるロージャックの手を細い手で掴み返した。
「お?」
「図に乗るんじゃない!先代は自分に厳しく他人に優しい男だった。貧しい人々からは金品を奪わずに強い者からしか奪わない、儂はそんなあ奴の心の広さに惹かれてこの一味に入ったのじゃ。そんな心の広い先代をこれ以上侮辱すると許さんぞ!?」
「何が『許さんぞ!?』、だ!死にぞこないの老いぼれに何ができる?テメェこそ図に乗ってるんじゃねぇよ!」
ロージャックはザザムスの頭を掴んだまま腕を勢いよく振りザザムスを投げた。ザザムスは仰向けに倒れ、痛みに耐えながらゆっくりと起き上がる。周りでは作業をしていた下っ端達がもめている二人を見て思わず手を止めた。
「さっきも言ったように今は俺が船長だ。テメェもこの船に乗ってる以上は他の連中の様に俺のやり方に大人しく従え!」
「この船にはお前のやり方に賛成できん者もおるんじゃぞ!?」
「たったの数人だけじゃねぇか」
「それでも、賛成できん者がいるという事は先代のやり方を続けたいという事じゃろう!」
退く事なくロージャックに抗議を続けるザザムス。二人は下っ端達が見守る中で睨み合いを続けた。すると中央の街道、即ちヴリトラ達が通った街道から銃声が聞こえてきた。
「何だ!?」
聞こえて来た銃声に反応してロージャックとザザムス、作業の手を止めていた下っ端達が一斉に中央の街道の方を向いた。そして街道から再び銃声と数人の男の叫び声が聞こえてくる。
「この変な音は・・・敵がまたあの訳の分からねぇ武器を使いやがったのか!?」
「だから言ったではないかっ!」
「うるせぇ!どんな武器を使おうと数では俺達の方が上なんだ、このまま押し切ってやればいいんだ。野郎共、このまま突っ込めぇ!」
ロージャックの命令を聞いた下っ端達は未知の武器を使うヴリトラ達に特攻しろという事に抵抗を感じているのかロージャックの方を向いて動こうとしなかった。
「・・・何だぁ?お前等、船長の命令が聞けねぇのか!さっさと行きやがれ!」
下っ端達を睨みつけて特攻を強制させるロージャック。下っ端達はそんなロージャックの横暴な命令を聞き、それぞれ自分達の担当する街道を進んで行く。中にはロージャックの命令を素直に聞く下っ端もいるが、殆どが納得のいかない者達だった。
(・・・なぜじゃ、ロージャック?お前さんも昔は先代に憧れてこの一味に入ったはず。それなのになぜこんな風に変わってしまったのじゃ・・・)
さっきまでもめていたロージャックの背中を寂しげに見つめるザザムス。腕を組み、町を見ながらニッと笑うロージャックはそんなザザムスの寂しい眼差しに気付くことは無かった。
海賊達がそれぞれ街道を進んでいる時、中央の街道ではヴリトラ達が銃器で迫って来る海賊達に応戦していた。街道の隅には銃撃されて動けなくなったり、既に命を失っている者達が民家の壁にもたれたれていた。海賊達も木箱や民家と民家の間にある脇道に隠れて銃撃を凌いでいる。
「切りがないなぁ!」
「一体何人いるのよ!」
内蔵機銃とサクリファイスを撃ちながらニーズヘッグとジルニトラは攻めて来る海賊達を見た。ヴリトラとラピュスもそれぞれオートマグとハイパワーを撃って海賊達を迎え撃っている。
「あまり無駄撃ちはするなよ?今手元にある弾なんて数える位しかないんだ!」
「分かってる!だが、このまま此処で海賊達を銃で止めていても戦いは終わらないぞ?」
ラピュスが戦況が変わらないと何にも意味が無いとヴリトラに話すとヴリトラはオートマグを撃つのを止める。
「・・・仕方がない。やっぱりここは海賊を倒しながら海賊船へ辿り着いて直接大将を叩くしかないか!」
「やっぱりそうよね?」
「で?どうするつもりなんだ?」
海賊達の頭を叩く事に賛成するジルニトラとニーズヘッグ。そしてニーズヘッグはこの後にどう動くのかをヴリトラに尋ねた。するとヴリトラはオートマグをしまい、再び森羅を抜いて立ち上がった。
「そんなの・・・正面突破しかないだろう?」
「何ぃ!?」
「やっぱそうようねぇ~」
驚くラピュスと苦笑いをするジルニトラ。周りの騎士や自警団員達もヴリトラの提案を聞いて目を丸くしていた。
体勢を立て直す為に後退したヴリトラ達であったが、直ぐに敵の頭を討つ為に正面突破をするととんでもない事を言いだす。一体ヴリトラは何を考えているのだろうか?