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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第六章~荒ぶる海の激闘~
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第百三話  港を守る三匹の竜 迫撃砲を無力化せよ!

 海賊達の迫撃砲を積んだ小型船を銃器で攻撃し、少しずつ数を減らしていったヴリトラ達の港の防衛部隊。だが、それでも迫撃砲と海賊船の大砲による砲撃で数人の負傷者を出してしまい、更に町の入口からも海賊の別働隊が進行して来た。リンドブルムとオロチが防衛隊を率いて町の入口へ向かうのと同時にヴリトラも負傷者の手当てをする為にラピュス達を後退させ、ニーズヘッグ、ジルニトラの二人と共に海賊達の足止めをする事になった。

 散開したヴリトラ達はそれぞれ港の中央、右側、左側へ移動して湾内に入って来た海賊達を三方向から囲む形に入った。そんな三人を見て海賊達も攻め方を変えようと動き出す。


「おい、奴等が下がって行くぞ?」

「・・・いや、三人だけ残ってるぞ。全員がバラバラになりやがった」


 一隻の小型船に乗っている海賊の下っ端二人がヴリトラ達の行動を不審に思い話を始める。そんな二人の近くにいた別の下っ端二人がヴリトラ達を見て気に入らなそうな顔を見せた。


「アイツ等、俺達なんか三人で十分だって言うのかよ?ナメやがってぇ!」

「しかもバラバラになったって事は仲間がいなくても一人でも戦えるって事かぁ!?」

「上等だぁ!奴等全員、迫撃砲で吹っ飛ばしてやる!」


 海賊達は船の進路をそれぞれ三方向から囲んでいるヴリトラ達に変えてそれぞれ三人に向かって進んで行く。そして迫撃砲の照準を合わせて何時でも発射できるようにした。ヴリトラ達が自分達をバカにしていると思い込んだ海賊達は冷静さを失い小型船は陣を崩し始める。それを港から見ていたヴリトラは意外そうな顔を見せた。

 

「おっ?アイツ等、円陣を崩しやがった。俺達三人を一度に迫撃砲で吹き飛ばす気か?」


 ヴリトラは海賊達の動きを見てまばたきをする。三人にそれぞれ小型船が向かって行き、向けられている迫撃砲の砲口とサーベルを握って自分達を睨む海賊達がヴリトラ達の視界に入ってくる。


「奴等め、俺達が挑発していると思い頭に血が昇って向かって来たのか?」

「何を考えてるのか知らないけど、向かって来てくれるなら攻撃が当てやすくて助かるわ」


 港の右側と左側、離れた所でそれぞれニーズヘッグとジルニトラが向かって来る海賊達を見て呟く。港の中央にいるヴリトラも向かって来る小型船と奥で停泊している海賊船を見て森羅を右手で握り、みねで肩をトントンと叩いている。


「本当は三方向から一斉に攻撃して海賊達を全部倒すつもりだったんだけど、まぁいいや。さっさと終わらせよう!」


 ヴリトラは森羅を両手で構えて海賊達を見る。ニーズヘッグとジルニトラもアスカロンとサクリファイスを構えて自分達に向かって来る数隻の小型船をジッと見つめた。

 三人が構え終わると、ヴリトラに向かって行く小型船の一隻が迫撃砲の砲口を港の上で立つヴリトラに向けた。


「あのガキィ、そんな細い剣で俺達と戦う気かぁ!・・・くたばれぇ!」


 下っ端の一人がヴリトラを睨みながら迫撃砲を撃つ。轟音と共に砲口から吐き出された黒い砲弾は真っ直ぐヴリトラに向かって飛んで行く。しかしヴリトラは迫って来る砲弾を見ても表情を一切変えずに森羅を構え続けている。そして砲弾がヴリトラの2m手前まで来た瞬間、ヴリトラは素早く体を横へ反らして砲弾の射線上から移動した。その直ぐ後に森羅を横に振り、自分の真横と通過する砲弾を切る。するとヴリトラの横を通りすぎた砲弾は真っ二つに割れ、町の方へ飛んで行き、しばらくしてから空中で爆発した。

 砲弾をアッサリとかわし、更に刀で切り捨てたヴリトラを見て海賊達は目を丸くして驚いた。


「な、何だアイツ?・・・砲弾を切りやがった・・・」

「そ、そんなバカな・・・!」


 目の前で起きた光景を信じられないのか海賊達は固まったまま声を漏らす。中にはヴリトラが何をやったのかすら理解できない者もいて黙り込んだまま驚いている海賊もいた。

 砲弾を切ったヴリトラは森羅を降ろして機械鎧の左腕を海賊達に向けて伸ばした。すると左腕後前腕部の斜め左右の装甲が動き、機械鎧の中から小型マイクロ弾が二つ姿を現した。


「今度はこっち番だ!」


 ヴリトラはそう言って小型船に狙いを定め、小型マイクロ弾を二発発射した。小型マイクロ弾は迫撃砲を撃って来た小型船に向かって飛んで行き、迫撃砲の砲身に命中。その瞬間に小型マイクロ弾は爆発して迫撃砲や積まれている砲弾を誘爆させて小型船を跡形も無く吹き飛ばした。乗っていた海賊達は爆炎に飲み込まれたり、爆風で吹き飛ばされて海に落ちるなどしており、周りの小型船に乗っている海賊達もそれを見て更に驚いている。


「こ、今度は何だぁ!?」

「突然船が吹っ飛んだぞぉ!」

「と言うか、アイツ、左腕の中から何か出したぞ・・・?」

「何なんだ、コイツ等化け物かぁ!?」


 驚きの連続に再び動揺を見せる海賊達。それを見ていたヴリトラは左腕の装甲を元に戻すと今度は腰に手を回して手榴弾を一つ取り出した。そして安全ピンを抜くとヴリトラから見て左側に浮いている小型船の迫撃砲に向かって手榴弾を軽く投げる。手榴弾は砲口の中に入り、カンカンと金属音を鳴らす。小型船に乗っていた海賊達は迫撃砲の中から聞こえてくる金属音に気付いて一斉に迫撃砲の方を見る。その後にヴリトラの方を向くと、ヴリトラがニッと笑って自分達を見ている姿に気付いた。


「急いで逃げた方がいいぞ?」


 笑いながらそう言うヴリトラを見た後に海賊達は互いに仲間の顔を見る。すると今までヴリトラ達の未知の攻撃の映像が頭をよぎり、ヴリトラがまた何かしたと感じた海賊達の表情は青ざめていく。


「「「「「~~~っ!うわああああぁ!」」」」」


 次第に大きくなっていく嫌な予感に海賊達はまるで我慢できなくなったかの様な反応を見せて声を上げながら海へ飛び込んだ。海賊達が小型船から飛び下りた直後に迫撃砲が爆発して小型船を吹き飛ばした。


「フフッ」


 海賊達を見ながら笑うヴリトラは森羅をもう一度構えて海賊達を見る。連続で二隻の小型船を沈められた事に他の海賊達はヴリトラを見ながら怯える様な表情を見せていた。


「さぁ、どうする?もうお終いか?」


 ヴリトラが笑いながら海賊達を挑発するも、海賊達はヴリトラの戦闘能力を目にして完全に固まってしまい、ただただ小型船の上でヴリトラを見つめているだけで動けずにいた。

 ニーズヘッグの方でも戦いが始まっており、海賊達は迫撃砲でニーズヘッグを狙い撃ちにしていた。ニーズヘッグは向かって来る砲弾を全てかわしていた。


「ハハハハッ!どうした兄ちゃん!反撃して来ねぇのかぁ?」

「ハッハァ!もっと激しく踊れよぉ!」

「ガハハハハハ!」


 海賊達はずっと砲弾を避けてばかりのニーズヘッグを見て言いたい放題だった。だが、ニーズヘッグもただ避けていただけではない。海賊達の攻撃する順番、砲弾の速さなどを冷静に分析していたのだ。ニーズヘッグは海賊達の挑発にも乗らずに黙って海賊達を見つめている。


(奴等が迫撃砲を撃つ順番から次にどの小型船が攻撃して来るのか、そして次の砲撃までの準備の時間も大体分かった。となれば、まず攻撃する対象は・・・)


 頭の中で色々と計算しながらニーズヘッグは目の前で自分に迫撃砲を向けている小型船をチラチラと見る。するとバックパックから手榴弾を取り出すと安全ピンを抜かずに海賊達の真上に投げた。海賊達もニーズヘッグが投げた小さな物体を目で追い、真上を見る。海賊達の視線が手榴弾の向けられた事を確認したニーズヘッグは再び内蔵機銃を出して手榴弾を撃った。弾丸は手榴弾に命中し空中だ爆発、真下にいた海賊達は突然の爆発に驚き、小型船の上で視線を低くする。


「な、何だこの爆発は!?」

「アイツが投げた物がいきなり爆発しやがったぞ!」


 海賊達は爆発で怯み隙だらけになっている。それを見たニーズヘッグは左足の機械鎧の関節部分を開き、大腿部からマイクロ弾を出し、一隻の小型船に狙いを付けた。


「吹っ飛べ!」


 ニーズヘッグの言葉を合図にするようにマイクロ弾が発射された。マイクロ弾は真っ直ぐ狙いを付けた小型船へ向かって飛んで行き小型船に命中し大爆発を起こす。その爆発でマイクロ弾が命中した小型船は跡形も無く吹き飛び、周りの小型船もその爆発で全て転覆した。


「うわあああっ!」

「船が傾きやがったぁ!」


 船から放り出された海賊達は海に落ち、迫撃砲も海の底へと沈んでいった。岸からその様子を見ていたニーズヘッグが左足を戻すと湾内の方を見てまだ残っている小型船を確認した。


「こっちは今ので全部沈んだが、ヴリトラとジルニトラの方はまだ残ってるな・・・・・・まっ、助けは必要ないだろう。あの様子だと・・・」


 遠くて戦っているヴリトラとジルニトラの様子を伺いながら独り言を言うニーズヘッグは海面でもがいている海賊達を見下した後に海賊船の方を向いてアスカロンを握る手に少し力を入れた。

 一方、ジルニトラは湾頭に沿って走りながらサクリファイスを撃って海賊達と戦っていた。サクリファイスの銃口から吐き出された弾丸は小型船に乗る海賊や小型船に当たり穴を開けている。穴の開いたところからは浸水して船をゆっくりと沈めていく。その海水を海賊達は手で掻きでして何とか沈没させないようにしていた。


「急いで水を掻き出せ!迫撃砲の重さで直ぐに沈んじまうぞ!」

「あのアマ!ふざけた事しやがってぇ!」


 下っ端がジルニトラの行為に腹を立てて彼女を睨みつけ、他の小型船の海賊達もジルニトラを睨んで迫撃砲で狙っていた。ジルニトラ本人はそんな睨み付けを全く気にせずにサクリファイスの弾倉を新しい物に変えている。


「レディーをアマなんて呼び方するなんて、アンタ達男としての器が小さいわよ?」

「ゴチャゴチャぬかすんじゃねぇ!」


 ジルニトラの挑発に目くじらを立てた下っ端が迫撃砲を発射する。砲弾はもの凄い速さでジルニトラに向かって飛んで行く。しかしジルニトラは向かって来た砲弾をチラッと見た後にその場で姿勢を低くして砲弾を回避する。砲弾はジルニトラの後ろに並んで建っている倉庫の一つの壁に命中し爆発した。ジルニトラは砲弾をかわした直後にサクリファイスで迫撃砲を撃って来た小型船を撃ち反撃する。乗っていた海賊達はその銃撃を受けて海に落ち、迫撃砲の砲弾にも命中して小型船も爆発して煙を上げる。


「ま、また一隻沈んだぞ!」

「周りでもどんどん沈められていきやがる。ふざけた事しやがってぇ!」


 爆発した仲間の小型船を見て熱くなった別の小型船に乗っていた海賊達が全ての迫撃砲をジルニトラに向けて狙いを付ける。ジルニトラも一度溜め息をついて「やれやれ」とめんどくさそうに顔を横に振ると両手の甲の装甲を上に少し動かし、その隙間から赤く光るリニアレンズを出した。


「悪いけど、あたしは早くアンタ達を片付けて傷ついた皆の手当てをしないといけないの。さっさと終わらせるわよ」


 そう言ったジルニトラは両腕を前で交差させる。するとリニアレンズの光が更に強くなり、それを確認したジルニトラは勢いよく両腕を外に向かって振った。それと同時にリニアレンズから赤いレーザーが発射されてジルニトラを狙っている全ての迫撃砲の砲身を横切る。レーザーが消えてジルニトラがリニアレンズをしまうと、その攻撃を見ていた海賊達はまばたきをしながらジルニトラを見ていた。


「おい、何だ今のは?」

「何か、赤い光の線が砲身を横切った様な・・・」


 ジルニトラが何をしなのか全く理解できない海賊達が不思議そうな顔を見せる。そんな海賊達を見ていたジルニトラが両手を腰に当ててニッと笑う。


「フフッ、迫撃砲を見てみなさい」


 ジルニトラのその言葉を聞いた海賊達は理解できないまま自分達が乗っている小型船の迫撃砲に注目する。その直後に迫撃砲の砲身が砲口から砲身の中心に向かて切れてゆっくりと落ちた。どの小型船の迫撃砲も同じように砲身が切られて使い物にならなくなっており、切られた迫撃砲の一部が小型船に落ちた事で小型船は上下に揺れて海賊達は驚く。


「今度は何だぁ!?」

「砲身が切れてやがる!」

「何時の間に切られたんだ!?と言うか、大砲の砲身を切る事なんてできるのかよぉ!」


 なぜ迫撃砲の砲身が切れたのか全く理解できずに混乱する海賊達。そんな海賊達を見ながらジルニトラはなぜかホッとしていた。


(フゥ~、よかったぁ。上手く迫撃砲の砲身だけ切る事ができたわ。危うく海賊達もレーザーで斬っちゃうところだった・・・。海賊達の輪切りにされた姿なんて見たくないもんねぇ)


 上手く砲身だけを切れるのか自信が無かったのか、ジルニトラは迫撃砲だけをレーザーで切れた事を知って安心する。そして迫撃砲が使えなくなった海賊達は小型船の上でサーベルを握りながら岸の上のジルニトラを見て睨んでいた。


「くっそぉ!王国の騎士団にこんな奴等がいたなんて聞いてねぇぞ!」

「しかも見た事のない武器まで持ってやがるし、本当に何なんだよコイツ等はぁ!」


 混乱しながらもジルニトラへ警戒心を向け続けている海賊の下っ端達を見てジルニトラは少し意外に思ったのか驚いていた。


「へぇ~、迫撃砲を破壊されてレーザーなんて未知の兵器を見ておきながら殆ど士気が低下していないなんて、大したものねぇ」


 海賊達の意志の強さに感心したジルニトラは背負っているサクリファイスを再び構えて海賊達を見つめる。


「それじゃあ、あたしもその覚悟に答える為にも全力で戦うわ!」


 ジルニトラがサクリファイスで狙いをつけて引き金を引こうとした時、耳の小型無線機からコール音が鳴り、ジルニトラは右手でサクリファイスを持ったまま左手で小型無線機のスイッチを入れた。


「ジルニトラ、ニーズヘッグ、聞こえるか?」

「ヴリトラ?・・・何?」


 小型無線機から聞こえてきたヴリトラの声を聞いたジルニトラは海賊達を警戒しながら応答する。ニーズヘッグもアスカロンを握ったまま対岸で小型無線機から聞こえるヴリトラの声を聞いていた。


「そっちに向かった小型船はどうだ?」

「まだ浮いているけど迫撃砲は使えなくしたわ」

「俺の方は全部沈めた」

「そうか、俺も全部沈めたからこれで迫撃砲の脅威は無くなった。一度退いて態勢を立て直そう」

「もう退くの?全部沈めてからでも大丈夫なんじゃない?」


 後退する事にいまいち納得できないジルニトラはヴリトラに尋ねる。すると小型無線機からヴリトラの低い声が聞こえてきた。


「そうも言ってられない。『アレ』が本格的に動き出す前に下がった方がいい」

「アレ?」


 ヴリトラの口にした「アレ」と言う事が上手く理解できずに小首を傾げるジルニトラ。すると何処から大きな音が聞こえてきたジルニトラとニーズヘッグはフッと前を向く。そして二人の前を黒い物体がもの凄い速さで通過し、港の中央、即ちヴリトラの方へ飛んで行く。二人が物体を目で追うと、一発の砲弾がヴリトラに向かって飛んで行く光景を目にした。


「砲弾!?」

「・・・ッ!そうか、確かにアレがあった!」


 ニーズヘッグが何かを思い出したかのようにハッと表情を変えて視線を湾内に向ける。そして湾内の中心で無数の大砲を町へ向けている海賊船を見つめた。ジルニトラもニーズヘッグの声を聞いて同じように海賊船の方を向く。

 ヴリトラは小型通信機のスイッチを入れたまま森羅を構えて向かって来る砲弾をジッと見つめて森羅を振る。砲弾はヴリトラの真横を通過して横に真っ二つに割れてヴリトラの後ろで爆発した。


「そうだ、迫撃砲を全部潰してもまだ海賊船がある。あそこにはまだ沢山の大砲と大勢の海賊達が乗ってるはずだ」


 砲弾を切った後にヴリトラは海賊船を見ながら二人に声を掛けた。確かの海賊船のデッキには大勢の海賊がこちらを見て騒いでいる姿があり、大砲もヴリトラ達を狙っている。


「・・・確かにそうだな。あんなにデカい海賊船なら乗っている奴はざっと五十人はいるだろう。それに俺達の持ってる武器や機械鎧の内蔵兵器で攻撃するには距離がある。空を飛べるオロチならあそこまで行けるだろうが、一人じゃ厳しいしな」

「となると、アイツ等を倒す方法は奴等を上陸させて乗っている海賊達を陸上戦で倒すしかないわね」

「そういう事だ。それに町の方から攻めて来た海賊達を迎撃に行ったリンドブルム達も気になる。だから、一度ラピュス達と合流する!」

 

 海賊船に乗っている大勢の海賊達と戦う為に彼等をおびき寄せるという作戦に移ろうとするヴリトラは改めてニーズヘッグとジルニトラに後退を告げる。二人も戦況からそれは仕方がないと判断して真剣な顔で海賊船を見た。


「了解、直ぐに後退する」

「とりあえず、三人バラバラに退きましょう。それで此処から一番近くの拠点に集合って事で」

「ああ、ラピュス達もそこにいるはずだ・・・。それじゃあ、後退するぞ!」

「「了解!」」


 最後に声を揃えて返事をしたニーズヘッグとジルニトラは小型通信機のスイッチを切りヴリトラのいる港の中央へ走って移動した。それから合流した三人は海賊船の砲撃に注意をしながら街道へ入り、仮拠点へ後退していった。

 その様子を海賊船のデッキから見ていた海賊達は驚き、怒りなどの表情を見せながら港を見ていた。そして大勢の海賊達の中に一人、他の下っ端達と雰囲気の違う男がいた。四十代前半の口髭を生やした悪党面で細い体をしている。黒い海賊帽を被り、紺色のコートを着て腰にサーベルを納めた男が望遠鏡で港を覗いていた。雰囲気からして海賊団の船長のようだ。


「クソォ~!訳の分からない攻撃しやがって。町の連中め、何処からあんな戦力を持ってきやがったんだ!」

「分からん。だが王国の騎士や普通の傭兵ではなさそうじゃぞ」


 船長の隣で白髪の短髪をした小柄な老人が声を掛ける。他の下っ端のように軽装で杖を持つその老人は他の下っ端達のように港を眺めた。


「だが、あんな連中は今まで見た事がないぞ?あんな見た事も無い武器を使い連中が今の今まで何処に隠れてやがったんだ?」

「・・・もしかすると、最近この国で噂になっておる、七竜将とか言う傭兵団ではないのか?」

「七竜将?・・・ああ、あのストラスタ公国の連中を叩き潰したっていう連中か」


 老人から話を聞いた船長は望遠鏡で港を覗くのを止めるとニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「・・・て事は、アイツ等を倒せば俺達も一躍有名人って訳か」

「なっ!・・・まさか『ロージャック』、お主あの者達と戦うつもりか?無茶じゃ、あの者達の強さを見たであろう?未知の武器を使う上に迫撃砲は全て壊されてしまった。儂等では勝ち目はない、この町は諦めた方が良い」」


 老人は船長をロージャックと呼び、カルティンを諦める事を勧める。だがロージャックは老人の方を向き機嫌の悪そうな顔をした。


「何言ってやがるんだ『ザザムス』!奴等を倒せば俺達ソフィーヌ海賊団の名が一気に上がるんだ。それに俺達が勝てばカルティンの金品や奴等の使う武器も手に入るんだぞ!」

「し、しかし・・・」

「それとだ・・・」


 ロージャックはザザムスと呼ぶ老人の胸ぐらを掴み顔を近づけて睨み続けた。


「俺のことはロージャック船長と呼べ!この海賊団の事は全て俺が決める!」

「ううぅ・・・」


 睨み付けるロージャックにザザムスは怯み黙り込む。ロージャックがザザムスの胸ぐらを離して座り込ませると再び港を望遠鏡で覗いた。


「先代はもう死んだんだ。お前はその腰抜け先代の残したあの小娘のお守りでもしてろ」


 死んだ先代の船長の事を貶したロージャックを見上げて歯を食いしばっていたザザムスは悔しそうな顔で俯いた。そして彼等が乗る海賊船の暗い一室では大きなベッドの上で膝を抱えて座っている一人の少女の姿があった。

 迫撃砲を積んだ小型船をほぼ全て沈めたヴリトラ達。そして残った海賊船に乗る海賊達と戦う為に一度町の仮拠点へと後退する。迫撃砲の脅威が無くなっても、まだ戦いは終わらない。寧ろこれからが本番だった。


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