第百二話 海賊襲来! 港町カルティンの攻防
海賊達が予告していた正午よりも一時間早く港に現れて攻撃を仕掛けてきた。だがヴリトラ達はその事を予想していたのか、全く動揺を見せずに海賊達を迎え撃つ為に戦闘態勢に入った。遂に海賊達から港町カルティンを守る為の戦いが始まる。
海賊船と十隻以上の小型船が砲を撃ち、砲弾が向かって来る中で港を守るヴリトラ達はバリケードから顔を出して海賊達を見ている。今のところ、砲弾は一発も港に着弾しておらず、湾内に落ちるだけであったが次第に距離が縮んでいき砲弾も近づいてきた。
「ヴリトラ、まだ反撃はしないのかぁ!?」
「まだだ!奴等を十分引きつけてから撃つ。そうしないと当たり難いからなっ!」
砲の音が広がる港の中でバリケードに隠れながら聞こえる様に大声でヴリトラに尋ねるラピュス。ヴリトラは海賊達の方を見ながら同じ様に大声で返事をした。他のバリケードでもニーズヘッグやジルニトラ、MP7を握る騎士達、そして自警団員が身を隠しながら砲を撃ち続けて来る海賊達の方を見つめていた。
ヴリトラ達が放たれる砲弾に何の抵抗もしない中、小型船から迫撃砲を撃っている海賊の下っ端が港を見ながら愉快そうに笑っていた。
「ガッハハハハ!見ろよアイツ等、土嚢や木箱の陰に隠れてビクビク震えてるぜ?」
「そりゃあそうだろう。この迫撃砲に敵うような奴がいる訳がねぇ!しかも今回は船からも大砲を撃ってるんだ、あの町はもう終わりだぁ!」
「ああ、金品は全部俺達のモンだ!女子供も高く売りさばいて大儲けだぜ!」
戦いが終わった後の事を話して笑う二人の下っ端。すると、別の下っ端が二人の服の襟を掴み自分のところまでグイッと引っ張った。
「お前等、笑ってねぇでさっさと次の砲弾を用意しろ!」
「チッ、うるせぇな~。分かってるよ!」
注意されて渋々仕事に戻る二人の下っ端。二人を引っ張った下っ端は港の方を見ながら鋭い視線を向ける。
「油断するんじゃねぇぞ?奴等はきっと前の襲撃で迫撃砲の存在を知って首都に救援を求めたはずだ」
「奴等の戦力が増えてるって事かよ?」
「ああ、多分騎士団の連中が来てるに違いねぇ」
読みは当たっており、下っ端は港を見つめながら警戒心を強くする。だがさっき笑っていた二人の下っ端はまた愉快そうに笑い出した。
「ハハハハハッ!何ビビってるんだよ?言っただろう、俺達にはこの迫撃砲があるってなぁ!騎士団の連中なんて一発でお終いだ!」
「ああ。それに今回は陸の方からも別の連中が迫撃砲を持ってあの町に向かってるんだ。港と陸からの挟み撃ちで全滅させてやるぜ!」
「アイツ等、目を丸くして驚くだろうなぁ?まさか海賊が陸から攻めて来るなんて思ってもいねぇだろうしな?」
ヴリトラの読み通り、海賊達は陸からも別働隊をカルティンに向かわせていた。だが彼等はヴリトラ達がそれを読み切り町の入口にも防衛線を張ってある事に気付いていない。海賊達はこの戦いで自分達が必ず勝つと思っているようだ。そんな風に海賊達が愉快に話している中、周りの小型船が一斉に迫撃砲を発射。砲弾は港に向かって飛んで行った。
そして港で海賊達を引き寄せているヴリトラ達はバリケードの陰から湾内を見つめている。そして砲弾の一つが港に入り、倉庫の壁に命中して爆発した。その爆発に驚いた騎士や自警団員達は爆発した方を向いてどよめく。ラピュスとアリサも驚いており、目を見張って海賊達の方を向く。
「お、おいヴリトラ!流石にそろそろマズイんじゃないのか!?」
「・・・ああ、そろそろいいだろう」
ヴリトラは左手を上げ、周りのバリケードに隠れているニーズヘッグ達に合図を送った。それを見たニーズヘッグとジルニトラは周りにいる騎士達に声を掛けて、一斉にMP7を構えた。ヴリトラとラピュスも自分の拳銃を構えて向かって来る海賊達の小型船に狙いをつける。
「皆、いいか?俺が合図した一斉に引き金を引け!迫撃砲でも海賊でも何を狙っても構わない!」
叫ぶ様に大声で周りに仲間達に指示を出すヴリトラ。銃器を持つ全員が湾内を進んで来る小船に狙いをつけて引き金に指を付ける。海賊船は湾内の入口で横になり大砲を港に向けて停泊していた。どうやら海賊船の方は大砲の射程に港が入り、近づくのを止めたようだ。だが、小型船は港に向かって進み続けている。その間も小型船の迫撃砲は火を吹き、砲弾を港に向かって撃ち込み続けていた。
飛んで来る砲弾は港の倉庫や民家、積まれている木箱などに当たり爆発し、その近くにいる騎士や自警団員達も怯んでいる。その中で小型船が更に港に近づいた。その瞬間、ヴリトラは目を見張り海賊達の小型船を見ながら口を開く。
「・・・撃てぇーーっ!」
ヴリトラの合図を聞き、ニーズヘッグ、ジルニトラ、ラピュスは一斉に内蔵機銃、サクリファイス、ハイパワーを発砲した。それに少し遅れて騎士達もMP7の引き金を引く。銃口から吐き出された無数の弾丸は真っ直ぐ海賊達に方に向かって飛んで行き、海賊達の真横を通過、小船の掠って木片を飛ばすなどをした。
「な、何だ!?」
「お、おい!港の連中が何をしてきたぞ!?」
「何なんだ、矢か!?」
海賊の下っ端達は港からの突然の未知の攻撃に驚き動揺を見せる。動揺した下っ端達は迫撃砲を撃つ手を止めて小型船の上で騒ぎ出す。数人の下っ端を乗せている小型船は海上でゆらゆらと揺れ、今にもひっくり返りそうになっていた。すると、騎士達が撃ったMP7の弾丸が一隻の小型船に乗っている下っ端に命中し、下っ端は声を上げて海に落ちた。
「おい、一人落ちたぞ!」
「何なんだ一体!?アイツ等、本当に矢を撃ってるのかぁ?」
「矢なんて見えねぇよ!」
「じゃあ、一体何だ、この攻撃はぁー!」
海賊達は完全に冷静さを失い、小型船の上で慌て続けている。そんな中でまた一人の下っ端が撃たれて海の落ち、また一人、また一人と撃たれた海賊達は小型船から落ちていった。それを港から見ていたヴリトラ達は砲撃が止んだ事と海賊達が冷静さを失った事を目にして好機と言いたそうに笑う。
「よしっ!海賊達は完全に動揺している!このまま一気に押し返せーー!」
ヴリトラの言葉に周りのニーズヘッグ達は一斉に声を上げる。ラピュスもヴリトラの隣で小さく笑っており、再び湾内の方を向いて真剣な顔となりハイパワーの引き金を引いた。
港なら銃器を撃ち続けるヴリトラ達は海賊以外にも小型船や迫撃砲なども狙った。弾丸が小型船に命中して穴が開くとそこから浸水して船が沈み始めていく。それに気づいた海賊達は慌てて海水を掬い出し、小型船が沈むのを防ごうとする。
「お、おい、あっちの船が沈みかけてるぞ?」
「ヤバいぞ、迫撃砲を積んでいる状態で浸水したらあっという間に沈んじまう!」
「・・・くっそぉーー!ふざけた攻撃して来やがってぇ!俺達の迫撃砲もう一発食らわしてやるぅ!」
一人の下っ端が新しい砲弾を手に取り、迫撃砲に装填しようとする。すると下っ端の持っていた砲弾に弾丸が命中、その瞬間に砲弾は爆発して小型船を吹き飛ばした。周りでは別の小型船に乗っていた海賊達が突然の爆発に驚き、数人が船から落ちる。港では迫撃砲を積んだ小型船が一隻沈んだ事で騎士と自警団員達が歓喜の声を上げる。
「やったぁ!迫撃砲が一つなくなりましたよぉ!」
「ああ。だがまだ小型船は数隻ある、つまり迫撃砲はまだ沢山あるって事だ。油断するなよ?海賊達が態勢を立て直す前に一つでも多くの迫撃砲をぶっ壊すんだ!」
「あっ、ハイ!」
喜ぶアリサに注意するニーズヘッグは内蔵機銃で再び攻撃を再開し、アリサもMP7を構えて発砲する。騎士達はMP7を撃って次々に小型船に乗っている海賊達を攻撃し海に落としておく。だが、弾倉の弾が無くなると、銃撃を止めて新しい弾倉に変える。その間に海賊達も反撃のチャンスが出来たと急いで迫撃砲に新しい砲弾を装填して港を狙う。
「今までよくもやりやがったなぁ!?今度はこっちの番だ!」
「全員吹き飛ばしてやるぅ!・・・撃てぇーーっ!」
下っ端が迫撃砲を発射し、砲弾が真っ直ぐ港に向かって飛んで行く。向かって来る砲弾を見て騎士や自警団員達が驚いて身を低くする中、ジルニトラはサクリファイスを構えて冷静に砲弾を狙って引き金を引く。サクリファイスの銃口から吐き出された弾丸は真っ直ぐ砲弾の方に飛んで行き、鋭く尖った弾頭が砲弾に触れた瞬間に砲弾は空中で爆発した。
「フゥ、やっぱり少しでも反撃の隙があれば撃ち返してくるわねぇ?・・・さっさと迫撃砲を壊しちゃおう」
ジルニトラは砲弾の爆発によって起きた爆煙が消えて湾内が視界に入ると直ぐに小型船に向かってサクリファイスを発砲する。銃口から吐き出されが無数の弾丸は小型船へ飛んで行き、迫撃砲に命中する。弾丸が当たる事でカンカンと金属音が鳴り火花が飛び散る。
「う~ん、やっぱ迫撃砲は普通に撃ってもダメかぁ・・・。それじゃあ!」
普通に撃ってもダメだと考えたジルニトラは撃つのを止めて銃身に取り付けられているグレネードランチャーにグレネード弾を装填する。装填を終えて迫撃砲に狙いを付けたジルニトラはグレネードランチャーの引き金を引いた。放たれたグレネード弾は迫撃砲に命中し爆発して迫撃砲だけでなく乗っている海賊達も吹き飛ばした。
「ま、また一隻やられたぞっ!」
「一体、何がどうなってるんだよぉーっ!?」
またしても小型船が破壊された光景を目にした下っ端達は声を上げる。今まで最強と思っていた迫撃砲を見ても動揺を見せない相手と未知の武器によって仲間と迫撃砲が次々にやられていく光景に、下っ端達はもはや冷静に物事とを考えられずにいた。
そんな海賊達の様子を港から攻撃しながら見ているラピュスは少し気の毒そうな顔で海賊達を見ている。
「・・・何だか、ここまで一方的だとこちらが海賊達を甚振ってるように思えてしまうな」
「これも戦いだ、仕方がないさ」
「それは分かっている。しかし・・・」
隣でオートマグを撃っているヴリトラをラピュスは姿勢を低くして見上げながら口を開く。するとヴリトラも姿勢を低くしてオートマグの弾倉を新しい物に変えた。
「戦いには善も悪も無い。相手をどんなに一方的に攻撃しようと、一方的に攻撃をされようと、誰にも相手が卑怯だと言う資格なんてないんだよ」
「善も悪も無い・・・?」
「そうだ。戦いの中では自分達が正義、相手が悪と考えるのは当然の事。だが、戦いに参加し、相手を傷つける事自体でどちらも間違いなんだ」
戦いの最中に真面目な話をするヴリトラとラピュス。戦いにはどちらが正しく、どちらが間違いと口で言う事はできるが決め付ける事は誰にもできない。ラピュスは戦いというものが何なのか、戦いはなぜ存在するのかを心の中で考えた。
そんな深く考え込むラピュスを見てヴリトラは静かに声を掛けた。
「ラピュス 自分達が正義だと考えるなとは言わない」
「え?」
「誰だって自分を正義だと言う事はできる。正義なんてものは時と場合によって形を変えるものだからな、お前はお前の正義を信じて騎士の道を歩めばいい」
「ヴリトラ・・・」
爆音と銃声が響く中で自分達の正義や悪を話し合うヴリトラとラピュス。すると再び二人が隠れているバリケードの近くの木箱が迫撃砲の砲弾で吹き飛んだ。
「うおっと!?話はここまでだ、今はこの戦いに勝つ事だけを考えよう!」
「ああ、分かった!」
話を終えた二人はオートマグとハイパワーを構えて再びバリケードから顔を出し、小型船に向かって発砲する。その直後、町の方から突如爆音が聞こえて黒い爆煙が上がった。その爆音を聞いたヴリトラ達は銃撃を止めて町の方に振り向く。
「爆音!?どうして町の方から?」
「まさか、本当に陸から海賊達が攻めて来たんですか!?」
ジルニトラとアリスが町からの爆発に驚いて表情を変える。すると、七竜将の小型無線機からコール音が聞こえてきた。ヴリトラ達は小型無線機のスイッチを入れる。
「こちらリンドブルム!ヴリトラ、皆、聞こえる!?」
「リンドブルムか、何だ今の爆発は!?」
小型無線機から聞こえてきたリンドブルムの声にニーズヘッグは現状を尋ねる。すると小型無線機から若干力の入ったリンドブルムの声が聞こえてきた。
「迫撃砲だよ。読み通り海賊達は町の入口から、つまり陸から迫撃砲を運んで攻めて来たんだ!」
「やっぱりか!・・・それで敵の戦力は?」
「目撃した人によると迫撃砲は三つ、海賊は二十人はいたらしいよ」
リンドブルムから陸の海賊達の戦力を聞いたニーズヘッグは舌打ちをした。すると今度はジルニトラはリンドブルムに質問をする。
「それで、敵は今どうなってるの?確か入口前の拠点があるはずでしょう?」
「どうやら海賊達は迫撃砲をその拠点に向けて撃たずに町の方へ向かって撃ったみたいなんだ!」
「何ですって?」
「多分、町に入る前に砲撃して僕らを混乱させるつもりなんだ思う」
「成る程、敵も正面から突っ込むだけじゃなく砲撃で相手を脅かして精神的に追い込むという心理戦もできるって事か・・・」
ニーズヘッグが内蔵機銃で湾内の海賊達に応戦しながら海賊達の作戦を理解してめんどくさそうな顔をしながら言った。そして湾内の小型船からは再び迫撃砲で海賊達が砲撃して来た。さっきの爆発で一瞬ヴリトラ達の銃撃が止み、その間に海賊達が態勢を立て直したのだ。
砲弾が飛んで来る中でヴリトラはオートマグで一人ずつ海賊達を撃ち、数を減らしていく。ある程度応戦した後にバリケードに隠れたヴリトラは小型通信機に指を当ててリンドブルムに訊ねた。
「今海賊達は何処まで侵攻してるんだ?入口の拠点にはオロチがいたはずだろう?」
「入口前の拠点にいた騎士や自警団員の人達が砲撃でかなりやられてみたいで後退したらしいよ。オロチも皆を逃がす為に海賊達を食い止めてるみたい!」
「いくらオロチが強くても一人で迫撃砲三つと海賊を相手にしちゃ不利だ。リンドブルム、直ぐに応援に向かってくれ!」
「今向かってるよ!」
リンドブルムは街路を走りながら小型無線機に指を当てて話している。その後ろにはベレッタ90を握った数人の騎士と自警団員が続いて走っており、町の入口の方へ向かっていた。
町の入口に向かっている事を聞いたヴリトラは一先ず安心した。そして湾内の方を見るオートマグをしまって力の入った声を出す。
「こっちは海賊船と迫撃砲を積んだ小型船が砲撃してきてバリケードや町のあちこちが吹き飛んじまってる。負傷者も何人か出てる」
「大丈夫なの?一度後退した方がいいんじゃない?」
「・・・ああ、そうだな。だが後退するのは小型船を全部沈めてからだ」
「ええぇ!?本気?」
「勿論だ。だけど、念の為にラピュス達は一度後退させる」
「ヴリトラとニーズヘッグとジルニトラの三人だけで戦うって事?」
「そういう事だ。俺達三人で一通り迫撃砲を片付けてから後退する」
ヴリトラの驚くべき発言を隣で聞いていたラピュスは目を見張って驚く。ニーズヘッグの隣で同じように通信を聞いていたアリサも同じような顔をしていた。
「それで構わないか?ニーズヘッグ、ジルニトラ?」
小型通信機を通して二人に尋ねるヴリトラ。小型通信機の向こうではジルニトラとニーズヘッグが呆れ顔で溜め息をついた。
「まったく、アンタって時々無茶な事をポンと考えて実行に移そうとするからビックリよね?」
「それはお前の悪い癖だから何とか直せよな」
「だけど、これが一番被害が出なくて済む方法だろう?アイツ等が砲弾をぶっ放って来る中で騎士達をフォローしながら戦うにはちょっと無理だろうし・・・」
「まぁ、確かにそうだけど・・・」
「だったら、一旦皆には下がってもらって迫撃砲をさっさと壊すのがいいだろう?」
ヴリトラの僅か三人で何十人もいる海賊と迫撃砲を相手にするという計画を聞いて乗り気が無いのも関わらず、準備を進めるニーズヘッグとジルニトラ。ヴリトラに呆れていても、やはり彼の事を信頼しているのだろう。
「・・・分かったよ。その代わり俺もジルニトラもお前のカバーはできないからな、自分の身は自分で守れよ?」
「おいおい、俺にそれを言っちゃうのかよ?」
ニーズヘッグの言葉にヴリトラにニッと笑いながら答える。ヴリトラの出した作戦を実行する事を決めたニーズヘッグとジルニトラはそれぞれ自分の武器を手に取った。
「とりあえず、まずはラピュス達に町まで下がってもらいましょう?」
「ああ、傷を負った連中の手当ても必要だしな」
話が終るとヴリトラは今度はリンドブルム達に今後の行動内容を伝えた。
「・・・と言う訳で、俺達はこのまま港の戦力を削る。お前達は入口から侵攻してきた海賊達を片付けたら入口前の仮拠点を修復して持ち場に戻ってくれ!」
「分かった、気を付けてね!」
そう言い、リンドブルムは通信を切った。ヴリトラは隣でバリケードに寄りかかり座っているラピュスの方を向いて町の方を親指で差した。
「ラピュス、聞いた通りだ。此処は俺達七竜将で何とかする。お前達は町まで戻って傷の手当てをしろ」
「だが、お前達だけであの数の迫撃砲を相手にするのは・・・」
「心配するな。俺達を誰だと思ってるんだ?それに、小型船を全て沈めてもまだ奥にはあのデカい海賊船がある。あれは流石に俺達でも沈められない、海賊船の連中は必ず船を着けて上陸して来る。その時はお前達にも手伝ってもらうんだからな。傷の手当てをしてしっかり戦えるようにしておいてくれ」
ヴリトラが迫撃砲を片付けた後の事をラピュス話すとラピュスはしばらく考え込み、やがてゆっくりと目を開いてヴリトラの方を見た。
「・・・仕方がないな。だが、これだけは約束してくれ、絶対に無理はしないと。・・・お前はこの世界にも機械鎧兵士である自分達よりも強い相手がいるに違いないと言った。危なくないと思ったら迷わず引け、自分から命を捨てる様なバカな事はするな、いいな?」
真面目な顔をして言うラピュスの顔に迫力を感じたヴリトラは目を見張って驚く。そして直ぐに小さく笑ってラピュスの肩に手を置いた。
「安心しろ、俺達七竜将はそんな無茶は絶対にしない。何よりも自分の、仲間の命を大切にしているんだ。」
「ならいいが・・・」
「そう言うお前も無理だけはするなよ?お前も俺達の仲間なんだからな」
「・・・ああ、分かってる」
互いに笑いながらガッシリと手を握り合うヴリトラとラピュス。ラピュスは姿勢を低くしたまま周りでバリケードに隠れている仲間達に声を掛けた。
「皆、一度町まで後退するぞ!一番近くの仮拠点まで行き手当てをするんだ!」
ラピュスの指示を聞いて騎士や自警団員達は砲撃に気を付けながら町の方へ下がって行く。爆音や煙に驚きながら全員は細道へ入って行き、最後にラピュスとアリサが下がって行った。そして残ったヴリトラ、ニーズヘッグ、ジルニトラの三人は立ち上がってバリケードから姿を見せると港の真ん中で合流する。
「さてさてさて、ここからが本番だ。気を引き締めていけよ?」
「言われるまでも無い」
「ええ、それにあたし達は何時でも本気で戦ってるわよ」
軽口を叩き合いながら三人は湾内を見て自分達の武器を構える。海賊船は大砲を全て港の真ん中で立っているヴリトラ達に向けられ、いつでも発射できる状態にあった。そして小型船の海賊達も迫撃砲を向けて狙いを定めている。
「それじゃあ、分かれて確実に倒していくぞ。それとラピュスの言葉だけど・・・無茶するなよ」
最後の忠告を合図に三人はそれぞれバラバラになって走り出す。ニーズヘッグは内蔵機銃をしまいアスカロンを、ジルニトラはサクリファイスを、そしてヴリトラは森羅を握って戦闘を開始する。
遂に始まった海賊との戦い。小型船の海賊を銃器で一人ずつ倒していくヴリトラ達であったが、海賊達の反撃も激しく、一度ラピュス達を後退させて七竜将の三人だけで海賊達を相手にするとヴリトラが言い出す。まだ戦いは始まったばかり、ヴリトラ達には一瞬の気の緩みも許されなかった。