第九話 未知の技術とその力
それぞれのチームに分かれてクレイジーファングのアジトを調べ、マリを探し始めるヴリトラ達。ヴリトラのチームは盗賊の下っ端達を相手に少しずつ廃鉱へ近づいて行き、リンドブルムのチームニーズヘッグ特製の小型爆弾を岩山の所々にある小屋などに仕掛けながら盗賊達を倒していった。
ヴリトラ達は岩だらけの道を進みながら岩山の中心にある廃鉱へ近づいて行く。その途中で何度も下っ端達と出くわしたが、ヴリトラ達の敵ではなかった。武器を手に取り、先を急ぐヴリトラ達。既に彼等が通って来た道には数人の下っ端達が倒れていた。
「此処まで来るのにもう何人の盗賊を倒したっけ?」
「さぁな。抵抗して来た奴は倒して戦う意志の無くなった奴等は気絶させるなどしたからな。よく分かんねぇや」
何人と盗賊を倒して来たのか思い出すファフニールにヴリトラは悩む顔をしている。そんな二人にジャバウォックは苦笑いをしており、ラピュスは真剣な顔で自分の前を走る三人を見ていた。
(・・・コイツ等、本当に何者なのだ?これまで十人近くの盗賊を傷一つ追わずに倒して来た。しかも常人離れした動きで敵を翻弄させいながら・・・もしかすると、本当に別の世界から・・・?)
ラピュスはヴリトラ達のとてつもない身体能力と戦いの技術、そして見た事の無い武器と服装を見て少しずつヴリトラ達がこの世界とは違う世界から来たと言う話しを信じ始めていた。
しばらく走っていると、ラピュスは足を止めてヴリトラ達に声を掛けた。
「おい、ちょっと待ってくれ」
「ん?何だよ?」
「私達はかなり奥まで進んでアジトに近づき、多くの盗賊を倒した。それなのにこれまで数人の盗賊が何組かに分かれて現れて戦ってきただけだ。なのにどうしてさっきから騒ぎが起きないのだ?」
「そんなの簡単だよ。お前の言った通り、此処が奴等のアジトだからさ」
「は?」
ヴリトラの答えにラピュスは思わず声を漏らした。ヴリトラは右手に持つ森羅で地面を軽く叩きながら細かく説明し始めた。
「いいか?此処はクレイジーファングのアジトのある岩山だ。アジト、つまりこの岩山はアイツ等にとって一番安心しできる所なんだ。盗賊のアジトのある山で自分達が襲われる筈がない、そう思って警戒を強くしようと思わないんだろう」
「つまり、自分達のアジトのある岩山で自分達を襲撃する奴なんていないと完全に油断しているって訳だ」
ヴリトラとジャバウォックの説明を聞いたラピュスはまばたきをしながら黙って話しを聞いている。そこへ今度はファフニールが話しに加わってくる。
「もっとも、大きな花火が打ち上がれば流石に気付くだろうけどね?」
「ハナビ?」
また聞いた事の無い言葉にラピュスはファフニールの方を見て難しい顔をする。ファフニールは笑いながら空を見上げた。
「リンドブルム達は今どうしてるかなぁ?」
ファフニールは別行動をしているリンドブルム達の事を考えている時、そのリンドブルム達は小屋の中や壊れやすそうな場所に小型爆弾を設置していった。その行動を続けながらリンドブルム達はオロチが見つけた洞穴の前までやって来ていた。
大きな洞穴の前に立ち、暗い奥を見ているリンドブルム達。自動車一台が通れるくらいの大きさの穴を見上げるリンドブルム。
「此処がオロチの見つけた洞穴だね?」
「ああ。奥は殆ど見えないな・・・」
リンドブルムの隣で奥を見つめるオロチ。反対側ではバックパックから取り出したライトで洞窟の奥を照らしているニーズヘッグの姿がある。ライトで奥を照らすと、積み上げられている無数の樽と木箱、そして空の樽の中に直剣や槍が刺してあった。どうやらこの洞穴は倉庫のようだ。
ゆっくりと警戒しながら洞穴に入っていくリンドブルム達。一番奥まで来ると、リンドブルムは木箱を軽く叩いて中に何が入っているのか調べ始める。
「何が入ってるのかな?音からすると中には意外と空洞があるみたいだし」
「食糧か雑貨が入ってるんじゃないのか?」
木箱を調べているリンドブルムを見ながら樽に刺さってある槍や直剣、壁に掛かっている木製の盾を調べている。
ラランとジルニトラは積み重なっている樽に近づいてその中身を調べていた。樽の中からは異臭が出ており、ラランは鼻を押さえながら樽を見つめている。
「・・・臭い」
「これは、火薬の臭いね」
「・・・火薬?火を近づけると危ない」
「そうね、此処じゃ銃は使えないか。でも、別の意味では使えるわね、この火薬も」
「?」
小さく笑いながら樽を見つめるジルニトラを見てラランは小首を傾げた。
その様子を見ていたニーズヘッグ。ジルニトラが自分の方を向いた事に気付いたニーズヘッグは火薬の入っている樽とジルニトラの言葉を思い出し、自分の持っていた小型爆弾をジルニトラに投げる。ジルニトラはその爆弾を片手でキャッチし、樽につけてスイッチを入れた。
「よし、後はこれを爆発させれば、その瞬間にドッカーンね」
ジルニトラがニヤニヤしている姿を見てラランはジト目で見ている。リンドブルムとニーズヘッグも同じようにジト目をしていた。オロチはチラッと見た後にそのまま探索を続けた。
それからしばらく倉庫を調べたリンドブルム達は洞窟を出ようと明かりの方へ歩いて行く。すると、洞窟の外から二人の男の声が聞こえてきた。
「おせぇな~、何時まで見回りしてんだよアイツ等は?」
「四人で見回りに行ってるんだからすぐ終わるだろうに」
どうやらクレイジーファングの下っ端のようだ。さっきリンドブルム達が戦った四人が戻ってこいから様子を見に来たらしい。リンドブルム達は洞窟の壁にもたれて気配を消して下っ端二人の位置と歩く速度を調べている。
「早歩きで来てるな、こっちに近づいて来てる」
「この洞穴に来るって事?」
男達の行動を予測したオロチに尋ねるジルニトラ。ニーズヘッグは納めてあるアスカロンに触っていつでも攻撃できる準備に入った。リンドブルムもライトソドムとダークゴモラを抜き、ラランも突撃槍を構えている。
「ここは私に任せろ・・・」
オロチは武器を手に取るリンドブルム達を見て鋭い表情で言った。
しばらくして男達が洞穴に入って来た。壁についている松明を一人の男が手に取り、奥へ進もうとする。すると、突然洞窟の外のオロチが姿を現して男達の背後を取った。
「な、何だ?」
背後からの気配に気づいた松明を持った男が振り返ると、そこをオロチが斬月で攻撃した。男は右肩から左の腰辺りまで斬月で斬られ、松明を持ったまま倒れた。
もう一人の男は仲間がやられた事に戸惑いオロチを見て後ろに下がった。今度は洞窟の奥の暗闇からジルニトラが姿を現し、男の背後に急接近した。そのまま両手で男の頭を掴むと首を180度回転させてへし折った。男達は何が起きたのか分からずに命を落とした。奥からは隠れていたリンドブルム達が姿を現す。
「終わったの?」
「ああ」
「大したことなかったわ」
倒れている男の前で余裕の表情を見せるオロチとジルニトラを見てリンドブルムは愛銃をしまって訊ねる。ニーズヘッグは倒れている男達の近くでかがみ、腰に付いている革袋を取り中身を確かめる。中には小さな紙が入っている。
「紙に何か書いてあるぞ?」
「・・・見せて」
ニーズヘッグの隣から紙を覗き込むララン。書いてある事を読み上げる。
「・・・『子供はアジトの奥にある牢屋に閉じ込めてあり、明日の午後に売り飛ばす。それまでは見張りを多くしておけ』って書いてある」
「アジトの奥か、通信機でヴリトラに連絡を入れるか」
「・・・ツウシンキ?何それ?」
「これだよ、これ」
ニーズヘッグは右耳についている小型通信機を見せながら指で突く。ラランはジッと通信機に顔を近づけた。
「コイツで遠くにいる仲間と会話が出来るんだよ」
「・・・離れた仲間と会話?」
「ああ」
「・・・嘘つき」
「嘘じゃねぇよ。なんなら試してみるか?」
ニーズヘッグは自分の耳に入っている小型通信機のスイッチを入れてヴリトラに連絡を入れた。小さなコール音が通信機から聞こえ、しばらくすると通信機からヴリトラの声が聞こえてきた。
「こちらヴリトラ、どうした?」
「ニーズヘッグだ。爆弾をセットしている時に敵と遭遇してな、その敵がメモを持っていたんだ」
「メモ?何て書いてあったんだよ?」
「ああ、俺には読めないんだが、ラランの話では・・・」
メモを見ながら内容をヴリトラに話すニーズヘッグを見てラランは若干引くような目をしている。ラランから見て今のニーズヘッグは独り言を言ってる危ない人にしか見えなかった。
引き気味な目をしているラランを見てリンドブルムは苦笑いをしながら近づき、自分の通信機を外してラランに差し出した。
「はい、これを耳につけて」
「・・・・・・」
リンドブルムの手の中にある通信機をしばらく黙って見ていたラランは通信機を手に取り、ニーズヘッグを見て彼と同じように通信機を耳に入れた。
「成る程、明日の午後か。だったら余裕だな」
「ああ、ちゃっちゃと終らせて町に戻ろう」
「!?」
突然耳に入れた小さな物から聞こえてきたヴリトラとニーズヘッグの声に驚くララン。その様子を見たリンドブルムは笑い、ジルニトラは笑いを堪えており、オロチは無表情でラランを見ている。
「・・・声が聞こえてきた、何?人が入ってるの!?」
「いやいや、違うわよ」
「て言うか、お決まりの台詞を言ったね?」
通信機のからくりを訪ねてきたラランを見て笑いながら言うジルニトラと苦笑いをするリンドブルム。小型通信機を外して指でゆっくりと回しながらどうなっているのかを調べ始めるララン。
リンドブルム達が楽しそうに話をしていると、通信を終えたニーズヘッグがリンドブルム達の方を冷めたような目で見つめた。
「何をやっているんだ?」
「ん?い、いや、何でもないわ。フフフフ」
「?」
面白そうに笑っているジルニトラにニーズヘッグは首を傾げる。そんなニーズヘッグにさっきから黙っていたオロチが声を掛けた。
「ヴリトラは何と言っていたんだ?」
「ん?・・・ああ、アジトへの入口を見つけて中へ侵入するから俺達には爆弾のセットを済ませ、爆発させて敵の注意を引きつけた後にアジトに来てくれってさ」
「来てくれって、私達はアジトの位置を知らないのだぞ?」
「俺達が全ての爆弾をセットし終わる前に見つけてまた連絡するとさ」
今度の行動を話し、残りの爆弾の数を確認するニーズヘッグ。オロチも斬月に異常が無いかを確認し、笑うのを止めて落ち着いたジルニトラもサクリファイスの弾倉を確認し、リンドブルムはラランから小型通信機を受け取って耳に入れ直し、リンドブルム達は洞穴を後にした。
それからリンドブルム達は洞穴を出た後に幾つかの見張り台や小屋を見つけてそこに小型爆弾をセットした。今までセットした小型爆弾は赤いランプを点滅させ、まるで鼓動をしている様に小さな音を鳴らしている。
手持ちの爆弾を全てセットしたリンドブルム達は大きな岩の陰に身を隠して休んでいた。これまで一人の敵にも遭遇していないが、大分奥に来た為、そろそろ敵と遭遇する可能性があると感じ、隠れてヴリトラからの連絡を待っていたのだ。
「・・・遅いね?ヴリトラ」
「まったく、俺達が爆弾をセットする前に見つけるって言っておいたくせに・・・」
アジトの位置をまだ見つけられていないヴリトラ達の事を考えるリンドブルムとニーズヘッグ。周りでは座り込んで辺りを見回しているジルニトラに、岩にもたれ、目を閉じて休んでいるオロチ、そして突撃槍を地面に置いてリンドブルム達を見回しているラランの姿があった。
リンドブルム達が黙ってヴリトラ達の連絡を待っていると、四人の小型通信機から読み出し音が聞こえてきた。四人は一斉に通信機のスイッチを入れた。
「俺だ。クレイジーファングのアジトの入口を見つけたぞ」
「やっと見つけたの?あたし達はとっくに終わっちゃったわよ?」
「あらま、そりゃ失礼」
「はぁ・・・それより、状況はどんな感じ?」
ジルニトラがジト目で小型通信機の向こう側にいるヴリトラに尋ねた。
ヴリトラ達は大きな木の陰に隠れて廃鉱の入口らしき洞窟を見ていた。入り口の周りには武器を持った数人の下っ端が見張っており、見張り台のような所には弓を持った下っ端の姿もある。敵の数を数えながらヴリトラは通信機の向こう側にいるリンドブルム達に状況を伝えた。
「敵の数が此処から確認できるだけでも六人いる。弓を持った奴が一人、後は短剣や槍を持った奴等が五人だ」
「だが、まだ中にも大勢いるはずだ。何しろここは奴等のアジトだからな、見回りに行っている奴らを覗いてもあと十人位はいるはずだ」
ヴリトラの後ろでアジトの入口を覗いているラピュスが敵の人数を想像して入口の近くを確認している。ジャバウォックとファフニールも木の陰に隠れながら入り口や自分達の周りを見て敵がいないかを確認ていた。
敵の状況を説明すると、ヴリトラは腰の森羅の鞘を握って少し動かした。ヴリトラ達はいつでも突撃できる状態になっている。
「こっちは何時でもアジトに潜入できる。奴等も俺達の正確な人数は分かっていない筈だ、爆弾が爆発すれば敵はそっちにいると思い戦力の殆どが向かうはずだ」
「それじゃあ、爆発させるの?」
無線機から聞こえてくるリンドブルムの質問を聞いたヴリトラは入り口の方を向いて静かに声を出した。
「・・・ああ。そうだな、マリちゃんや他の子供達の事が心配だ」
「それじゃあ・・・」
「・・・作戦開始だ」
ヴリトラのその言葉を聞いた他の七竜将達の視線が一斉に鋭くなる。ラピュスとラランは突然目つきを変えた七竜将に少し驚く。
ニーズヘッグは取り出した爆弾の起爆スイッチの電源を入れる。スイッチについている無数の赤いランプが一斉に光り、それを確認したニーズヘッグはトリガー式のスイッチを押した。その瞬間、起爆スイッチと小型爆弾についている赤いランプが緑色に光り、セットされていた全ての小型爆弾が一斉に爆発した。
アジトの近くに隠れていたヴリトラ達は遠くから聞こえてくる爆発音にフッと顔を上げ、入り口前にいた見張りの下っ端達は突然の爆発音に驚いた音の聞こえた方を一斉に向く。そして遠くから上がっている黒い煙を見つけた。
「な、何だあの煙は!?」
「デカい爆発音がいしたぞ!」
「あっちの倉庫には確か火薬の詰まった樽があったはずよ?」
「誰かがあそこで火を使ったのか?」
「それとも侵入者かぁ?」
ざわつき始める見張りの下っ端達。するとアジトの中から数人の盗賊達が出てきた。
「おい、何だ今の音は?」
「どうやら火薬のある倉庫が爆発したみたいなんだ!」
「何だって!?チッ、誰か様子を見てこい!」
アジトから出てきた盗賊に言われて入り口を見張っていた下っ端とアジトから出てきた数人の下っ端が爆発した方へと走って行った。残った下っ端は僅か四人、全員が辺りを警戒している。
「俺はこの事をお頭に伝えてくる、此処は頼んだぞ?」
四人の内の一人がお頭、つまり自分達のリーダーの現状を伝えようとアジトの中へ走って行く。残った三人が武器を取って辺りを見回していると、三人を大きな影が包み込む様に地面に映った。影に気付いた三人の下っ端が上を見ると、太陽を背に高くジャンプして自分達に向かって降りてくるヴリトラに姿があった。
突然現れたヴリトラに驚く下っ端達に比べてヴリトラは余裕の笑みを浮かべながら森羅を握って降りてくる。ヴリトラは三人の中心に降りて時計回りに回転、その勢いで三人の胴体を森羅で切り払った。下っ端達は何が起きたの変わらずにヴリトラの超振動刀の餌食となって倒れた。
ヴリトラが森羅を払い刀身についた血を掃うとそれに続くようにデュランダルを握ったジャバウォックとギガントパレードを担いだファフニールもジャンプしてヴリトラの近くに降り立った。ラピュスだけは走って三人と合流した。
「ここがアジトの入口か」
「みたいだな」
「でも敵さん一人もいないよ?殆どリンドブルム達の方へ行っちゃったんじゃないの?」
ジャバウォック、アジトの入口を見ているジャバウォックと倒れている下っ端を見て敵がいないかを探すファフニール。そこへラピュスが少し慌てた様な様子で三人に話しかけてきた。
「お、お前達、何をやっているんだ!?敵は殆どがララン達の方へ行ったのだぞ?恐らくあの爆発音を聞いた盗賊達は全員が爆発した方へ向かうはずだ。立った五人で十人以上いる盗賊達を相手にさせる気か!」
「アイツ等なら心配ないさ。それよりも、俺達は自分達の方を心配した方が良さそうだ」
ヴリトラが入口の方を見ながら意味あり気な言葉を口にすると、その直後に洞窟から大勢の盗賊達が武器を持って出てきた。
「な、何だテメェ等は!?」
ヴリトラ達の存在に気付いた盗賊達は一斉に四人を取り囲んだ。自分達を取り囲む盗賊達を見て汗を掻くラピュス。だが、ヴリトラ、ジャバウォック、ファフニールは焦る様子も見せずに盗賊の数を数えていた。
「・・・ざっと十六人ってところだな?」
「たった十六人かよ」
「意外と少ないね?」
十六人はいる盗賊達を見てつまらなそうな顔をする三人にラピュスは目を丸くして驚いた。周りの盗賊達は自分達が馬鹿にされているとすぐに気付いてヴリトラ達を睨みつけている。
「何騒いでるんだ?」
アジトの奥から聞こえてくる若い男の声に一同は一斉に洞窟の方を向く。洞窟からは下っ端達とそれほど変わらない装備をしたロン毛の若い男が出てきた。背には一本の剣が背負われており、その後ろには二人の下っ端を引き連れていた。どうやらこのロン毛の男こそがクレイジーファングの頭のようだ。すると、連れの下っ端の内の一人がヴリトラ達を見て声を上げた。
「・・・あーーっ!テ、テメェは・・・!」
「ん?・・・おお~、お前はあの時バロンさんとマリちゃんを襲った・・・!」
声を上げた下っ端を見てヴリトラは意外そうな顔を見せた。その声を上げた下っ端こそバロンとマリを襲い、マリを誘拐した写真の盗賊の男だったのだ。
騒ぎ出した下っ端に盗賊頭は不思議そうな顔を見せる。
「どうしたんだ?」
「お頭、コイツですよ!俺の仕事の邪魔をした・・・!」
「何?コイツがお前の言っていた奴等か。確かに見た事のねぇ格好をしているな?おまけに王国の姫騎士まで連れてやがる」
ヴリトラ達を見て盗賊頭が腕を組みジッと四人を見ていた。見慣れない姿をしている三人と姫騎士のたったの四人で自分達のアジトの岩山に来た事が不思議で仕方がないのだ。
だが、今はそんな事はどうでもいい事だった。盗賊頭は四人を睨みながら背負っている剣を抜いてゆっくりとヴリトラ達の方へ歩いて行く。
「テメェか?俺の可愛い子分の邪魔をしやがったのは?」
「可愛いかどうかは分からないけど、確かにソイツの邪魔をしたのは俺だ」
「ほぉ?認めるのか?」
「ああ、隠す程の事でもねぇし」
盗賊頭の質問を小馬鹿にしたように答えるヴリトラ。そんなヴリトラを見てヴリトラに殴り飛ばされた下っ端とヴリトラ達を取り囲んでいる下っ端達が一斉に武器を取って構える。
頭を掻きながら答えるヴリトラを見て盗賊頭は剣を構えて低い声を出した。
「まぁ、テメェが何を考えているのかは知らねぇが、俺達クレイジーファングに喧嘩を売ったのが運の尽きだ。此処でテメェの命を貰うぜ?」
「生憎、俺等の命は、お前等に買える程、安くねぇんだよ!」
そう言い放ち、ヴリトラは着ていたコートを脱ぎ捨てた。ジャバウォックとファフニールも同じようにコートを脱ぎ捨てる。三人のコートの下を見てラピュスと盗賊達は驚いた。
ヴリトラの左腕丸々一本が銀色の輝く鋼鉄の機械鎧の腕になっており、ジャバウォックの右腕もヴリトラと形が違うが、全てが銀色の機械鎧の上になっている。そしてファフニールは右腕から右胸の辺りまでが機械鎧となっており、三人は機械鎧の部分を覗いて灰色の特殊スーツを身に纏い武器を構えた。
コートを脱ぎ捨て、真の戦闘態勢に入ったヴリトラ達。此処から七竜将の一斉攻撃が始まる!