入学式―結視点―
入学式なんてめんどー。それに海沙いないからいじれないじゃん。
なんて思いながら並ぶと、黒髪を左耳の下で結んでる子が隣だった。
「ウチ、左右結。君の名前はなんだい?」
そう隣の子に聞くと、ビクッと肩を揺れて、少しもどりながら答えてくれた。
「えっと……私、小鳥遊悠です」
そんなにびびる必要ないのに。
なんて心で笑いながら、あくまで優しげな笑みでよろしくーと伝えた。
「あっ、そうそう。悠って呼ぶね! ウチのことは結でいいから。あと、タメでよろしく。敬語とかまじで無理だから」
ね? と聞くと、コクコクっとうなずいて、「わかった」とつぶやく悠。
海沙とは違って、すげーいじりがいがありそう。
いじりたい気持ちを押し殺すために質問してみることにした。
「ねえ、悠ってさ、彼氏とかいるの?」
「いない」
はいっ、即答されましたー。んーむなしー。
そんなことを心の中で思っていると、悠から逆に質問された。
「あ、あのさ。結って彼氏いるの……?」
ああー、彼氏かー。いるっけ? ってかいたっけ? 男友達ならたくさんいるよーなー? あれ? 彼氏いたっけ?
ものすんごく悩んだ結果……。
「いないよっ」
そう言ったあと、「きっと」と小言でつけたしておいた。
悠がもっと聞こうとしてたけどグッドタイミングで体育館に着いたので、話は中断された。
彼氏いたかあとで龍にでも聞いてみよー。
そう思い中に入ると、厳粛の空気の中で浮いている格好の集団がいた。
まっ、ウチも浮いてるよなー。
龍と誠哉が手を振ってきたので降り返しておいた。
そしたら入り口にいた先生に睨まれたので睨み返しておく。
「悠、席替えようぜ」
この状態だと龍たちとしゃべれない。
少しとまどいながらも「いいよ」と言ってくれたので、急いで席を変わった。
「おう! さっきぶりだな」
定位置に着いたときに後ろから龍がしゃべりかけてきた。
「そうだな。ふぁーあ」
だるそうに返事をしていたらあくびがでた。
あー、かったりー。
「結、暇そうだから良い話してやるよ」
誠哉がそう言ったときに丁度先生が言葉を遮った。
「これから入学式を始めます。礼」
一斉にみんなが礼をしたが、誠哉は舌打ちをした。
まったく、本当子どもだね。
そう心の中で笑い、先生が着席と言ったので、ガタッと座った。
「で、その良い話ってのは何? 面白い話じゃなかったら許さないから」
後ろを向き、ニコリと笑いながら拗ねている誠哉に聞くと、誠哉の顔が輝いた。
「おう。わかった」
少し大きな声になったので、龍が誠哉の口を抑えた。
「お前、今の状況わかるだろ。少しボリューム下げろ」
もがいている誠哉に説教をして手を離させると、誠哉は息を整えようと深呼吸している。
「誠哉はものすごくいじりがいがありそう」
笑いながらボソッとそうつぶやいた。
龍はそのつぶやきが聞こえたのか、誠哉にドンマイと言っていた。
そろそろ飽きてきたし、いい加減話してもらおう。
「話してよ」
そう言うと、誠哉はさっきよりもボリュームを下げて話し出した。
「オレン家の近くにゲーセンができてよ。そこにあるUFOキャッチャーがちょー豪華なんだ。ゲーム機二つついてるんだぜ」
……子ども? ウチの弟でも欲しがんねーよ。
そう心の中でつっこみ、苦笑いをした。
「興味ないね」
そうばっさり言い捨てた。
「それよりさ、ものすっごくかっこいいアクセ見つけたんだよね。たぶん龍たちも気に入ると思うよ」
ピアスを触りながら行く? という風に首を傾げた。
「本当か!? 最近良いやつ見つかんなくてよ」
龍がそう言うと、誠哉も行くと言い出した。
「OK。じゃあ学校終わってからな」
そう言ってメモ帳を出して、海沙への伝言を書いて、龍に海沙に渡るように頼んだ。
本当に届くか心配だったが、ちゃんと届いた。
ぼーっとしているとケータイが震えた。誰かがメールしてきたらしい。
「誰からのメール?」
誠哉がケータイを覗いてきた。
「ふゆ……き? 男からか!?」
やるなあ、と誠哉が言ってきてうざかったので、顔面に一発入れといた。
「いってー。図星かよー」
龍に頼んで誠哉を黙らせた。
「冬樹は結の弟だ」
「えっ、弟いたのか。会ってみて―」
後ろで騒いでる人はほっといて、メールを見た。
『いつ終わる? 一緒に遊びに行こう』
はあー。しゃーねえ、連れてくかあ。
返信すると、いつの間にか入学式は終わっていた。
「起立」
先生の声でゆっくり立ち上がると、海沙が慌てて立ち上がるのを見てクスリと笑った。
「礼」
先生の言葉で首だけ曲げて礼をして、後ろを向いた。
「誠哉、会わせてやるよ。冬樹にね」
ニヤッと笑って、先生の指示で外に出た。
冬樹に会せたら絶対面白いことが起きる。あっ、でも喧嘩になっちゃうかも。二人とも子どもだからね。
そう悪態をつきながら必死で笑いを堪えた。
「楽しいことでもあったの?」
悠がこっちを見ながら尋ねてきた。
「まあね。でも教えないよ。言っても絶対、共感できないと思うから」
そう言うと、悠はふーんと言って教室に入っていった。
「冷たいな」
まあ別に良いけどね。
そうつぶやき、中に入っていった。