入学式
体育館入ると厳粛な雰囲気だった。
でも、うん……厳粛な雰囲気なのに、すごくチャラついている格好の集団がいた。ああいう人たちには、極力関わりたくないな、と思ってたけど、そういえば結も制服を着崩してたな……と後ろにいる結を見ると、いたずらをするときの顔をしていた。
そして、定位置になると、後ろがチャラついてる集団のもと……工業科の1-Fだった。
横のほうで結の声が聞こえると思って横を向いたら、吾妻君と工業科の一人としゃべっていた。
「結ちゃん、怒られなければ良いけど……」
と、心配そうに言う綾は、その後に結ちゃんなら大丈夫そうだけど…と呟いていた。
「大丈夫でしょ。結だから」
そう綾に言った時先生が前に立った。
「えー……これから入学式を始めます。起立っ礼っ」
先生のその合図で、式に出ている全員が多分礼をした。
「着席っ」
ガタっゴトっと言う音を鳴らしながら皆が着席し、前を向いた。
先生とか、校長先生の話長そうだな……、つまんないな…なんて思いながら前を向くと、前に立っている先生と目が合った。
うわぁあ……最悪……と直ぐに目を逸らしてしまった。
やばい目付けられたかな……いやいや、ただ目が合っただけで何もしてないよな……。あれか!? つまんないとか思ったのがバレたのか!? いやでも何で!? はっ!! 先生って実はエスパー!? いやいやそんな訳ないよね……。
自問自答をしてるうちに、先生と校長先生の話が終わり、式の終盤に差し掛かっていた。
やばい……もうちゃんと聞かなきゃ、と思い前を向こうとしたら、後ろの子から紙切れが回ってきた。
「左右って子から君へだってさ」
「あ……ありがとう」
ボソッと呟いて紙切れを受け取り、先生にばれない様にそっと開いて読む。
えっと……今日は、龍と誠哉と帰るので一緒に帰れません。
うん?吾妻君は分るけど、誠哉って誰!?
あ……まだ続きがあった……。 綾にも伝えとけよ。
何様のつもりだよ!? 態度デカいよ!?
本人に言ったら絶対に、え? 結様のつもりですけど? って返ってきそう……。
そう思っていると先生の声が体育館に響き渡った。
「起立っ」
その言葉で一斉に皆立つが、私はワンテンポ遅れて慌てて立ち上がった。
やばい……と思っているとクスリと誰かに笑われたような気がした。キョロキョロとあたりを見まわしたが誰も笑っていない。その代り、先生に睨まれた。
「礼っ」
私は、先生の視線から逃れるように深々と礼をした。
怖い……。酷いよ先生。睨まなくたっていいじゃんっ。確かにキョロキョロしていた私が悪いけれども、睨む必要ないじゃん……。
なんて思っていると、入学式が終わった。
やばいよ……先生に目付けられたかも。それに先生の話聞いてなかったし、色々終わった。
はぁ……と溜め息をつきながら、先生の指示に従って教室に向かう。
体育館から出るまでの間ずっと下を向いていた。廊下に出たら綾に心配そうな顔で大丈夫? と聞かれて少し涙が出てきそうになった。
「大丈夫だと思う……。あ、そうそう。結からこれが回ってきたよ」
気分をまぎわらす為に、結から回ってきた紙切れを綾に渡した。
綾は、紙切れに書いてある内容を読むとクスっと笑った。
「結ちゃんらしい簡素な文だね」
そう言うと、紙切れを綺麗に畳んで返してきた。
「吾妻君は分るけど、誠哉って誰だろうね?」
さっき疑問に思ったことを綾に伝える。すると、綾はうーん……と考えてから言葉を続けた。
「多分、結ちゃんの新しい友達だと思う。海沙が学校に来る前に少し話してた時に、九誠哉って人が出てきたからその人じゃない?」
ニコッと笑いながら綾は言う。
結はすぐに人と仲良くなれるからね。多分、吾妻君の隣にいる明るい茶髪の人がそうかな……。でも、絶対に、
「仲良くなることは、できないな」
そうボソッと呟いた言葉を綾が拾ったのか少し笑って言った。
「海沙はああ言う人苦手だし、タイプじゃないもんね」
「うん。怖いし関わりたくない」
即答でそう答えるとクスクスッと綾に笑われた。
ムウッと頬を膨らますとゴメンと謝られた。
なんて話しているといつの間にか教室についてしまっていた。
はぁ……あの席はつまんないから嫌だな……。
なんて心で思いながらも渋々教室に入った。