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殺意:苑華

拝読有難うございます。これでこの話しは終りです。……そしてただ今、続編を執筆中しています。よろしければ簡単な感想、また希望などいただけたら次回作に盛り込んでいきますのでよろしくお願いします。

『終焉愛葩』




 殺意の裏側に秘めた思いを……


 伝えたい。


 今だから……お前に。




 満開の桜並木。降り注ぐは桃色の雨。

「……今年で卒業か…」

 季節は春。晴れて退院した俺はこうして学校へと向かう道を歩く。


―――色々あったな……


 去年の俺と、今の俺を比べると、確かな変化が自分でも分かる。

 胸の中のモヤモヤというか、違和感がなくっている。それが今まで『俺』という人格を形成していたが、あの時の別れで俺は新たな『俺』になった。


―――……絶対に、忘れない


 胸にそっと手をあて、自分を感じ取る。静かな心音は俺が生きていることの証。

「シオ〜ンっ」

 背後から聞こえた声に俺は振り向く。声の主を確認した俺は手を挙げて足を止める。

「よぉ、恋華」

 そう呼んだ女の子は、腰までのばした灰色の髪を春風に遊ばせ走ってくる。

「はぁ、はぁ……シオン待っててくれてもいいじゃなーい!」

 恋華は髪を整えながら文句を垂らす。

「あぁ、悪い。でも、恋華? もう少し早く支度をすればいいんじゃないか??」

「だってぇ〜……。今日は新学期だよ!? ちゃんとオシャレしなくちゃ!」

 恋華は満面の笑みで桃色の雨の中、俺に近づいてくる。

「新学期か……。よく俺と知徳も進級できたもんだな……」

「あぁ、そのこと? よっしーが色々やってくれたみたいだよ??」


「……なるほどな」


 納得してしまう俺もどうかと思うが、田淵ならできると心から思ってしまう。

「……頭が上がらないな…」

「ふふっ、そーだねっ」

 恋華の笑みを見ながら、俺は恋華の頭に留まっている桃色の雨をそっと取り除く。

「……シオン? ……お母さん達は平気なの?」

 今度は打って変わって神妙な顔になり、俺を見つめる恋華。        「あぁ……今、事情聴取中だよ。……これからだな」

「…一人で住むには広すぎるよね……あの家」

 俺は気落ちしている恋華の前に立つと、ポンッと指でおでこを弾く。

「!? いたぁ……」

 いきなりの事に恨めしそうに俺を睨む恋華。そんな恋華の表情は面白い。

「……確かに一人で住むには広すぎるな…でも、前に比べると、どよんだ雰囲気がなくなって気持ちがいいよ」

 ……見えない壁が崩れたように、陽がさし始めた家。

「後は……世間の風だな…。同情か、嫌悪か……。あれだけはまだ慣れない」

「シオン……」

 ふと、右手に春風とは違う心地よい温もりを感じる。…けれど俺はその温もりのもとを確認せず、歩みを進める。

「らららららららっ!! とぉーりぃまぁーすっ!!」

 と、突如聞こえた奇声に俺と恋華は振り返る。そこには、地に落ちた桃色の雨を巻き上がらせながら走ってくる金髪、坊主頭の知徳。その額には俺が付けた傷が生々しく残っている。知徳がいうには友情の証だそうだ……。

「ちょっと! ペース早いわよ!」

「ふむ、朝から肉体に負荷をかけるのはあまり好ましくないが……!」

 その後ろからは緑色のボブヘアーと、体中に纏った色とりどりのアクセサリーを揺らしながら走る、き色の瞳を持つ瀬戸。そして、黒色の坊ちゃんがり頭に、漆黒の異名を持つクロブチ眼鏡を手で押さえながら走る田淵。

「おぃおぃっ、朝から熱いねぇーっ、お二人さんっ! 所で君達は知ってるかぁー!!」

 知徳は走るペースを緩めず、俺達の横を通過する。            

「遅刻するゾォォォッ!!」


「だから待てってば金髪!! あっ、恋華、桜学校で!!」

「待つのだ知徳……同志たるもの心の歩調を……」 あっという間に全員俺達の視界からいなくなり、後に残ったのは再び舞い上がった桃色の雨。


「行こっか、シオン!!」

「……おう」

             恋華に手を引かれ、俺は走りだす。空いている左手を出せば舞い落ちてくる桃色の雨。俺はそっと包み込む。

「……所でさ、シオン?」

「ん??」

 走りながら俺に声をかける恋華。どことなくはにかんでいる。

「シオンはさ……初めて会ったときから私を一番に殺したかったんだよね?」

 俺より前を走る恋華の表情を見ることは出来なかったが、その声に違和感はない。また、

「一番」

を強調する所が可笑しかった。

「あぁ…そうだ……」

 別に嘘をつくところじゃない。俺は本心を伝えた。

「……でも、それは―――」


『違ったんだよね』


 俺の言葉を遮り、恋華はその言葉を口にした。


「でも、それが愛情でなくてもいいんだ、別に。…私は……シオン…紫苑が私をどんなことでだって、一番にしてくれたことが嬉しい…」


 恋華は俺と繋がる手に少し力を入れる。



『好きだよ、シオン。……たとえ私の一人よがりでも……この気持ちは譲れない』



「……」

「きゃっ!? どうしたのシオン? 急に止まらないでよ〜!」

 急に足を止めた俺に恋華は転びそうになりながらも姿勢を直す。


「……本当、勝手だよお前」

「えっ?」


 今だから伝えたい気持ち。



『……本当、殺してやりたいよ………好きだ』



「きゃっ!?」

 俺は恋華と繋がる手を自分の方に引くと、恋華を両腕の中に納める。

 ……見つめ合うくろとあおの瞳。


「……」

「……」


 心地よい沈黙の中、俺は先に瞳を閉じた恋華の唇にそっと自分の唇を添える。



 春風が俺達を包み、桃色の雨がそれに吹かれて絡み付く。




 ……だけど、もう俺はその桜の花びらを疎いと思うことはなかった……。




〈終〉












愛してる。

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