第8話 泡
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン3
「沖縄海底遺跡の謎」
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前回までのあらすじ
箱根大学1年の慎吾、同2年のリナ。リナは賭け麻雀で得たお金で、慎吾に沖縄行きの航空チケットをプレゼントする。
沖縄の海で泳いでいた2人だが、天候が急変。陸から遠く離れた場所で漂流してしまう。
突然霧が立ちこめ、慎吾はリナを見失ってしまった。
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第8話 泡
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「……」
しばらくその男から目を話せなかったが……
「リナ先輩!」
背を向けると、先行くリナを追いかけるため霧の中へと泳いでいった。
☆★
「!?」
モーターボートで海上を走っていたその女性は、左手の方角に何かを感じた。ボートを止め、右手に握られている拳大の石をぎゅっと握ると
「……」
目を閉じ、精神を集中する。数秒後、カッと目を見開き、ある方向を凝視した。
「……」
目をこらして遠くを見据えるが、穏やかな波と水平線が見えるだけ。
【いや……】
霊的な何かを感じた。
【あっち……】
再びボートを走らせると、舵を切り【何か】を感じた方向へ向かう。
「!」
突然前方に、霧が立ちこめてきた。どこからともなく現れた霧の雲は、先の視界を遮る。
【この先に……】
何かを確信し、ボートを霧の中へと走らせた……
瞬間
「あ!」
思わず声をあげる。体の中から何かが抜けたような感覚を味わったからだ。慌ててボートを止め、後ろを振り返る。
「……」
視線の先にいる
「お父さん!」
父に声をかける。
「……」
男はじっと視線を合わせた後
【ここから先は1人で行くんだ】
娘にそう告げた。
★☆
「いた!」
慎吾は視界にリナを捉えた。目標に向かって全速力で泳いでいく。
「リナ先輩!」
「……」
声をかけられたリナは立ち泳ぎのまま、ある1点を見つめていた。
「リナ先輩?」
「……」
声は届いている。リナは黙って、前方を指さした。
「?」
慎吾がそこへ視線を移すと
「あ、あれは……」
尋常ではないほど大量の泡が海面を覆い尽くしているのが見えた。
「い、いったい……」
「潜って確かめる」
リナは大きく息を吸い込むと
タプン!
潜っていった。慎吾もすぐに後を追う。
「……」
水の中、大量の細かな気泡が下から上へと流れていく。その気泡群は円柱状に広がり、大きなところでは直径3m近くもある。
さらに深く潜っていくと、泡の円柱はだんだん細くなっていった。10m近く潜ると海底にたどり着き、先ほど見たのと同じ、巨大な切石がある。その石と石の隙間から濁った煙のようなものが噴出していた。
【ね、熱水鉱床だ】
慎吾の言葉はリナの頭の中へ直接届く。
「……」
しかしリナは慎吾の方へ向き、首を横に振った。人差し指を上に向け、1度海面へあがるように指示する。
数秒後、海面上に顔だけ出した2人。
「熱水なんちゃらって、何?」
慎吾に質問しつつ、薄暗くなった周りを見渡した。
「えっと、海底火山の熱による熱水がわき出て、いろんな鉱物が沈殿し……」
「違うわね」
周りに岩場や砂浜が見えない事を確認しつつ、慎吾の言葉を遮る。
「自然の泡が、あんな綺麗に円柱状に広がるとは思えない。
あれは、明らかに人工物によるものよ」
その言葉に、驚きの表情を浮かべる慎吾。
「ま、まさか。こんな海のど真ん中に人工物があるなんて」
「あのでっかい石だって、人の手が加わってるぽいじゃん!
賭けてもいい。あの泡の出てくる所に、何か人工物がある。
慎吾、光の剣で泡の出てくる所を突き刺して」
「え?」
反射的にパワーストーンを握りしめる。慎吾は自らの持つ霊能力を、パワーストーンを通じて増幅し、イメージした物を具現化する事ができる。過去、幾多の霊能バトルで多用してきたのが光の剣である。
「し、しかし……」
この海の底に人工物があるなど、とても考えられなかった。
「あと10分もすれば、完全に日は落ちる。
このまま何もしなければ、助かる道は絶対ない。体力奪われて溺れ死ぬだけよ」
「……」
リナの言う通りだ。
「もし何か使える物があれば、助かる道具になるかもしれない。
あわよくばボートなんかあれば最高だけどね。
とにかく今は生きるために動かないと!」
リナの説得に頷いた慎吾。
「わ、わかりました」
右手に握ったパワーストーンを強く握りしめ
【丹田に氣を集中し……】
※ 丹田 = ヘソの下あたり。気力が集まり、体全体に伝わる波動の流れが集中する場所とされる
「唵!」
かけ声を発する。同時に、パワーストーンから光の剣が現れた。
「……」
1.5mはあろうかという光の剣。過去、何度もそれを見てきたリナだが
【立派な剣になっているような……】
見るたびに、その印象が変わっている。
「うん」
自分の出現させた光の剣を見て、慎吾は頷いた。
「よ、よし。じゃぁ、頼むわよ!」
言うが早いか、リナは慎吾より先に再び海底を目指し潜っていく。
「……」
先ほどある人物と目を合わせた場所を見た慎吾は
タプン
リナの後を追った。ウミヘビのように体をくねらせ、一気に潜っていく。
「……」
すぐリナに追いついた慎吾。リナが海底の1カ所を指さしているのを確認した。
【あそこへ突き刺せって事ですね?】
リナは1度だけ深く頷いた。
気泡が集中して出てくるところを見つめた慎吾。
「……」
ウミヘビのように目標地点まで急速に潜っていくと
【唵!】
狙った箇所へ、思い切り光の剣を突き刺した。
「!?」
予想していた反発は全くない。まるで発泡スチロールを貫いたかのような感覚だ。
「……」
右手に握られている光の剣が、海底深く刺さっている。
【唵!】
慎吾はさらに力を入れ、深く押し刺した。
ベコン
瞬間、刺したところを中心に、深さ・直径ともに1m程の大きなくぼみができる。
【な、なんだ!?】
光の剣はさらに奥へ突き刺せそうだ。
「……」
慎吾がリナの方を見ると
「……」
再び深くうなずいた。合図を受け取った慎吾は、1度剣を抜き出す。
「……」
意識を集中し
【唵!】
パワーストーンにさらなる霊能力を送り込む。
「……」
リナは2m近くに伸びた光の剣を見て、目を丸くした。
「……」
再度目標を見定めた慎吾は
【唵!】
力の限り光の剣を突き刺した。瞬間
【わ!】
海底に大きな穴があき、押し込んだ力そのまま、慎吾は吸い込まれていく。
【な!?】
慎吾より高い位置にいたリナもまた、その穴へ吸い込まれそうになる。
【く!】
しかし吸い込まれるより早く、リナは慎吾の元へと泳いでいった。
【慎吾!】
開いた穴に頭から吸い込まれていく慎吾。リナはその左足を右手で捕まえる。
【や、やば……】
自由のきかない海中では、吸い込まれる力に抗う事もできず、そのまま2人は穴へと吸い込まれていった。
(第9話へ続く)
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次回予告
海底のさらに奥へと吸い込まれた2人は、とある空間へとたどり着いた。360度、ドーム状の岩壁に囲まれた場所。
閉じこめられた2人を、さらなるピンチが襲う!
次回 「 第9話 閉ざされし場所 」
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