第7話 霧
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン3
「沖縄海底遺跡の謎」
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前回までのあらすじ
箱根大学1年の慎吾、同2年のリナ。リナは賭け麻雀で得たお金で、慎吾に沖縄行きの航空チケットをプレゼントする。
沖縄の海で泳いでいた2人だが、天候が急変。陸から遠く離れた小さな岩場に漂流してしまった。
何か手がかりを得ようと、岩場の近くを泳いでみたが……
2人は、その岩場をも見失ってしまった。
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第7話 霧
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2月15日、金曜日。午後6時半。
「……」
「……」
いくら辺りを見渡しても、はてしなく続く海面ばかり。島はおろか、船や飛行機も全く見えない。
「リ、リナ先輩」
泣きそうな声を出す慎吾。
「く……」
今はまだ立ち泳ぎで、しのいでいるが
【この姿勢でいつまで持つか……】
体力が切れた時は
【死ぬしかない】
リナはそう感じていた。
すでに太陽は3分の1が沈んでいる。周りは薄暗く、太陽以外の光源がない海の真ん中、あと10分もすれば漆黒の闇に包まれるだろう。
「慎吾、パワーストーン持ってる?」
「は、はい」
ハーフパンツのままずっと泳いでいた慎吾は、ポケットから拳大の石を取り出す。
「光の剣を出して。出来るだけ強い光で辺りを照らして」
「あ、えっと」
「何?」
「光を出せばいいんですよね?」
「そう言ったじゃない!」
「あ、いえ。剣を出す必要がない事を確認したかったんです」
「? あんた、剣を出さずに光だけ出せるの?」
過去、慎吾がそのようにしたのを見たことがない。
「はい」
慎吾は自身の持つ霊能力を
「唵!」
かけ声と共に、パワーストーンへ送り込んだ。同時にパワーストーンが光り始める。
「……」
その様子を見ていたリナは
【なんか見るたびに、レベルアップしてるわね】
慎吾の霊能力者としての成長を感じていた。
シュオオ……
慎吾の霊能力がパワーストーンを介し、彼のイメージした光が具現化して現れる。
「唵!」
さらに一声かけると、強烈な光が四方八方に広がり、辺りに光の矢を突き刺した。
手を高く挙げ、周りを照らすが……
「……」
見えるのは、静かに波打つ海面だけだ。いや……
「リ、リナ先輩」
「な、何よ」
「……」
慎吾は無言で、真下を見た。
「?」
リナも水中にある自分の足下へと視線を移す。
「な、何?」
信じられない光景が目に飛び込んできた。
「う、海の中に……」
揺らめく物体が見える。直方体のような物体が4つ、縦横に綺麗に並んでいるように見える。
「……」
「……」
一瞬目を合わせた2人は、同時に大きく息を吸い込み……
ザブン!!
そして同時に潜っていった。
「……」
直後、リナは赤メガネの縁を抑える。簡易海水メガネを通じて、海底にあるそれを見つめた。
慎吾は水中眼鏡などつけてないものの、海中で目を見開いている。
5mほど潜ると海底にたどり着く。そこには縦約10m、横と高さが約5mの大きな切石が2つずつ、計4つ並べられていた。その4つの切石の先には
【い、石畳だ……】
大小のいびつな石達が隙間なく並べられ、扇状に広がっている。
「……」
リナの声は慎吾に届かないが
【か、海底遺跡?】
慎吾の声は、その霊能力を通じてリナに届いていた。
【リ、リナ先輩!?】
突然リナは上に向けて泳ぎだす。
「ぷはっ!」
海底の切石に見とれ、息継ぎするのを忘れていた。
「はぁ、はぁ……」
「だ、大丈夫ですか? リナ先輩」
「はぁ、はぁ。酸素さえあればね。
あんた……、息継ぎしなくても平気なの?」
「4~5分ぐらいなら」
「……。絶対スポーツ出来なさそうなのに。
泳ぎや潜水は得意ってワケ?」
「ま、まぁ、沖縄人ですから」
「ふ~ん……」
言いながら周りを見渡す。すでに太陽は半分以上水平線の下へ沈んでいた。
「……」
不意に眉をひそめる。
「どうしました?」
「なんか……
景色、違わない?」
「え?」
言われて周りを見渡す慎吾。見えるのは海と空と水平線、そして沈みかけている太陽だけだ。
「……」
変わらぬ風景のハズだが、確かに違和感を感じる。
「あっち……」
不意にリナが太陽を背にして泳ぎだした。
「リ、リナ先輩?」
慌てて後を追いかけるが
「……」
何かに吸い込まれるように、リナは泳ぎ続ける。
「リ、リナ先輩!」
後ろから声をかけられるが、返事もせずひたすら前へ進んだ。
「リ……」
慎吾が再び声をかけようとした時
「え?」
突然、霧が立ちこめてきた。
「ど、どこから霧が?」
そう思った時、すでに辺りは数m先も見えない程霧が充満している。そして先ゆくリナの姿が霧の中へ消えていった。
「リナ先輩!」
見失わないよう、慌てて慎吾も深い霧の中へと向かう。しかし
「!?」
数m泳いだところで、突然体から何かが抜け出たような感覚におそわれた。
「……」
前方にリナの泳ぐ音を聞きながら
「……」
立ち泳ぎのまま、おそるおそる後ろを振り返る。
「……」
そして、その人物と目が合った。
「……」
海面に浮かぶその男は、慎吾がよく知る人物だった。
(第8話へ続く)
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次回予告
大量の泡がわき出る場所を見つけたリナ。
慎吾と共に泡の吹き出る海中を調べた。海底を調べた慎吾は熱水鉱床だと主張するが、リナは人工物が海底にあると言う。
次回 「 第8話 泡 」
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