第5話 スコール
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン3
「沖縄海底遺跡の謎」
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前回までのあらすじ
箱根大学1年の慎吾、同2年のリナ。
リナは賭け麻雀で得たお金で、慎吾に沖縄行きの航空チケットをプレゼントする。
沖縄へ到着した2人。慎吾はリナを斎場御嶽に案内。
神の降り立つ場所といわれる斎場御嶽で、リナに霊感がやどったかもしれないと、慎吾は思い始める。
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第5話 スコール
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2月15日、金曜日。午後4時。
斎場御嶽を背にし、細い道を下っていた時だった。
「待って下さい、リナ先輩!」
先ゆくリナに声をかける慎吾。
「え? 何?」
リナが振り返ると
「……」
慎吾は自分の足下をじっと見ている。
「何? どったの?」
「……」
しばらくの沈黙の後
「地震です」
そう呟いた。
「え?」
リナも自分の足下を見るが
「……」
何も感じない。いや
ゴゴゴゴゴ……
地面が小さく揺れているのがわかった。
「わ、わ!」
思わず両手で慎吾の肩を握りしめる。
ゴゴゴゴゴ……
「ちょ、ちょっと……」
揺れはさらに大きくなっていく。
「……」
慎吾は冷静に周りの状況を見ていた。斎場御嶽に出入りする人達もその場で立ち止まり、不安そうに周りを見渡している。
★☆
2分後。
「もう、大丈夫みたいです」
慎吾が声をかけた。
「ま、まだ揺れてるわよ」
リナの手を通じて、慎吾の肩が揺れる。
「……」
リナの不安そうな表情を確認した後
「リナ先輩の手が揺れてるだけですよ」
ニコッと笑って見せた。
「そ、そう?」
不安そうに慎吾の肩から手を放す。
「や、やっぱりまだ揺れているような気がするんだけど?」
「いえ。揺れはもう、完全に収まっています。
ほら、周りの人たちも普通に歩き出してますし」
言いながら、リナの足が震えているのに気づいた。
「……」
胸に手を当て、深呼吸するリナ。
「ふ~。沖縄でも、こんな大きな地震あるのね。
震度3か4ぐらいかしら?
ちょっと、いや、かなりびっくりした」
「ここ数年、沖縄でも大きな地震は多いですよ。
僕はこの1年、大学で沖縄を離れていましたが……
今年入ってからも、震度3~4クラスの地震は何度かあったようです」
「マジ? 沖縄って年がら年中平穏ってイメージなのに」
「まぁ自然ばかりは……
僕達人間の理解がおよぶところではありませんから」
ふと慎吾は海へ視線を移す。
「海へ行こうと思っていたのに……
津波とか、大丈夫かな?」
「待って」
リナは背負っていたリュックからノートパソコンを取り出した。リナにとってノートパソコンは体の一部。常に肌身離さず持ち歩いている。
素早くそれを起動させると、ネットブラウザを開いた。
「……」
高速でキーボードを打つと
「大丈夫、津波の心配はないって」
そう声をかけた。
「そんなにすぐわかるもんなんですか?」
「百聞は一見にしかず」
PCのディスプレイを慎吾に見せる。
「……。
でも、念のため海へは近付くなと警告文が出てますけど?」
「大丈夫、大丈夫! さ、行くわよ!」
先ほどの地震の恐怖はいつの間にか消え、心はすでに海へと向いていた。
★☆
午後4時半。
「へ~。あんたんち泊まるの、大正解だわ。
やっぱ、昨日からツキまくってるわね、私」
慎吾の家から、斎場御嶽とは反対側へ歩いて5分。2人は裏道の木々を通り抜けて、白い砂浜へと辿り着いていた。
「徒歩5分でビーチって……
年中、泳ぎほうだいじゃん! うらやましい!」
「そ、そうですか?」
一度自宅に戻り、Tシャツにハーフパンツ姿で現れた慎吾。
「うらやましいわよ!
2月にそんなカッコできるなんて、やっぱ沖縄すごいわ」
その出で立ちを見て、今一度温暖な気候を感じる。
左右どこまでも広がる砂浜。時期的なせいもあるのか、訪れている人はまばら。慎吾とリナ以外、4人の家族連れが1組、カップルが2組でいずれも波打ち際で戯れている。
「とにかく沖縄滞在中は、朝でも夜でも泳げるって事ね!」
言うとリナは、着けていたTシャツを脱ぎ出す。
「ちょ! リナ先輩!」
思わず視線をそらす慎吾。リナはお構いなしに、ジーンズも脱ぎだした。
「何、あせってんの。こんなトコで素っ裸になるわけ、ないっしょ!
ほら、昨日買った水着、ちゃんと着けてるから!」
ビキニ姿をアピールしようとするが、慎吾は完全に背中を向けている。
水色・白色・薄緑色のストライプデザイン。生地面積は多すぎず少なすぎずで、リナの美しいボディラインを完璧に表現している。
「さて……」
右手で拳を作ると
「沖縄の海、いざ、デビュー!」
それを高々とあげて海へ走り出した。
「……」
リナが走り出して1分。おそるおそる海の方へ視線を向ける慎吾は
「すご……」
思わず声が出た。視線の先、リナが勢いよく泳いでいる。クロールで泳いでいたかと思うと、バタフライで泳いだりと、まるで競泳選手のようだ。
ましてや泳いでいるのはたった1人。あまりにも豪快な泳ぎに、浜辺にいる家族やカップルもリナに注目しては、笑いを見せている。
【トライアスロンの選手と思われてるかも……】
水着姿でなく、その男らしい泳ぎに見とれ続ける慎吾。リナの姿はすでに50mも先にある。
「慎吾-! 泳がないのーー?」
遠くからリナの声がはっきりと聞こえた。
「あ、え……」
しどろもどろしているであろう慎吾に
「ひょっとしてあんた、泳げないの!?」
大声で呼びかける。はたから見れば、彼氏を誘う彼女。数少ない浜辺の人たちの視線は慎吾へと移った。
「……」
その視線に耐えきれなくなった慎吾は、Tシャツ・ハーフパンツ姿のままゆっくりと海へと入っていく。
そのまま平泳ぎで、リナのいる沖へと向かった。ゆっくりと、ゆっくりと。
やがてリナの近くまで泳いできた慎吾は
「なんで水着を用意してないのよ?」
冷ややかな視線を受ける。
「え、あ……」
立ち泳ぎのまま
「沖縄の人は、水着をつける習慣がないんですよ」
そう答えた。
「何の冗談だか……」
リナは背泳ぎしながらさらに沖へと泳ぎ出す。
「ホ、ホントですって」
平泳ぎで後を追う慎吾。
ふと
「あら?」
頬に海水ではない水滴を感じたリナ。
「雨?」
ポツリポツリと感じた頬の感触は
「いた!」
痛みに変わる。あっという間に、ザーザーと大降りの雨となり、海面は雨粒を跳ね返す滴で満たされた。
浜辺にいた人々は慌てて、木々の元へと走っていく。しかし陸から50m以上離れた海にいるリナと慎吾は、雨に打たれるしかない。
「すぐに止むと思います」
沖縄ではよくある通り雨だろうと思っていたが
「風も強くなってきたじゃん。スコールってやつ?
まさかゲリラ豪雨とかいうヤツじゃないわよね?」
気がつくと、波がうねりをともなって高くなっている。
「な、なんかヤバくない?」
空を見上げると暗雲が立ちこめ、さすがのリナも不安を感じてきた。
「で、ですね……」
慎吾と目を合わせると
「戻るわよ!」
「は、はい!」
慌てて陸へ向け泳ぎだす。
「く……」
横から押し寄せる波のせいで真っ直ぐ進めないリナ。
「この……」
水泳は得意と自負しているが、横波にあらがうことが出来ず、陸から遠ざってしまう。
「……」
物静かに泳ぐ慎吾。見た目とは裏腹に的確に波をかきわけ、陸に近付いていく。だが
「リナ先輩!」
波に流されていくリナに気づくと、すぐに追いかけていった。
ビカッ! ガンガラガッシャーン!
遠くの沖で雷が落ちる。
「な……」
雷の落ちた方へ視線を移すと
ゴゴゴゴ……
間髪入れず、地鳴りが聞こえてきた。
「な、何? どうなってんのよ、もう……」
不安がピークに達するリナに
「リ、リナ先輩、あれ!」
追いついた慎吾が驚きの声をかける。
「!?」
視線の先、水平線が盛り上がるように迫ってきた。いや
「ま、まさか……」
3mほどの大波が迫ってくる。
「ま、まさかでしょ!」
リナもそれに気づいた。
「津波!?」
思わず声を上げる慎吾。
「違う! ただの高波! で、でも……」
大波が近付いてくると、壁にしか見えない。
「も、潜るわよ!」
「はい!」
リナのかけ声と共に、2人は大きく空気を吸い込み海面の下へ潜り込んだ。
「……」
「……」
水面下だが強力な水圧に押され、どこかへ吸い込まれるように流されていく。
「……」
慎吾はポケットに入れていた拳大の石・パワーストーンをしっかりと右手で握りしめた。
【リナ先輩……】
体を蛇のようにしならせ、おぼれかけているリナに近づいていく。
「ぐく……」
トレードマークの赤い眼鏡をおさえ、流されるままのリナ。
【お、沖縄の海って……】
意識がとびかけた瞬間
「……」
冷たい海中で、右手に温かさを感じる。
【リナ先輩! しっかり!】
海中なれど、慎吾の声がハッキリと頭の中に響いた。
【し……】
慎吾はその霊能力で、喋らずともリナに声を届ける事が出来る。だが
「……」
リナは返事することなく
「リナ先輩!」
「……」
そのまま海中で意識を失った。
(第6話へ続く)
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次回予告
リナが意識を取り戻すと、海の真ん中にある岩場の上にいた。
もうすぐ日が暮れる状況、2人は絶体絶命の状況へ追い込まれる。
次回 「 第6話 漂 流 」
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