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第3話  慎吾の両親

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 慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン3


      「沖縄海底遺跡の謎」 


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前回までのあらすじ


箱根大学1年の慎吾、同2年のリナ。


リナは賭け麻雀で得たお金で、慎吾に沖縄行きの航空チケットをプレゼントする。


飛行中、慎吾は機内で違和感を感じるのだが……


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      第3話  慎吾の両親  


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2月15日、金曜日。午後1時。


那覇空港。




「へ~、思ってたより広い空港だわ」


機内で爆睡したおかげで、非常に体が軽いリナ。大きめの赤いリュックを背負いながら、空港内を闊歩する。


その後ろをついていく慎吾。リナのそれよりは小さめの青いリュックを背負い、大きなキャリーケースを引っ張っていた。


「……」


何かを探すように、周りへ視線を突き刺している。


「何、キョロキョロしてんの。誰かお探し?」


「あ、いえ……」


飛行機の中で感じた違和感の正体を突き止めたかったが


「何でもないです」


今は何も感じない。


「てか、何よ、そのでっかいケース。

 あんた、実家に戻るだけでしょ?


 男のくせに、何でそんな大荷物なわけ?」


赤メガネの奥から、ぎっしり中身が詰まっていそうなそれに視線を突き刺す。


「えっと、この中は全部本なんです。

 箱根に置いて行こうと思ったんですが……。つい」


照れくさそうに笑う慎吾を見て


  【あんたさぁ。実家に戻った時にも本を読みまくってるの?】


言いかけた言葉をのみ込んだ。


「あっと! 忘れてた!」


突然リナは立ち止まり、リュックの中からノートパソコンを取り出す。


「どうかしました?」


「うん。ちょっと……」


言いながらPCを起動させる。


「今日、泊まるトコ、抑えるの忘れてた。

 えっと……


 沖縄の県庁所在地って、沖縄市だっけ?」


「まさか」


小さく笑ってみせる慎吾。


「……」


ネットブラウザを起ち上げたリナは


「で?」


慎吾の顔を覗き込む。


「え?」


首をかしげる慎吾。


「だから沖縄の県庁所在地よ。1番の繁華街でしょ?」


「……」


眉をひそめる慎吾は


「まさか、本気で聞いてます?」


確認した。


「豆鉄砲くらった顔しないでよ。私はいつだって本気よ。

 だいたいさ。県名と県庁所在地の地名が違ってたら……


 地元の人以外、絶対どこに県庁あるかわかんないって」


  【いや、そんな事は……】


反論したい言葉を飲み込み


「……。那覇市です」


そう答えた。と、同時に


「あ~!」


リナは明るい表情になった。


「聞いた事ある! OKOK。

 じゃぁ、那覇市内のホテル抑えるわ。


 那覇ってさ、この空港からどれぐらいで行ける?」


「……。ここ、那覇空港ですよ」


「え? じゃぁ、すでに那覇にいるんだ!

 ここが沖縄の中心地!?」


「あ、いや。空港の周りは特に繁華街というわけでは……

 ゆいレールで新都心辺りに行けば、ホテルなんかもたくさんありますけど……」


「新都心ね! よっし!」


リナはキーボードを高速で叩き始めたが


「あの、リナ先輩。よかったらですが……」


慎吾がさえぎる。


「ウチに泊まりませんか?」


その言葉を聞いて、リナの指がピタリと止まった。


「今、なんつった?」


「いや、だからウチに泊まらないかと。

 沖縄の道って、斜めに入り組んでいたり、奥まで細く続くところが多いですから……


 土地勘ないとすぐ迷子になります。

 僕のウチなら、ずっと案内できますし」


「……」


しばらくの沈黙の後


「私を誘ってる?」


「はい。ウチの2階は全く使ってないですし」


くりっとした目を真っ直ぐにリナの方へ向ける。


「……」


普段と変わらぬ慎吾の表情を見て


  【話が通じてない……】


小さなため息をついた。


「いやよ。あんたの親に何て言うのよ。

 慎吾君の彼女です。泊めて下さいとでも言うの?」


「ウチは今、誰もいないですから、大丈夫ですよ」


「余計大丈夫じゃないっつーの!

 は? 息子が帰省しているのに、親不在?」


「まぁ、今回の帰省も急でしたし。

 それにウチの母親、今、パキスタンにいるんです」


「は?」


予想外の単語が出てきて、今度はリナが豆鉄砲をくらった表情を受かべる。


「パ、パキスタン!? え? アメリカにいるの?」


箱根にいる時はわからなかったが


「……。インドの近くですよ。サッカルという都市に長期滞在中で……」


どうやらリナは地理関係が大の苦手らしい。


「インド? な、何でそんなトコ……」


「モヘンジョダロの発掘チームにたずさわっていて……」


「ちょ、ちょっと。あのさ……

 正直、言ってる事、ぜんっぜん頭に入ってこないんだけど」


「モヘンジョダロですよ。インダス文明の。

 世界4大文明で有名な……


 ホントは色々な大文明があって、4大と言うには語弊がありますが」


「くわしく説明されれればされるほど……

 余計、頭に入ってこない……」


「えっと。僕の母は考古学者なんです。

 パキスタンに、モヘンジョダロという遺跡がありまして……


 何10年も調査が続いてますが、まだまだ発掘が進んでない所が多いんです。

 母はその発掘チームに加わってるんですよ」


慎吾としては、かなりわかりやすい説明をしたつもりだが


「……」


リナの頭にはやはり何も入ってこないようだ。


  【慎吾のお母さん、考古学者なんだ】


その事だけは理解した。


「放っておくと風化が進んで、数年で消えてしまう遺跡なんです。

 ウチの母親、3年前申請が通って……


 数少ない発掘チームの一員として選ばれたんですよ。

 正直、うらやましいな~なんて」


小さく笑う慎吾。


「ふ、ふ~ん。とりあえずあんたの親は……

 遠い外国の地で、忙しくしてるってワケね」


「えぇ。沖縄に戻ってくるのは、盆と正月ぐらいですし」


「……」


慎吾と出会ってもうすぐ1年だが、彼の家族の事を全く知らない。


「お父さんは?」


「え? あ……」


慎吾はリナから視線をハズした。


「その。僕が小さい頃に……」


下を向いて口をモゴモゴさせる。


「……」


その様子を見ていたリナは


  【亡くなった? あるいは離婚したかね】


そう理解した。


「あー、話さなくていいから。別に興味ないしさ。

 つまり今は家に誰もいないから、女の子を泊めようってハラね?


 そういうのって、下心のある男の手口よ」


それを聞いて


「あ! いやいやいや! 僕はそんなつもりじゃないです!」


慌てて両手を横に振る。


「……」


「僕がリナ先輩を誘うとか、そんなのあるわけないじゃないですか!

 ただリナ先輩が困らないようにと思って……


 ホントに下心とかコレっぽちも、微塵も、全くもってありません!」


必死に否定する。


「……」


慎吾の必死さは


  【そこまで全身全霊で否定されても……】


リナを複雑な気持ちにさせる。


「何かしらムカつくけど……

 OK。まぁ探す手間も省けるし、ホテル代も浮く。


 私、方向音痴だし、ナビゲーターいる方が安心して動けるわ」


「じゃ、じゃぁ」


「世話になるわ。で? どこなの? 那覇市よね?」


「いえ。でも近いですよ。南城なんじょう市って所です」


「なんじょう……し?」



★☆


「ここ?」


2階建ての白い建物を目の前にしたリナが呟いた。


「はい。今、開けますので」


ガラガラとキャリーケースをひきながら、茶色の玄関に向かう。


「しっかし……。2月ってーのに、日差しが強いわね。

 まぁ、それが沖縄なんだろうけど」


右手を団扇うちわ代わりに仰いで、辺りを見やった。


「……」


周りを草木に囲まれた一軒家。この家に続く道は1本しかない。


タクシーを降り、50mほど細道を登っていくように歩いて辿り着いた。その道程に他の建物は無かった。


「ただいま~」


住人はいないハズなのに、挨拶する慎吾。


「……」


その後ろに続いて中に入ろうとしたリナだが、玄関前で思わず立ち止まる。


「何、コレ?」


玄関の両側から、こちらをじっと見つめる2つの何かがいた。


「シーサーですよ。沖縄では一般的な魔除けのヤチムン……置物ですね」


※ヤチムン = 焼き物


小さな猫ぐらいの大きさ、獅子のような肢体を持ち、ギョロっとした目でこちらを見つめる2匹。顔は横に広く、たくましい剛毛をたずさえ、凛々(りり)しい表情を見せている。


「口が開いている方はめすで、福を招き入れると言われています。

 閉じている方はおす。災難を家の外でシャットアウトしてくれます」


「ふ~ん……」

 

人間なら間違いなく、濃い顔に入るであろうシーサーを見て


  【ぶっさいく】


そんな事を思いながら、玄関をくぐった。


2階へ案内されたリナ。


  【けっこう広いわね。こんな広い家に、母子2人で住んでるの?】


家のあちこちに視線を突き刺しながら慎吾の後をついていく。家の中はシンプルな和風デザインで、余計な物は見あたらない。


「ここ、客室ですから自由に使って下さい」


ふすま?」


1階もそうだったが、2階にもドアのようなものはなく、全てふすまで部屋が仕切られていた。


部屋に入ると


「わ。思ってたより広い……」


12畳の畳間たたみま


  【この家、全部和室かしら?】


部屋の奥はカーテンではなく、障子戸が見える。


「トイレは2階にもあります。

 風呂は1階で共用になりますが……」


「OK。それで十分よ」


背負っていたリュックをひょいと放り投げると、部屋の奥へと歩を進めた。勢いよく障子戸を開けた瞬間


「わ!」


テンションの上がる光景が飛び込んできた。


「何!? 海よね? なんでこんな青いの!?」


慎吾の家は、ちょうど小高い丘の上にある。タクシーを降りた時には見えなかったが、この家の2階からは200m程向こうに海が広々と見えた。


「うわ~。沖縄の海が青いって本当だったんだ!

 思ってたより水平線が高い位置にあるのね。


 それにしても……

 海も空も水平線も、全てキレイだわ」


しばらく眼下の光景に見入るリナ。


「ちょっと休んで、海に行ってみますか?」


「いや!」


即答するリナと


「え、あ……」


言葉に詰まる慎吾。


「ちょっと休むなんてイヤ! 時間がもったいない。

 今行くわよ、今!」


言いながらリナは再びリュックを背負った。


「この気温なら、全然泳げる! 今年初泳ぎは、オキナワンシー!」


テンションあがりまくりのリナとは対照的に


「え、あ……」


それについていけない慎吾。


「レッツゴー、トゥザシー!」




★☆


「……」


玄関前で、2体のシーサーと視線を合わせるリナ。


  【よく見ると、可愛いわね。ブサ可愛いってヤツ?】


「お待たせしました、リナ先輩」


ようやく外に出てきた慎吾。


「遅い! まぁいいわ。早く海まで案内して!」


「……」


「何? 黙ってどうしたの?」


「あ、もしよかったらですね。

 海に行く前に、行きたい所があるんですが」


慎吾はとある方向を指さした。


「……」


そこへ視線を移すリナ。


海とは反対側。丘を下って、また登った先。1km程先だろうか。木々が生いしげっているようだが、慎吾が指さしている正確な場所まではわからない。


「何? 何があるの?」


慎吾はニコッと笑った。


「神が降り立つ場所です」


「は?」



     (第4話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


神の降り立つ場所【斎場御嶽せーふぁうたき】へやってきた2人。


慎吾が言うには強力なパワースポットだという。


歩いている途中、クモの巣がひっかかったというリナを見て、慎吾は驚きの表情を見せた。


次回 「 第4話   斎場御嶽せーふぁうたき 」

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