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第2話  バイト代

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン3


      「沖縄海底遺跡の謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


箱根大学1年の慎吾、同2年のリナは沖縄行きの飛行機の中にいた。


機体が揺れ、不安がるリナに、慎吾は「平家物語」を読み聞かせる。

いつしかリナは深い眠りについていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


      第2話  バイト代  


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2月15日、金曜日。



全日空129便、東京(羽田)発、沖縄(那覇)行き。上空1万2500m。


「……」


静かに文庫本を読んでいる慎吾。


  ガコン!!


「!?」


突然、機体が数mほど落下した。


「きゃー!」


「わー!」


あまりにも大きな落下だったので


ザワザワ……


乗客がざわつき始め、機内に不安な空気が広まる。


  【今のは少し驚いたな】


落とした文庫本を拾いあげながら、天井を見上げると


ガタガタガタ……


機体が小刻みに振動していた。


「……」


さすがの慎吾も少しばかり不安を感じる。


ピンポーン……


「え~、機長の長沢です。

 当機は、気流の悪い所を飛行中で……」


乗客の不安を察してか、機内アナウンスが流れ始めた。


「ふ~」


深呼吸して、思い出したように横へ視線を移すと


「zzz……」


リナが気持ちよさそうに寝ている。


「……」


何の不安さも感じないその寝顔を見て、慎吾はにニコリと笑った。


機体の揺れは収まらないが、リナの寝姿は不安をかき消してくれる。


「……」


落ち着きを取り戻した慎吾は、機体の揺れを気にせず、再び文庫本を読み始めた。



★☆


前日。


箱根大学、パソコン室。



大学に数カ所設置されているパソコン室の1つ。1番奥、窓際。リナは指定席のその場所で、毎日のようにPCをいじっている。


何かのプログラミングをうっている事も多いが


「ロン! よっしゃ! オーラスハネ満、逆転トップ!」


裏サイトの賭け麻雀をしている姿もよく見かける。


「リナ先輩……」


横から声をかけてきたのは


「お! 慎吾」


A4のレポート用紙を数枚手にした後輩だ。


「最後のレポート、出来ましたよ」


その言葉に、リナは笑顔になる。


「ナイスタイミング! これで今年度の課題は全てクリアね」


在籍学部に関係無く、箱根大学の学生は教養科目の単位を取得しなければならない。ほとんどの学生は1・2年生のうちで教養科目の単位を取得し、3年生以降は自分の専門教科に集中するのが一般的だ。


しかし工学部のリナは教養の文系科目が苦手で、どうしてもレポートも書けないでいた。そんな時出会ったのが、1つ年下の慎吾である。


歴史・文学を学ぶ史学部所属でレポートを書くのが大好きという変わり者の男。リナは彼を利用し、自分のレポートも書かせている。


「締め切り、今日の午後5時までですから。忘れずに提出してくださいよ」


慎吾はレポート用紙を、リナのPC筐体の上に置いた。


「OK。今日の朝一で今年度最後の授業も終わったし。

 これさえ出せば、春休み突入!」


笑顔のままレポートを手にとる。


「しかし夏休みも2ヶ月ぐらいあったのに……

 春休みも長いんですね、大学って所は」


「慎吾は1年生だから、初めての春休みね。大学はそういうもんよ」


「新学期の授業も4月10日からだし……

 なんか休みが多いと、かえって不安になりませんか?」


「なるわけないっしょ。休み多くて不安感じるのはあんただけ」


「そ、そうですかね?」


「断言する! でも大学生ってステキな身分よね~」


「休みが多いから?」


「そそ。例えばさ。家に引きこもっててさ……

 誰かに【毎日、家にこもって。少しは……】と文句言われたとするわよ。


 【大学は春休みなんで】と返せば……

 【大学行ってるの? 偉いわね~】って言われるの。それが大学生ってものよ」


「はぁ……」


気のない返事をする慎吾。


一般に2月25日は国公立大学の前期入試試験日であり、その前後も私立大学入試や各大学で後期日程の入試試験が予定されている。大学入試といえば受験生だけでなく、大学側にとっても一大イベント。ほとんどの大学は2月の上旬までに通常授業を終了させ、入試試験に向けて準備を始める。学生にとって春休み・夏休みを含め、年間20週以上の休みがある事も珍しくはないのだ。


リナの使用しているPC画面を見ながら


「稼げました?」


慎吾が尋ねた。


「今日は最高! 4戦全てTOP!」


「よかったですね」


小さな笑顔を見せる慎吾は、リナが裏サイトの賭け麻雀で生活費や学費を稼いでいるのを知っている。


「今月すっごい稼いだからさ。

 レポートのお礼に、いいものあげる」


「え?」


目を丸くする慎吾をよそに、リナはPCのキーボードをカタカタと高速で叩き始めた。


「……」


その様子を黙って見守る。


「よし!」


声と同時にキーボードを叩く手を止めたリナは、慎吾の方を振り返りニコッと笑う。


「……」


あまりにも無邪気な笑顔にドキッとする慎吾。


「今、沖縄行きの航空チケット取ったから。私のおごりよ!

 この1年間、レポート書いてくれたバイト代ね」


リナはトレードマークのポニーテールを揺らし、赤メガネをキラリンと光らせた。


「え? は?」


目を丸くする慎吾は沖縄出身。


「ほら。まだ帰省する日程、決めてないって言ってたっしょ?

 帰りのチケット代、私が出してあげるっつーわけ」


言いながらPCの電源を落とす。


「出発は明日朝10時半。

 航空券は羽田で直接受け取る事になってるから。


 遅れちゃダメよと言いたいけど、慎吾は遅刻しないから大丈夫よね」


「え? え?」


「さ! 私は今からレポート出して……

 水着、買いに行こう!


 てかこの時期、売ってるかしら?」


「……」


しばらく頭の中の整理がつかない慎吾は


「あ、あの……」


席を立とうとしたリナにようやく声をかける。


「僕は明日、沖縄に帰るんですか?」


リナは手にしたレポート用紙で、慎吾の頭をポンと軽く叩いた。


「会話の流れからわかるでしょ」


「そ、そうですが……」


「タダで沖縄行けるのよ!

 私みたいな気前のいい、可愛い、気の利く、えっとそれから……


 まぁ、そんなステキな女友達を持った事に感謝する事ね」


「えっと……。はい」


慎吾は小さくうなずいたが、イマイチ状況を飲み込めていない。


「よろしい。それじゃ私はレポート出して、水着を買いに行ってくる!

 沖縄って年中泳げるのよね? 今の時期でもさ」


「えっと……。

 気温20度超える日も多いので、そういう日なら大丈夫かと」


「2月に気温20度!? わお!

 ワンピじゃなくって、ビキニいけそうね!」


リナは笑顔でパソコン室の出口に向けて歩き出した。


「リナ先輩!」


思わず大声をかける。


「何?」


「えっと……」


まだ頭の整理がつかないが、どうしても確認しておきたい事を聞いた。


「リナ先輩も沖縄へ?」


リナは背中を向けたまま答える。


「だーかーら! 会話の流れからわかるっしょ?

 あんた史学部なんだし、作者の意図をなんちゃらってヤツ、得意じゃないの?」


「え、あ……」


「じゃ、そゆ事で。明日の沖縄、楽しみにしてるからね。

 いろいろ案内してよね~」


レポートを握る右手を挙げ、左右に振りながら部屋を出て行った。


「……」


口を半開きにしたまま、呆然と立ち尽くす慎吾は


「僕が…… 

 リナ先輩と沖縄へ?」


ここ5分で起きた事を理解するのに、かなりの時間を要した。



★☆


「zzz……」


隣で眠るリナ越しに、窓の外を見た。


  【あと30分ぐらいかな】


雲海の隙間から青い海が見える。あれほど揺れていた機体も安定し、当初あんなに不安がっていたリナも目覚める気配はない。


しかし……


「!?」


突然、何かを感じた。


「……」


あわてて周りを見渡す。


「……」


機内は揺れもなく、いたって静か。時折乗客の談笑が聞こえる程度だ。


  【何だろう、この違和感】


手前のイスの下から自分のリュックを引っ張り出すと、それを開き、中から拳大の石を取り出した。


「……」


右手でそれを静かに握る。


  【飛行機の中? 何かが……】


そして緊張の表情を浮かべた。



     (第3話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


沖縄の地に足を踏み入れた慎吾とリナ。


自宅に泊まるようリナに促す慎吾。慎吾に下心がないのはわかるが……


次回 「 第3話  慎吾の両親 」

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