第12話 オーパーツ
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慎吾のスピリチュアル事件簿 SEASON 4
「沖縄・海底遺跡の謎」
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前回までのあらすじ
箱根大学1年の慎吾、同2年のリナ。リナは賭け麻雀で得たお金で、慎吾に沖縄行きの航空チケットをプレゼントする。
沖縄の海で泳いでいた2人だが、天候が急変。陸から遠く離れた場所で漂流してしまった。海底深くの閉ざされた空間に閉じこめられた2人。
閉ざされた空間で、2人は海底遺跡を発見した。
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第12話 オーパーツ
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「……」
「……」
2人とも、その場に似つかわしくないそれから視線を外せない。
「何でこんなものが……」
あの正五角形の石を奥へと押し込んだ。すると中から
「こんなところに……」
電卓のようなものが現れたのだ。
7 8 9
4 5 6
1 2 3
※ 0 E
10個の数字と、※印、そしておそらく【Enter】であろう決定キー。従来のPCのキーよりはかなり大きく、黒っぽい色をしているが、ちゃんと白い数字も判別できる。さらにその上には
「液晶ディスプレイ……」
電卓と同じ、何桁かの数字を表すであろう液晶画面があった。一番左側が点滅しており
【数字を打ち込めって?】
何かが入力されるのを待っているようだ。
「いったい、どういう事? わけわかんない……」
「た、たぶん……」
慎吾はそれを見つめながら思った事を口にする。
「ここは超古代文明の遺跡かも……」
「何よ、それ?」
「世界各地には、たくさんの超古代文明と思われる痕跡が残っているんです。
紀元前の遺跡なのに、現代よりも高度な文明を有していたと思われる遺跡が。
あるいは未だ発見されていない、アトランティス大陸とか……」
「ないわね」
リナは思い切り首を横に振った。
「液晶ディスプレイは20世紀の産物よ。
紀元前にあるわけないじゃない」
「いえ……
そうとも限りませんよ」
「?」
「例えばブラジルの【セテ・シデダス】遺跡。
そこには、核爆発の痕跡と思われるものがあります」
「核爆発?」
「他にも紀元前に核爆発が起こったような痕跡が世界各地にたくさんあります。
バグダッドでも紀元前のパルティア王国の電池が見つかっています。
超古代文明なら液晶画面があった可能性も……」
「絶対ないってば。大昔に何があったかは知らないけどさ……
数字の【0】は6世紀頃に発明されたものよ。
その歴史もよく知られているし、20世紀前に液晶ができたって話も聞いた事無い」
「で、でも……」
「……」
リナはじっとそれを見つめて頭を回転させる。
「まぁ、私の推理はこうね。慎吾のよりよっぽどマシだから」
腕組みしたリナは
「……」
語り始める。
「ここ最近、あるいは数10年以内……
誰かがここにたどり着いた。
そして何らかの宝なり、財宝なりを見つけた。
しかしあまりにも量が多すぎて、一度には運べない……」
「……」
慎吾は黙って聞いている。
「そこで大量の財宝を奥へと隠し、近代的なロックをかける事にした。
後でまた運び出しに来るまでの間、誰かに奪われないようにね。
んで、宝にありつくには、この液晶ディスプレイに正しい数字を打ち込む……」
リナは首を縦に振った。
「うん。我ながらかなり的を射ていそうな推理だわ」
「……」
慎吾も、リナの言い分に説得力があるような気がしてきた。
「わかった!」
さらにリナが声をあげる。
「え? 何がわかったんですか?」
「誰が宝を隠したかよ!」
「え、あ……」
リナが宝の存在を確信している事に唖然とした。
「キャプテンキッドよ!」
それを聞いて
「え?」
さらに唖然とする。
「ほら! いつかだったか慎吾、言ってなかった?
海賊のキャプテンキッドが沖縄の近くに、財宝を隠したって。
そうよ! キッドがこの奥に財宝を隠したのよ!」
「キャプテンキッドは、17世紀の人ですよ」
思わず反論する慎吾だが
「じゃぁ、ここでキッドの財宝を見つけた誰かが、こんなロックを施したのよ!」
リナも引き下がらない。
「仮にそうだったとして……
僕たちはこのロックを解かなければ、前へ進めない……
という事ですよね?」
「……」
視線を慎吾から液晶ディスプレイに移すリナ。
「そうね……」
再び絶望感が襲う。
「見たところ、8桁の数字を要求してるようね……」
リナは【12345678】と打ち込み、【E】を押してみた。瞬間
【get out!】
液晶ディスプレイにそう表示された。
「わ。なんかムカつく……」
「……」
慎吾は目の前にある機械がちゃんと正常に動作している事に驚きを隠せない。
「ちゃんと電気が通っている……って事ですよね、こんなところに」
「えぇ、それは間違いない。もう1つ間違いない事があるわ」
「な、何ですか?」
「これを設置したヤツは英語圏の人ね」
「……」
慎吾は【get out!】の文字を見つめた。
「とにかくこのロックを解けば、全てが解決……」
リナの声のトーンがどんどん下がる。
「でも数字の打ち込み方は1億通り。
しらみつぶしにやっても3年以上かかるわ……」
「そんな……」
「手元にPCがあれば……
といっても、ケーブルを接続できそうな場所はないけどね」
大きなため息をつくリナ。
「……」
じっと数字キーを見つめるが、やみくもに入力したところで
【解除できるワケがない……】
それをよく理解していた。
「……」
歯を食いしばりながら天を仰ぐリナに
「リナ先輩!」
慎吾が大きな声で呼びかけた。
「な、何よ?」
「ほら、コレ! 見てください!」
慎吾は数字キーを指さした。
「何?」
特に変わったところは見受けられない。
「えっと……
0,1,4,6,7の5つの数字……
表面がハゲているの、わかりますか?」
「……」
言われてみると確かにそうだ。慎吾のいう5つの数字だけ他の数字と違い、表面にまだらの傷がついている。
「た、たぶん、人の指の油分とかアカがキーについたんじゃないでしょうか?
それにバクテリアとか微生物がよってきて……」
「表面がハゲた?」
「はい」
「えっと。って事は……」
「たぶんこの5つの数字キーだけで、8桁打ち込む……のだと思います」
「ふむ……」
慎吾の言うことに1度は首を縦に振ったリナだが
「それでもダメね」
今度は首を横に振る。
「言うとおり、この5つの数字がロック解除のキーだとしましょう。
確かに10個の数字から5個の数字に減ったのは大きいわ。
でもさ。それでも何万通りもの入力の仕方があるのよ。
ロック解除よりも飢え死にが先よ」
現実的なリナだが……
「……」
慎吾は5つの数字をランダムに打ち込んで、解除を試みる。
「……」
必死に数字キーを押す慎吾をしばらく見ていたリナは、やがて少し離れた場所へ歩いていき、ちょうど腰の高さにある岩の上に座った。
「……」
ここに至るまでの道筋を考えるが、どう考えても閉ざされた空間だ。上は開けているものの、50mある岩壁を上っていくことなど不可能。
【残された道は……】
謎の電子ロックを解除するしかない。
【電源は向こう側にある。つまり人がいるって事よね】
チラリと慎吾が格闘している方向を見る。
【仮に人がいなくても、何らかの機械システムがある……】
その事は間違いない。
【かといって、やみくもに数字を打ち込むのはナンセンス……】
再びと慎吾の方を見やるが、相変わらず必死に数字を打ち込んでいる。
「……」
しばらく辺りを見渡していたリナが
「?」
何かを感じ取った。
「……」
高さ1mぐらいのピラミッド状に石が積まれた場所へ歩み寄り
「……」
じっとそれを見つめる。
【何?】
よくわからないが、それから目が離せない。ピラミッドの下の方に視線を移すと
「……」
1番下の土台となっている大きな石が気になる。
「……」
しばらくそれを見続けたあと、手で触れてみた。
「?」
小規模な粉塵が立ちこめたかと思うと、土台石の横に何かが浮かび上がる。
「?」
リナの目に映ったのはアルファベットだった。
MDCCLXX……
【何コレ? こんなところに……?】
7文字のアルファベットは確認できる。8文字目以降にも何か書かれていそうだが、石が削れていてそれが何なのかは判別できない。
「……」
しばらくそのアルファベットを見ていると
【ひょっとして……】
ある事が脳裏浮かんだ。
【1000,500,100,100,50,10,10…… 1770?】
そのアルファベットは数字に変換できるのだ。
【1,7,7,0,…… って、まさか……】
立ち上がると
「慎吾!」
すぐに大声で慎吾を呼んだ。
「は、はい? どうしました?」
「コレ、見て!」
「……」
リナが指さすところに視線を移す。
「M,D,C,C…… こんなところにアルファベットが!?
な、何ですかね、コレ?」
「推測の域を出ないけど…… ローマ数字かも」
「ローマ数字?」
「自信はないけどさ。ローマ数字で【M】は1000を表すのよ。
【D】は500、【C】は100、【L】は50,【X】は10。
で、ローマ数字は単純に合計で数字を表すの。
だから、見えている部分で【1770】という数字になる」
「1770って……
まさか、ロックを解除する数字?」
「そう思いたいけど……
たかだか4桁の数字よ。解除に必要な数字は8桁だから……
この見えない部分に何が書かれても、8桁にはならな……」
言葉の途中でリナが首をかしげた。
「あれ?」
リナの声と同時に
「?」
慎吾も何かの違和感を覚える。
「……」
「……」
2人とも全く同じ事を思っていた。
【この石のピラミッド、どこかで見たことがあるような……】
慎吾はピラミッドから少し離れた場所へ移動し、今一度それを見てみた。
「……」
リナも慎吾の横に立って、ピラミッドを見つめる。
「あの壁……」
ピラミッドが背にしている岩壁に、何かの模様が描かれているように感じた。
「人の顔みたい……」
石で積まれたピラミッドの右後ろに、岩壁で人の顔のような模様がある。
【どこかで見た。こういうの……】
そして
「1ドル札!」
リナと
「ジョージ・ワシントン!」
慎吾が同時に声をあげた。
「何よ、ジョージ……何たらって?」
リナの質問に
「いや、リナ先輩と同じですよ。1ドル札です」
慎吾が丁寧に答える。
「1ドル札には、表に合衆国初代大統領のジョージ・ワシントン……
裏にはピラミッドが描かれているんです」
「あー、あの人物って、大統領だったんだ。
でも、何で石や岩で1ドル札を作ったのよ?」
「……」
慎吾は右手の拳を鼻下にあて、何かを考えている。
「確か……
1ドル札のピラミッドの下には、何かのアルファベットが書かれている。
でも何の数字だろう?」
「1776よ」
横にいたリナが即答した。
「1776?」
「そ。【MDCCLXXVI】って書かれているのよ。
あんたも【VI】が【6】を表す事ぐらい、わかるわよね?」
「な、なんでリナ先輩、知ってるんですか?」
「私は1度見た数字は忘れないの、知ってるでしょ?
例えそれが2進数でも、16進数でも……
ローマ数字でもね」
「す、すごい! もしかしたら、これがロックを解除する数字かも!」
「【1776】は4桁よ。残り4桁はどうするの?
それに何で1ドル札に【1776】が書かれているの?」
「え、あ……」
一瞬とまどった慎吾は、ゴクリとつばを飲み込んだ後
「独立記念日ですよ」
そう答えて、再びあの場所へ戻っていく。
「独立記念日?」
すぐにリナが追いかけていく。
「……」
慎吾はじっと数字キーを見つめた後
【1】【7】【7】【6】
数字を打ち込む。
「で? あと4桁は?」
「……」
慎吾はゆっくりと数字を打ち込む。
【0】【7】【0】【4】
「その数字は?」
「独立記念日は…… 7月4日です」
言うと慎吾は【E】を押した。瞬間
【Hit it!】
いつもは【get out!】と表示される場所に、別の言葉が表示される。
「わ! 正解!」
思わずリナが声をあげた。そして
ゴゴゴゴ……
目の前の岩壁が動き始める。
「し、沈んでいる……」
2mの高さに水平の切れ目が入った岩壁は、ゆっくりと下に沈んでいった。1分ほどかけて完全に沈みきった後
「こ、これは……」
奥へ続く暗い洞窟が現れた。
バチン!
「!?」
大きな音が鳴り響くと、その洞窟が明るくなる。
「で、電気だ……」
洞窟の上の方を見ると、蛍光灯が見えた。
「……」
前を見ると、15mほど先に
「扉……」
白地に銀色の大きな扉が見える。
「……」
とまどう慎吾の肩に
「迷ったって行くしかないっしょ!」
リナがポンと手を置いた。先に洞窟へ入ろうとするリナに
「リナ先輩!」
慎吾が声をかける。
「ぼ、僕が先に……」
言うとポケットに入れていたパワーストーンを取り出し、ぎゅっと握りしめた。
(続く)
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次回予告
奥へと進む2人。不思議な部屋へとたどり着いた。
そしてその空間は、意外なものの中だった。
次回 「 第13話 五角形の意味 」
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