第9話 閉ざされし場所
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾のスピリチュアル事件簿 SEASON 4
「沖縄・海底遺跡の謎」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回までのあらすじ
箱根大学1年の慎吾、同2年のリナ。リナは賭け麻雀で得たお金で、慎吾に沖縄行きの航空チケットをプレゼントする。
沖縄の海で泳いでいた2人だが、天候が急変。陸から遠く離れた場所で漂流してしまった。
海底で不自然な泡を発見したリナ。慎吾に調べさせるが、突然海底に穴が開き、2人は吸い込まれていく。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第9話 閉ざされし場所
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ぐく……】
慎吾を先頭に
【ちょっと…… マジやばい……】
2人は海底に開いた穴へと吸い込まれていった。
直径2m程だろうか。海底深くへと続く細長い穴に、まるでウォータースライダーに乗ってるかのように、体を右へ左へ揺らしながら落ちていく。
【い、息が……】
慎吾ほど長時間息を止められないリナが苦しみ始めた時
「わ!」
慎吾が声をあげ
「!?」
リナは突然海水が周りから消えたのを感じた。
「え? 何?」
呼吸もでき、声もあげる事ができるが、体は重力に従って落ちている。おそるおそる下を見た瞬間
ザッパーン!
大きな衝撃を受けた。再び海中に潜ったようだが、3m程沈んだ後、先ほどまでのような水の流れはないと気づいた。あわてて上へ泳ぐと、すぐに海面に顔を出す。
「はぁ、はぁ……」
大きく息を吸い込み周りを見渡すが、暗くて何も見えない。
「慎吾!」
リナが声をあげると
【ここです!】
頭の中に声が聞こえた。
「下?」
気配を感じて真下を見ると、海中から薄暗い光の球が浮き上がってくるのが見えた。
ザパン!
リナのすぐ横から、慎吾が顔を出す。
「すみません。パワーストーン落としちゃって」
右手に持つパワーストーンを見せる。ぼやけた光を放ち、お互いの顔が確認できる程度の明るさだ。
「と、とりあえず生きててよかったわ……」
2人とも立ち泳ぎの状態で、無事を確認し合う。
「ここ、どこ? もうちょっと強い光を出してよ」
「わかりました」
ちらりと右手のパワーストーンに視線を突き刺すと
「唵!」
かけ声とともに、パワーストーンから強烈な光が放たれた。
「……」
周りを見渡すと
「岩……」
360度、ドーム状の岩壁に囲まれていた。半径も高さも15~20m程度の閉ざされた空間。そのほぼ中心に2人はいた。
「……」
上を見上げたリナは
「あそこから落ちてきた?」
ドームの上側に、1カ所だけ水が滝のように流れ落ちてくる場所があった。
「そ、そうみたいですね」
そこから勢いつけて、ここまで放り出されたようだ。
「海底からここまで、どういう構造になってるのかしら……」
疑問は残るが
【それよりも、これからどうすれば……】
何度周りを見渡しても岩壁ばかり。
「ど、どうしましょう、リナ先輩」
「……」
完全に閉ざされた空間。
【このままじゃ、結局体力尽きておぼれ死ぬだけ……】
状況は最悪に思えたが
「リナ先輩!」
慎吾が明るい声を出す。
「あそこ!」
リナの右側を指さしているが、岩壁が見えるだけだ。
「何?」
「風です」
「風?」
「はい。あそこから風が吹いています!」
「……」
言われてみれば、何となく空気の流れを感じるような感じないような。と思ってる間に、慎吾はそこへ向け泳ぎ始めた。
「……」
リナもついていく。岩壁に近づくと、確かに空気の流れを感じた。
「リナ先輩、ここです!」
岩壁にたどり着いた慎吾は、海面との境界を指さす。そこには、サッカーボール程度の穴が開いていた。
「……」
顔を近づけて、穴の奥を覗く慎吾。
「な、何か見える?」
パワーストーンの強烈な光で奥を照らしてみたが
「見えません。かなり深く続いているようですが……」
「でも空気の流れがあるって事は、向こう側にも何かあるって事よね」
「そ、そうですが……」
穴は小さいので、入っていくことは不可能だ。
「……」
今一度周りを見渡すが、どこもかしこも閉ざされた岩壁。
「……」
チラリと慎吾を見るリナ。慎吾はまだ元気そうだが、リナは明らかな疲労を感じていた。
【長時間海にいると、結構くるわね……】
やや焦りを感じるが
【冷静に。こんなところで死ぬなんて、死んでもイヤ!】
必死に落ち着こうとする。しかし
「リ、リナ先輩……」
先ほどの明るい声とは対照的な声をかけられた。やっと絞り出したような、元気のない声だ。
「?」
慎吾は大きく見開いた目で、どこかをじっと見ている。
「な、何よ。暗い声出して」
視線を追ってリナもその方向を見る。
「こっちまで気分が落ちこ……」
それ以上の言葉を飲み込んだ。
「な、何よ、あれ……」
ようやく声を絞り出したリナは、信じられない光景を目にする。
さっきまで2人がいた場所に
「さ、魚?」
大きなひれのようなものが、海面上をジグザグに動いているのが見えた。本来は黒っぽい色だろうが、パワーストーンの明かりに照らされ、青白く不気味に発光している。
「……」
じっと、その動きを見守る2人。海面上に1mは突き出た三角形のそれは、まるでこの閉ざされた海の主であるかのように、奔放に動き回っていた。
海面上に見えるのは巨大な三角形だけだが、海中に巨大な何かがいる事は容易に想像できる。
「まさかでしょ? あんなでっかい魚が……」
ザッパーン!
その生き物が、突然海面上を飛び跳ねた。
「な……」
「く、くじら!?」
体長5mはゆうに超える巨大な生き物が、一瞬とはいえ間違いなくその顔をこちらに向けた。T字型の異様な顔面、そしてその口からは何十もの白く大きな歯が見えた。
「……」
ゴクリと息をのむリナ。
「シュ、シュモクザメだ」
慎吾の言葉に対し
「シュ……サメ?」
背筋が凍った。
「ひ、人食いサメの一種です!」
慎吾の声が震えている。
「ひ、人食い!?」
さらに恐怖を募らせるリナ。今一度それに視線を合わせようとするが、飛び跳ねた勢いで深く潜ったらしく、その姿は見えない。
「……」
「……」
2人とも呆然と固まっていたが
「光の剣!」
リナが声をあげた。
「慎吾、光の剣を出して!」
「え?」
「早く! 襲われたら、それしか武器がないのよ!」
とはいえ、自分たちの3倍以上はゆうにある巨体。果たして太刀打ち出来るだろうか疑問だ。
「ひ、人食い種とはいえ、こちらから刺激しなければ……
サメが人間を襲う事は滅多に……
ないはず……」
その言葉に自信をもてない慎吾。
「と、とにかく静かにしていれば、そのうち……」
言いかけた慎吾の視線が、再び海面上に現れた巨大な三角形をとらえた。
しばらくジグザグに閉ざされた空間を泳いでいたそれは、突然こちらに狙いを定めたかのようにまっすぐ向かってくる。
「は、早く! 光の剣を!」
リナはそれを凝視したまま、慎吾の右肩を揺らした。
「あ!」
肩を揺らされた慎吾は、右手に握っていたパワーストーンを海中に落としてしまう。
「な!?」
慎吾の手からパワーストーンがこぼれ落ちたのを見て愕然とする。光源を失い、一瞬にして漆黒の闇に閉ざされた。
「く……」
暗闇の中、必死に立ち泳ぎする2人。見えはしないものの、あの三角形が猛烈な勢いでこちらに向かっているのが音でわかる。
【こ、こんなところで死ぬわけには……】
リナは慎吾の左腕を、両手で抱きしめた。
(続く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回予告
暗闇、閉ざされた空間、巨大なサメ……
パワーストーンも手を離れた絶体絶命の状況で、ピンチを乗り切ろうとする慎吾達だが……
次回 「 第10話 光 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




