迷い街の運び屋 6
次の依頼は、時間の指定がなかった。
依頼票には住所だけが書いてある。
それも地上ではなく、地下通路の中の店の名前だった。
地下通路の入口は駅の裏にあった。
古い階段を下りる。
湿った空気が少しだけ重い。
下まで降りると、長い通路が続いていた。
天井には細い蛍光灯が並んでいる。
どれも少し暗い。
通路の両側には店が並んでいた。
食べ物の店、古着の店、古い本を並べた店。
何の店なのかよく分からない店もある。
人も多い。
思っていたより多かった。
みんな忙しそうに歩いている。
誰も立ち止まらない。
その様子は、少しだけ変だった。
同じ場所にいるのに、遠い世界の人たちを見ているような感じがする。
それぞれの速度で歩いていて、
それぞれ別の時間の中にいるみたいだった。
俺は依頼票を見る。
店の名前を確認する。
知らない名前だった。
近くの屋台の人に聞く。
「すみません、この店どこか分かりますか。」
屋台の男は依頼票をちらっと見た。
「ああ、それなら奥だな。」
通路の奥を指さす。
礼を言って歩く。
通路は長い。
まっすぐ進む。
途中でまた店が並ぶ。
同じような店が続く。
また誰かに聞く。
「この店、どこですか。」
今度は服屋の店員だった。
少し考えてから言う。
「この先で右に曲がって、それからまた奥。」
右に曲がる。
通路はまた続いている。
さっきより狭い。
人もいる。
だが、誰もこっちを見ない。
忙しそうに歩いている。
すれ違う。
すれ違う。
すれ違う。
何人も通るのに、会話はほとんど聞こえない。
声が遠い。
水の中で聞く声みたいだった。
また人に聞く。
今度は通路を歩いていた女性だった。
「その店? えっと……」
少し考えてから言う。
「たぶん、まだ先。」
また歩く。
曲がる。
また通路。
また店。
また人。
歩いていると、だんだん感覚がずれてくる。
どれくらい歩いたのか分からない。
数分のような気もするし、
何時間も歩いている気もする。
店の並びも似ている。
見たことがある気もする。
でも違う気もする。
また誰かに聞く。
今度は小さな店の店主だった。
「その店なら、ここじゃないな。」
依頼票を見て、首を振る。
「もっと奥だ。」
奥。
また奥。
通路はまだ続いている。
俺は歩く。
歩く。
歩く。
途中で、ふと思う。
さっき屋台を見た気がした。
同じ屋台。
同じランプ。
でも通ったかどうか分からない。
時間の感覚もおかしい。
ここに来たのは、ついさっきのはずだ。
でも、少し前の出来事みたいにも感じる。
ずっと前のことみたいにも思える。
また人に聞く。
今度は通路を急いで歩いている男だった。
「この店ですか。」
男は歩きながら依頼票を見る。
「うーん……」
少し考える。
「たぶんこの通路じゃない。」
そう言って去っていく。
また歩く。
通路はまだ続く。
人は多い。
でも距離がある。
みんな自分の世界の中で歩いているみたいだった。
俺だけが少し外にいるような感じがする。
何日も歩いているような気もする。
もちろん、そんなはずはない。
でも感覚だけがそう言っている。
また角を曲がる。
少し広い場所に出る。
そこにも店が並んでいる。
ランプの光が揺れている。
人が歩いている。
誰も止まらない。




