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迷い街の運び屋  作者: San


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6/10

迷い街の運び屋 6

次の依頼は、時間の指定がなかった。


 依頼票には住所だけが書いてある。

 それも地上ではなく、地下通路の中の店の名前だった。


 地下通路の入口は駅の裏にあった。


 古い階段を下りる。


 湿った空気が少しだけ重い。


 下まで降りると、長い通路が続いていた。


 天井には細い蛍光灯が並んでいる。

 どれも少し暗い。


 通路の両側には店が並んでいた。


 食べ物の店、古着の店、古い本を並べた店。

 何の店なのかよく分からない店もある。


 人も多い。


 思っていたより多かった。


 みんな忙しそうに歩いている。

 誰も立ち止まらない。


 その様子は、少しだけ変だった。


 同じ場所にいるのに、遠い世界の人たちを見ているような感じがする。


 それぞれの速度で歩いていて、

 それぞれ別の時間の中にいるみたいだった。


 俺は依頼票を見る。


 店の名前を確認する。


 知らない名前だった。


 近くの屋台の人に聞く。


「すみません、この店どこか分かりますか。」


 屋台の男は依頼票をちらっと見た。


「ああ、それなら奥だな。」


 通路の奥を指さす。


 礼を言って歩く。


 通路は長い。


 まっすぐ進む。


 途中でまた店が並ぶ。


 同じような店が続く。


 また誰かに聞く。


「この店、どこですか。」


 今度は服屋の店員だった。


 少し考えてから言う。


「この先で右に曲がって、それからまた奥。」


 右に曲がる。


 通路はまた続いている。


 さっきより狭い。


 人もいる。


 だが、誰もこっちを見ない。


 忙しそうに歩いている。


 すれ違う。


 すれ違う。


 すれ違う。


 何人も通るのに、会話はほとんど聞こえない。


 声が遠い。


 水の中で聞く声みたいだった。


 また人に聞く。


 今度は通路を歩いていた女性だった。


「その店? えっと……」


 少し考えてから言う。


「たぶん、まだ先。」


 また歩く。


 曲がる。


 また通路。


 また店。


 また人。


 歩いていると、だんだん感覚がずれてくる。


 どれくらい歩いたのか分からない。


 数分のような気もするし、

 何時間も歩いている気もする。


 店の並びも似ている。


 見たことがある気もする。


 でも違う気もする。


 また誰かに聞く。


 今度は小さな店の店主だった。


「その店なら、ここじゃないな。」


 依頼票を見て、首を振る。


「もっと奥だ。」


 奥。


 また奥。


 通路はまだ続いている。


 俺は歩く。


 歩く。


 歩く。


 途中で、ふと思う。


 さっき屋台を見た気がした。


 同じ屋台。


 同じランプ。


 でも通ったかどうか分からない。


 時間の感覚もおかしい。


 ここに来たのは、ついさっきのはずだ。


 でも、少し前の出来事みたいにも感じる。


 ずっと前のことみたいにも思える。


 また人に聞く。


 今度は通路を急いで歩いている男だった。


「この店ですか。」


 男は歩きながら依頼票を見る。


「うーん……」


 少し考える。


「たぶんこの通路じゃない。」


 そう言って去っていく。


 また歩く。


 通路はまだ続く。


 人は多い。


 でも距離がある。


 みんな自分の世界の中で歩いているみたいだった。


 俺だけが少し外にいるような感じがする。


 何日も歩いているような気もする。


 もちろん、そんなはずはない。


 でも感覚だけがそう言っている。


 また角を曲がる。


 少し広い場所に出る。


 そこにも店が並んでいる。


 ランプの光が揺れている。


 人が歩いている。


 誰も止まらない。

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