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迷い街の運び屋  作者: San


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4/10

迷い街の運び屋 4

その日の午後、俺は初めての依頼票を渡された。


 机の上に置かれた小さな段ボール。


 先輩は椅子に座ったまま、それを指で軽く押した。


「……これ。」


 俺は箱を見る。


 普通の段ボールだった。

 特に重くもない。


 依頼票を渡される。


 住所と部屋番号。


 それから一行だけ、注意書きがあった。


 俺はそれを読んだ。


 開けちゃダメ


 少し変な書き方だと思った。


 仕事の注意なら普通は

 “開封禁止”とか

 “開けるな”とか


 そんな書き方になるはずだ。


 でも、書いてあるのは


 開けちゃダメ


 まるで誰かが、念を押すみたいに書いた言葉だった。


 先輩は椅子に体を預けたまま言った。


「まあ……依頼票の通りにやればいい。」


 少し間。


「余計なことは、しない。」


 それだけだった。



 外に出る。


 街は静かだった。


 駅の方は人がいるが、路地に入ると急に音が減る。


 俺は地図を見ながら歩いた。


 段ボールは軽い。


 中身は分からない。


 ただ、


 開けちゃダメ


 それだけ書いてある。


 しばらく歩く。


 そのとき、どこかで猫の声が聞こえた。


 小さな鳴き声。


 「ニャア」


 普通の猫の声だった。


 この街には猫が多い。


 気にせず歩く。


 また少し歩く。


 また猫の声が聞こえた。


 「ニャア」


 さっきより近い。


 俺は周りを見る。


 猫はいない。


 路地は静かだった。


 気のせいかと思って、また歩く。


 角を曲がる。


 そのときだった。


 「ニャアッ」


 さっきより強い声。


 俺は足を止めた。


 今度ははっきり聞こえた。


 そして気づく。


 声は外じゃない。


 箱の方から聞こえている。


 俺は箱を見る。


 静かな段ボール。


 でも


 「ニャアッ」


 また鳴いた。


 今度は少し荒い声だった。


 箱を耳に近づける。


 「ニャアッ!ニャアッ!」


 中で猫が鳴いている。


 強く。


 何度も。


 まるで閉じ込められているみたいに。


 俺は思わず箱を見た。


 もし本当に猫がいるなら。


 このままだとまずいんじゃないか。


 そう思って、伝票を見る。


 そこに書いてある。


 開けちゃダメ


 さっき見た言葉。


 でも今見ると、少し違って見えた。


 “禁止”じゃない。


 “開けちゃダメ”


 まるで


 開けたら何か起こるみたいな書き方だった。


 「ニャアッ!!」


 猫の声が強くなる。


 箱の中で暴れているみたいだった。


 俺はテープに手をかけた。


 もし本当に猫なら。


 助けないと。


 そう思った。


 指がテープの端に触れる。


 そのとき、


 ふと昔のことを思い出した。


 この街のこと。


 普通じゃないものがいること。


 そして、


 自分がそれを見たことがあること。


 それが、この仕事を選んだ理由でもある。


 俺は手を止めた。


 箱を見る。


 「ニャアッ!!」


 猫はまだ鳴いている。


 強く。


 必死みたいに。


 でも


 開けない。


 俺は箱を持ち直した。


 急いで届ける方がいい。


 そう思った。


 歩き出す。


 猫の声はまだ続く。


 「ニャアッ!」


 角を曲がる。


 「ニャア…!」


 少し弱くなる。


 また歩く。


 「ニャ……」


 声が小さくなる。


 また角を曲がる。


 そして


 声は完全に消えた。


 箱は静かだった。


 まるで最初から何も入っていなかったみたいに。


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