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迷い街の運び屋  作者: San


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2/10

迷い街の運び屋 2

三日後。


 また同じ階段を上がった。


 同じ廊下。

 同じ暗さ。


 C-417の前に立つ。


 チャイムを押す。


 少しして、ドアが開いた。


 女性は前より少しだけ疲れた顔をしていた。


「まだ来るんですね。」


「依頼なので。」


 女性は荷物を見る。


 今度は、少し長く見ていた。


「……差出人の名前、言いましたよね。」


「はい。」


「まだ、あの人はそういうことをするんですね。」


 俺は答えなかった。


 配達員が言うことは多くない。


 荷物を持っているだけだ。


 女性は廊下を少し見た。

 静かな廊下。


 それから言った。


「もう、終わった人なんです。」


 その言い方は、怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもなかった。


 ただ、何かが遠くにあるみたいな言い方だった。


「それでも依頼なので。」


 俺はそう言うしかなかった。


 女性は小さく笑った。


「そうですよね。」


 それから、ドアを少し閉めながら言う。


「今日は受け取りません。」


 また閉まった。



 四日目。


 五日目。


 同じことの繰り返しだった。


 だが五日目、女性はドアを半分まで開けた。


 部屋の中が少し見えた。


 中は驚くほど何もなかった。


 家具が少ない。

 壁も白いまま。


 ただ、床の隅に古い段ボールがいくつか積んであった。


 女性は荷物を見る。


「その人、何て言ってましたか。」


「依頼票には何も。」


「そうですか。」


 少し沈黙があった。


 廊下の静けさが、いつもより長く感じた。


 女性は言う。


「昔、よくこういうことをする人でした。」


 荷物を送ること。


 手紙を書くこと。


 物を渡すこと。


 でも、それは昔の話らしかった。


「もう会ってません。」


 女性はそう言った。


「会う理由もないし。」


 それから、少しだけ箱に手を触れた。


 すぐに離す。


「……受け取ったら、終わりますか。」


「はい。」


 俺は伝票を出した。


 女性はペンを受け取る。


 しばらく何も書かなかった。


 廊下は静かだった。


 遠くで、また一つドアが閉まる音がする。


 女性はようやく、名前を書いた。


 サイン。


 それを確認して、俺は荷物を渡す。


 女性は箱を受け取る。


 思ったより重そうだった。


 女性は箱を抱えたまま、少しだけ言った。


「……この街、変わりませんね。」


 俺は何も答えなかった。


 それだけ言ってドアが閉まる音は


 静かだった。

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