迷い街の運び屋 2
三日後。
また同じ階段を上がった。
同じ廊下。
同じ暗さ。
C-417の前に立つ。
チャイムを押す。
少しして、ドアが開いた。
女性は前より少しだけ疲れた顔をしていた。
「まだ来るんですね。」
「依頼なので。」
女性は荷物を見る。
今度は、少し長く見ていた。
「……差出人の名前、言いましたよね。」
「はい。」
「まだ、あの人はそういうことをするんですね。」
俺は答えなかった。
配達員が言うことは多くない。
荷物を持っているだけだ。
女性は廊下を少し見た。
静かな廊下。
それから言った。
「もう、終わった人なんです。」
その言い方は、怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもなかった。
ただ、何かが遠くにあるみたいな言い方だった。
「それでも依頼なので。」
俺はそう言うしかなかった。
女性は小さく笑った。
「そうですよね。」
それから、ドアを少し閉めながら言う。
「今日は受け取りません。」
また閉まった。
⸻
四日目。
五日目。
同じことの繰り返しだった。
だが五日目、女性はドアを半分まで開けた。
部屋の中が少し見えた。
中は驚くほど何もなかった。
家具が少ない。
壁も白いまま。
ただ、床の隅に古い段ボールがいくつか積んであった。
女性は荷物を見る。
「その人、何て言ってましたか。」
「依頼票には何も。」
「そうですか。」
少し沈黙があった。
廊下の静けさが、いつもより長く感じた。
女性は言う。
「昔、よくこういうことをする人でした。」
荷物を送ること。
手紙を書くこと。
物を渡すこと。
でも、それは昔の話らしかった。
「もう会ってません。」
女性はそう言った。
「会う理由もないし。」
それから、少しだけ箱に手を触れた。
すぐに離す。
「……受け取ったら、終わりますか。」
「はい。」
俺は伝票を出した。
女性はペンを受け取る。
しばらく何も書かなかった。
廊下は静かだった。
遠くで、また一つドアが閉まる音がする。
女性はようやく、名前を書いた。
サイン。
それを確認して、俺は荷物を渡す。
女性は箱を受け取る。
思ったより重そうだった。
女性は箱を抱えたまま、少しだけ言った。
「……この街、変わりませんね。」
俺は何も答えなかった。
それだけ言ってドアが閉まる音は
静かだった。




