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無理の無いV生活  作者: 織田璃空


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04.宝城大地

『わぁ、今日もたくさん来てくれたんだね。ありがとう!』


 自称したことはないけど、ファンの人達曰く――『弟系V』だった宝城ほうじょう大地だいち。何か一芸に秀でているという程ではなかったけれども、あらゆることを一定水準以上のクオリティでこなし、朗らかな語り口で歳上の人間に可愛がられたVTuber――だった。

 爆発的に登録者が伸びたわけではないけれど、コツコツと活動を重ねて二年ほどで登録者五十万人というところまで辿り着いた。――そして、消えた。


『今日はグレイトツーリング7をやっていくよ! 前半は週間目標の達成を目指して、後半は視聴者参加型レースをやるからね!』


 アーカイブは消え、今となっては切り抜き動画でしか見ることは出来ない。そんな宝城大地の過去配信を切り抜き動画で僕は振り返っていた。





――大地きゅんなんでしょ?





 大空久遠の配信のコメントに残された、かつての僕――宝城大地のファンだったと思われる人の声。その声に応えてあげたい気持ちと、それは出来ないという冷静な自分。僕は宝城大地だったけれども、今はそうではないし、『宝城大地』というのは僕個人の『所有物(権利)』ではない。


『ここはアウトからカッコ良く――なぁんでぇ?! なんであそこでアウトに膨らむのぉ?!』


:CPUって結構えげつないブロックかますよね

:世界大会の時にメーカーと話すんですけど、結構修正大変みたいです

:野生の世界ランカーが見にきとる?!

:だ、大地きゅんはガチ勢じゃないので見逃してください…!

:いや、こういう配信良いなって勉強になってますよ?


 ふと、コメントの中に世界大会参加者と思しき視聴者のコメントが流れる。もしかして、本山選手だったりして、なんて思ったけれど……多くないとはいえ少なくもない世界ランカー、日本人選手だって五、六人くらい当時いたと思うし、本山選手はその頃からトップレベルで戦っていたとはいえ……別人かもしれない。


「……楽しかったよね、この頃は」


 切り抜きを見ながら苦笑する。この配信の半年後くらい――同期が心身の限界ということで引退を表明したことから、如月ドリームプロジェクトの崩壊へのカウントダウンが始まったんだ。



◇ ◆ ◇



――大空久遠、配信事故

――前世はやはり宝城大地で確定か?


 そんな動画がオススメの中にピックアップされてきて、僕は懐かしさと苦しさを覚えた。――かつての同期が、別の場所で頑張っている……それを嬉しいと思う自分と、昔を思い出して苦しい自分。


――如月ドリームプロジェクト


 僕は、かつてそこでタレントとして彼――宝城大地と共に活動していた。波長が合うというか、凄く気の合う友人で戦友だった彼と僕は切磋琢磨してVTuberとして成長し、そして――僕は壊れた。


 新規プロジェクトのために通常の活動以外に時間を取られ。上手くいっていないアレコレを心配するファンに事務所の代わりに謝罪して。他事務所の勢いに負けるなと、長時間配信企画をコラボやソロでやらされて。――僕は、心身を病んでしまった。

 大地は、僕が倒れる前から声を上げてくれていた。このままではタレントが保たない、無闇に新しいことに手を出すのではなく、着実に進んでいくべきだと。――でも、事務所はそんな彼の、そして僕らの言葉には耳を傾けなかった。

 始めに僕が。そして同期や後輩、先輩達が徐々に心身に問題を抱え、引退を決意し始めた。もう、如月は事務所として限界だった。僕らも限界だった。


――そして、大地と一部の社員が動いたことで、如月は完全に終わりを迎えた。


 終わりは、呆気なかった。社長はあっさりと如月を採算が取れない事業だと切り捨てた。引退を表明していなかった仲間達も、それで強制的に引退ということになってしまった。大地達を恨む声も、最初は聞こえた。けれども、冷静になってあのまま進めばもっと酷い終わり方をしていただろうと皆が理解して――それぞれ、次の場所で頑張ろうと誓い合った。


「田中君、ちょっと良いかな?」

「あ、はい――」


 今、僕は別のVTuber事務所でアルバイトとして働いている。タレントではなく、企画運営の方で雑用的なことをしている。僕が元VTuberだということは面接の段階で話しているし、事務所側で認識されている。社長には「タレントとして雇うことも出来るよ?」と言って貰えたけれども、少なくとも今はまだ――VTuberとして活動を再開する気にはなれなかった。


(大地――いや、太郎。君は今、楽しんで活動できているかい?)


 配信事故から大変そうな旧友に、僕は届くはずのない言葉を投げかけた。



◇ ◆ ◇



――いつか、終わりは来る。


 それは分かっている。分かっているけれども、その終わり方くらいは良いモノであって欲しかった。


――『息子』である宝城大地の、事務所解散による引退。


 私が手がけた、初めてのVTuberのキャラクターデザイン。それが如月ドリームプロジェクトからデビューした、宝城大地だった。

 中の人こと、佐藤太郎君にぴったりな――笑顔の似合う男の子。『皆の弟』として可愛がってもらい、彼のデザイナーである『ママ』としては嬉しい日々だった。


――それが、突如として終わりを迎えた。


 その兆候は、確かにあった。イラストや新規衣装のデザインの納期が厳しめになったり、報酬の見直しということで減額を提示されたり。私もまだまだ駆け出しだったから、強く交渉に挑めなくて……先輩イラストレーターに相談したら、「そういう所とは仕事しない方が良いよ」と言われてしまうくらいで。だから事務所の感じがちょっと、というかかなり悪くなってきているなって……思ってはいたんだ。――実際は、そんな生易しい段階なんかとうに過ぎ去って、もう終わりに差し掛かった状態だった。


 事務所解散が決まった時、私は頑張って宝城大地に関する権利を自分側に持って行けるように交渉した。けれども、他のイラストレーターやタレントさん達同様に、何の権利も確保することは出来なかった。そこに私達の大事な『息子』達がいるのに――消える事務所共々、運営会社によって闇に葬られることになった。


――そしてたぶん、それは事務所解散のきっかけとなった大地達への嫌がらせでもあった。


 私は、守れなかった。自分の『息子』を。最後に彼――太郎君と話をした時、彼は「宝城大地を守れなくて、ごめんなさい」と言っていた。それは、私が言うセリフだと思ったけれども……本当に辛そうな彼に、私は何も言えなかった。


「――君は生まれ変わっても、平穏には生きられないのかな?」


 太郎君が転生したと思われるVTuber、大空久遠の配信事故のニュースを眺めながら、私は苦笑しつつファンアートを描き始めた。


――今度は、幸多き人生でありますように。


 大空久遠の配信アーカイブを見ながら、私は心からそう願った。

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