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無理の無いV生活  作者: 織田璃空


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02.新ビジュアルでリスタートすることになりました。

「……黒髪、だね」

「そうだね」

「……サングラス、ないね」

「そうだね」


 琴葉が事務所で僕に見せてくれた新しい大空久遠のビジュアル――それをマネージャーの高木さんと一緒に見ている。


「良いですね、久遠さんのイメージにピッタリ!」


 高木さん――スーツの似合う眼鏡女子――がきゃっきゃと琴葉と手を取り合って喜んでいる。「うふふ……ついにウチの事務所にもショタ枠が……じゅるり」なんて言っていない。きっと僕の空耳、幻聴か何かだ、うん。


「頭身も、なんかちょっと縮んだ?」

「動き出す前だったけど、今後の3D化を考えたら本人の頭身に合わせた方が良いと思って」

「そりゃ、そうだけど……あ~あ……憧れの高身長……」


 そう、僕の身長はあまり高くない。でも一応、166はあるんだぞ! 憧れの170台……。


「ツンツン具合もマイルドになってるし、目つきも柔らかいよね。なんというか……全体的に幼い感じ?」

「中の人にピッタリ」

「中の人などいない」


 キリッ、なんてふざけてみたけど、これは――う~ん。デザインは相変わらず素敵で、凄いんだけど……あくまでも『大空久遠』として演じてきた僕にとって、新しい『身体』はちょっと違和感があった。いや、違和感というよりは……自分にしっくりきすぎていることに、恐れがあったというのが正しい表現なのかもしれない。


――それは、まさしく僕の『分身』と言えるようなデザインだったからだ。


「事務所方針として、無理の無い活動をってのがあるわけじゃない? それに今回の配信事故。――タロ、あんたはこの新しい『身体』で、無理の無いV生活を体現するのよ。事務所のエースとして、ね」

「エースったって、登録者三万ちょいだよ?」

「あんたは多くのVや配信者を敵に回したね――ちなみに私はVではなくイラストレーターとしての配信アカウントは余裕で久遠より上だからノーダメージよ」

「急にマウント取ってくるじゃん」

「ふふん」


 何故か胸を張って得意げな琴葉。やめろ、凶器が突出してるから。


「では、デザインはこれでいきましょう! 2Dモデルはどれぐらいで出来そうですか?」

「う~ん……最近暇そうだから、たぶん来週にはどうにか」

「では、依頼出しちゃいますね」


 2Dモデルを作るモデラー、V的には『パパ』と呼ばれる人だが、大空久遠のパパは琴葉の実の兄である渉さんだ。本業は若くして活躍する小説家なんだけど、「理想的な空間把握のためのソフトウェアがない」なんて言い出して自分でそういったソフトウェアを開発、プログラミングやCGデザインといった面に妙に強くなってしまったという、ちょっと……いや、かなり? 変わった人だ。旧久遠の2Dモデルを作ってくれた際に『渡里わたりTory(トリィ)』という名義を使うようになったけど、作家としてはまた別の名義を使っているので両者が同一人物であることを知っているのは事務所のごく一部の人間だけだ。


「そういえば、渉さんは今回のこと何か言ってた……?」


 恐る恐る琴葉にそう聞くと、琴葉は「馬鹿だなぁって言ってた」とズバッと答えてくれた。手加減が欲しいものである。


「容赦ない……」

「あの人、自分がそういうのやっても馬鹿だなぁって言うタイプの人だから。今更でしょ」

「まあ、うん……」


 妙に納得しつつ、あらためて三面図という、キャラクターを三方向で描いたデザインを見直す。……ちょっと自分=佐藤太郎が透けて見えて恥ずかしいけど、良いデザインだと思う。


「――よろしくね、新しい『僕』」


 そう言って軽く三面図がプリントされた紙に触れたわけだけど、視線を上げると琴葉と高木さんがニヤニヤしながら僕を見ていた。……恥ずかしっ!



◇ ◆ ◇



――新・大空久遠お披露目配信


 旧デザインで配信をいくつかしつつ、迎えた本日――ついに出来上がった2Dモデルのお披露目配信となった。


Kotoha:待機

渡里Tory:待機

:ママとパパいるじゃん

:授業参観かな?

:コメントは削除されました

:ママとパパもよう見とる


 配信開始前、コメント欄をちらりと見ると琴葉と渉さんがコメントを打っていた。渉さんは急に飛び込んできた仕事があると聞いていたのだけれども、終わったのだろうか……?

 そんな心配をしつつも、僕は僕で頑張らなければならないので気合いを入れる。


――配信、開始。


 OP動画が普段なら流れるのだけれども今回は無し。『しばらくお待ちください』と書かれた画面を表示させ、汎用BGMを流しておく。深呼吸し、「よし――」と気合いをあらためて入れ直し、マイクをオンにして喋り始める。


「――本日はお集まり頂きまして、誠にありがとうございます」


:お、はじまた?

:きゃー、久遠きゅん~

:新しいガワ、期待

:コメントは削除されました


 活発になるコメント欄。相変わらず削除対象になるコメントも来ているけれど、期待して待ってくれている声の方がやっぱり目立つし、嬉しい。画面をこの機会にと、ちょっとリニューアルした配信画面に切り替えて2Dモデルはまだ映さない。


:配信画面変わってる!

:前は「俺、カッコイイ」系だったけど、今度のは可愛い系?

:尖ってなくて私は好き

:配信画面が可愛い系ってことは、ガワも可愛い…のか?

:コメントは削除されました


「ふふ……皆さん、僕はカッコイイ系ですよ?」


 可愛い系に決まっているだろうという流れに苦笑してそう言ってみるも、コメント欄は「説得力皆無」とバッサリ切り捨ててくる。酷い。


「そうですか……僕はとても気分を害しました。今日の配信はこれにて終了させていただきます……」


 そう言って配信終了時に流している動画を流せば、コメント欄が慌てて「カッコイイ! 久遠くんはカッコいいよ!」と煽ててくれる。


「……ほんとに?」


:久遠クンはきゃっこいいって

:かわ…カッコいいよね!

:カワイイは正義、正義はカッコイイ…QED

:コメントは削除されました


 なんか証明問題解いている人いるけど……まあ、いっか。


「……気分が良くなったので、配信を続けます」


:ちょろ

:ちょろい

:ちょろ可愛い

:やっぱりカワイイは正義だぜ

:コメントは削除されました


 むぅ……納得いかないけど、このノリを繰り返していても時間の無駄なので進めることにする。遺憾ながら!


「じゃあ……ちらっ」


:お、お手々じゃん

:じゃらじゃら付いてたアクセサリーがなくなった?

:あら、可愛いお手々ね

:じゅるり

:コメントは削除されました

:俺はもうこの手でわかる、可愛い(迫真


「て、手だけで僕のことが分かるなんて、思わないでよね!」


:おっと、新しい扉が開きそうだ…

:胸が苦しい…これって、心筋梗塞…?

:↑救急車呼んでもろて

:やだ、なんかクラクラしてきた…

:病人なのかなんなのかわからんなコメ蘭のニキネキ…

:コメントは削除されました


 何か大丈夫なのか心配な方々がいらっしゃるけど……見なかったことにして続ける。


「ちらり」


:何て言うのかわからないけど、七分丈くらいっぽいズボン!

:ふ~ん、ちょっと、お洒落じゃん…きゅん

Kotoha:カワイイ感じ出てる?

:出てるよKotohaママぁ!

:久遠きゅんを産んでくれてありがとうママぁ!

:コメントは削除されました

:久遠きゅんを産みたい人生だった…

:コメ蘭、こわ…


 ちょっと引くレベルで喜んでくれている方々に苦笑しつつ、「じゃあ、もう全体見せちゃうね?」と宣言してから――スッ、と全身を画面中央に映す。


:きゃわいい!

:元気系ショタのかほり!

:くんかくんか!

:同じ空気を吸いたい

:くっ…この俺に、ショタ属性が眠っているとは…

:コメントは削除されました

渡里Tory:うんうん、俺ってば良い仕事をしたな

Kotoha:それはそうだけどママの偉大さもちゃんと敬って

渡里Tory:はははすごーい

Ktoha:ぴきーん

:ママとパパ、仲良くしてもろて

:コメントは削除されました

:いいおやこだなー(棒


 コメント欄でやり合っているふたりに苦笑しつつ、一通り見せびらかしてから通常の配信位置に2Dモデルを移動させ、画面右側に2Dモデルの上半身、左側に三面図を表示して新ビジュアルの話をする。


「はい、というわけで今回の新ビジュアルもKotohaママと渡里Toryパパにやってもらいました。結構無茶なスケジュールでお願いしちゃったんだけど、対応してくださってありがとうございます。今度、僕のおごりでご飯行きましょう」


Kotoha:高級焼き肉

渡里Tory:昔ながらの中華そばが美味い店


「バラッバラだね……んで、Kotohaママは同期で同業、同じ事務所なんだから僕の収入だいたいわかってるんだから無茶言わないでもろて」


Kotoha:ちっ

渡里Tory:いやだねぇ、高い金出せば美味い飯を食えると思ってるなんて

Kotoha:あぁん…?

:ママとパパ、こわいよ…

:コメントは削除されました

:良いよね、中華そば

:流行りの家系とかガッツリ系よりシンプルな中華そばが好きっての、わかるわ

:パスタじゃ駄目なんですか?

:コメントは削除されました

:うどんもいかが?

:じゃぽねーぜなら、そばでしょうが


「あぁ、もうコメント欄が……ママとパパ、しばらくブロックしようかな……」


 溜息交じりに(冗談で)そう言えば、ふたりは「いやだなぁ、ママとパパは仲良しだよぉ?」と全く同じコメントを打ってきた。さすが兄妹きょうだい


「まあ、どこに食べに行くかは今後検討するということで。――新しいビジュアルの話しようね」


「えーと、端に書かれているママのコメントにあるように、旧ビジュと比べて頭身抑えめ、全体的に柔らかい印象を与えるデザインになっています。これはまあ、やらかしで皆様にバレてしまったわけですが、僕の素はイキリ系とは程遠い感じなんですね。なので、その素に近いイメージのデザインにママがリデザインしてくれました」


Kotoha:元のデザインも魂準拠なんだけどね


「魂とか言わないの、ややこしいから」


Kotoha:めんご

渡里Tory:怒られてやんの

Kotoha:あぁん…?


「まったく……。話を戻すね――で、衣装のデザインはそんな僕のイメージに合わせてKotohaママが考えてくれました。ちょっと少年ぽさが恥ずかしいけど……カッコいいよね!」


:うん、可愛い

:きゅん…

:これって…心筋梗塞?

:コメントは削除されました

:ここに病院を建てよう

:すまんなニキ…手遅れだったよ、ごふっ

:イキろぉー!


「わぁ……どうしてこうなった……?」


 お披露目配信はカオスなコメント欄にツッコミ疲れて僕が息切れした辺りで終わった。

 なお、社長には怒られた。……Kotohaこと琴葉が。

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