第五章
この物語は、
誰かと並んで過ごす、ほんの短い昼休みの話です。
特別な出来事は起こりません。
ただ、同じ場所で、同じ時間を重ねること。
その小さな積み重ねが、心を少しだけあたためてくれる——
そんな瞬間を書きました。
静かな時間を、静かな気持ちで読んでもらえたら嬉しいです。
翌日。昼休みのチャイムが鳴ると、西村はいつものように階段へ向かった。すでにそこには、飯田の姿があった。膝の上にお弁当袋を置いて、こちらに気づくと、少しだけ目を細める。
「おはよう、飯田さん」
「……おはよう」
ふたりは並んで座り、静かにお弁当を広げた。風が吹き抜ける音と、遠くから聞こえる校舎のざわめきだけが、この場所を満たしている。
しばらくして、西村は箸を止めた。
「……飯田さん」
飯田が顔を上げる。
「昨日も、今日も……本当にありがとう。正直さ、こんなふうに誰かと昼ごはん食べるの、久しぶりで」
少し照れたように笑いながら、続ける。
「助けられてるよ。すごく」
飯田はすぐには答えなかった。少し考えてから、首を小さく振る。
「……違うの」
「え?」
「助けてるとかじゃなくて……
西村くんが、今まで私にしてくれたことを……今度は、私がしたかっただけ」
そう言って、ぎゅっとお弁当袋を握る。
「ひとりでいた私に、毎日声をかけてくれて……ここに来るのが、怖くなくなったの」
西村は何も言えず、ただ彼女を見ていた。飯田は少しだけ顔を上げて、ほんの小さな、でも確かな笑みを浮かべる。
「だから……」
——明日もここで、
——完——
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
「居場所」や「救い」は、
大きな言葉で語られるものじゃなく、誰かが隣にいることや、また明日も同じ場所へ行こうと思えることの中にそっと存在しているのかもしれません。
この物語が、
あなたにとっての“明日もここで、”に少しでも重なっていたら幸いです。




