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第一章

はじめまして。

「明日もここで、」は、誰にも見せない時間や、誰かと静かに共有するひとときを大切にしたいと思って書いた作品です。

ふたりの距離が少しずつ近づいていく様子を、ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。

薄暗く、光も少ない荷物だらけの屋上の塔屋。そこに、ひとりぽつんと座る生徒がいた。誰とも話さず、誰とも関わらず——ただ静かにお弁当を食べるその表情には、どこか寂しさが滲んでいた。


「……」


こんな場所に、人は来ない。来るはずのない、孤独な空間だから。周りと合わせることしかしない人は来ない。そう思ってた。

すると足音が聞こえ、階段を登ってくる人がいた。それはひとりの男子生徒だった。


「あ、ここいても大丈夫?」


「どうぞ」


すると男子は横に座りレジ袋からドリンクゼリーを取り出し、飲み始めた。一口飲んだ後、彼は私に話しかけてきた。


「いつもここで食べてるの?」


「うん」


「どうして?」


「……私は、地味で目立たなくて。他のみんなが沢山いる中でひとりポツンといるのが少し嫌だし、他のみんなも私がいたら邪魔だと思うから」


「……、そんなことないと思うよ」


「え?」


私には、なぜ彼がそう言うのかわからなかった。どうして、私なんかに……。私なんか、いいのに——


「それより……、えっと…」


聞き返そうとしたが名前がわからず戸惑っていると。


「あぁ俺、C組の西村和希」


名前を聞いて思い出した。彼は普段から明るく、友達も沢山いる。


「西村くんの方こそ、どうしてここで?友達とか、沢山いるでしょ?」


「あぁいや、まぁ正直言うとさ。俺ひとりの方がいいんだよね」


「どうして?」


「まぁ勿論、友達と話したり遊んだりするのは好きだよ?でも…、本音で話したりできないから」


「本音?」


「あいや、本音で語り合える友達がいないからね」


彼の口からは、誰も知り得なかった本音が出てきた。


「そうなの?」


「みんな『お前はこうだろ?』とか、そういう表イメージでしか話さないから。だから陽キャってよく言われるけど、実際そんなことないんだよね」


「そうなんだ……」


飯田は自分のお弁当へ顔を戻し、不安気な表情をした。


それからというもの、彼は毎日この階段に来るようになった。私は初めこそ内心では戸惑っていたが、毎日彼と話すにつれて少しずつ仲良くなっていった。


そしてある日、飯田が西村に聞く。


「そういえば、西村くんお弁当は?」


「ん?あぁ、いやぁ俺の母さん忙しいからさぁ。お弁当作る時間ないからいつもコンビニでゼリー買ってるんだ」


「足りるの?」


「まぁ、足りるといえば嘘になるけどね」


すると飯田は自分のお弁当へ顔を戻し、再び西村の方を向いて言った。


「じゃあ…、これ食べる?」


「え、いいよ。申し訳ないから」


「私は別に…」


「でもそれじゃあ飯田さんがお腹

減っちゃうじゃん…」


「ううん、いいの。私…お礼がしたいの」


「お礼?」


「ひとりだった私と、毎日ここで話してくれて……私嬉しかったの」


「いやそんなの別に…」


「だから、何かお礼がしたいの」


そう言って飯田はお弁当を差し出す。


「ありがとう、でも本当に申し訳ないからこれだけ」


そう言って玉子焼きを手に取った。口を開け、玉子焼きを頬張る彼の姿はどこか幼く見えた。


「ん!?うまっ!美味しいよこれ!」


「よかった」


「もしかしてさぁ、このお弁当って飯田さんが作ったの?」


「あぁ…うん、でもそんな大層なものじゃないよ」


「そんなことないよ、凄く美味しい」


ニコッとした表情で言われ、飯田はどこか照れくさそうな顔をした。


その日の夜、飯田はあることを思いつく。


翌日——


またあの階段へ向かうと西村が先にいた。


「待ってたよ」


飯田も挨拶をして階段に座る。すると西村は飯田がお弁当袋をふたつ持っていることに気づいた。


「飯田さん、それは?」


すると飯田はもじもじしながらお弁当を差し出す。


「…これ、よかったら……」


「え?」


「いや…あの…、いつもお弁当ないから……その…もし良かったら」


西村はそう言われ、笑みが込み上げてきたがどこか悲し気な雰囲気もあった。


「あ、やっぱりごめ……」


「いやいや!ありがとう、俺…このお弁当食べたい」


飯田はそう言われ再びお弁当を差し出す。西村は差し出されたお弁当を手に取り、感謝の言葉を伝えた。


西村は蓋を開け、箸を取り玉子焼きを掴んだ。


「いただきます」


玉子焼きを食べる彼は、とても嬉しそうだ。でも、飯田には彼が泣いているようにも見えた気がした。


「やっぱり美味しいね、俺この玉子焼き好きだよ」


そう言われ飯田は思わず嬉しそうな笑みが溢れていた。飯田も『いただきます』と言ってお弁当を食べ始めた。


ここは、時間がただゆっくりと進んでいるような気がする。いつの間にか彼は現れ、いつの間にか食べ終わる。でも過ぎた時間はほんの少し。ここは、そんな不思議な時間の流れを感じる。


お弁当を食べ終わったふたりは『ご馳走様』と言って手を合わせる。西村の顔から淡い笑みが溢れていると、ふと飯田がもじもじしていることに気づいた。


飯田自身も、何かを言おうか迷っていた。


「あ…あの…、西村くんが良かったら…。お弁当……毎日作ります…」


飯田は細く、小さな震えた声でそう言った。西村は思わず目を見開いた。西村は一瞬下を向き、間を空けてから言った。


「嬉しいけど…大丈夫なの?」


「…料理は好きだし、それに……まだ全然返しきれてないし」


飯田はスカートをくしゃっと握りしめていた。西村は飯田の顔を見て、彼女が勇気を出して言ったんだと察した。


「ありがとう、飯田さん。そこまで言うなら、お願いするね」


飯田はそんな彼の笑顔を見て、さっきまでの緊張がいつの間にか消えていた。


「頑張るね」


「でも無理はしないでね、それだけ約束して」


「うん、気をつける」


「よし!食べたことだし、残りの授業行くか」


本当に、彼といると自分が自分じゃないみたいに素でいられる。


彼を見る飯田の顔からは笑みが滲み出ていた。

読んでくださって、ありがとうございます。

この作品は、派手な展開よりも、静かな時間や気持ちの変化を大切にしています。

これからふたりの関係がどう変わっていくのか、見守っていただけたら嬉しいです。

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