第005章 〈入学、初授業・Ⅰ〉
2075/4/1 a.m.8:00 能力訓練学校・高校新入生区画
春の光が、校舎の透明な外壁を柔らかく透かしていた。
巨大なドーム状のバリアの内側には本校舎、寮、庭園、人工林などの施設が広がり、まるで別世界のような都市型キャンパスが広がっている。
「ここが……今日から俺の通う学校、か。」
悠真は荷物を背に、校門の前に立っていた。
門といっても実際にはドームバリアの境界線であり、通過時に個人認証と能力検査が同時に行われる。
ピッ。
電子音とともに、ゲートの青い光が緑に変わる。
「生徒番号75T231、カミキ・ユウマ。確認しました。入構を許可します。」
「おはようございます。ようこそ能力訓練学校へ!」
受付に立っていたのは、整った顔立ちの女性型AI「アリア」だった。
彼女はこの学園全体の管理AIでもあり、教師のサポートを行う存在だ。
「あなたのクラスは【1年1組】。担当教官は志島明後先生です。
初授業は仮想模倣室第12ルームで行われます。」
「やっぱり、あの人が先生か。」
悠真は思わず苦笑した。
入学試験で手刀を喰らわせてきた張本人が、まさか担任になるとは。
アリアが続ける。
「午前9時より総合体育館で入学式、その後は初授業となります。あなたの部屋は男子寮5階の16号室です。」
「了解です。」
荷物を部屋に置き、簡単な準備を済ませると、入学式へ向かった。
2075/4/1 a.m.9:10 総合体育館
壇上ではこの学校の校長「八雲 天貴」が挨拶をしている。
「__各位、ようこそ『能力訓練学校』へ。ここでは単なる能力の力ではなく、『使い方』を学んでもらう。能力はランクによって分けられるが、能力の本質は『適性』だ。うまく使えれば、CランクでもSランクを倒せる。それをくれぐれも忘れぬように。」
言葉は厳かで、会場の空気は張り詰めている。
どの生徒も、自分の能力に自信を持ち、一人一人が成長しようと目を輝かせていた。
悠真は壇上の端に立つ志島明後を見つけた。
あのときと同じ、飄々とした笑み。
「また、してやられそうだな…。」と、心の中でつぶやく。
2075/4/1 a.m.10:00 仮想模倣室第12ルーム
初授業の開始を告げるチャイムが鳴る。見回せば生徒は20人程度。
「さて、新入生諸君。」
志島先生の声が教室に響く。
「今日からお前らは、『力を制御する』訓練に入る。力を見せびらかす奴はここじゃ通用
ない。まずは、『自分の限界』を知れ。」
そう言うと、部屋全体が低く唸りを上げた。
教室のような外観は砂漠のような環境に変わり、それと同時に照りつく日光を感じる。
「各自、端末の生体リンクシステムを起動させろ、今回は人数が多いんでな、戦闘不能になったかを判断する。さて、痛みに弱い奴は泣くなよ?」
生徒たちがざわめき端末を操作する中、悠真も操作を済ませた。
「よし、まずは反応速度の試験からだ。7人ずつ五分間、俺が出す攻撃を避け続けろ。」
明後はどこからか大型の銃のようなものを取り出す。おそらく入学戦で使っていたものの上位版だろう。
「まさか先生自ら!?」
「ランクAが相手とか、無理ゲーだろ!」
悲鳴にも似た声が上がる中、明後は涼しい顔で言った。
「安心しろ。殺しはしねぇ。ギリギリまで追い詰めるだけだ。校長も言ってただろ?CランクでもSランクに勝てるってな。あ、防御は無しだぞ。」
悠真は前傾姿勢をとり、息を整える。
(訓練をさらに積んだ、あのときより、もう少しはやれるはずだ。)
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〈武器紹介〉ランクC疑似聖遺物「多目的用光弾銃」
明後が使っている銃のような疑似聖遺物。殺傷能力は低いが応用力が高く、大ジャンプや目くらまし、自動追尾も可能。銃といっても様々な形状のものがあり、今回の物は入学戦の物よりも威力が上昇している。
〈人物紹介〉八雲 天貴
この学校の校長にして創立者。外見は二十代後半程度だが噂によれば少なくとも200年以上は生きている。この学校も創立から40年以上経過しているので、外見はどちらにせよ若すぎる。その能力は謎に包まれており、不老不死とも若返りともいわれている。




