第004章 〈入学戦・Ⅱ〉
2075/3/3 p.m.1:30能力訓練学校の控室
午後、同じくルームで午前の勝者のみが試験官となる教師と戦闘を行い、みとめてもらえれば入学できる。
「悠真様、もうすぐ午後の試験が開始します。ご準備を。」
「準備はできています。ところでゼロさん、気になったんですけどゼロさんとは入学後、どうやって会うんですか?学校の具体的な場所は公開されていませんし、関係者以外は危険じゃないですか?」
「問題ありません、入学時の荷物搬入に悟さんを忍ばせます。あとは私と悟さんで何とかできますのでご心配なく。」
「そうですか、安心しました。」
ほどなく午後の試験が始まる
[受験番号231、ルーム8番に入室してください]
指示に従い部屋に入ると、そこはジャングルのような緑がうっとうしい空間に変わっていた。湿った土、折れた枝、差し込む陽光__そして、試験官らしきガタイのいい男が立っている。
「お前が試験番号231で間違いないな?」
「はい、よろしくお願いします。」
「ではよろしくたのむよ。」
試験官はこちらにゆっくりと歩み寄る。
「知っての通り俺を納得させたら合格だ。」
相手の能力は不明、構えもしていない。まずは少しでもよいから能力を使わせる。
「もちろん、納得してもらいますよ。」
試験官へ火球を飛ばすが、軽々よけられる。
すかさず仕込みを発動させるが、さすが試験官といったところか、陽動の火球に惑わされず地下に潜らせた後ろからの炎を避ける。
「その技は午前に使用したモノだな?面白い炎だ。」
当然試合は見られているのか、回避の動作には余裕がある。
「では、これはどうだ!」
炎を纏い、姿をくらませる。
姿を炎でぼかし、隠れながら地面に穴を掘る。そこで隠し持っていたナイフを加熱し、炎を付与して投擲した。
「さっきの攻撃に使った穴か!」
すぐにばれた。
「喰らえ!」
ナイフを投擲する。
「その程度か?」
何らかの能力を発動したのか、ナイフが空中で何かに刺さり、試験官の寸前で止まる。
(防御系の能力か念力のようなものによる停止か?)
「大人げないですね、能力を明かさずに格下の子供と戦うなんて。」
「これでもランクAだからな、うかつに部外者に能力を明かせないんだ。」
ランクS以上の能力者は名前と能力を公開する義務が国にあり、ランクAは隠密行動の都合が良い。
「だったら仕方ありませんね!」
もう一度目くらましを行い、全力で逃走する。現状突破できるほどの火力はない。
「あきらめるのか?」
「いいえ、打開策を探しているだけですよ!」
先ほどから試験官は元居た位置から一歩も動いていない。逃げているにもかかわらず、だ。移動すれば防御が解けるのか?試しに背後から攻撃してみるか。
「まだ逃げる気か?」
試験官は悠真へ向かって何かを構える。そこから光の塊が飛んでくる。すかさずそれを炎で防御し、反撃を行う。最初の火球で引火させた植物から炎を燃え広がらせる。炎をコントロールして表面の薄い部分のみを燃やし、温度を可能な限り抑えることで木材内部の水が水蒸気化するときのパチパチ音を防ぐ。これにより相手にバレることはほとんどない。今ちょうど試験管の後ろまで炎が到達し、そこで一気に火力を上げる!
「おっと、そう来たか。」
試験官は地面から足を離し、回避を行う。
「今だ!」
悠真は巨大な火球を放つ。直撃を狙ったその火球に、試験官は淡々と応えた。
「よくやった、認めてやろう。ゼロさんから良く学んでるようだしね。」
試験官の言葉と同時に、彼は手元の器具を下に向けて引き金を引いた__次の瞬間、試験官は悠真の視界から消えた。
「消えた!?」
「上だよ。」
辺りが一瞬暗転し、悠真が見上げると、上空から試験官が迫り、その影が光を遮っていた。反応が間に合わず、試験官の手刀が悠真の頭にあたる。
「痛っ。」
「じゃ、試験は以上。合格だよ、おめでとう。」
そういわれ。実感したことで負けてしまったとはいえ喜びがこみ上げる。
「やった!」
「でもまぁ、まだ経験不足だな。がんばれよ。」
「はい!」
[受験番号231、合格しました。]
2075/3/3 p.m.1:39■■■■
試験完了後、試験官の男、志島明後はゼロと顔を合わせていた。
「久しぶりだな、ゼロさん。悟さんもお変わりないようで。」
「残念だけどちと変わっちまったぜ。ここいら如意合金はずっと負荷トレーニングに使われてたからな。調整がめんどくさくて仕方がねぇぜ!」
如意合金による負荷トレーニングは悟に繊細な調整を要求する。悟が苦笑混じりにそれを語る。
「そうでしたか。」
「お久しぶりです、明後さん。悠真様と戦ってみてどうでしたか?」
ゼロの問いかけに対し、明後は少し考えて答えた。
「まだまだ経験が足りないけど、ランクCならほぼ無敗、ランクBにもある程度ついてこれる感じだった。」
「そうでしたか、今後の訓練はあなたに任せるのでよく観察しておいてください。」
「ああ、わかった。」
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〈能力紹介〉「鉄壁の城壁」
志島明後の能力。
自身の足元を基点として、最大10㎡の平面範囲にわたり光以外の「すべての物質」を遮断する防御壁を展開する。
内側に入るほど防御力が高まり、最深部は核爆発ですら到達できない。
ただし、逆方向からの攻撃は通してしまう点と、展開速度がさほど速くない点が弱点である。




