第003章 〈入学戦・Ⅰ〉
2075/3/3 a.m.9:00能力訓練学校の控室
能力訓練学校の入学テスト—。
午前、この試験ではランダムな戦場を再現した特殊ルームで、受験生同士が一対一の模擬戦を行う。
[次の方、受験番号231番、126番の方、ルーム12番にご入室してください]
「231番..きましたか。それでは、頑張ってきてください、悠真様」
「はい!ゼロさん!」
実戦経験は十分積んでいる。出力も反応速度も上がった。_いける。今の僕なら、通過できる!
部屋に入った瞬間、白い空間が波打つように変形し、広大な闘技場が姿を現す。
遮蔽物として数本の黒い柱が立ち並び、中央に小柄な金髪の少年が立っていた。
[受験番号231番 対 126番の試合を開始します]
さて、相手はどう出るか。
「君が231番か、降参したらどう?俺には勝てないよ。」
見下したような笑み。余裕、いや—驕りだ。相手の能力はわからないがよほど自信があるのだろう。
「断る。俺には目的があるんでね。」
「そうか、…それじゃ、死ね!」
相手が地を蹴る。目にも止まらぬ速さで突っ込んできた。
(時速……六十キロ前後か。自己強化系の能力?)
「でも!」
ゼロさんのほうが数段速い。
「そこ!」
相手の軌道を予測し、火球を放つ。
「おっと、俺には当たらないぜ?」
紙一重で回避。__だが、僕の能力は力量差が大きすぎなければ基本当たれば勝ちだ。このまま詰める!
「この速度についてこられるかよ!」
「やってみせるさ!」
拳をかわし、反撃の蹴り。受け止められ、両者の間に一瞬の静寂が走る。
男はバックステップで距離を取り、にやりと笑った。
「君さぁ、俺の能力が自身の加速だとか思った?」
その言葉と同時に、空気を裂く音。
小石が弾丸のような速度で飛んできた。
ポケットに隠し持っていたのだろう。
「何!?」
ギリギリで小石を躱し柱の陰に隠れる。
(なるほど……。自己強化じゃない。“物体を加速させる”タイプか)
炎で弾けなくはないが、おそらくこの戦いは見られている。午後の教官戦まで温存しておきたい。
だから__策を変える。
「お前は馬鹿だ。俺の能力を探ることもせず、舐め腐ってかかるとは。」
「あ゛あ゛?!」
まんまと挑発に引っ掛かり突っ込んでくる。足からばれないように炎をドリル状に変形、それを使って穴を掘る。そして、魂炎を仕込む。
(よし——今だ)
距離は約三メートル。
「『爆雷』!」
その瞬間、悠真が仕込んでいた魂炎が地面で爆ぜた。
「おわぁ!?」
通常の火では酸素がなければ燃えない。だが、これは魂を燃やす炎だ。
物理法則を越えて、燃え続ける。
「なんだ!これはぁ?!痛い痛い痛い!!!」
炎は相手を包み込み、燃え続けている。
ゼロさんから聞いた話によると魂炎の炎は精神力が続く限り燃焼し、魂すら焼き尽くす。現段階では火力不足で殺傷能力は低いが、直接脳を燃やされているようなものだ。死ぬほど痛い。
「ぐ!くぅ…」
相手は地に伏し、戦闘不能になった。
もちろんその後炎は消してやった。
[126番が戦闘不能になりました、勝者、受験番号231番]
2075/3/3 a.m.9:09 ■■■■
「お嬢ちゃん、無事に次の騎士も見つけたな。……で、どう見る?」
「彼には戦闘の才能があります。判断も冷静で、模範的です。ただ__」
「『生ようとする意志』がねぇな。まるで人形だ。今まで生きてきたのも、道徳的に自殺はよろしくないと思っているから、だろ?」
「……さすが、悟さん。よく見抜きましたね。」
「ま、長くやってると分かる。意志が弱いやつは、炎の燃え方も不安定だ」
「彼の意思については、私のほうで何とかします」
「へぇ。そういやあいつ、あんたに異常なくらい執着してたぜ? 必要とされたのが、よほどうれしかったみてぇだ」
「『執着』ですか。それなら、生き延びるいい理由になりますね。」
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・〈能力紹介〉「加速」
今回登場した敵、金髪少年の能力。触れた物体の速度を任意に加速できる。ただし制御可能な質量は最大80kgまで。瞬発的な攻撃に優れるが、消耗も激しい。投擲物を使用することで遠距離にも使用でき、現段階ではランクC程度。
・〈概念紹介〉「ランクシステムについて」
能力には物事の向き不向きがあるが、本人の戦闘能力を比較するためにランク分けがされている。基本的に人間とその人間と同じランクの人間か聖遺物が相手の場合、勝利する実力があれば一つ上のランクとして扱う。




