第025章 〈襲撃・Ⅴ〉
2075/4/8 a.m.3:31 訓練学校上空
ゼロは結晶鳥の始末にてこずっていた。
結晶の翼を砕き、胴体を撃ち抜く。
それでも、砕けた破片は光を帯び再構築される。
そして、次に叩いた瞬間、刃がわずかに弾かれた。
「仕方がありませんね、血を流さない相手なら村正を使えません。魔弾もおそらくもう貫けないでしょう。」
「GRYUUUAAAA!!!」
「ずいぶんと余裕に見えますね。仕方ありません。あれを使いましょう。」
ゼロは結晶鳥へ手を向けると、言葉を紡いだ。
「I consume my wings to be reborn.(私はヘルメスの鳥)__」
「おっと、それは遠慮させてもらいたいね。」
いつの間にか校長がゼロの背後にいた。
「八雲様、やっと調整が終わりましたか。校長が不在の学校はなかなかにもろいものですね。」
「痛いところを突いてくるね。アリス、仕方がないよ。今回の敵は相当頭が回るようだしね。」
「でしたら、この敵は任せます。一応忠告しておきますが、黒いコアに近ければ近いほど硬度が上がっていきますよ。」
「わかった。10秒で終わらせるよ。」
言い終わると同時に校長は結晶鳥の上に移動し、何かを突き刺す。
結晶鳥はそれに反応できなかったのか、もろに食らってしまう。
「10秒も持ちませんでしたか、速度で解決できない物事は無いのですよ?」
「こんなことができるのもあなたぐらいですよ。」
結晶鳥に刺さっているのはあらゆる装甲を貫通する「絶対貫通」の奇跡を持つ聖遺物、「ロンゴミニアド」。
「こいつ、脳が我々の理解できる構造をしていないからもう殺しておいたよ。」
結晶鳥はもう肉体を維持できないのか、パラパラと塵になって崩れ落ちた。
「私はこれから残っている敵を一掃する。あなたもご一緒どうですか?」
「お断りします。私は悠真様の無事を確認しなければいけませんので。」
「ああ、彼だったら無事だよ。私が助けておいたからね。」
「先に言っておいてくださいよ。」
-2075/4/8 a.m.8:20学校保健室-
「は!」
悠真は学校の保健室で目を覚ました。戦いの後に眠ったのだろう。
「知らない天井だ…」
「いいですか、悠真さん。落ち着いて聞いてください。あなたが寝ていた5時間のうちに襲撃は無事、とはいきませんが解決しました。」
「始、舞?何コスプレなんてしてるんだ?」
横にいるのは医者のコスプレ(ハゲ眼鏡)をした始とナースのコスプレをした舞。
「そんなことはどうでもいいんだ。悠真、左耳は聞こえるか?」
「あ、ああ。聞こえるが…」
「よかった。お前鼓膜が破れてたんだぞ。攻撃が一時的に音速を超えてたそうだ。」
「まじかよ。」
悠真は左耳を押さえた。
じんとした鈍い痛みがまだ残っている。
「治療はもう済んだ。すぐに治る。元気になったら先生のところに報告に行くぞ。」
「報告?」
「今回の襲撃の情報を集めるために、先生が聞きまわってるの。」
「なるほど。」
-数分後-
悠真はいつの間にかコスプレを脱いだ始と舞とともに、情報を高橋先生に報告した。
「あ、そうだ!悠真君、校長先生が呼んでいましたよ。」
「え?先生そういうことは早めに言ってくださいよ…」
「今思い出したんですよ。」
先生はくたびれたように笑う。
「校長室、今すぐ行ってください。」
廊下に出る。
朝の学校は妙に静かだった。
ガラスは張り替えられ、壁は修復中である。
「……音がしないな。」
始が小さく呟く。
いつもなら聞こえるはずの足音、話し声、生活音。
それが薄い。
舞が言う。
「一部の生徒、今日は特別に帰宅指示が出てるの。精神的ショックのケアだって。」
「そりゃそうだよな……」
悠真は天井を見上げる。
ほんの数時間前、ここが戦場だったとは思えない。
歩き出そうとした瞬間。
__違和感。
足元。
自分の影。
一瞬だけ、ワンテンポ遅れて動いた。
「……!!」
立ち止り、とっさに身構える。
しかし、影は何も変わっていない。
「どうした?」
「いや……なんでもない。」
おそらく過敏になっているのだろう。
胸の奥がざわつく。
鼓動がわずかに速い。
校長室前。
「それじゃ、私はここで。」
「俺も、失礼するぜ。」
「わかった。」
コン、コン。
「入りなさい。」
扉を開ける。
そこには校長、八雲。
そして、ゼロさんがいた。
「校長先生、と、ゼロさん!?」
「おはようございます。悠真様。」
「君が悠真君、次の騎士であっているね?」
「は、はい。」
「彼女はせっかくこちらに来てもらっているのでね、もてなしているんだ。まぁ、気にしないでもらっていい。それよりも。」
「な、何ですか?」
「君の早急な強化と、今回の襲撃の元凶、マドレプリクトについて。ああそうだ、もうすぐでもう一人が来るだろうから、座って待ちなよ。」
「はぁ、もう一人っていうのは?」
「すぐに来ますよ。」
言葉の通り、数秒後、校長室の扉が再びノックされる。
「どうぞ。」
扉が開く。
「やっぱり悠真は居るか。」
「白斗!」
そこにいるのは、マドレプリクトとつながりを持つ人物。
「では、二人ともそろったことだし始めようか。」
空気が張り詰める。
「単刀直入に言うよ。」
八雲の声は穏やかだが、重い。
「マドレプリクトがどういう組織か、知っているかい?」
悠真は首を左右に振り、白斗はどこからか銀のコインを取り出し、弾く。
結果は表。
白斗はうつむきながら答える。
「狂った科学者たちが集まり、非人道的な実験を繰り返している犯罪組織。…そして、私の兄がいるところです。」
「そうですか、あなたの兄については私も少し知っています。見つかれば助けることに協力することを約束しましょう。」
八雲天貴は悠真に向き直る。
「白斗の言う通り、マドレプリクトは狂気の科学者たちの集まり。そして、今回奴らは明確に二つの物を狙っていました。」
「それは…?」
「一つは聖遺物「ネクロノミコン」、魔神関連なので悠真君にはぜひ知ってもらいたい。そして二つ目は、君たちだよ。」
「!!」
悠真は八雲に問う。
「そのネクロノミコンとはいったいなんなんですか?」
「簡単に言うと魂や錬金術に関連した技術が記された聖遺物だね。」
「錬金術!?二百年も前に技術がロストしたはずじゃ!?」
ゼロが白斗に答える。
「ロストしたわけじゃありません、現に、国の疑似聖遺物技術の一部は錬金術由来です。」
「そう、ですか。」
「それで、それがどう魔神にかかわるんですか?」
悠真が問う。
「ネクロノミコンには、魔神との接触方法が書かれている。」
「しかし、魔神はまだ復活していないんじゃ…」
「おや、ゼロさんから聞いていないのですか?魔神は、復活前でも魂として生存し、行動ができるんですよ。」
「そうだったんですか…」
悠真の視線がゆっくりとゼロへ向く。
ゼロはいつもの無表情で謝る。
「説明が遅れました。申し訳ありません、悠真様。」
「つまり――」
八雲が指を組む。
「魔神は“肉体を持たずとも干渉できる”。そしてネクロノミコンには、魂へ直接触れる術式が記されている。」
「奴らは、その魔神の復活を企んでるというんですか?」
八雲はすぐには答えなかった。
「可能性はある。だが……それだけなら、君たちを狙う必要はない。」
「じゃあ、何が目的なんですか?」
八雲は静かに白斗を見る。
「白斗君。君はどう思う?」
白斗はコインを指で弾き、空中で受け止める。
結果は表。
「悠真が騎士で、私が奴らの関係者、奴らの情報を持っていると危惧されたからといったところですか?」
「いいや、違う。」
八雲は首を横に振る。
「それだけでは弱い。君たち二人“同時に”狙う理由にはならない。」
部屋の空気が、少し張り詰める。
「……私たちの共通点、ですか。」
悠真が呟く。
「その通り。」
八雲はゆっくりと言葉を落とす。
「君らは知らないかと思うが、実は、君たちは二人とも、感情エネルギーの変換率が100%を超えている、『逸脱変換者』だ。」
「あのバッタ人間が言っていた逸脱変換者って…」
「そう、そして、変換率が100%以上というのは暴走時と同一の状態だ。」
部屋の空気が、わずかに重くなる。
悠真の喉がひくりと鳴る。
「でも私たちは暴走してない。」
八雲は穏やかなまま続ける。
「そう、君たちは暴走に片足を突っ込んだまま、平然としている。」
悠真の背中に冷たい汗が伝う。
「……冗談ですよね?」
悠真は笑おうとするが、うまくいかない。アンダーガーデンで変換率測定不能と告げられた時から予想はしていたが、まさかそれが事実だったとは。もしこの状態が崩れれば…
八雲の視線が鋭くなる。
「冗談ではないよ。君たちは“暴走を飼いならしている”存在だ。」
静寂。
白斗はコインロールを行う。
「マドレプリクトが欲しがるわけだ。」
「うん。」
八雲は頷く。
「暴走は本来、偶発的現象だ。だがもし――」
間を置き、続ける。
「意図的に発生させ、制御できるとしたら?」
悠真の背筋に冷たいものが走る。
「人工暴走……考えたくもありませんが、それが実現できれば、最悪国家転覆が起きます。」
ゼロが静かに言う。
声は平坦だが、その内容は重い。
「そうなれば、軍事バランスは崩れ、Sランク以上が複数動くことになります。最悪の場合、SSSランクが呼ばれることもありえますね。」
「それじゃあ、ほぼ戦争じゃないですか!」
「そこで二つ目の話、君たちの強化だ。」
八雲の視線が二人を射抜く。
「今回の襲撃で奴らは君たちを手に入れられなかった。だからこそ、再来に備え、早急に暴走兵器を倒せるほどに強くなってもらう。」
白斗が問う。
「具体的には?」
「目には目を、歯には歯を、彼らはネクロノミコンを盗んだ。ならば、こちらも魂に関する技術と錬金術を扱おう。」
「なるほど、それなら確かに暴走への対処に向いていますね。魂への直接攻撃で暴走を即座に制圧できるでしょう。」
白斗は納得したようだった。
「それでは、明日から訓練していきましょうか。」
八雲天貴の言葉に、二人はうなずいた。




