第002章 〈騎士の継承・Ⅱ〉
2074/12/24 a.m.7:02悠真宅
目を覚ますと、ゼロが僕の枕元でノートPCみたいな端末を開いていた。
白髪が朝日に光っている。
「おはようございます、悠真様。さっそく今日から鍛錬を始めます。」
「た、鍛錬?」
「はい。騎士の血筋を持つ者は本来、驚異的な身体能力を発揮します。
しかし、鍛えなければ宝の持ち腐れです。
今の貴方は、力を制御する“器”が小さすぎる。
このままでは、能力の反動で肉体が崩壊する可能性があります。」
……朝から物騒な話を聞かされた。
「よって、貴方には鍛錬を行ってもらいます。メニューは腕立て100回、スクワット100回、腹筋100回、ランニング10kmを一日3セット行います。」
「量が多くない!?死なないよね?僕昨日までただの運動不足な陰キャですよ!?」
「大丈夫です。負荷はまだ序の口ですから。」
ゼロがさらっと言い放つ。
「さらに、常時肉体に負荷を与えるため、彼にも協力してもらいます。」
「……彼?」
「はい。私は一人ではありません。補助AI__「悟」がいます。」
「AI?」
「こちらです。」
ゼロはそう言うと、何処からかリング状の金属塊を取り出した。
「これは「如意合金」と呼ばれる聖遺物であり、使用者の意志によって自在に形状を変化させます。そして、所有者以外が使用することを防ぐために作られ、合金内部に存在する人工精神生命体こそが、悟です。」
「聖遺物!?法律で規制されてるはずじゃ…」
「安心してください。違法ではありません。たぶん。」
「たぶんて何!?」
それを無視しゼロは聖遺物を動かす。
「コード「REALIZE」。悟、起きてください。」
その直後、金属塊がゼロの手のひらから浮き上がり、そこから声が聞こえてきた。」
「なんだぁ?お嬢ちゃん、随分と長い間眠っていたんだが、何の用だ?」
「悟、この方が新しい騎士_神岐悠真様です。第一段階拘束衣へ変形を。」
「へいへい。新入り、よろしくな。ちょいと我慢しろよ。」
「え、ちょ__!」
唖然としている悠真をおいて、悟は合金の形状を変化させて悠真にまとわりついた。
「うわ?!」
合金は悠真の全身を包み込んで変形していき、やがてスーツのような形状になった。
「な、なにこれ、動きにくい、しかも、重いっ……!」
「今後はその状態で過ごし、さらに訓練中だろうとつけていただきます。」
「えぇ!?まじかよ…じ、地獄だ…」
「確実に現在の数倍は強くなれますよ?」
……言い返せなかった。
「あと、学校は退学してもらいます。」
「え?!」
「調査したところ、戦闘ランクC以上で申請すれば、能力専門の訓練学校へ編入可能とのことです。覚醒直後、現状の貴方のランクはE程度。二ヶ月でCまで上げてください。」
「に、二か月でぇ…」
「そして、入学後は二年以内に、少なくともランクSに到達してもらいます。」
「いやいやいや、軽く言わないで!?」
ゼロは静かに微笑んだ。
「できます。貴方なら。」
…その一言で、なぜか心が少し軽くなった。
今更あんな学校にも未練はない。ランクSになれる気はしないが。やるだけやってみるべきだ。だったら。
「わかりました。頑張ります!」
――訓練記録――
・5:00 起床&朝食(眠い)
・5:30 一セット目開始(死ぬ)
・8:30 ゼロと実戦訓練
・10:30 二セット目開始
・13:30 強化食摂取
・14:30 能力開発練習(手探り)
・16:30 三セット目(筋肉が悲鳴)
・19:30 調整食摂取(至福)
・20:30 歴代騎士の講義(眠気MAX)
・21:00 就寝(ほぼ気絶)
ー翌朝、筋肉痛。
ー週間後、全身悲鳴。
ーヶ月後、少しだけ慣れた。
そしてタイムリミットの二ヶ月後。
「魂炎」の出力、発動速度、制御、全てが桁違いに向上。
戦闘ランクは、ついにCへと昇格した。
〈聖遺物紹介〉ランクA聖遺物「如意合金」
「如意変化」の奇跡を起こす聖遺物。
使用者の精神に反応し、形状・質量・性質を自在に変化させる金属。
内部に「悟」と呼ばれる人工精神体が存在し、使用者を選ぶ。
現在はゼロの体内に格納され、サポートAIとして稼働中。
その真の力は、まだ誰も知らない—。
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・〈概念紹介〉「聖遺物とは」
一人の精神から生まれるのが能力なら、多数の人間から生まれるのが聖遺物だ。神話や伝承でそのような物が実際に在ると信じている人たちの精神力から少しづつ作られ、やがて奇跡を引き起こせるようになる。基本は誰にでも使わせるが、意思を持ち持ち主を決めるような物もある。基本的に破壊耐性を持ち、壊すことができない。




