第022章 〈襲撃・Ⅱ〉
2075/4/8 a.m.3:30 アンダーガーデン地下聖遺物保管層
襲撃開始直後、襲撃者たちの一部は聖遺物「ネクロノミコン」を狙って、ここ聖遺物保管層へ直進してきていた。
「今頃159の分裂体と282が生徒をさらっている頃か。さて、俺もそろそろ働くか。」
そこにいるのはバリアを破壊した男、対峙しているのは聖遺物を装備したアンダーガーデンのメンバーたち。
「愚かね、ここに来るなんて。ここにいるのは全員えりすぐりの強者、全員Aランク以上よ。しかも、特別に聖遺物の使用が許可されているわ。」
桐谷沙耶が言う。彼女らのせなかには、無数の聖遺物が保管された中央保管室へと続く門があった。
「そうか、だったら全員眠ってろ。」
男の声には緊張も焦りもなかった。
同時に男が影から巨大な催涙ガスボンベを取り出す。
「!、それはさっき!全員ガスマスクを!」
全員ガスマスクを付ける。しかし、小柄な数人が倒れていく。
「ただのガスマスクで防げると思うか?お前らもあと数分で倒れるだろう。」
「だったら、その前にあなたを倒すだけよ。」
アンダーガーデンのメンバーが一斉に攻撃を開始する。火、水、雷、岩、様々な攻撃が降りかかる。
しかし、それらの攻撃が当たる直前、全てが止まってしまった。
「これは!」
「こんな攻撃、いくら来たところで効きやしねぇよ。ああそういえば多対多なら、363、159の分裂体を寄こせ!」
影が揺れ、巨大ゴキブリが這い出る。
「やっぱり出してくるか。」
「どうしますか?沙耶さん。」
「あいつの実力は未知数、常に二対一の形を作って攻めるわよ。」
言い終わると同時に沙耶は聖遺物を構える。全員が戦闘を開始する。
-2075/4/8 a.m.3:35 男子寮一階エントランス-
悠真と白斗は悟の協力もあり、ゴキブリたちを倒しながら教師に助けを求めに行っていた。
そこで白斗の能力も判明、氷でできた四種の魔獣を召喚、使役する能力。『氷結魔獄獣』
「白斗、お前の能力が氷系で助かったよ。ゴキブリは寒さに弱いからな。」
「お前もな、俺だけじゃ攻撃力が足りなかったぜ。」
「でも、こいつはまずそうじゃないか?」
「ああ、ゴキブリどもとは格が違うな。」
二人の前に蝙蝠の羽が生えた猫のような生物が飛んでいた。
「おーい、待ってくれよ。俺様は眠った生徒を回収しに来ただけなんだ。戦闘の意思はないぜ。」
「「ね、猫がしゃべった!」」
「な、誰が猫だ!俺様は偉大なる吸血鬼!アレス・ヴァイスハイト・レ・グラティア様だ!」
「やはり生徒をさらうのが目的か!」
「やべ、口が滑っちまったぜ。まぁいい!改めて、来てもらうぜガキども!」
壁、床、天井、ありとあらゆる場所から植物の蔓のようなものが伸び、悠真と白斗に襲い掛かる。
「悠真、ちょうどいい、こいつは植物系だ。」
「だったら、俺の能力がちょうど効くってわけだな!悟さんは休んでてください。俺たちだけで片付けられます。」
「うし、任せたぜ。実戦も重要だからな。」
悠真は全身から火を吹かす。
「のわぁ!炎系!ちくしょう!」
「効いてるみたいだな、さらに、ほとんどの植物は0度以下で枯れる!」
白斗が能力を発動させる。
「氷結魔獄獣・冷熊!」
白とのそばに2体の、氷でできた熊が現れ立ち上がる。
「やっちまえ!白斗!」
「うっしゃぁ!」
冷熊は周囲を凍り付かせながら鋭利な爪で蔓を切り裂く。
「ぐわ!ま、まずい!こいつらは俺様の天敵だ!」
「いくら強かろうと、相性がここまで悪くちゃ勝てるモンも勝てないだろ?」
「白斗、一気に行くぞ!巨大火炎突!」
「ああ!」
アレスが防御のために生やした蔓を冷熊が切り裂き、悠真の巨大火炎突が続く。
「ま!ままままま待ってくれぇ!」
「問答無用!吹きとべぇ!」
巨大火炎突がもろに入る。アレスは一直線に窓ガラスを突き破り、どこかへ飛んで行った。
窓の外に消えていくアレスの影を見送り、悠真は大きく息を吐いた。
「……追わなくていいのか?」
「今は無理だ。教師を探すのが優先だろ」
悠真の言葉に、白斗はうなずく。
二人はとりあえずの安全を確保し、端末で教師たちへの連絡を試みる。
「あ、繋がった!明後先生!」
「マジか!」
「悠真!それにお前は…6組の白斗か!」
「はい、今男子寮にいるんですが、非常にまずい状況です。五分前に影から催眠ガスがまかれて…それで…」
「わかった。教師がそっちに向かっている。眠っている生徒の保護に協力してくれ。」
「はい!」
-2075/4/8 a.m.3:38 アンダーガーデン地下聖遺物保管層-
「はぁ、はぁ、はぁ」
アンダーガーデンのメンバーは沙耶さんを除いて全員負傷か気絶、一部死亡。ゴキブリは際限なく湧いて出てくる。
「もうお前しかまともに戦える奴はいないぞ?いくら聖遺物を使おうが、この数には勝てまい。」
「いや、戦いを見てきてお前の能力はもうわかった。エネルギーの吸収と利用でしょ?」
「さあな。だが分かったところでどうなる?」
「この手は最悪私たち全員が死ぬから使いたくなかったけど、やらせてもらうわ。」
「まだ何かするつもりか?」
男が嘲るように言った瞬間、桐谷沙耶は静かに一歩前に出た。
「……みんな、聞いて」
その声には確かな覚悟がこもっている。
「私のこの攻撃が当たれば、ここにいる全員無事ではいられないわ。」
「――は?」
男の表情が、ほんの一瞬だけ歪む。
「聖遺物、仮想投影開始!!」
「まさか、あれをやるつもりですか?!」
「無茶ですよ沙耶さん!」
空中に多種多様な聖遺物が投影されていく。それらは確かに実態を持ち、奇跡を起こせる。
「おいおいおいおい、マジかよ。まるで無限の剣製だな。」
「…行くわよ。武器の貯蔵は十分?」
桐谷沙耶が静かに告げた瞬間、投影された無数の聖遺物が一斉に歪む。
空間そのものが軋み、聖遺物同士が互いを喰らい合うように共鳴を始める。
「チッ……やっぱり狂ってやがる!投影品で自爆するつもりか!」
男が後退しようとした、その刹那。
――轟音。
爆発でも閃光でもない。
ただ、存在が削り取られ、上書きされる。その存在の上書きによって、地下聖遺物保管層にいた無数のゴキブリは、まるで最初から存在しなかったかのように、一体残らず消滅していた。影も、死骸も、音もない。
後に残るのはただ床に倒れ伏す一人の男と、その前に立つ一人の担い手だけが残されていた。
「……っ、はぁ……はぁ……」
桐谷沙耶は、その場に崩れ落ちそうになる身体を無理やり踏みとどまらせていた。
全身から血が流れ、自爆の反動と上書きの余波で、右腕は不自然な角度に曲がっている。
それでも――
彼女は、男に向けて聖遺物を突き付けていた。
「動かないで……次は、あなた自身を“削る”わよ。」
「……は、はは……」
男は床に伏せたまま、かろうじて笑う。
身体のあちこちが抉れ、
もはや立ち上がる力すら残っていない。
「……やるじゃねぇか……まさか、ここまでキマってるとはな。あれじゃ防ぎようがない。」
「当然よ。」
沙耶は、息を整える余裕もなく言い放つ。
「この後ろには、私が命に代えてでも守るための聖遺物たちが眠っているわ。」
男は、視線だけを沙耶に向ける。
「……だが、俺を捕まえることはできないぜ。」
男の体が影に沈む。
「!、待て!」
「本当はそこらで気絶してる奴らも回収したいが、余裕がないのでね。失礼させてもらうよ。」
そう吐き捨てながら男は完全に影に沈んだ。
それを見て沙耶は緊張が切れたのか、倒れ、気絶した。
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〈概念紹介〉聖遺物による自爆
聖遺物の中に含まれる莫大なエネルギーを利用して、周辺一帯の存在をもともとなかったように上書きする。ただし、使用者も巻き込まれる可能性がある上に、貴重な聖遺物を完全に使用不可能にしてしまうので使われることは少ない。




