第001章 〈騎士の継承・Ⅰ〉
2074/12/23 p.m.7:34 東京某所の学校
僕の名前は神岐悠真。
中学三年生。
そして、この超能力が当たり前の世界で毎日いじめられている無能力者だ。
「なぁ神岐、飛べないなら落ちてみろよ。」
「もしかしたら、落ちた瞬間に覚醒するかもな〜?」
笑い声が響く。
背中を押され、足が宙を離れた。
終わりを感じ、死を半ば受け入れた。
「さよなら、世界。」
そう思いながら落下が開始する
冷たい風が頬を切り、目の前に夜の街が広がる。段々地面に近づき、段々時間がゆっくりになる。
「おい、無能がまたコケてるぞ!」
わざと足を引っかけられ、転ばされる。
「ほら、食えよ。」
ゴキブリを無理やり食わされる。
「どうしたぁ?ぬれてるぜ?」
水をかけられトイレに頭を突っ込まれる。
今までの嫌な思い出を思い出す。
「ほんと、ろくでもねぇな。」
ーーああ、これでやっと終わる。
そんな考えがふと頭を過った。
これが走馬灯なのかな。いや、違う、風も音も、時間すらも凍りつく。何も感じられない。
「停止してる?」
そう思った瞬間、眩い光が視界を包む。
次に目を開けたとき、僕は見知らぬ場所に立っていた。
白い柱と赤い絨毯。気が付くとそこは西洋風の回廊だった。
「ここは?」
「こんにちは。」
「え?」
背後から、透き通るような声。
振り向くと、そこには白髪の少女が立っていた。
年の頃は十歳ほど。髪は雪のように白く、瞳は紅玉みたいに赤い。
ロリータドレスをまとい、まるで絵本の姫様みたいだった。
「君は…誰?」
「……ようこそ、神岐悠真。あなたの炎は、まだ幼い。ですが、この世界を変えるほどに、美しく燃えるでしょう。私はゼロ。この世界を、救ってくれませんか?」
その少女、ゼロの瞳は、どこか恐怖を押し殺すように揺れていた。
「……は?」
頭がついていかない。
「えっと、どういうことなんだ?炎?世界を救う?」
彼女が微笑むとそのまま僕の視界は再び白く染まった。
慌てて起き上がると、そこは悠真の部屋だった。夢かと思ったのもつかの間、隣を見るとあの少女、ゼロが座っていた。
「なんでここに!? 夢じゃなかったんですか!?」
「はい。あれは私が見せた幻です。貴方が地面に衝突する直前、私が受け止めてここへ運びました。」
「……マジで?」
「マジです。」
「そ、そう……ありがとう。でも、世界を救うってどういうこと?僕なんかが力になれるとは思えないですけど…」
「それについてですけどまずはこれを受け取ってください。あなたに力を与えます。」
ゼロは直径5cmほどの赤い宝石のような球体を差し出してきた。それは静かに鼓動していた。
「これは?」
僕がそれを手に取った瞬間、球体が勝手に動き、体の中に吸い込まれた。
胸のあたりが熱く光る。力が満ち、暖かさを感じる。
「うわ!」
「それは、貴方の新しい力_赤玉による魂炎と呼ばれる能力です。」
「力……?」
「はい。その力を使い、二年後に現れる『魔神』を倒してほしいのです。」
「魔神!?」
「意識を赤玉に集中してください。」
言われるまま胸の光に意識を向ける。
……次の瞬間、灼けつくような、まるで太陽のような熱が全身を駆け抜けた。
「熱っ……!」
「その熱を右手に集めてみてください。」
言われた通りに熱を手に移す。
「うおッ!?」
生まれてこのかた初めての体験、右手は炎を纏った。
「…これが、能力…?!」
十五年。ずっと無能だった僕が、初めて力を手に入れた。
胸の奥が震えた。
「それは騎士の血統にのみ使用できる力の結晶。かつて初代魔神を討ち滅ぼした者の魂から生まれた力です。赤玉の力を使わなければ魔神を倒すことはできません。」
「騎士?はよくわかりませんが、こんな僕、いや、俺でも必要とされるなら、世界を救えるなら、やってやる!」
「ありがとうございます。私は今後、貴方の従者として仕えます。
戦闘でも、家事でも、なんでもお任せください。」
「い、いや家事は自分でやるから! 一階に空き部屋があるから、そこ使って!」
「了解しました、主様。」
「主様はやめて!」
こうして、僕とゼロの世界を救う日常が始まった。
まだ、この出会いがすべての運命を変えるとは知らずに_。
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・〈能力紹介〉「魂炎」
魂を燃やす炎を操る能力。
触れた物質への引火が可能で、精神力がある限り消えない。
また、魂そのものを炎として具現化するため質量を持ち、物理的な攻防(壁として展開やドリルにして穴掘り、剣の形にして斬りあいなど)にも応用できる。
ただし、現段階では温度が400℃程度と低く、完全な破壊力には至っていない。
この炎は、初代騎士が自らの魂を結晶化し、赤玉として遺したもの。
以来、騎士の血筋を持つ選ばれし者にのみ継承され続けている。
・〈概念紹介〉「そもそも能力とは」
この物語での扱いとしては、人が精神力を燃料にして引き起こす超常現象。通常なら誰でも能力を持っているが、1万人に1人程度の確率で無能力者が誕生する。そのような無能力者はたいてい精神に欠陥がある場合が多い。
また、能力は精神に由来するその性質から、激しい感情によって変化や進化を引き起こす。
・〈人物紹介〉「神岐悠真」
この物語の主人公。
5歳の時に父が死に、母は仕事の都合でたまにしか帰ってこない。
実家が金持ち+無能力者なので嫉妬と軽蔑により学校ではいじめられている。
このような周辺環境なので他人から必要とされた事がなく、生への執着を失っていたが、ゼロに生まれて初めて必要とされた事で凄まじくゼロに執着するようになる。




