第014章 〈暴走と異常空間・Ⅰ〉
2075/4/3 p.m.4:27 能力訓練学校近域の市街地
06小隊は異常空間が検知された地点へ転移された。彼らの目の前に映るのは機械的な門のような物体だった。
「なんだ、これは。」
「待ってください!危険です!」
悠真は近づこうとしたが、史郎が止めた。
しかし、門が開き、内部からスーツ姿の男がふらつきながら歩み出てきた。その目は血走っており、そこに正気は無い。体からは黒い液体が絶えず湧きだしている。
「血走った目に止まらない能力使用…たぶん能力暴走だ、ケガさせないように取り押さえるぞ!」
始はそう言うと、自身の能力を使用する。肉体が狼の形状に変化し、その上から骨の鎧がかぶさる。
「行くぜぇ!」
「これが、始の能力か!?」
「はい、詳しい説明は後でしますので、悠真さんと舞さんは暴走者を無力化するのに協力してください。」
「わかったわ!」
悠真と舞が駆け出し、始は暴走者の進路を塞ぐように立ちふさぐ。
骨の鎧が地面を踏みしめ、獣の咆哮が響いた。
「聞こえるか!俺たちはお前を助けられる!止まれ!」
だが、スーツの男は止まらなかった。
「……ウぇ…」
その身体が、不自然に膨張する。黒い液体が一気に噴き出し、地面を侵食するように広がった。
「意識が無いみたいだ、制圧を急げ!」
「了解!」
始が飛びかかり、男の腕を押さえ込む。
だが次の瞬間、
――バキッ
黒い液体に触れた始の骨鎧に亀裂が走った。
「なっ……!?」
「始!」
舞は始のほうへ飛び、始を離脱させる。そのまま風で周辺に広がる黒い液体を抑えている。
「これ以上広げさせない!」
黒い液体は風に逆らうように蠢き、地面から腕のように立ち上がる。
まるで意思を持っているかのようだった。
それを見て、史郎は何かを思いついたのか悠真へ叫ぶ。
「悠真さん、あの黒い液体を安全に燃やせますか?」
「はい。」
悠真は一歩前に出る。
炎をただ燃やすのではなく、“削り取る”ように制御する。
(抑えて、削り取る!)
炎が黒い液体と男を包む。
「……ッ」
一瞬、男の膨張が止まる。
「効いてる!」
「今だ、押さえこむ!鎮静剤を打つぞ!」
始は周辺の炎をよけるようにとびかかり、力を込め、男の両腕を地面に押し伏せた。
その瞬間だった。
「……ァア……」
一瞬だけ、男の目に正気が戻った。
悠真と目が合う。
「――助ケ……」
言葉になる前に。
――ドパァンッ!!
弾けるような衝撃音と共に、男の身体は弾けた。
次の瞬間、門は強制的に閉じ、虚空に消える。あとに残るのは周辺一帯に広がる黒い液体だけだった。
「……っ!」
衝撃波に押され、06小隊はそれぞれ体勢を崩した。
数秒後、黒い液体は蒸発するように消え、
「……対象、反応消失。」
始が低く報告する。
「終わった、のよね。」
舞の声には、確信がなかった。
始は骨の鎧を解除し、人の姿へと戻る。幸い肉体に損傷はない。
悠真は、動けずにいた。
「……俺、人を…」
口を開きかけて、言葉が詰まる。
「悠真さん」
史郎が振り返る。
「あなたは間違っていません。恐らく何もしなくとも、あの男は破裂して死んだでしょう。」
「でも……」
悠真は、地面を見つめたまま続ける。
「俺の能力を使った瞬間、あの人……正気に戻ったんです。」
沈黙。
舞が、ゆっくりと頷いた。
「私も、見た。」
「……俺もだ。」
始もそう続ける。
「ほんの一瞬だが……あれは、正気に戻ったように見えた。」
史郎は、淡々と記録を行う。
「……午後4時28分11秒、異常空間の消失、民間人の被害者無し。暴走者は、死亡しました。」
その声は重かった。
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〈概念紹介〉「能力暴走の効果と代償」
感情変換率が100%を超えることで、一時的に暴走者の実力はランク換算で2級上昇する。今回の場合は元々Dランクの者が暴走によりBランクと同等の力を得た。しかし、代償として、ほとんどの場合正気を保つことはできず、暴走解除後は気絶し、ひどい場合は死亡してしまう。




